2020年1月5日
目次
1.アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)感染拡大の長い歴史
2.なぜ、これまで、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)に対するワクチンが開発されてこなかったのか?
(1)異なる3つの圏域での異なる3つの感染シナリオ
A.アフリカのアフリカ豚コレラ(ASF)感染圏域
B.ヨーロッパのアフリカ豚コレラ(ASF)感染圏域
C.東アジアのアフリカ豚コレラ(ASF)感染圏域
(2)アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)自体の特異性
A. 特殊なアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の構造
B.巨大なウイルスと血球吸着現象
C.ウイルスの侵入から新たなウイルスの複製に至るまでの過程が複雑
D.様々な数と種類の構造タンパク質、それらをコードする遺伝子との結びつき関係が多様すぎる
(A)前駆体蛋白由来生成の成熟タンパク質(前駆体蛋白「pp220とpp62」由来生成の成熟タンパク質)
(B)抗原タンパク質「p54とp30とp72」
(C)糖タンパク質「CD2v」
(D)その他の主要タンパク質
E.数多い遺伝子型
(A)三種類もある遺伝子型配列クレード(系統樹)
(B)クレード(clade)(系統樹)決定の手順
(3)アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の免疫回避の動き
A.不十分な中和抗体生成への誘導と発現
B.免疫応答回避のための機序(evasion mechanisms)
(A)アップ・レギュレーションとダウン・レギュレーション
(B)アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)侵入経路での免疫回避の動き
a.サイトカインの放出、b.ケモカインの放出、c.アポトーシスの阻害と、オートファジーの阻害、d.好中球の発現とリンパ球&単球、e.膜融合( membrane fusion)の阻害、f.転写活性体の応答低下、g.インターフェロンの働き、h.シグナル伝達(signaling pathway)の阻害、i.リン酸化酵素によるウイルス核内移行の促進とサイトカイン等の産生促進、j.MHCクラスI抗原の表面発現の阻害、k.樹状細胞によるサイトカイン応答調整
3.アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)ワクチン開発の歴史と現状
(1)散々な失敗に終わった世界最初の最初のアフリカ豚コレラワクチン
(2)その後も続いたアフリカ豚コレラ(ASF)ワクチン開発の失敗
①不活化ワクチン(Inactivated vaccines)、②弱毒生ワクチン(Live attenuated vaccines, LAVs)、③サブユニットワクチン(Subunit vaccines)、④DNAワクチン(DNA vaccines)、⑤ウイルスベクター生ワクチン(Live virus-vectored vaccines)、⑥組み換え弱毒生ワクチン(Recombinant LAVs)
(3)中国へのアフリカ豚コレラ(ASF)感染拡大で勢いづく、世界のワクチン開発競争
A.潮目が変った、世界のASFVワクチン開発への動き
B.各国の動向
C.現在開発中の世界の研究機関は?
D.現在、アフリカ豚コレラワクチン開発に興味を有している民間企業は?
(4)現在、世界で最も有望なアフリカ豚コレラ(ASF)ワクチンはなにか?
A,ワクチン開発のための六条件
B.その中での有望な三例
(A)スペイン マドリッドコンプルテンス大学獣医学部での経口ワクチン開発
(B)アメリカ USDA プラム・アイランド動物疾病センターでのワクチン開発
(C)中国の中国農業科学院 ハルビン獣医研究所でのワクチン開発
4.終わりに
1.アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)感染拡大の長い歴史
アフリカ豚コレラウイルスが東アジアに初めて侵入したのは、2018年8月3日、中国 遼寧省瀋陽市であった。
その後、アフリカ豚コレラは、中国国内一巡後、モンゴル(2019年1月9日)、ベトナム(2019年2月1日)、カンボジア(2019年3月22日)、香港(2019年5月2日)、北朝鮮(2019年5月23日)、ラオス(2019年6月2日)、フィリピン(2019年7月25日)、ミャンマー(2019年8月1日)、韓国(2019年9月17日)、東ティモール民主共和国(2019年9月9日)、インドネシア・北スマトラ州(2019年11月9日)へと感染拡大を続けている。
一方、ヨーロッパ大陸へのアフリカ豚コレラ ウイルスの上陸は、二期に分かれる。
第一期は、1957年から1990年半ばにかけての侵入であり、第二期は、2006年末から2007年にかけての東ヨーロッパへの侵入である。
第一期の時は、ポルトガル(1957年、1960年から1994年,1999年)、スペイン(1960年から1995年),フランス(1964年),イタリア(1967年、1969年、1993年),サルジニア島(1978年)、マルタ(1978年),ベルギー(1985年)、オランダ(1985年)に侵入し、1999年に、サルジニア島を残し、ようやく撲滅を果たした。
第二期の侵入は、東ヨーロッパから始まり、2006年末からのジョージアへの侵入が最初と言われている。
その後、アルメニア(2007年8月)、ロシア(2007年11月)、アゼルバイジャン(2008年1月)、ウクライナ(2012年7月30日)、ベラルーシ(2013年6月19日)、リトアニア(2014年1月24日)、ポーランド(2014年2月13日)、ラトビア(2014年6月)、エストニア(2014年9月)、モルドバ(2016年9月17日)、チェコ(2017年6月27日、2019年4月19日に清浄化宣言)、ルーマニア(2017年7月27日)、ハンガリー(2018年4月20日)、ブルガリア(2018年8月31日)、ベルギー(2018年9月9日)、スロバキア(2019年7月23日)、セルビア(2019年7月30日)
へと、今なお、拡大を続けている。
中米と南米では、キューバ(1971年)、ブラジル(1978年)、ドミニカ共和国(1978年)、ハイチ(1979年)に発生している。
アフリカでは、ケニアでのモンゴメリーによる1921年の発見(1909年には存在したとする説も)が最初だが、元々は、1700年代に、その祖先はいたと見られている。
以来、南アフリカ(1928年)、アンゴラ(1933年)と続き、風土病化した形で、サハラ砂漠以南の29カ国で発生しており、一旦終息した国でも、感染媒介ダニ・サイクルの特性故に、いまだに間歇的な発生を見せている国もある。
アフリカでのアフリカ豚コレラ ウイルス(ASFV)発生国は現在(2019年12月5日時点)は下記のとおりである。
アンゴラ(2009年)、ベナン(2005年)、ブルキナファソ(2005年)、ブルンジ(2005年)、カーボヴェルデ(2012年)、カメルーン(2012年)、中央アフリカ(2011年まで報告)、チャド(2012年)、コンゴ民主共和国(2005年)、コンゴ共和国(2009年)、ガーナ(2005年)、ガンビア(2011年)、ギニアビサウ(2005年)、ケニア(2012年)、マダガスカル(2005年)、マラウイ(2005年)、マリ(2009年)、モザンビーク(2005年)、ナミビア(2005年)、ナイジェリア(2005年)、ルワンダ(2005年)、セネガル(2005年)、シェラレオネ(2012年)、南アフリカ(2012年)、タンザニア(2005年)、トーゴ(2005年)、ウガンダ(2005年)、ザンビア(2005年)、ジンバブエ(2004年まで報告)、
参考
「Invasive Species Compendium African swine fever」
(CAB I(Centre for Agriculture and Bioscience International) )
2.なぜこれまでASFVワクチンが開発されてこなかったのか?
これ程の長い、しかも広範囲での感染の歴史をもつアフリカ豚コレラ(ASF)だが、このウイルスに対するワクチンは未だ開発されていない。
それにはいくつかの理由がある。
(1)異なる3つの圏域での異なる3つの感染シナリオ
第一は、発生圏域におけるウイルスの宿主がそれぞれ異なり、したがって感染シナリオと言うべきものが、それぞれ異なり、ワクチン開発戦略の絞り込みができないことにある。
現在の世界の感染域は、下図の3つの圏域に分けられる。
それぞれの圏域における感染シナリオは下記のとおりである。
A.アフリカのアフリカ豚コレラ(ASF)感染圏域
アフリカにおけるアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)は、森林サイクル(Sylvatic cycle)に基づいて、発生したり終息したりしている。
アフリカでは、野生のイボイノシシ(warthog)やカワイノシシ(河猪) (African bush pig)やモリイノシシ(Giant forest hog) が、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)に対し耐性を持ち、風土病化して生息している。
アフリカに於いてアフリカ豚コレラウイルスを媒介するのはダニの仲間のヒメダニ属のオルニトドロス(Ornithodorus.moubata )であり、これがASFウイルスの媒介に深く関与している。
このダニは普段は地中にいて、巣穴の近くのイノシシを吸血する際に地上に出てき、吸血が済んだら地中に戻るというサイクルを繰り返している。
そのため、ウイルスに感染したダニが豚を吸血することによって感染拡大はするが、その感染拡大範囲は、国内の範囲にとどまる。
また、巣窟に寄生する好熱性かつ疎光性のダニなので、あまり広範囲には広がらない。
したがって、アフリカでのアフリカ豚コレラ(ASF)は、感染スポットが孤立したまま、森林サイクル(Sylvatic cycle)での垂直的感染にとどまってきたと見られる。
まさに、アフリカでのアフリカ豚コレラ(ASF)感染は、ドメスティックの問題にとどまってきた。
それ故、アフリカ以外の国々の研究者にとつては、自国の利害と直結しないアフリカのためのワクチン開発としてとらえられ、ワクチン開発へのインセンティブが働いてこなかったのである。
B.ヨーロッパのアフリカ豚コレラ(ASF)感染圏域
ヨーロッパにおけるアフリカ豚コレラウイルスの感染拡大には、野生イノシシによる感染拡大が一定程度 寄与している。
その中で飼養豚への感染拡大阻止を図らなければならない。
陸地で感染国と接している非感染国は戦戦兢兢の状況を迫られている。
したがって、アフリカ豚コレラウイルスの感染拡大阻止のためには、感染した野生イノシシのコントロールが必要になる。
また、アフリカとは異なるダニ(オルニソドロス・エラティカス(Ornithodoros erraticus))が感染拡大に寄与している。
C.東アジアのアフリカ豚コレラ(ASF)感染圏域
東アジアにおけるアフリカ豚コレラウイルスの感染拡大は、飼養豚の感染拡大が主であり、それに一部、野生イノシシの感染媒介が加わる。
中国での飼養豚の感染拡大の原因として、飼養衛生管理の不徹底のほか、「泔水喂猪」(泔水(食堂の残飯・残滓)を飼料にして育てられた豚)による感染拡大や、感染肉の隠蔽・密売による感染拡大もあった。
更には、感染肉が、ソーセージなどの豚肉製品に混入され、移出・輸出され、感染拡大につながった例もある。
上記これらのアフリカ豚コレラ発生圏域の感染シナリオの違いが、これまで、アフリカ豚コレラ(ASF)ワクチンの開発を鈍らせてきたと言える。
(備考)
下記図ではアフリカ豚コレラに関する4つのサイクルがあるとしている。
1)シルバティック・サイクル
イボイノシシ、ブッシュピッグとダニとの間の感染サイクル
2)ダニと飼養豚のサイクル
ダニと飼養豚との間の感染サイクル
3)国内サイクル
国内飼養豚および豚由来製品(豚肉、血液、脂肪、ラード、骨、骨髄、皮)との間の感染サイクル。
4)野生イノシシの生息地でのサイクル
感染野生イノシシ由来の肉製品や感染イノシシ由来の死体や感染イノシシ生息地由来の感染などの間での感染サイクル。
参考「Identification of Wild Boar–Habitat Epidemiologic Cycle in African Swine Fever Epizootic」(Erika Chenais, Karl Ståhl, Vittorio Guberti,
Klaus Depner、2018年)
(2)アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)自体の特異性
第二のワクチン開発遅延の理由は、以下に見るような、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)自体の特性にある。
A. 特殊なアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の構造
アスファウイルス科アスフィウイルス属(Asfarviridae Asfivirus)に分類される唯一のウイルスである。
2本鎖DNAをゲノムにもつエンベロープウイルス(ウイルス粒子の外側にウイルスゲノムやカプシドタンパク質を覆う膜状の包みを持っているウイルス)である。
核様体にある直鎖状のゲノムDNAを、①内包膜、②正20面体のカプシド(タンパク質の殻)③外包膜(エンベローブ)の3層で包み込んでいる。
B.巨大なウイルスと血球吸着現象
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の大きさは260nm程度(1nm=1ナノメートル=1メートルの10億分の1)の正二十面体構造で、同心円状の層が形成されている。
大きなサイズのために、それらを構成するタンパク質のどれが臨床的疾患から保護する抗体を持っているかを発見することが、困難となる。
下記の図は、横軸=ウイルスの大きさ(ナノメートル)と、縦軸=ウイルスを殺す難易度(1=易、10=難)
のポートフォリオである。
また、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)は血球吸着現象(hemadsorption:HAD)(赤血球凝集能を持つウイルスが細胞内で増殖し、細胞表面にある赤血球が吸着できるようになる現象)をもつ。(遺伝子EP402Rが結合に関与している。)
C.ウイルスの侵入から新たなウイルスの複製に至るまでの過程が複雑
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の侵入から新たなウイルスの複製に至るまでの過程は、次のとおりである。
①ウイルス粒子(ビリオン)
→
②エンドサイトーシス(取り込み、細胞膜の陥入) または マクロピノサイトーシス(細胞外液の取り込み)
→
③ダイナミン(細胞膜からの小胞形成される際の切断に関与)およびクラスリン(エンドソーム外側を形作る骨格となるタンパク質の形成に関与)の仲介
→
④初期エンドソーム(選択、膜の切断・変形、)
→
⑤輸送
→
⑥後期エンドソーム(カプシド分解、内包膜とエンドゾーム膜との膜融合、酵素分解)
→
⑦ウイルス工場で新らしいウイルス粒子(ビリオン)が合成
→
⑧ネイキッド・コア
→
⑨脱殻
→
⑩ウイルス・ゲノム
ASFVは、ダイナミンおよびクラスリンを介したエンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスを含む複雑なプロセスを経て宿主細胞に入る。
その後、ASFVはエンドサイトーシス経路を進行し、成熟したエンドソーム区画に到達する。
