第15回気候変動枠組条約締約国会議が、12月にコペンハーゲンで開かれるが、難航が予想されている。
そして、このコペンハーゲン会議の帰趨がWTOに影響することであってはならないと、WTOのラミー事務局長は警告を発している。
すなわち、第15回気候変動枠組条約締約国会議では、温室効果ガスの削減を目指し、工業国と途上国双方が、包括的で、公平で、バランスのとれた合意に達しなければならないのだが、肝心の中国とインドとが、その役割を果たしうるかが、焦点となってくるからだ。
特に、インドでは、温室効果ガスの排出規制をすべて拒否している。
また、資金負担についての合意も、難航が予想されている。
問題の根底には、環境問題の各国間の帳尻を、輸入品に課する炭素関税(Carbon tariff)制度によって合わせてしまおうとする、アメリカを始めとした一部の国の動きが、インドなどの国の警戒心を呼び起こしていることにある。
つまり、環境問題のつけを、貿易問題に回してしまおうとすることへの警戒である。
このコペンハーゲン会議と、WTOドーハラウンドとの関係だが、WTOラミー事務局長は、高排出国からの貿易品目が、世界貿易から排除されることになるのではないかとの、懸念を持っているようだ。
インドでは、すでに、アメリカのヒラリー・クリントン国務長官に対して、オバマ政権が志向している環境規制法の発動によって炭素関税制度が実施されることのないように、抗議書を送っているようだ。
インドのみならず、中国も、今年7月の時点で、「輸入品に炭素関税を課す案は、世界貿易機関(WTO)の協定に違反するだけでなく、京都議定書の精神に反する」との批判をしている。
この炭素関税のような、環境上の行動を変えざるを得ない貿易手段の採用を、特定国が行うことに対して、ラミー事務局長は警告しているというわけだ。
そして、もし、コペンハーゲン会議での合意が得られない場合には、WTOドーハラウンドでの合意も、困難になる、と警告している。
また、関税などの貿易上の手段に頼った環境政策であってはならない、とも、言っている。
そのためには、今月ピッツバーグで開かれるG20の場において、気候変動枠組問題の討議を優先すべきとの合意が、各国間において、なされる必要があるとしている。
このようなことから、欧米各国が検討をしているという炭素関税の帰趨が、WTOドーハラウンドの帰趨をも決定する、という情勢になってきたようだ。
参考「Lamy warns of risk to Doha if climate talks fail」
それにしても、「地球温暖化は経済問題なのか、それとも、非経済問題なのか」ということについて書いた、クルーグマンのブログ記事「Climate, trade, Obama」は、ことの本質を指摘していて面白い。
クルーグマンは、「自由貿易はよくて、保護主義は悪い」という合言葉(“shibboleth”)のもとでは、炭素関税などの水際調整は悪であるが、VAT(付加価値税)と連動して、消費者に地球温暖化阻止へのインセンティブを与える(負のCarbon consumption tax として、という意味か?)ためには、環境問題からなだれ込んだ経済問題・貿易問題として水際調整を課することは、正当化しうるスキームであるとしているのだが、果たしてどうなのだろう?