そこで、ウイルスのキャプシド除去と内部ウイルスエンベロープとエンドソーム膜の融合が起こる。
新しく合成されたビリオンは、ウイルス工場で組み立てられ、細胞膜でのエキソサイトーシスの出芽により、またはアポトーシス小体の形成により、細胞を出る。
参考「Endocytosis 」
この過程において、以下「D」に述べる、様々なタンパク質、酵素が、様々な役割を果たしていく。
D.様々な数と種類の構造タンパク質、それらをコードする遺伝子との結びつき関係が多様すぎる
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)は、通常のウイルス粒子(ビリオン: virions)に比して、タンパク質の数が多い。
通常の典型的なウイルス粒子は10〜12個のタンパク質を持っているのに対して、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)粒子には150から200を超える異なるタンパク質があり、それらが、いくつかの層に配置されている。
そのうちの45が既知の構造タンパク質(structural protein)であり、未知の構造タンパク質が23ある。
その他、100を超す非構造タンパク質(unstructural protein )と未分類タンパク質(unassigned protein)または未同定タンパク質( uncharacterized proteins)がある。
これらは、異なる遺伝子からのエンコードによって、それぞれ異なった役割を果たしている。
代表的な構造タンパク質としては、次のものがある。
(A)前駆体蛋白由来生成の成熟タンパク質(前駆体蛋白「」pp220とpp62」由来生成の成熟タンパク質)
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)には、110個のORF(転写後、翻訳されてタンパク質ができる領域)がある。
このうち、前駆体蛋白の「pp220」と「pp62」とをエンコードする二つのORFがあり、この二つの領域で、成熟したタンパク質が生成される。
a.前駆体蛋白「pp220」由来のタンパク質
前駆体蛋白「pp220」 はCP2475L遺伝子によりコードされ、コードされたSUMO様プロテアーゼS273Rによつて切断され、成熟したタンパク質である「pp220由来タンパク質」を産生する。
これらの産生された成熟タンパク質は、それぞれ、ウイルス感染に重要な役割を果たしている。
ウイルスの付着、侵入、複製、免疫応答、キャプシド形成などが、その役割である。
「pp220」由来タンパク質としては
「p5」
CP2475L遺伝子によりコード。Alí Alejo等が2018年に新たにASFVとして 44個の新しいウイルスタンパク質を同定した中の一つ。
参考「A Proteomic Atlas of the African Swine Fever Virus Particle.」(Alejo A、2018年)
「p14」
CP2475L遺伝子によりコード。キャプシド形成、膜構造組み立てに関与。
「p34」
CP2475L遺伝子によりコード。「p150」とともに、膜結合、マトリックス形成に関わっていると見られている。
「p37」
CP2475L遺伝子によりコード。タンパク質の核内輸送に関わっており、シャトルタンパク質と見られている。ウイルス粒子の移動、複製に関与。感染初期では分散した領域にみられるが、感染後期では、細胞質にのみ偏在。
「p150」
CP2475L遺伝子によりコード。「p34」とともに、膜結合、マトリックス形成に関わっていると見られている。
がある。
b.前駆体蛋白「pp62」由来のタンパク質
前駆体蛋白「pp62」は、CP530R遺伝子によりコードされ、コードされたSUMO様プロテアーゼS273Rによつて切断され、成熟したタンパク質である「pp62由来タンパク質」を産生する。
これらの産生された成熟タンパク質は、それぞれ、ウイルス感染に重要な役割を果たしている。
ウイルスの付着、侵入、複製、免疫応答、キャプシド形成などが、その役割である。
「pp62」由来タンパク質としては
「p8」
CP530R 遺伝子によりコード。「p5」と同じく、Alí Alejo等が2018年に新たにASFVとして 44個の新しいウイルスタンパク質を同定した中の一つ。
「p15」
CP530R遺伝子によりコード。キャプシド形成、膜構造組み立てに関与。
「p35」
CP530R遺伝子によりコード。キャプシド形成、膜構造組み立てに関与。
(B)抗原タンパク質「p54とp30とp72」
a.「p54」
E183L遺伝子によりコード。抗原タンパク質。ウイルス侵入に対し、抗原性が高い。ウイルスの成長と、特異抗体の誘導に、重要な役割を果たしている。中和抗体誘導に関与。
b.「p30」
CP204L遺伝子によりコード。抗原タンパク質。ウイルス侵入に最も抗原性の高い構造タンパク質。ウイルス感染後、2~4時間後の早期に発現し、感染サイクルの終始持続。中和抗体誘導に関与。
c.「p72」
B646L遺伝子によりコード。抗原タンパク質。免疫原性(抗原が抗体の産生や細胞性免疫を誘導する性質)が高い。ウイルス二十面体の構造維持に関与。核酸の周囲を包む蛋白の殻(カプシッド capsid)の形成に重要な役割。この発現で、前駆体蛋白「pp220」「pp62」段階での切断・前処理が可能となる。中和抗体誘導に関与。ウイルスのマクロファージへの結合を防ぐ働きはあるが、免疫保護に至るまでには十分ではない。
(C)糖タンパク質「CD2v」
CD2v(like)(EP402R遺伝子によりコード。糖タンパク質。細胞間接着、病原性の強化、免疫応答の調節に関与。免疫回避に役割。リンパ球の機能損傷に関わり合っており、ウイルス感染の広がりを確認するのに重要な役割。感染後期にTおよびNK細胞に発現。
(D)その他の主要タンパク質
a.「p10」
K78R遺伝子によりコード。ウイルスの吸着とウイルス粒子の移動に役割。核への移入に大きな役割を果たしている。一本鎖または二本鎖のDNA結合能力を持つ。
b.「p12」
O61R遺伝子によりコード。宿主細胞へのウイルスの付着に関与している。ウイルス感染の後期に形成。膜表面のタンパク質はウイルスの受容体として機能している。
c.「p14.5」
E120R遺伝子によりコード。DNA結合タンパク質。ウイルス粒子の移動に役割。ウイルス感染の後期に形成。
d.「p17」
D117L遺伝子によりコード。ウイルスの内包膜に定在する膜貫通型タンパク質。
参考
「African Swine Fever Virus Gets Undressed: New Insights on the Entry Pathway」(Germán Andrés 、2017年)
「A comparative review of viral entry and attachment during large and giant dsDNA virus infections」(Haitham Sobhy 、2017年)
(参考)
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)ウイルス粒子(ビリオン)( virions )にある構造タンパク質(68)の機能別分類一覧(カッコ内は、塩基配列をアミノ酸に翻訳し構造タンパク質を産生する遺伝子の名前)
ウイルスの構造と形態形成に関わるもの(16)
p5(CP2475L), p8 (CP530R) , p14(CP2475L), p15(CP530R) , p17(D117L), p30(CP204L、P32と同じ), p34(CP2475L), p35(CP530R), p37(CP2475L), p49(B438L), p54(CP204L), p72(B646L), p150(CP2475L),
pS273R(S273R), pE183L(E183L), pE120R(E120R ), p10(K78R), pA104R(CecA1)
ウイルス転写およびRNA修飾に関わるもの(13)
pB962L, pD1133L, pNP1450L, pEP1242L, pG1340L, pQ706L, pNP868R, pC475L, pH359L, pD205R, pD339L, pEP424R, pC147L
ゲノムの完全性維持に関わるもの(4)
pO174L, pNP419L, pE296R, pE165R
ウイルスの侵入に関わるもの(3)
p12(O61R), pE248R, pE199L
宿主の免疫回避に関わるもの(2)
pEP402R 、pA224R
その他の既知タンパク質(7)
pR298L, pB119L, p22(KP177R)(表面抗原タンパク質),p32(p30と同じ)(CP2041L),p11.5(A137R), pEP152R, pH339R
その他の未知タンパク質(23)
pM1249L, pCP123L, pC129R, pC717R, pI177L, pK145R, pK421R, pE146L, pF317L, pH240R, pCP312R, pE423R, pE184L, pC257L, pH171R, pB117L, pB169L, pEP84R, pI73R, pC122R, pQP383R, pM448R, pH124R
合計68
参考
「A Proteomic Atlas of the African Swine Fever Virus Particle」(Alí Alejo、2018年)
「Subunit Vaccine Approaches for African Swine Fever Virus」(Natasha N. Gaudreault ほか、2019年)
「Roles of African Swine Fever Virus Structural Proteins in Viral Infection」(Ning Jia ほか、2017年)
「Antigenic characterization of African swine fever virus (ASFV) p30 and p54 proteins」(Vlad Petrovan、2019年)
以上に見たように、これらのタンパク質の多さと、それぞれのタンパク質への遺伝子からのエンコードの複雑さ、抗原の多様性、免疫回避経路の複雑さ、防御免疫応答を誘導するウイルス抗原の特定の困難さ、などが、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)ワクチンの開発を困難なものにさせている。
E.数多い遺伝子型
(A)三種類もある遺伝子型配列クレード(系統樹)
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の遺伝子型の系統樹は、以下3つの抗原タンパク質に基づく遺伝子型クレード(clade)決定のアプローチがある。
「P72 squencing」
「P54 sequencing」
「P30 sequencing」
「P72 sequencing」は、遺伝子「B646L」によつてコードされている「p72タンパク質」の「C末端の配列」を使用しての分類であり、24のクレード(clade)がある。
「P54 sequencing」は、遺伝子「 E183L 」によってコードされている「p54タンパク質」の「全長配列」を使用しての分類であり
「P30 sequencing」は、遺伝子「CP204L」によつてコードされている「p30タンパク質」の「全長配列」を使用しての分類である。
3つのクレード(clade)を対比すると下記のとおりであり、三者の分類の違いは、下記表に見るように、殆どない。
一般的には、「P72 sequencing」によるクレード゛分類がされている。
「P72 sequencing」によるASFVのクレード゛分類は下記のとおりである。
24の遺伝子型が同定されている。
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の遺伝子型の判定においては、一部のウイルスに識別可能な血清型が欠落しているものがあるため、それについては、24の遺伝子型を識別するP72タンパク質のc末端の配列を使用し、野外株を遺伝子型に分類している。
東アフリカの配列で完全に保存されているのは、塩基(ヌクレオチド)配列で183.3%、アミノ配列で14.2%だった。
遺伝子型をⅠ型(下記図A、24種類の遺伝子型)とⅡ型(下記図B、8種類の遺伝子型)に分け、Ⅰ型は、P72タンパク質のC末端の配列を使用し、Ⅱ型は、野外株を遺伝子型に分類している。
アフリカ西部で分離される株は、主にⅠ型、サルジニア分離株はⅠ型、南東アフリカでの流行株はⅡ型、コーカサス地方、東欧、ロシアで分離された株はⅡ型、最近の中国での流行株はⅡ型に分類されている。
なお、コンゴ西部と南東部で、2つの異なる遺伝子型が見つかっている。
(B)クレード(clade)(系統樹)決定の手順
クレード(clade)(系統樹)決定の手順を平たく言えば次のようになる。
①遺伝情報
DNAに保管。
↓
②転写
RNA 塩基(A、U、G、Cのどれか)を運んで塩基対を作る→DNA の塩基配列を相補的に写し取った RNA を合成→合成された RNA はタンパク質を合成する“指令”を写し取った メッセンジャー RNA(蛋白質に翻訳され得る塩基配列情報と構造を持ったRNA)であり、mRNA と呼ばれる。
↓
③スプライシング
DNA から転写された mRNA にはタンパク質設計に関する部分(エキソン)とタンパク質設計に不要な部分(イントロン)がある。
これからイントロンを除去し、エキソンを繋ぎ合わせる。
↓
④翻訳
mRNAは4種類の塩基(コドンという)(アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)、)の配列情報を持つ。
この内の3 個1組の塩基(コドン)で1個のアミノ酸を作る。
塩基(コドン)には「開始コドン」と「終始コドン」がある。
開始コドン(AUG)はDNAのどこから翻訳するかを決定する。
終始コドン(UAA、UAG、UGG)の直前で翻訳は終了する。
翻訳では、
開始コドンを起点として、その後、3 つの組の塩基づつ、一つのコドンとして遺伝
情報は読まれていく。
↓
⑤アミノ酸への翻訳からタンパク質合成へ
mRNAをアミノ酸に翻訳していくのには、次の過程をたどる。
「アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)」の配列の内の3つの組み合わせで、一つのアミノ酸が記号される。
たとえば
「アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)」の配列が「AUGGUCAGUCCAUAA」の場合、これを3つ一組のアミノ酸に翻訳すると
「メチオニン(AUG)→バリン(GUC)→セリン(AGU)→プロリン(CCA)→ストップ(STOP)(UAA)」となり、これによって、形成されるたんばく質が決まる。
転写された mRNA にリボソームが結合し、タンパク質が合成されていく。
参考「African swine fever viruses with two different genotypes, both of which occur in domestic pigs, are associated with ticks and adult warthogs, respectively, at a single geographical site」(Carmina Gallardoほか、2011年)
以上のアフリカ豚コレラウイルスの遺伝子型の多様性が、ワクチン開発の標的をどこに合わすかを混乱させている。
幅広い遺伝子型に、単一のワクチンで対応できる(交差免疫能力(C ross-Protective Capabilities)のある)ワクチン開発が迫られているということである。
参考「遺伝子発現の流れ」
(3)アフリカ豚コレラウイルスの免疫回避の動き
A.不十分な中和抗体生成への誘導と発現
中和抗体とは?
中和抗体(neutralizing antibodies)とは、ウイルスの感染を阻止する能力(中和能力)を持つ抗体である。
ウイルスに対して高い結合能(親和性)を持つ抗体がターゲットとする抗原にフラグを立て、中和抗体が中和のための処理をする。
ウイルスの感染能力を阻止する二つの方法
中和能力が発揮されウイルスの感染能力が阻止されるためには、
①中和抗体がウイルスタンパク質に結合し、ウイルスを不活化し、中和能力を発揮する場合
と、
②抗体が間接的に補体(Complement 生体が病原体を排除する際に抗体および貪食細胞を補助する免疫システム (補体系) を構成するタンパク質)を活性化し、ウイルスのたんばく質の受容体結合を阻止したりすることで、結果として、中和能力を発揮する場合
とがある。
通常は、ウイルスが宿主(ASFVの場合は、豚やイノシシ)に感染することによつて、宿主が本来持つている自然免疫系が活性化され、続いて、獲得免疫が誘導され、中和への処理がはじまる。
あるいは、タンパク抗体である中和抗体そのものを宿主に投与することによって、受動免疫ができ、中和への過程が始まる。
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)には通用しない
ところが、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)に対しては、このシステムが、うまく機序しない。
中和能力発揮には次がある。
①抗体は血液や粘膜に分泌され、そこで病原体や毒素などの異物に結合し不活性化(中和)する。
②抗体は補体系の活性化(Complement recruitment)によって、溶解(細胞壁に穴を開ける)により細菌細胞を破壊する。
③抗体が活性細胞や病原体に結合し、その抗体がエフェクター細胞(マクロファージ(白血球の1種でアメーバ様運動する遊走性の食細胞)やNK細胞(自然免疫の主要因子として働く細胞傷害性リンパ球の1種)などの免疫細胞)を呼び寄せ、その抗体が結合している細胞や病原体を殺傷する。
ADCC(Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity : 抗体依存性細胞傷害)活性ともいう。
抗体がCDC(Complement-Dependent Cytotoxicity : 補体依存性細胞傷害)活性細胞や病原体に結合し、補体を介して細胞や病原体を殺傷する場合もある。
まったく中和抗体誘導ができないのではない、不十分なのだ
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)のウイルス・タンパク質には、中和抗体誘導が働かないために、このことが、ワクチン開発に支障があるとされてきた。
しかし、まったく中和抗体誘導が働かないというわけではない。
ASFVの構造タンパク質で、中和誘導を目的とするタンパク質としては、次のものがノミネートされる。
(カッコ内はコードする遺伝子名)
p72(B646Lp),とp54(E183Lp)に対する抗体は、ウイルスの細胞への付着を阻害する。
p30(CP204Lp)に対する抗体は、ウイルス取り込みを阻害する。
その他のタンパク質で細胞の表面または、細胞の包膜にあるタンパク質(CD2v、p12, p17)は、ウイルスの侵入や拡散を防ぐことで、中和の役割を果たしている。
いくつかのウイルスタンパク質は、潜在的なワクチン標的として同定されている。
すくなくとも、抗原タンパク質であるP30、P54、P72 、pp62、CD2vは、中和抗体を誘導することができるとされている。
中和抗体を誘導する可能性のあるタンパク質としては、これら抗原タンパク質であるP30やp54やp72に加え、3つの他の抗原関連タンパク質(pEP153R(C型レシチン)、pCP204L(C型レシチン)およびpEP402R(グリコシル化))もあげられうる。
さらに、合計62の膜タンパク質についても、抗原関連のタンパク質であることが同定されている。
しかし、これらのタンパク質に対する抗体は、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)のウイルス複製から保護するのには十分ではないとされている。
ある実験例では、中和抗体を誘導できるCD2vタンパク質でワクチン接種した3頭の豚について、1頭は中和活性を示したが、2頭はウイルス血症にみまわれたとされている。
また、p54とp30をともに接種の場合、臨床症状の発症が遅れ、ウイルス血症が減少し、6頭の豚のうち、E75株による毒性攻撃から保護されたという。
しかし、いずれの場合も、最終は死亡に至ったと言う。
一定の臨床症状の出現の遅れとウイルス血症のレベルの低下は見られたが、最終結果は、すべての豚の死亡を見た。
完全な中和抗体はないが、一定の効果を示す抗体はある、ということなのだろう。
ASFV感染から回復した数少ない例
一方で、ASFV感染から回復した数少ない例においては、一定の防御免疫応答を得ていることも、事実である。
たとえば、米国農務省設立のプラム島動物病センターで、ドミニカ共和国検出のASFV株を用いた接種実験によれば、ウイルス接種による生体実験から回復した豚を3つのグループに分け、急性感染から回復した後の血液中のウイルスの持続性を調べところ、第一グループでは、感染後30日間ウイルス血症が検出。第二・第三グループでは、最初の接種後30日間は低レベルのウイルス血症が検出されたが、その後は検出されなかったという。
この実験例以外にも、これまで、数多くの感染実験において、生存した感染豚の例は確認されている。
これらの各例については
「Lack of evidence for long term carriers of African swine fever virus – a systematic review」(KarlStåhl 、2019年)
をご参照。
最近(2018年と2019年)の例としては
「No evidence for long-term carrier status of pigs after African swine fever virus infection」(Petrov 、2018年)
「Transmission of African Swine Fever virus via carrier (survivor) pigs does occur」(P.L.Eblé ほか、2019年)
があげられる。
これらの事実は、中和抗体をまったく誘導できないという説とは矛盾した事実である。
少なくともタンパク質p54、p30およびp72は、抗体によって媒介されるASFV中和誘導に関与してはいるのだろう。
p54タンパク質は、ASFVを部分的に中和する抗体を誘導しうる。
p72 およびp54 に対する抗体は細胞へのウイルス結合を阻害しうる。
p30 に対する抗体はウイルスの内在化を阻害しうる。
CD2v 、p12、p17タンパク質など、ウイルス粒子の表面に存在するタンパク質は、ウイルスの侵入または拡散を防ぐことで、中和を支援しうる。
ワクチン開発戦略のターゲットを変える必要がある
以上のことから言えそうなのは、、中和抗体だけではASFV感染豚を守ることはできないが、抗体依存性細胞傷害性のある抗体の誘導または血液吸収の阻害、細胞性免疫応答など、他のメカニズムを動員すれば、総体としての中和の力は増すであろうということだ。
これまでのワクチン開発のアプローチ方法では、抗体が直接、ウイルスタンパク質に結びつき、ウイルスの不活性化を試みる方法のみ模索してきたか、今後の動きとしては、それのみだけでなく、抗体遺伝子を活用した受動免疫法に基づく、ワクチン開発も、試行され始めてきている。
しかし、それでも、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)は、以下に述べる免疫応答回避という手法で立ち向かってくる。
B.免疫応答回避のための機序(evasion mechanisms)
Aに見たように、中和抗体の生成が不十分であれば、その不十分さを補完する機序が働くはずであるが、それさえも、ASFVにより阻害されている。
その主な要因は下記のとおりである。
(A)アップ・レギュレーションとダウン・レギュレーション
アップ・レギュレーション(up regulation)とは、応答能が増大することであり、物質や信号が減少することで、受容体の数が増加したり、感受性が過敏になったりして生じる。上方制御、上方調節ともいう。
ダウン・レギュレーション(down regulation)とは、過度,または継続的な刺激によって細胞の応答能が低下(脱感作)することで.受容体数が減少したり、発現量が減少して,応答能が低下することをいう。
アフリカ豚コレラウイルスは、このアップ・レギュレートとダウン・レギュレートの二つをうまく使い分けて、免疫応答の回避をおこなっている。
参考「Mechanisms of African swine fever virus pathogenesis and immune evasion inferred from gene expression changes in infected swine macrophages」(James J. Zhu ほか、2019年)
(B)アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)侵入経路での免疫回避の動き
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の細胞への侵入過程は、すでに「2-(2)C」に見たように、次のような過程をたどる。
ウイルスの侵入過程
細胞への侵入には、二つの方法があり
①アクチンを必要とするクラスリン依存性エンドサイトーシス経由(細胞膜の陥入)
②アクチン、キナーゼを必要とするマクロピノサイトーシス経由(細胞外液の取り込み)
がある。
時間的経過で見ると、次のようになる。
①ASFVが、
MHCクラスII抗原(MHCという糖タンパク質)の
処理(細胞内への取り込み→小胞とリソソームが融合→細胞外抗原由来ペプチド生成→小胞体移動)
および
提示(細胞表面に抗原提示)を阻害(邪魔 、Inhibition)
をする。
②
CD8 + Tエフェクター細胞および好中球細胞外トラップを回避。
結果、自然免疫応答および適応免疫応答の両方を回避。
③マクロファージのM1活性化が抑制
④免疫抑制へサイトカイン誘導
⑤マクロファージのオートファジーとアポトーシスのプロセスが阻害。
の流れとなる。
参考
「African swine fever virus-cell interactions: From virus entry to cell survival」(Alonso C ほか、2013年)
「African Swine Fever Virus Undergoes Outer Envelope Disruption, Capsid Disassembly and Inner Envelope Fusion before Core Release from Multivesicular Endosomes.」(B Hernáez、2016年)
以下、免疫関係の用語については、こちらのサイト「免疫」もご参照
a.サイトカインの放出
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)に感染した豚は、高熱、出血性病変、チアノーゼ、食欲不振、などの臨床症状を示し、そして死亡する。
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)がターゲットにしている宿主の細胞は、単球(monocytes)と、マクロファージ(macrophages)である。
単球は、最も大きなタイプの白血球であり、常にマクロファージを補充、マクロファージ(M1、M2)や樹状細胞(DC)( 抗原提示を行う)に分化しうる。
マクロファージは、白血球の1種であり、生体内をアメーバ様運動する遊走性の食細胞であり、掃除屋である。
マクロファージは抗原を摂取すると、各種のサイトカイン(cytokine) を放出し、特定のT細胞(リンパ球の一種で、骨髄で産生された前駆細胞が胸腺での選択を経て分化成熟したもの。)を活性化させる。
これらの放出こそが、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)に感染した豚が臨床症状として示す劇症性のゆえんである。
マクロファージによる抗原提示(食作用によって取り込み、分解した異物を断片にして細胞表面に表出させる)のシグナルを受けて、T細胞のなかのヘルパーT細胞と呼ばれるリンパ球に伝達され、T細胞活性化で、インターロイキンやリンフォカイン等のサイトカインを生産・放出する。
ある種のサイトカインは単球の成熟を促進し、マクロファージを増殖させ食作用を活性化する。
サイトカインはタンパク質で、炎症性のサイトカインと抗炎症性のサイトカインとがある。
①炎症性サイトカイン(inflammatory cytokine)
TNF-α、IL-1、IL-1β、IL-6、IFNγ、IL-8、IL-12、IL-18、G-CSF など
炎症症状を引き起こす原因因子で、活性化マクロファージや活性化血管内皮細胞から産生
②抗炎症性サイトカイン(Anti-inflammatory Cytokines)
IL-4, IL-10, IL-13, TGFβ、TNF-α、IL-1β、IL-6、IFNγ、IL-8、G-CSF など
炎症症状を抑制する働きをもつサイトカインで、活性化マクロファージなどから産生
以下が、主なサイトカイン遺伝子である。(発現レベルの高い順)
IL1RN、TNFSF13B、IL18BP、IL1B_2、IL16、LTB、TNFSF11、CSF3、IL27、TNFSF15、TNFSF10、IL10、IL17F、TNF、IL1A、IFNG、IL1B_1 1.4、IL1A、TNFSF18、TNFSF4,
(その他、発現レベルの弱いものとして IL13、FASLG、LTA、IFNA、IFNB、IFNB)
アフリカ豚コレラ(ASF)の臨床症状を示すサイトカイン因子としては、次のものがある。
FASLG、LTA、LTB、TNF、TNFSF4、TNFSF10、TNFSF13B、TNFSF18
炎症性サイトカイン(IL17Fおよびインターフェロン)や抗炎症性サイトカイン(IL10)は、過剰な組織炎症反応を引き起こす可能性があるとされている。
参考
「Mechanisms of African swine fever virus pathogenesis and immune evasion inferred from gene expression changes in infected swine macrophages」(James J. Zhu ほか、2019年)
b.ケモカインの放出
ケモカイン(Chemokine)も放出するが、これもサイトカインの一種であり、Gタンパク質共役受容体を介してその作用を発現する塩基性タンパク質であり、白血球などの遊走を引き起こし炎症の形成に関与する。
ケモカインもウイルスのレギュレーションを受ける。
ウイルス感染により、
ケモカインCCL2、CCL3L、CXCL2およびケモカイン受容体CCR1、CCR5、CXCR3、CXCR4のmRNAレベルがダウン・レギュレーション(応答能力低下)され、
逆に、
CCL4、CXCL10およびケモカイン受容体CCR7のmRNA発現がアップ・レギュレーション(応答能力増大)される。
参考「Modulation of chemokine and chemokine receptor expression following infection of porcine macrophages with African swine fever virus」(Emma Fishbourne ほか、2013年)
c.アポトーシスの阻害と、オートファジーの阻害
ASFVにとって、アポトーシス (apoptosis) (細胞の自然死)とオートファジー(autophagy)(自食作用)という早期段階での細胞死を防ぐことが、その後の過程におけるウイルスの複製を増やすことにつながる。
ASFVは、ミトコンドリアのカスパーゼ9、カスパーゼ12、エグゼキューターカスパーゼ3の活性化を誘導する。(アップ・レギュレーション)
このウイルスは、いくつかのアポトーシス阻害遺伝子(A238L、A224L、EP153R、DP71L、A179L)をコードしている。
これらの機能は、ウイルスの複製を損なう可能性のある早期細胞死を防ぐためにある。
参考「African Swine Fever Virus Inhibits Induction of the Stress-Induced Proapoptotic Transcription Factor CHOP/GADD153」(Christopher L. Netherton、2004年)
アポトーシス・レギュレーターたんばく質のBcl-2(遺伝子LMW5-HL)の相同体であるA179Lが、宿主細胞のアポトーシスを抑制(ダウン‐レギュレーション)し、複製ウイルス産生を促進させる。
ウイルスのオートファジーを制御する能力を阻害すると、免疫応答が強化される。
d.好中球の発現とリンパ球&単球
好中球(neutrophil)は5種類ある白血球の1種類である。
盛んな遊走運動(アメーバ様運動)を行い、主に生体内に侵入してきた細菌や真菌類を貪食(飲み込む事)することで、感染を防ぐ役割を果たしている。
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)は、次のような遺伝子の差次的発現によって、ダウンレギュレートをしている。
(i)MHCクラスII抗原の処理および提示を阻害し、
(ii)好中球/ CD8 +の発現を減少させることにより
CD8 + Tエフェクター細胞および好中球細胞外トラップを回避し、自然免疫応答および適応免疫応答の両方を回避
(iii)マクロファージのM1活性化の抑制
(iv)免疫抑制サイトカインの誘導
(v)マクロファージのオートファジーとアポトーシスのプロセスの阻害。
とのダウンレギュレーション効果を発現している。
参考「Mechanisms of African swine fever virus pathogenesis and immune evasion inferred from gene expression changes in infected swine macrophages」(James J. Zhu ほか、2019年)
e.膜融合( membrane fusion)の阻害
ノコダゾール(nocodazole)は、ウイルスが微小管(microtubules)を通じて原形質膜(plasma membrane)に向かい順行性輸送されることによるウイルスの複製機能強化を阻止する役割を持つている。
そのノコダゾールの機能を、PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール3キナーゼ)が阻害することで、ウイルスの複製を助けている。(ダウン‐レギュレーション)
参考「Transport of African swine fever virus from assembly sites to the plasma membrane is dependent on microtubules and conventional kinesin.」(Jouvenet Nほか、2004年)
f.転写活性体の応答低下
A238Lpは、宿主の免疫応答遺伝子の転写活性化を防ぐ働きをする。(ダウン‐レギュレーション)
また、アポトーシス促進転写因子(CHOP / GADD153)はストレス誘発性の機能を持ち、アポトーシスへの誘導を阻害する。
A238LpはNF-κappaB(転写因子であり、遺伝子転写を活発化)を阻害(ダウンレギュレーション)する蛋白質でもある。
参考「Mechanism of Inactivation of NF-κB by a Viral Homologue of IκBα
SIGNAL-INDUCED RELEASE OF IκBα RESULTS IN BINDING OF THE VIRAL HOMOLOGUE TO NF-κB*」(Stephen W. G. Tait ほか、2019年)
g.インターフェロンの働き
インターフェロン (IFNs)には、Ⅰ型Ⅱ型Ⅲ型の三種類がある。
ウイルスなどの異物の細胞への侵入に反応して細胞が分泌する蛋白質である。
このうちⅠ型インターフェロンは、更に五種類に分かれ、「IFN-α(13種類)、IFN-β(1種類)、IFN-ω(1種類)、IFN-ε(1種類)、IFN-κ(1種類)」がある。
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)には、このうち、IFN-βが、一定の役割を果たしている。
IFN-βは、ウイルス攻撃に応答する線維芽細胞や様々な細胞から産生される。
IFN-β はBリンパ球ミエローマ細胞(免疫グロブリンを大量に産生)においてアポトーシス効果を選択的に誘導させる。
参考「African swine fever virus Armenia/07 virulent strain controls IFN-β production through cGAS-STING pathway」(Raquel García-Belmonteほか、2019年)
h.シグナル伝達(signaling pathway)の阻害
I329Lpタンパク質は、宿主細胞の表面膜に局在する糖タンパク質である。
I329Lpタンパク質は、Toll様受容体3(TLR3)シグナル伝達経路において、IFN応答を阻害する。(ダウン‐レギュレーション)
参考「Analysis of the african swine fever virus immunomodulatory proteins
Article」(Mariia Nefedevaほか、2019年)
また、シグナル回路において、A238Lpたんばく質は誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)による遺伝子発現を阻害(ダウン‐レギュレーション)し、マクロファージによる強力な抗炎症効果を発揮させる。
参考「Regulation of Inducible Nitric Oxide Synthase Expression by Viral A238L-Mediated Inhibition of p65/RelA Acetylation and p300 Transactivation」(Aitor G. Granjaほか、2006年)
i.リン酸化酵素によるウイルス核内移行の促進とサイトカイン等の産生促進
パターン認識受容体であるcGASが環状GMP-AMPを合成し、この環状GMP-AMPが小胞体に局在する膜貫通型タンパク質(STING)に結合する。
STINGはC末端側でリン酸化酵素TANK binding kinase 1(TBK1)と結合し,TBK1を活性化させる。
活性化したTBK1は、同時にSTINGはSTINGおよび転写因子(IRF3)をリン酸化し、IRF3の核内移行を促進させる。
核内移行の転写因子(IRF3)で、,抗ウイルス活性を有するI型IFNや炎症性サイトカインであるinterleukin-6やTNFの産生が誘導される。(アップ‐レギュレーション)
参考
「Inhibition of cGAS-STING-TBK1 signaling pathway by DP96R of ASFV China 2018/1.」(Wang Xほか、2018年)
j.MHCクラスI抗原の表面発現の阻害
MHC(主要組織適合性複合体)は、細胞表面に発現している糖タンパク質で、自己と非自己(外来の細菌やウイルス)を識別し、免疫反応を開始できる。
MHCには、タンパク質の機能や構造の違いで3つに分けられ、クラスI、クラスII、クラスIII の遺伝子領域に分類されている。
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)のレクチンEP153Rは、MHCクラスI抗原の表面膜発現を選択的にダウンレギュレーションする。
EP153Rは、エキソサイトーシスプロセス(Exocytosis)(細胞内分泌物質を細胞外に開口分泌するプロセス)を損傷することで、MHC抗原の合成またはグリコシル化に影響を与えることなく、MHC-I膜発現を阻害する。
MHCクラスII抗原の処理および提示についても阻害がある。
k.樹状細胞によるサイトカイン応答調整
樹状細胞( Dendritic cell=DC)は、抗原提示細胞として機能する免疫細胞の一種である。
ASFVはサイトカイン応答の誘発を防ぐ調整をしている。
弱毒株と強毒株によってマクロファージサイトカイン応答が異なるアップまたはダウンのレギュレーションをしている。
(「a.サイトカインの放出」もご参照)
参考
「Modulation of MHC class I expression by African swine fever virus and the role of virus proteins EP153R and CD2v」(Deborah L. Saward Arav、2014年)
「African Swine Fever Virus Causes Microtubule-Dependent Dispersal of the trans-Golgi Network and Slows Delivery of Membrane Protein to the Plasma Membrane」(Christopher L Netherton ほか、2006年)
「The African swine fever virus lectin EP153R modulates the surface membrane expression of MHC class I antigens」(Hurtado C ほか、2010年)
https://www.researchgate.net/publication/47743540_The_African_swine_fever_virus_lectin_EP153R_modulates_the_surface_membrane_expression_of_MHC_class_I_antigens
以上、「(C)アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)侵入経路での免疫回避の動き」についての総合的な参考サイトは下記の通り
「Subunit Vaccine Approaches for African Swine Fever Virus」(Natasha N. Gaudreault ほか、2019年)
「Antibody-mediated neutralization of African swine fever virus: Myths and facts」(José M. Escribaほか、2012年)
「Approaches and Perspectives for Development of African Swine Fever Virus Vaccines」(Marisa Arias ほか、2017年)
「African Swine Fever Virus Gets Undressed: New Insights on the Entry Pathway」(Germán Andrésほか、2017年)
「Mechanisms of Entry and Endosomal Pathway of African Swine Fever Virus」(Elena G. Sánchez ほか、2017年)
「Mechanisms of African swine fever virus pathogenesis and immune evasion inferred from gene expression changes in infected swine macrophages」(James J. Zhu ほか、2019年)
3.アフリカ豚コレラウイルスワクチン開発の歴史と現状
以上、これほど以前から世界中に蔓延しているアフリカ豚コレラウイルスであったにも関わらず、なぜ、それに対するワクチン開発が遅れ、そして、今なお、完璧なワクチン開発の目処が立っていないのか?その原因について述べた。
アフリカ豚コレラ(ASF)用ワクチン開発の困難性は、次にあった。
①ウイルス発生のシナリオが、アフリカ、ヨーロッパ、東アジアの三地域で全部異なり、宿主も異なり、遺伝子型もことなっていた。
②ウイルスが巨大で、かつ、その構造も複雑でった。
③ウイルスのたんばく質の種類が多く、また、そのタンパク質をコードする遺伝子の数も多く、その役割も多岐にわたっていた。
④中和抗体の力が十分ではなかった。また、ASFVの複雑な免疫応答回避の機序が未解明であった。
⑤過去にポルトガルでのワクチンの失敗が、その後も尾を引いていた。
⑥ウイルスを扱え、また、遺伝子組み換え実験ができるBSL3/4クラスの研究施設が少なかった。
⑦ワクチン大量生産が出来る細胞株(Cell Lines)生産施設がなかった。
⑧安価に動物実験ができるモデル環境がなかった。
ここで、これまでの、アフリカ豚コレラワクチン開発の苦闘の歴史と、現時点における開発の展望について述べる。
(1)散々な失敗に終わった世界最初のASFVワクチン
アフリカ豚コレラワクチンが世界で最初に使用されたのはポルトガルであった。
ポルトガルは、1957年、ヨーロッパに最初にアフリカ豚コレラウイルスが上陸した最初の地であった。
アフリカ豚コレラウイルスの上陸は、ポルトガルのリスボンの空港近辺で生ゴミで育てられた豚の感染から始まった。
感染源は、アンゴラから空輸で運ばれた感染豚肉製品と推測された。
この最初の蔓延は早期に鎮圧されたのだが、1960年に再び、ポルトガルのリスボンに上陸し、その後、スペインに感染拡大し、その後、1995年まで、感染拡大が続いた。
最初のアフリカ豚コレラワクチンは、感染豚の骨髄で継代培養し弱毒化されたワクチンであり、1963年から、約550,000頭の豚に接種された。
問題は、その後、接種された豚のうちの128,624頭に副作用が出たことであった。
副作用の症状としては、肺炎、流産、運動障害、などであった。
そして、このワクチン接種の結果として、その後、長年にわたり、多くの亜急性・慢性型のアフリカ豚コレラ感染豚を生み出したものと推測されている。
参考
「Vertebrate Animal and Related Viruses」(EDOUARD KURSTAK ほか、1981年)
「Vaccination against ASF」
(J Manso-Ribeiro, JL Nunes-Petisca, F Lopez-Frazao… – Bull Off Int Epizoot, 1963)
(2)その後も続いたASFワクチン開発の失敗
ワクチン開発の模索はその後も続いたが、いずれも、十分の抗体を得ることができずに、失敗した。
ワクチン開発のターゲットは次に絞られた。
①不活化ワクチン(Inactivated vaccines)
抗体形成は誘導されうるが、防御にまでは至らない。
感染ウイルス粒子に二つのタイプ(Intercellular virions(IV)とextracellular virons(EV)と)があることがネック。
不活化に異なった方法と、異なったアジュバント(PolygenとEmulsigenと)がある。
細胞性免疫低下(食細胞、細胞傷害性T細胞の機能低下)あり。
抗体依存性感染増強現象(ADE)(ウイルスが抗体を利用してマクロファージや樹状細胞等の抗原提示細胞に効率よく感染するためのメカニズム)あり。
副作用はないが、ASFVに対する防御効果はない。
②弱毒生ワクチン(Live attenuated vaccines, LAVs)
自然に弱毒化した分離ウイルス株
相同保護効果を、持つ。
異種保護効果は部分的。
ASFVに対する防御効果は、予防接種用量や予防接種ルート(経口か接種か)によって異なる。
ASFVに対する一定の防御効果はあるが、副作用が強い。
副作用として、持続感染(キャリア)や慢性臨床症状がある。
③サブユニットワクチン(Subunit vaccines)
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の抗原タンパク質をセットにして、宿主域の拡大が出来、発現促進ができる組換えバキュロウイルス(昆虫を宿主とするウイルスの組み換えウイルス)を用い発現させる。
組み合わせのコンビは
P15とP17とp30とP32とP35とp54とP72とP72とCD2vのいずれかの組み合わせ。
P54とP30の組み合わせは感染の遅延などの部分的な効果はある。
P54とP30とP72との組み合わせは、ASFVに対する防御効果はない。
CD2vは感染の遅延などの部分的な効果はある。
DIVAワクチンである。
検出可能な抗体は得られたが、ASFVの防御にまでは至らない。
④DNAワクチン(DNA vaccines)
「遺伝子の運び屋」にプラスミドベクターを使い、これにDNA断片を組み込み、発現。
DIVAワクチン。
細胞傷害性 Tリンパ球(CTL)反応を誘導。
ASFに対する防御効果はまだない。
⑤ウイルスベクター生ワクチン(Live virus-vectored vaccines)
種痘に用いられるワクチニアウイルス(ポックスウイルス科に属するエンベロープを持ったウイルス)を、使う。
アンカラ、アデノウイルス、オーエスキー病ウイルスなど。
細胞傷害性 Tリンパ球(CTL)反応と抗原特異的抗体を誘導。
DIVAワクチンである。
ASFVに対しては、部分的に防御。
⑥組み換え弱毒生ワクチン(Recombinant LAVs)
相同組換えのメリットあり
干渉効果( 近縁なウイルスに感染しなくなる)あり。
副作用(ウイルス血症、残留毒性)がある。
これが、現状では最も有力なワクチンであるが、副作用の問題はまだ克服されていないようだ。
遺伝子から削除(欠失)するタンパク質の候補としては、以下のものが対象となる。
削除(欠失)により劇症性が低下するもの
DP71L,DP96R,
削除(欠失)により相同性(Homologous)があがるもの
9GL,MGFs,DP148R,
削除(欠失)により汎用性(Heterologous)があがるもの
A238L,A224L,
削除(欠失)により交差防御(Cross-protection)効果があがるもの
CD2v,
なお、上記効果はウイルス(ASFV)によって異なる。
以上に見るように、いずれの方法でのワクチン開発も一長一短で、まだ、決定的にアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)からの防御をしうるものは、ない。
しかし、近年、ワクチン開発のターゲットが、以下に見るように絞られてきつつはある。
参考「Can a Vaccine Save the World’s Pigs from African Swine Fever?」
(3)中国のASF感染拡大で勢いづく世界のワクチン開発競争
A.潮目が変った、世界のASFVワクチン開発への動き
一昨年、アフリカ豚コレラ(ASF)発生が中国に及んだ時点で、ASFワクチン開発への動きは加速せざるを得なかった。
それまでのアフリカ豚コレラ(ASF)問題は、アフリカや東欧のごく限られた地域での家畜疾病問題に過ぎず、世界のASFワクチン開発への動意は薄かった。
巨額な開発費がかかるASFワクチン開発への資金投入に見合うまでの大きなマーケットがなく、したがってワクチン開発の費用対効果が見込まれなかったからである。
しかし、アフリカ豚コレラ(ASF)感染ステージが上記の第四期に進むにつれ、世界の各地で、アフリカ豚コレラ(ASF)ワクチン開発への動きが激しくなってきた。
「中国でのアフリカ豚コレラの感染拡大は、ASFのワクチン開発にとっては「ゲームチェンジャー」であったという人もいる。
B.各国の動向
中国ではハルビン獣医学研究所で、実験室段階ではあるが、2つのワクチン候補を確定したと発表した。
ベトナムでは、ベトナム国立農業大学で開発されたASFワクチンを、大学実験室とベトナム北部の3つの農場でテストしていると、ベトナム農業大臣グエン・スアン・クオン(Nguyen Xuan Cuong)氏が発表している。
また、ロシアでは、ロシア農業アカデミー委員会が、全ロシアロシア獣医微生物学研究所(VNIIVViM)にASFに対するワクチンならびにこの疾患の新しい効果的な治療および予防ツールを開発する任務を置いたと、発表している。
また、全ロシアロシア獣医微生物学研究所(VNIIVViM)は、イリノイ大学と共同でASFワクチン開発に取り組んでいる。
アメリカでは、1970年代に、ポルトガルとスペインにASFが発生したのを契機に、ASFワクチン研究を開始したが、開発資金上の問題で、2004年に研究を終了していたが、ジョージアでASFが発生したのを機に、研究を2008年に復活した。
ASFの研究で世界的に有名な科学者であるマヌエル・ボルカ(Manuel Borca)氏のリーダーシップのもと、プラム島で研究が再開されている。
昨年、米国国土安全保障省(DHS)科学技術局(S&T)は、米国農務省(USDA)と共同でのワクチン研究を強化し、プラム島を本拠にして、ニューヨーク州動物病センター(PIADC)とも連携し、アフリカ豚コレラタスクフォースを設立した。
イギリスでは、パーブライト家畜衛生研究所(Pirbright Institute)を中心に、現在、弱毒生ワクチンとサブユニットワクチンを開発しているほか、Viro Vet Diagnostik と協力しASF抗ウイルス薬製造に取り組んでいる。
スペインでは、スペインを、代表するバルセロナ自治大学の研究所 CReSA-IRTA で、フェルナンド・ロドリゲス博士(Fernando Rodriguez)主導のもと、いくつかの弱毒化生ワクチンのプロトタイプが成功しているとのことである。
C.現在開発中の世界の研究機関は?
現在、世界で、アフリカ豚コレラ(ASF)用のワクチン開発に踏み切っている研究機関は、少なくとも21機関、10カ国に及んでいる。
その主なものは
フランスー①ANSES,②ORAD,
スペインー①CBMSO-CSIC,②CReSA-IRTA,③INIA-CISA,④VISAVET-UCM,
ドイツーFLI,
ポルトガルー①IGC,②FMV-ULisboa,
イタリアー①IZS-Peruggia,②IZS-Sardegna,
イギリスーPIR,
アメリカー①Vet.Kansas state,②USDA,
ロシアー全ロシアロシア獣医微生物学研究所(VNIIVViM),
中国ー①HVRI,②CHAHEC,③LVRI,④IAS,⑤IMV
ベトナムー①the Vietnam National University of Agriculture、②フランスCevaグループとダバコグループ[DBC](Dabaco)とワクチン生産RTD社との連携、
オーストラリアーthe Australian Animal Health Laboratory (AAHL)
カナダーVIDO-InterVac( Vaccine and Infectious Disease Organization-International Vaccine Centre )
D.現在、アフリカ豚コレラワクチン開発に興味を有している民間企業は?
次の会社と見られている。
①Zoetis,②Ceva,③Lavoratories Calier,③CZ Veterinaria,④MSD Animal Health,⑥Laboratorios Hipra,⑦Boehringer Ingelheim Espania,S.A,⑧IDT Biologika,⑨IMICROQ.S.L,⑩Rekom Biotech,⑪BIOORGANIC RESEARCH AND SERVICES S.L(BIONATURIS),⑫Vacunek.S.L. ⑬Thermofisher, ⑭Aquilon CyL,S.L,⑮IDEXX LABORATORIOS,⑯Laboratorios Larrasa, ⑰CALIER.⑱HIPRA,⑲Yebio,⑳Tecon, ㉑Pulike,㉒CAHIC,
(4)現在、世界で最も有望なASFワクチンはなにか?
A,ワクチン開発のための六条件
いずれのワクチン開発も、現時点では実用化を見込めない状況ではあるが、それらのワクチン開発技術の中での一定の取捨選択は始まっているようだ。
実用化として求められる条件は、次の六点である。
①安全性
弱毒株生ワクチンの中には、強い副作用を伴ったり、亜急性・慢性型の後遺症を残すものもある。
遺伝子欠損を含む遺伝子組み換え弱毒化生ワクチンにおいても、接種後、亜急性・慢性型の後遺症を持つものもある。
②効率性
異なった遺伝子型のASFVに対しても、交差反応が得られる汎用性が求められる。
③安全性と効率性との両立
安全性を確保するために、あまりに弱毒化に重点をおくと、効果がえられず、かと言って、あまりに効果に重点をおくと、副作用が強くなる。
そのへんのバランスを保つことが必要である。
④DIVAワクチンになりうること
接種後のサーベイランスに伴う負担を考えれば、DIVAワクチンである必要がある。
⑤商業生産が可能なこと
その条件として、細胞培養(cell culture)から、培養期間の短い細胞株(cell lines)への転換が必要。
⑥野生イノシシにも使用可能なこと
野生の温度条件や太陽光条件下で、野生イノシシ用に使用しても、効力を失わないワクチンである必要がある。
B.その中での有望な三例
では、現状で、生き残りうるアフリカ豚コレラ(ASF)用ワクチンは、どのようなものなのだろう?
明らかにふるい落されうるのは、古典的な不活化ワクチンであり、次にふるい落されるのは、サブユニットワクチンである。
弱毒化生ワクチンはどうかといえば、自然弱毒化では生き残りは難しく、細胞培養または遺伝子欠失による連続継代により弱毒化した、遺伝子組み換えとのハイブリットでの「遺伝子組み換え弱毒化生ワクチン」としてなら存続しそうだが、ここでも、強い副作用の克服が課題として残っている。
そのような中で、次の二つの有望なワクチン開発動向を紹介しておこう・
(A)スペイン マドリッド・コンプルテンス大学獣医学部での経口ワクチン開発
昨年10月に韓国にアフリカ豚コレラ(ASF)が発生したときに、韓国の新聞「中央日報」に仁荷大学校のキム・ウンギ教授(김은기)が紹介したのがこの研究であった。
この研究は スペイン マドリッドコンプルテンス大学獣医学部のJose A. Barasona等が進めているものである。
今年5月、研究者は野生イノシシから「弱毒ASFウイルス」を分離し、これをイノシシの餌に混ぜて与えたところ、92%に免疫ができたという。
2017年にラトビアで分離された遺伝子II型のASFウイルス株(Lv17 / WB / Rie1)を、弱毒化し、赤血球吸着現象を持たないようにされたもので、そのうちの抗原タンパク質「p72」をワクチン接種に使用した。
このために、遺伝子EP402RからCD2様コーディング配列を削除(欠失)した。
18頭のうち、12頭をBSL-3実験施設に置き、①最初に9頭にワクチン経口接種し、②残りの3頭は、経口ワクチン接種されたイノシシと同居させ、それぞれ同居開始日数を、0日、7日、15日にわけ、暴露接触させた。
経口によるワクチン接種期間は30日間、続いた。
次に新たに、③4頭のイノシシにワクチンの筋肉注射をし、この筋肉注射の30日後に、新たな④2頭のイノシシに接触曝露させた。
こうして、18頭のイノシシに全部、曝露が行き渡るようにし、感染結果を確認した。
①については、9頭のうち、6頭が、接種後15日から18日に抗体陽性、
②については、3頭すべてが、同居接触後、14日から16日に抗体陽性、
となった。
③の抗体獲得後に特異の臨床症状を示したイノシシは、経口ワクチン接種イノシシにはまったくなかったが、筋肉注射による接種のイノシシは、全て、重度の臨床症状を示した。
一方④の③に接触同居したイノシシは③と同様の重度の臨床症状を示したが、③ほどには重症化せずに、その後に回復したイノシシもいたと言う。
以上のことからいえるのは、副作用が少ないという経口ワクチンの優位性は示されたといえる。
また、遺伝子II型を対象としたワクチンとしては、最初のもので、このことは、現在、中国から世界へと蔓延拡大を続けるII型ウイルスに対するワクチンの交差防御性を高めるうえで、意義深いものと思われる。
92%に免疫確保できたということは、副作用を克服すれば、実用化できそうなワクチンではある。
参考「First Oral Vaccination of Eurasian Wild Boar Against African Swine Fever Virus Genotype II」
(B)アメリカ USDA プラム・アイランド動物疾病センターでのワクチン開発
遺伝子組み換え弱毒化生ワクチンの開発において、ウイルスの遺伝子のなにを削除(欠失)すればいいのかは、大きな問題である。
USDAのプラム・アイランド動物疾病センター(Plum Island Animal Disease Center )では、その候補となる遺伝子として「I177L遺伝子」に注目した。
参考「Development of a highly effective African swine fever virus vaccine by deletion of the I177L gene results in sterile immunity against the current epidemic Eurasia strain」
この「I177L遺伝子」については、これまで、ほとんどマークされていなかった。
わずかに、ジョージア州立大学のPeter W. Krugが、2015年に「I177L遺伝子はタンパク質分解のプロセスに関与しているようだが、ASFV病原性におけるこの遺伝子の役割は不明」としている。
「The Progressive Adaptation of a Georgian Isolate of African Swine Fever Virus to Vero Cells Leads to a Gradual Attenuation of Virulence in Swine Corresponding to Major Modifications of the Viral Genome」(Peter W. Krugほか、2015年)
また、昨年、スペインのマドリード自治大学のAlí Alejoらが、「この遺伝子は、ウイルス膜中のタンパク質(Membrane protein)にリンクされている」としていた。
参考「A proteomic atlas of the African swine fever virus particle」(Alí Alejoほか、2019年)
USDAの研究チームは、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の持つ免疫回避機能に注目し、「では、どの遺伝子を削除(欠失)すれば、ASFVの持つ免疫回避機能を社団できるのか?」に絞り、その候補遺伝子として、次の3つを候補とした。
①EP152R
②L83L
③I177L
このうち、①は必須遺伝子(CCL2vタンパク質をエンコード)であり、削除(欠失)できなかった。
②は結合タンパク質をエンコードしており、削除(欠失)はできたが、ウイルスの毒性には、影響がなかった。
③は後期転写遺伝子であり、逆鎖(左方向へ読み取り)に位置しており、免疫調整タンパク質をエンコードしていると見られ削除(欠失)できた。削除(欠失)と同時に、ウイルスは完全に弱毒化できた。
この「I177L遺伝子を削除(欠失)したワクチン候補を「ASFV–G–ΔI177L」と名付けた。
動物感染実験はUSDAのプラム島動物病センター(PIADC)の施設で、3AGレベルのバイオセーフティーの条件下で行われた。
28日間にわたり5グループの豚をもとに行われた感染実験では、次の結果を示した。
ワクチン接種は筋肉内接種をもって行われた。
接種量を、低用量(102 HAD 50)、中用量(104 HAD50)、高用量( 106 HAD50)に分けた。
用量の高低に関わらず、免疫を獲得できた。
更に、親株の「ASFV-G」(ジョージア分離株)のチャレンジ感染試験においても、免疫が獲得できた。
副作用は、いずれの用量においても、見られなかった。
「ASFV–G–ΔI177L」ワクチン接種豚はいずれも、接種後も、低ウイルス血症力価を示し、ウイルス排出を示さず、強力な抗体反応を示した。
ワクチン接種豚と同居のワクチン未接種の豚についても、臨床症状は見られなかった。
今後は、より大きな群れの豚での感染実験を行う予定だと言う。
この「ASFV–G–ΔI177L」ワクチンの一つのメリットは、このワクチンの親株の「ASFV-G」(ジョージア分離株)が、今もっとも世界で蔓延しているアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)遺伝子Ⅱ型に属しているところから、交差防御についても、効力を示しうるであろうということである。
いいことづくめの「ASFV–G–ΔI177L」ワクチンのようでは有るが、依然として課題は残る。
問題は、DIVAワクチンとしての商品化が可能かどうか? 野生イノシシにも適用となれば、経口ワクチンとして使えるのか? などなどの課題がある。
商品化までの年数にしても、規制当局の承認までの年数を考えれば、早くて5年以内というのが目安のようだ。
参考
「Development of a highly effective African swine fever virus vaccine by deletion of the I177L gene 2 results in sterile immunity against the current epidemic Eurasia strain.」(Manuel V. Borcaほか、2020年1月)
「Finding the right ASFV gene to delete for a live-attenuated vaccine」
(C)中国の中国農業科学院 ハルビン獣医研究所でのワクチン開発
2019年8月19日、中国農業科学院 ハルビン獣医研究所は、「遺伝子削除弱毒アフリカ豚コレラワクチンウイルスとワクチンとしての応用」という名の特許申請をした。
内容は、
①2018年に黒龍江省で分離されたアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の「Pig/CN/HLJ/2018」(遺伝子バンク登録番号MK333180.1)を親株として、ワクチンを作る。
②ワクチンは、遺伝子削除(欠失)弱毒化ワクチンとする。
③削除(欠失)される遺伝子は二種類あり
a.「MGF360-505R」
b.「CD2v」と「MGF360-505R」
④ワクチンは、二種類の組み合わせとする。
この特許登録の発表に先立って、昨年(2019年)5月24日に、ハルビン獣医研究所から、「ハルビン獣医研究所が独自に開発したアフリカ豚コレラ(ASF)ワクチンが段階的に成果を上げ、ワクチン株培養のシステムも確立し、候補ワクチン株のうちの二つが安全性と免疫保護性を確保した」と発表していた。
感染実験の結果の詳細については明らかにされていないが、次の通りである。
実験用豚にワクチン接種後、実験用豚は100%生存、親株によるチャレンジでは95%以上生存したと言う。
ワクチン接種によって、実験豚には、高レベルのTNF-α、Ⅰ型インターフェロン、特異抗体、細胞性免疫を産生させたとのことである。
これまで、中国におけるアフリカ豚コラワクチン開発は次の4つの戦略目標を元に進められてきた。
①遺伝子削除(欠失)ワクチン
削除(欠失)対象はCD2v,MGF,UK、で、この内の単一または複数の遺伝子削除(欠失)で、毒性をなくすこと
②サブユニットワクチン
p72.p54.p30.CD2vのタンパク質を対象
③DNAワクチン
上記の遺伝子が対象
④ウイルスベクター生ワクチン
PrV/VACV/AdVを対象
これらのこれまでの戦略を、「「CD2v」と「MGF360-505R」の遺伝子を、単一または複数削除(欠失)した弱毒化ワクチン」に集約して、今後取り組むものと思われる。
商品化実現時期については、遺伝子削除(欠失)ワクチンの承認には、二つの手順(動物医薬品承認と遺伝子組み換え安全性評価手順)が伴うため、通常のワクチン承認よりは、長い時間がかかるものと見込まれている。
4.終わりに
以上、アフリカ豚コレラ(ASF)ワクチン開発がなぜ困難で、これからの開発見通しがどうなのか?について述べてきた。
光明は既に見えている。
既にアフリカ豚コレラ(ASF)ワクチンの国別開発は、アメリカ、スペイン、中国に絞られている。
その次に来うるのはベトナムだ。
とくに、実現性が高いのは、アメリカUSDAのワクチン「ASFV–G–ΔI177L」だ。
しかし、そのアメリカにしても、商品化に至るまでは、少なくともまだ5年かかると言う。
ワクチンの種類としては、遺伝子削除(delete)(欠失)弱毒化ワクチンに絞られた感じだ。
この中での、遺伝子の選抜が繰り返されるということになるだろう。
日本でもアフリカ豚コレラ(ASF)ワクチン開発の宣言はされている。
しかし、先進各国にキャッチアップするのは、既に無理だろう。
2020年1月5日記 笹山 登生
2019年11月4日
アフリカ豚コレラウイルスはアメリカをも標的に
昨年(2018年)8月2日発生の中国発アフリカ豚コレラから始まった私の追跡も16か月目に突入した。
その間、アフリカ豚コレラウイルスは、まさに燎原の火のごとく拡散し、中国全土を攻めつくした後は、ベトナムを南下し、ラオス、カンボジア、フィリピン、ミャンマー、香港、モンゴル、北朝鮮、韓国、東ティモールなどへと侵攻し、次なる標的として、アメリカ本土がウイルス感染の懸念となりつつある。
この時を予感してか、このところ、アメリカの研究機関や大学から、アフリカ豚コレラのアメリカ本土への侵入を警戒するいくつかの研究成果が、矢継ぎ早に打ち出されている。
なかでも、特に、中国からの飼料関係成分の汚染物質の輸入を警戒する声が相次いでいる。
アメリカでの中国からの輸入飼料感染脅威論
この問題について、世間の注目をあびるきっかけとなったのは、パイプストーン獣医サービス(Pipestone Veterinary Services)のスコット・ディー博士(Dr. Scott Dee)が、2019年8月28日に、WATT Ag Net.comのウェブセミナー「African Swine Fever Update」で行った「アフリカ豚コレラと飼料リスク-我々は何を知るべきか?そしていかに行動すべきか? 」(ASFV and Feed Risk:What Do We Know and What Do We Do?)と題する講演であった。
スコット・ディー博士は、8月28日のウェブセミナー講演の中で、「アメリカの豚にアフリカ豚コレラが確認された例はまだないが、そのことは、アフリカ豚コレラウイルスがまだアメリカに侵入していないという意味ではない。既に港レベルにはウイルスは侵入してきている。これを、養豚業レベルにまで侵入を進めさせないことが我々の課題だ。アメリカは、アフリカ豚コレラの養豚業への侵入によって、一年で160億ドルの損失を招くだろう。アメリカからの豚肉輸出もできなくなる。」として、次の点を強調した。
1.アフリカ豚コレラウイルスは、中国から、船を経由して、米国内の養豚場の飼料に混入し、アメリカの豚に感染しうる。
スコット・ディー博士が懸念しているのは、次のシナリオである。
アフリカ豚コレラ感染地帯である中国の農民の靴や衣服の埃を介してウイルスが伝搬する可能性があり、また、収穫期では、穀物・大豆などが公道上で乾燥されており、ここにも、交差汚染の可能性が高まりうる。
また、これらを中国の積み出し港まで運ぶ過程においても、車両や包装の過程でも、交差汚染の機会がありうる。
カンサス州立大学メガン・ニーダーヴェルダー博士の研究では、船舶輸送の条件の中では、アフリカ豚コレラウイルスが半減する期間は、9.6日から14.2日であるとしている。
積み出し港を経て、運搬船のコンテナの中でも、アフリカ豚コレラは一か月も生き続けるというソースダコタ州立大学ディエゴ・ディール博士の調査結果もある。
参考
「ASF can survive a 30-day transoceanic voyage」
「Survival of viral pathogens in animal feed ingredients under transboundary shipping models」
「Evaluation of Chemical Mitigants for Neutralizing the Risk of Foreign Animal Diseases in Contaminated Feed Ingredient」
さらに、アメリカの港に着き、養豚家への飼料配送の過程においても、包装バック(下記写真)はリユースされ続け、アフリカ豚コレラ汚染は拡大し続ける可能性を持っている。
これらの飼料を入れた袋は米国の農場に穀物を配達するために使用され、その過程で、ASFVに汚染され、さらに、再び、米国へのコンテナ船で再利用されることになりうる。
参考
「Veterinarians worry African swine fever could be transmitted to U.S. via animal feed」
「Infectious Dose of African Swine Fever Virus When Consumed Naturally in Liquid or Feed」
参考 中国の収穫期における穀物等の路上乾燥風景
2.中国からアフリカ豚コレラウイルスに汚染されてアメリカに輸入されているとみられるものは、下記のとおりである。
①大豆ミール(Soybean meal-Conventional)
②オーガニック大豆ミール(Soybean meal-Organic)
③大豆油ケーキ(大豆油搾りかす)(Soy oil cake)
④ウェット・キャットフード(Moist cat food)
⑤ウェット・ドッグフード(Moist dog food)
⑥乾燥ドッグフード(Dry dog food)
⑦豚肉ソーセージ・ケーシング(Pork sausage casings)
⑧常温完全飼料(Complete feed (+control))
⑨コリン(Choline)
3.科学的にリスクを最小化するためには次の確認が必要である。
スコット・ディー博士はアメリカへのアフリカ豚コレラウイルスの侵入を防ぐ方法は、輸入プログラムと呼ばれるものを開発&実施することにあるとして、次のチェックリストのもとに、阻止戦略を実行する必要があるとした。
①原産地は中国などの感染国か?
②懸念されるウイルスの種類はなにか?
③飼料含有成分はなにか?
④中国などの原産地から飼料工場に到着するまでの時間は、どのくらいか?
⑤中国などの汚染原産国での原料製造工場や米国での受け入れ地域なり港での検査体制は整っているか?
⑥アフリカ豚コレラウイルスを自然に死滅させるために、一定の時間おいて保管しうる施設や、一定の温度で一定の時間、保管できる専用の施設はあるか?
⑦ウイルスを殺したり、ウイルス曝露量を減らすことができるリスク緩和剤(下記の4.のような各種手段を想定している。)は、あるか?
飼料成分からのアフリカ豚コレラウイルス感染リスクを最小にするための決定ツリーは下記のとおりである。
なお、このサイト「The Role of Feed and Ingredient Biosecurity for ASF Prevention」に、中国からの輸入飼料についての、ASFV混入低減の為のチェックリストが書かれている。
4.何をすべきか?
スコット・ディー博士とその提携研究グループは、飼料にかかわるASFVリスクをミチゲート(低減)するために、以下の低減策を提言している。
なお、具体的な商品名が出てくるので、恐縮だが、お許しいただきたい。
①アイスブロックの活用
カンザス州立大学やFFAR(The Foundation for Food and Agriculture Research)やパイプストーン獣医サービス(Pipestone Veterinary Services)などで試行されている新しいASF感染飼料対策で、アイスブロックを利用したもの、
アイスブロック・チャレンジ・モデル(Ice Block Challenge Model)と呼ばれるもので、マイナス80度に凍結した454gの「アイスブロック」を作り、これを豚の餌箱に6日おきに落とし、ASFVのリスクを低減させるというもの。
詳細はサイト「Sal CURB® and CaptiSURE™ as Part of a Feed Biosecurity Program1, 2」をご参照
②飼料添加物による、飼料におけるASFVのリスクの低減
飼料添加物によって、飼料におけるASFVのリスクを低減する試みがされている。
サウスダコタ州立大学のディエゴ・ディール博士とパイプストーン・アプライド・リサーチのスコット・ディー博士および豚健康情報センター(SHIC)が主導しての研究。
飼料が中国の積出港からの出航からアメリカ到着後、工場までの期間を「緩和期間」とし、この間に、リスク緩和剤を飼料に投下することによって、リスクを最小化させようとする試みである。
実験に使用した飼料添加物は、有機酸混合物(NOVUS社のActivate DAなど)またはホルムアルデヒドとプロピオン酸(KEMIN社のSalCURB)などだが、いずれも、病原体は、緩和期間中には、完全には不活化しなかったが、飼料中のウイルス汚染レベルを一定程度、低下させることには成功した。
Activate DAの活用
NOVUS社が試行しているもので、有機酸で豚の腸内のphを減少させ、ウイルス対策とすることで、抵抗ウイルス効果を上げている。
詳細は
「Can Feed Additives Reduce Viral Contamination of Feed?」
「Feed Biosecurity – Novus International」
をご参照
Sal CURBやCaptiSUREの活用
ホルムアルデヒドやプロピオン酸などを成分とする抗菌水で、NOVUS社試行の「FORMYCINE GOLD PX」や、KEMIN社試行の「Sal CURB」や「CaptiSURE」がある。
詳しくは
「Formycine Gold Px Data Sheet.pdf – Novus International」
「Sal CURB® – The Antimicrobial Solution for Livestock and Poultry Feeds」
「Sal CURB® and CaptiSURE™ as Part of a Feed Biosecurity Program1,」
をご参照
PMIの活用
Purina社試行の栄養添加物で、液状の中鎖脂肪酸ブレンド。
FINIOの活用
Anitox社試行の酸とアルデヒド(非ホルムアルデヒドベース)の混合物の添加剤。
参考
「SHIC HELPS TO OFFER A NEW APPROACH ON FEED MITIGATION EVALUATION」
以上がスコット・ディー博士のウェブセミナーでの講演の内容だが、このスコット・ディー博士は、氏の所属しているパイプストーン獣医サービスを中心に、以下に掲げる他の大学の研究者たちと提携し、アメリカの飼料への中国からのアフリカ豚コレラ侵入を想定した共同研究がされている。
その主なものを紹介しよう。
中国からアメリカへの飼料を通してのアフリカ豚コレラ感染の可能性を示している各種研究
現在、アメリカへのアフリカ豚コレラウイルス侵入に対して、警告を発している研究機関&大学並びにその機関&大学の研究者の名前は下記のとおりである。(カッコ内が研究者名前)
①パイプストーン獣医サービス(Pipestone Veterinary Services)(Dr. Scott Dee)
上記に紹介のスコット・ディー博士が所属する研究機関である。
ディー博士主導で、飼料へのアフリカ豚コレラ汚染防止のための各種実験を行っている。
パイプストーン獣医サービスでは、以前にブタ伝染性下痢ウイルス(PEDV)が輸入飼料で生き残りうることを確認しており、今回、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)でも、同様の可能性があると考えた。
そこで、中国の飼料工場から数千のサンプルを採取するよう現地科学者に依頼し、トウモロコシ、大豆、米、小麦、及び、蒸留抽出した乾燥穀物とソリュブルを含むバラ飼料の成分をテストした。
テストした成分と完全飼料のうち、1-2%がウイルスDNA陽性であった。
さらに、ジョン・デ・ジョン博士(Jon De Jong)などパイプストーンの研究者たちは、中国の飼料工場周辺の粉塵、飼料トラックとトレーラー、飼料工場のスタッフのごみ入れ、髪、靴、完全飼料、および市場で売られている豚肉に、ウイルスDNAを検出した。
この検査結果に基づき、パイプストーン獣医サービスの研究者たちは、中国から米国への輸送中のASFVの生存性の調査を開始した。
大豆ミールから完全飼料まで、さまざまな飼料材料でウイルスの存在を検証し、中国から米国までの大西洋横断37日間の航路を想定し、その航路期間中に、ウイルスが生き残りうるかどうかを検証した。
さらに、その中国からアメリカに着いたその飼料をアメリカの豚が摂取・感染する可能性があるかどうかについては、カンザス州立大学の研究者たちにゆだねられた。
パイプストーン獣医サービスの研究者たちは、それにとどまらず、飼養豚をウイルス感染から保護するのに役立つ飼料添加剤の開発にも乗り出した。
この飼料添加剤の開発に当たって、パイプストーン獣医サービスは、これを行うために、AlltechおよびCornerstoneと提携De Jong博士はPipestoneがAlltechおよび動物衛生会社Cornerstoneと提携した。
この飼料添加剤は、提携3社の頭文字をとり、APCと名付けられた。
APCは、有機酸とエッセンシャルオイルとを独自ブレンドしたものである。
APCは、ASFVだけでなく、PRRSV(豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス)、PEDV(豚流行性下痢ウイルス)、およびSVA(セネカ・ウイルスA)などの各種ウイルスが養豚場に感染するのを防ぐ効果を持つものとされている。
研究者は「これら飼料添加剤がセネカウイルスAに対して有効であれば、ASFに対しても有効であると仮定することができる」としている。
参考
「Scientists demonstrate ASF risk posed by animal feed」
「Lessons Learned From PEDV Could Keep ASF Out of the U.S.」
「African Swine Fever in China: What is the Role of Feed Ingredients in Viral Movement?」
「Veterinarian: ASF virus likely in US, but not its pigs」
「FFAR Combats Deadly, Costly Swine Viruses in Contaminated Feed」
「Mitigating ASF in Feed Critical to U.S. Biosecurity」
②カンサス州立大学(Kansas State University)(Dr. Megan Niederwerder)
メガン・ニーダーヴェルダー博士が主導して、中国から輸入の飼料の中のウイルスは30日生存しうるとの研究成果を出している。
カンザス州立大学の研究では、アフリカ豚コレラウイルスの正確な半減期を出すことに集中された。
30日間の大洋横断輸送中のウイルスの生存率を判断するために、30日間の輸送条件にさらされた9つの飼料成分のウイルスの半減期を計算し、その結果、半減期は9.6〜14.2日であった。
このことから、アフリカ豚コレラウイルスが、汚染された植物ベースの飼料および成分が、30日間の大洋横断航海でも、生き残ることが確認された。
実験・シミュレーションは、主に中国から米国に一般的に輸入される完全飼料および飼料成分に注目した。
試験材料として、下記が選ばれた。
①大豆油ケーキ
②蒸留抽出乾燥穀物
③ウエットおよび乾燥したペットフード
④従来型および有機の大豆ミール
⑤豚肉ソーセージケーシング
⑥リジン塩酸塩
⑦塩化コリン
⑧ビタミンD
⑨完全飼料(常温)
これらの9つの飼料について、それぞれ、飼料成分のウイルスの半減期を計算した。
試験結果では、従来型大豆ミール、リジン塩酸塩、塩化コリン、ビタミンD、ポークソーセージケーシングに、より多くのウイルスが生き残った。
顕著なのは、在来型大豆ミールと有機大豆ミールとの違いであり、在来型大豆ミールにより多くのウイルスが残存していた。
この半減期確定で、中国から出航し、アメリカの港を経て、米国内の養豚業者に飼料が渡るまでの期間を利用して、いくらかでも、中国からの輸入飼料の持つアフリカ豚コレラウイルスのリスクを減らしうる、ミチゲーション的方途がとりうることが分かった。
具体的には、保管期間の延長や、温度などの保管条件の調整などである。
参考
「New study confirms possible danger of imported feed contaminated with African swine fever」
「Half-Life of African Swine Fever Virus in Shipped Feed」
「Researchers expand understanding of virus transmission in feed」
さらに、カンザス州立大学では、カサンドラ・ジョーンズ研究員(Cassandra Jones)を中心として、セネカ・ウイルスを対象とした低コストでの検出ツールの検証、および米国飼料工場でのウイルスの有病率の監視のモデルづくりをしている。
セネカ・ウイルスをコントロール検出監視できれば、ASFVについても、そのまま可能であるとの前提に立っている。
参考
「Validation of a Low-cost Tool for Senecavirus A Detection, and Surveillance of Viral Prevalence in United States」
③ミネソタ大学(the University of Minnesota)(Dr. Andres Perez)
ミネソタ大学動物衛生食品安全センターのアンドレス・ペレス博士(Andres Perez)を中心に、PSPAP(prohibited swine products carried by air passengers)(航空機利用客によって米国内に持ち込まれた禁止豚肉製品)によりすでにアメリカに持ち込まれているアフリカ豚コレラウイルスの可能性について研究している。
航空旅客の手荷物に豚肉が密輸されることで、ASFウイルスが米国に侵入するリスクを推定している。
アフリカ豚コレラウイルスが、西ヨーロッパまたはアジアに広がる前に推定されたリスクよりも、183.33%増加。
リスクの大部分(67.68%)は中国と香港からのフライトによるものであり、続いて、ロシア連邦(26.92%)からのフライトによるリスクがそれに続く。
米国主要空港でのリスクは、既に高くなっているものと見込まれ、5つの米国の空港(①ニューアーク-ニュージャージー、②ジョージブッシュ-ヒューストン-テキサス、③ロサンゼルス-カリフォルニア、④ジョンF.ケネディ-ニューヨーク、⑤サンノゼ-カリフォルニア)でリスクの90%を超えている。
一方、2010年から2015年の間に、年間平均8,000の豚肉製品が押収されており、そのうち、ほぼ半数(45%)が、乗客の個人的な手荷物(PSPAP)から押収されている。
このペレス博士らの研究の成果は、今後のアメリカのアフリカ豚コレラ疾病監視における輸送ハブなどにおける重点的戦略構築に当たり、非常に意義のあるものとされている。
参考
「Risk of African swine fever virus introduction into the United States through smuggling of pork in air passenger luggage」
「Research Brief: Could African swine fever make its way into the United States?」
④サウスダコタ州立大学(South Dakota State University)(Dr. Diego Diel)
サウスダコタ大学のディエゴ・ディエル博士は、パイプストーン獣医サービス、およびカンザス州立大学の研究者と共同研究をしている。
サウスダコタ大学はパイプストーン獣医サービス研究者と協力し、2013年から豚流行性下痢(PED)と飼料との関係について研究してきた。
その過程で、飼料ミルの中の成分が、感染を広げていることをつかんできた。
参考
「An evaluation of contaminated complete feed as a vehicle for porcine epidemic diarrhea virus infection of naïve pigs following consumption via natural feeding behavior: proof of concept」
これは、今回のアフリカ豚コレラウイルスについても、通用しうるとしている。
参考
「Lessons Learned From PEDV Could Keep ASF Out of the U.S.」
ディエゴ・ディール博士主導のもとに、パイプストーン獣医サービスのスコット・ディー博士とも協力し、100頭の豚を6グループに分け、ASFV感染飼料と非感染飼料を与えての実証実験を試行中である。
このプロジェクトはPipestone Veterinary Servicesの研究施設に設置されており、1室に100頭の豚が入り、それが6つのグループとなり、感染実験されている。
各部屋には専用のビンがあり、ウイルスに感染した飼料と感染していない飼料を分離しておいてある。
参考
「Researchers expand understanding of virus transmission in feed」
また、ディエル博士は、汚染された飼料成分にあるASFやセルカウイルスなど外来ウイルス由来のリスクを緩和させる緩和剤の評価を行っている。
テストされた緩和剤は10種類であった。
テストされたウイルスと成分の「高リスク」の組み合わせは、下記の通りであった。
①セネカウイルスAと「SVA、大豆ミール、リジン、コリン、ビタミンD」
②ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)と「大豆ミール、リジン、コリン、ビタミンD」
③豚生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)と「大豆ミールおよびDDGS」
④牛ヘルペスウイルスタイプ1(BoHV-1)&「仮性狂犬病ウイルス(PRV)と「大豆ミール、大豆油ケーキ」
との組み合わせで実験が行われた。
結果、いずれの緩和剤も、ウイルスを完全には不活化させることはできなかった。
ただ、二種類の緩和剤(KANA102およびMCFA)だけは、テストした4つのウイルスすべて(SVA、PEDV、PRRSV、BoHV-1)で有望な結果を示した。
これら二つの緩和剤はいずれも中鎖脂肪酸をブレンドしたものであった。
参考
「Feed Risk and Mitigation – Swine Health Information Center」
「Research results – Swine Health Information Center」
「Evaluation of Chemical Mitigants for Neutralizing the Risk of Foreign Animal Diseases in Contaminated Feed Ingredient」
⑤アイオワ州立大学(Iowa State University)
アイオワ州立大学では、カンサス州立大学と協力し、Foundation for Food and Agriculture Research(FFAR)およびNational Pork Boardから50万ドルのファンドを受けて各種実験を行っている。
これまで、アイオワ州立大学では、2013年からアメリカに流行の豚流行性下痢ウイルス(PEDV)の輸入飼料への混入についての研究を、パイプストーン獣医サービスやサウスダコタ州立大学と共同し、パブロ・ピネリョー博士(Dr. Pablo Pineryo)やジェームス・ロス教授(James A. Roth)を中心に、行ってきた。
その実績が、今回のアフリカ豚コレラウイルスの検証にも生かせるものとしている。
アイオワ州立大学の研究者は、口腔液サンプルを使用して、大規模なサーベイランスを低コストで行う方法として、ロープを利用してのサンプリング方法を既に開発している。
また、アフリカ豚コレラは、豚肉製品の密輸を通じて、すでにアメリカ内に侵入しているとの結論づけをしている。
Ju Ji博士、Jeff J. Zimmerman博士、Sundberg P博士が、パイプストーン・南ダコタ州立大学・カンサス州立大学との共同研究「Survival of viral pathogens in animal feed ingredients under transboundary shipping models.」に参画している。
さらに、同大学のデルモット・ハイネス教授(Dermot Hayes)らは、アフリカ豚コレラの米国経済に与える影響について、「HayesWorld’s Largest Pork Producer in Crisis: China’s African Swine Fever Outbreak」と題する論考を発表している。
ハイネス教授は、既に、2011年に「World’s largest pork producer in crisis: China’s African Swine Fever outbreak Economy Wide Impacts of a Foreign Animal Disease in the United States 」と題する論文で、同じ警告を発していた。
参考
「FFAR and National Pork Board Fund African Swine Fever Research」
「World’s largest pork producer in crisis: China’s African Swine Fever outbreak」
⑥University of Minnesota
ミネソタ大学では以下のプログラムをパイプストーン獣医サービスと協力しジョーン・ディーン教授( John Deen)、ジェリー・シューソン(Jerry Shurson )、ペドロ・ウリオラ(Pedro Urriola)を中心に試行している。
「Relative risk of transmission of ASF in imported soybean products」
「University of Minnesota Swine Extension Program」
⑦Lincoln Memorial University College of Veterinary Medicine
ギルバート・パターソン博士(Gilbert Patterson)が共同研究「Survival of viral pathogens in animal feed ingredients under transboundary shipping models」に参画している。
⑧The Foundation for Food and Agriculture Research (FFAR)
カンザス州立大学とアイオワ州立大学の研究チームにASFVがどのように生き残るかを研究するために、FFARは全国豚肉委員会(NPB)と協調し535,780ドルを授与した。
⑨Swine Health Information Center (SHIC)
SHIC(Swine Health Information Center)は、NPPC(National Pork Producers Council)、National Pork Board、AASV(American Association of Swine Veterinarians)、USDAと緊密に協力し、また、業界との連絡を密にしながら、アフリカ豚コレラウイルスが米国に侵入しないための準備や対応、業界向けのツールの情報普及、監視、分析、研究、開発を行っている。
中国からの輸入大豆のアフリカ豚コレラウイルス感染のリスクについて
アメリカが中国から輸入している大豆の量は、年間約100,000トンであり、そのほとんどが有機大豆である。
これらのほとんどはアメリカカリフォルニア州オークランド港からアメリカに入ってきたものと思われている。
問題は、これら輸入された中国製大豆について、アメリカ側では、アフリカ豚コレラウイルスの感染についてのサンプリング&検査が行われていないことである。
このことに問題意識をもったミネソタ大学アフリカ豚コレラ対策チームは、今年7月10日にワークショップを行い、基本的なアフリカ豚コレラウイルス阻止戦略事項を確定した。
参考
「Relative risk of transmission of ASF in imported soybean products」
なお、日本の中国からの大豆の輸入は、2015年の数字ではあるが、29,287トン(うち黄大豆18,961トン、色大豆1,961トン)と、必ずしも多くはない。
圧倒的に多いのは、アメリカからの大豆だが、アメリカのASF飼料汚染が日本へ間接的に移動する可能性はあり得る。
カナダのASFリスク国からの飼料規制について
アメリカに比して、カナダのASFリスク国からの飼料規制は厳格である。
穀物、油糧種子などは、中国などのASF感染国において、屋外に収容され、天候にさらされ、家畜糞尿にさらされる可能性があるとして、高いリスクの可能性があるものとしている。
これらASFリスクの多いものの輸入を規制するため管理区域を設けている。
輸入業者は、製品の最終用途をマニフェストする必要があり、これによって輸入原料のトレーサビリティが可能となる。
2019年3月に政府命令がだされ、下記の条件が課せられた。
①過去5年間にASF感染動物を有す国(家畜または野生のブタ)からの輸入飼料製品(穀物または油糧種子)がアラートリストに掲載され、その詳細はオンラインで入手できるようになった。
②このアラートリストに掲載された輸入飼料については、下記条件により、一定の保管期間を課したり、一定の熱処理を適用することになった。
③アラートリスト掲載国から原料を輸入する場合
国際港に限って、穀物、油糧種子、ミールは、華氏68度(摂氏20度)で20日間。
内陸倉庫においては、華氏50度(摂氏10度)で100日間
保持する必要がある。
④熱処理は、原産国またはカナダで、華氏158度(摂氏70度)で30分間、華氏180度(摂氏82度)で5分間適用する。
参考
「Relative risk of transmission of ASF in imported soybean products」
「Importers: Understanding feed controls to prevent African swine fever」
「Notice to industry: Changes to import requirements for unprocessed grains and oilseeds, as well as associated meals destined for use in livestock feed」
「Import requirements for plant-based feed ingredients imported for use in livestock feed」
「Privacy Notice Statement applicable to form CFIA/ACIA 5861 – Application for Permit to Import Unprocessed/Raw Grains, Oilseeds or Plant-Based Meals under the Health of Animals Act」
結論
以上に見たように、アメリカへのアフリカ豚コレラウイルス侵入はすでに確定的とも言えそうだ。
その要因として、中国の有力な養豚地帯からの感染拡大が主たる原因としている見方もあるようだ。
翻って、日本への中国産飼料の輸入感染リスクはどうだろう?
アメリカと同じリスクはあるはずだ。
これまでの豚肉加工品の日本国内への検疫監視体制だけでは、必ず、アフリカ豚コレラウイルスは、アメリカでのリスク同様、飼料関係を通じて入ってくるだろう。
いや、アメリカ同様、既にもう入ってきているのかもしれない。
まさに「感染豚はまた出ていないが、ウイルスは既に入ってきている」と見たほうがいいのだろう。
そのことを前提に、早急なウイルス侵入阻止戦略を再構築する必要があるものと思われる。
以上
2019年11月4日記載 笹山 登生
2019年10月26日
昨日、2019年10月25日から、懸案の豚コレラワクチン接種が、接種推奨県11県の一部から始まった。
接種開始にあたり、農林水産大臣は「消費者の方々にお伝えさせていただきたいことはですね、我が国は1969年から2006年までの37年間、豚コレラワクチンを接種しておりました。その間、人に健康被害が出たという報告は一切ございません。接種した豚の肉が市場に流通することになりますが、全く心配はございませんので、消費者の皆様におかれましては、是非、美味しい豚肉を安心して御購買いただき、食べていただきたい。」と述べた。
果たしてそうなのだろうか?
ワクチン接種肉の安全性についてのEUやイギリスでのこれまでの議論
豚コレラワクチンに限らず、口蹄疫などのワクチンをも含めて、ワクチン接種肉の安全性については、EUで、長いこと議論があった。
そもそもの始まりは、日本が豚コレラワクチン接種をやめた一年前の2005年に、イギリス環境・食糧・農村地域省(DEFRA)がEFRC(The European Forum for Reciprocating Compressors)に対して行ったコンサルテーションにある。
EFRCは、EUを中心にして、そこで働くヨーロッパのユーザー、メーカー、科学者を支援する非営利団体として1999年6月に設立された組織である。
このEFRCに対して、イギリス環境・食糧・農村地域省は、2005年6月、「コンサルテーション・コール」として、次の問題提起を行った。
「口蹄疫ワクチン接種後の防疫ゾーンまたはサーベイランスゾーンにある肉は、熱処理も含めて、特別扱いにしなければならない。ワクチン接種後の肉は、骨抜き肉とし、OIEルールと一致させて、イギリスが清浄国ステータスを回復するまで、熟成させなければならない。
ワクチン接種肉から派生する肉製品についても、規制を図らなければならない。」
これらのイギリス環境・食糧・農村地域省の問題提起は、口蹄疫のワクチン接種肉についてのものだったが、他の豚コレラワクチン接種肉等についても、同じ趣旨の指摘が及ぶものであった。
また、EUの口蹄疫に関する指令である2003年9月29日発令の「Council Directive 2003/85/EC 」 との整合性をDEFRAがEFRCに問うものでもあった。
参考
「EXPLANATORY MEMORANDUM TO THE FOOT-AND-MOUTH DISEASE (ENGLAND) ORDER 2006 No. 182
THE FOOT-AND-MOUTH DISEASE (CONTROL OF VACCINATION)
(ENGLAND) REGULATIONS 2006 No. 183 」
「Discussion paper – EFRC response to DEFRA consultation on detailed FMD control legislation」
「Foot and Mouth Disease Control Strategy for Great Britain」
このイギリス環境・食糧・農村地域省のコンサルテーション・コールは、その後、多くの議論を呼ぶことになった。
詳細は下記の「Warmwell.com」で論議の過程を見ることができる。
参考
「Warmwell.comでの論議」(August 26 2005 ~ NFU Wales warns against vaccination in its response to the FMD consultation.)
「Warmwell.comでの論議」(October 21 2005 ~)
国によってのワクチン接種肉の安全性に対するスタンスの違い
日本においては、これまで、口蹄疫ワクチン接種肉が食用に回った例はない。
宮崎口蹄疫についてみれば、ワクチン接種後は、殺処分を優先し、ウイルスの撲滅に努めることを目的としたため、ワクチン接種肉は市場に出回っていない。
海外に目を向けると、口蹄疫ワクチン接種肉を市場に回すかどうかについては、その国々によって、判断にかなりの差がある。
南米等の口蹄疫発生常在国では、ワクチン接種動物の肉が一定の条件の下に食肉として利用されている例もある。
また、USDAのように、口蹄疫ワクチン接種肉は安全であり、消費者に回せるとして、ゆるやかな見解を持っている国もある。
参考「USDA Foot and Mouth Disease and Vaccine Use」
豚コレラワクチン接種肉についてのEFSAの検証結果
では、豚コレラワクチン接種肉については、どうだろう?
豚コレラワクチン接種肉については2009年1月30日に欧州食品安全機関(EFSA)から、詳細なサイエンティフィックレポートが提出されている。
レポートは、EFSA がEUから、豚コレラワクチン接種を受けた豚の生肉の安全性(野生型ウイルスに感染していないかどうか?) について、科学的助言を求められたことに対する報告書である。
EFSAがEUから求められた科学的助言の詳細は次のものであった。
①豚コレラ緊急ワクチンを接種した豚の生肉に野生株由来のウイルスが存在するリスクはあるのか?
②豚コレラワクチンを接種した豚の生肉から野生株由来ウイルスを検出するために必要なサンプリング方法と検査法への助言を求める。
の二項目だった。
EFSAがまず着手したのは、一定のシナリオに基づく、シミュレーションモデルの作成だった。
その理由は、これまでEUでは、豚コレラについては、ワクチン非使用戦略がとられてきたため、検証に値する量のデータが不足していたためであった。
リスクの可能性としては、次の二つが考えられた。
①出荷禁止が解除される前に、感染豚の群が、臨床診断をすりぬけるリスクはないか?
②出荷前の最終選別において、検査検体として選ばれない感染豚群がいるリスクはないか?
または、偽陰性の検査結果のために、感染群が検出されないリスクはないか?
その前提で、以下の三つのシナリオが考えられ、それに基づくシミュレーション・モデルが作成された。
①豚コレラ感染豚群を、すべて殺処分、業務停止および予防的間引きをした場合
②豚コレラ感染豚群を、すべて殺処分、業務停止およびワクチン緊急接種により迅速な感染防止をした場合
③豚コレラ感染豚群を、②と同様に処分するが、接種するワクチンは、野外株とワクチン株とが分別可能なDIVAワクチンとした場合
上記シミュレーションモデルから得られた結論は次のようなものだった。
①上記シナリオの中では、リスクを完全になくすことができるシナリオはなかった。
②ただ、出荷禁止が解除になるのは、最終の豚コレラ発生から一定期間(感染豚のウイルス血症発現期間より長い)後である。
③そのことから、ワクチン接種感染群におけるウイルス陽性発現の豚の数は、出荷禁止解除時点では、すでに、非常に少なくなっていると思われる。(つまり、時の利益を得ている。)
④さらに、使用するワクチンおよび検査システムに応じて 豚コレラ抑制対策を最適化すれば、アウトブレイク発生時のワクチン緊急接種の方が、予防的間引きや早期出荷などの従来戦略より、生肉におけるウイルス存在のリスクは低くなる。
以上を簡略化していえば、「感染豚が出荷され感染豚肉となって市場に出回ることによるリスクは、ゼロにはならないが、出荷禁止期間を長くとれば、感染豚のウイルス血症発現期間が出荷禁止解除期間より早くなることで、時の利益を稼げ、感染豚出荷のリスクはやや低くなりうる。 加えて、使用するワクチンや諸措置を最適化すれば、生肉におけるウイルス存在のリスクはさらに低くなる。」といえる。
参考
「SCIENTIFIC OPINION Animal health safety of fresh meat derived from pigs vaccinated against Classic Swine Fever1 Scientific opinion of the Panel on Animal Health and Welfare」
「食品安全情報 No. 4 / 2009 (2009. 02.12) 」
13ページ「3.豚コレラのワクチン接種を行ったブタの生肉の動物衛生学的安全性」
ワクチン接種肉のリスクは二種類ある
以上に見たように、豚コレラワクチン接種に伴う接種肉のリスクは、二つの面から再考する必要がありそうだ。
一つは、イギリス環境・食糧・農村地域省が提起した、口蹄疫や豚コレラなどのワクチン接種にともなう、接種肉そのもののリスク
もう一つは、EFSAがシミュレーションしたような、ワクチン接種豚の出荷に野生株感染豚が紛れて出荷するリスク。(ヒューマンエラーの誘発によるリスクとでもいえるだろう。)
である。
豚コレラ2.1d新種ウイルス vs 豚コレラGPEマイナス株生ワクチン
今回、使われる豚コレラ備蓄ワクチンは、GPEマイナス株生ワクチンであり、1969年(昭和44年)に実用化・使用開始されてから、日本における豚コレラの発生は激減することになった。
GPEマイナス株は、モルモット腎細胞培養弱毒豚コレラウイルス株であり、弱毒化のために豚の精巣細胞で142代、牛の精巣細胞で36代、モルモットの腎臓細胞で35代、たいへんな手間をかけて、継代培養(細胞の一部を新しい培地に移し、再び培養)し、作られたものである。
その後、1995年8月に豚コレラ防疫技術検討会が開催され、豚コレラ清浄化対策についてはワクチンを使用しない防疫体制を確立することが決定され、3段階にわたる豚コレラ撲滅計画のもとに、ワクチンを使用しない体制をめざしつづけ、2006年4月1日以降にワクチン接種を全面中止することとなった。
参考「食料農業農村政策審議会 消費安全分科会家畜衛生部会 議事録」(平成17年3月)
この間での日本各地での主な発生年と発生地は、1969-山梨、1971-大阪、1972-福岡、1973-静岡、1974-神奈川、1980-千葉、1981-茨城、宮崎、埼玉、1986-沖繩 などであった。(原澤亮氏による)
以上の表は「豚コレラの診断と防疫」(清水実嗣)(日本豚病研究会 会報 No.29 1996)から引用
1992年(平成4年)の熊本県球磨郡錦町での発生を最後に、その後、野外での感染は見られていなかった。
この間(1969-1992or1995年)、GPEマイナス株生ワクチンは活躍しつづけたことになり、また、ワクチン接種中止後も、備蓄ワクチンとして存在し続けることになった。
以上に見たように、1965年から1993年の、第一次豚コレラワクチン接種時代に、ワクチン接種した頭数は計282,454千頭に昇り、その間においても、84,538頭の豚コレラ発生があった。
この推移を5年ごとに見てみると下記のとおりとなる。
この数字を見ると、最後の発生が確認されるまで、ワクチン接種決定後の数十年間も、その年の発生数の大小如何に関わらず、膨大な費用と手間が、かかってきたことがよく分かる。
1965年から1993年の、第一次豚コレラワクチン接種時代のワクチン接種状況(五年毎)
1965 ~69年30,163千頭接種、61,646頭発生(以下同)
1970年~74年28,362千頭接種、8,630頭発生
1975年~79年42,036千頭接種、485頭発生
1980年~84年61,258千頭接種、9,931頭発生
1985年~89年68,878千頭接種、3,662頭発生
1990年~93年(最終年)51,757千頭接種、184頭発生
29年間の延べ数 計282,454千頭接種、84,538頭発生
一方、 その当時のGPEマイナス株生ワクチン使用時発生の豚コレラウイルスの遺伝子系統樹ウイルスをサブジェノタイプでみると、下記のとおりであった。
①ジェノタイプ1
Ibaraki/1966
など13
②ジェノタイプ2
サブジェノタイプ2.2
Fukushima/1980
Ibaraki/1981
Ibaraki/1982
サブジェノタイプ2.3
Osaka/1981
など9
③ジェノタイプ3
Kanagawa/1974
など2
その他
WB82/1982 茨城イノシシ
今回の岐阜株(Gifu/2018)のサブジェノタイプは2.1型であり、サブサブジェノタイプでは2.1dであった。
サブサブジェノタイプ2.1dは日本でははじめてであり、農研機構の解析によると、2017年に中国北京で採取の「BJ2-2017」と98.9%の高い相同性をもつものであった。
参考「Genome Sequence of a Classical Swine Fever Virus of Subgenotype 2.1, Isolated from a Pig in Japan in 2018」
ちなみに、日本の生ワク株のGPEマイナス株はジェノタイプ1型であり、中国で使われているC(China)株ワクチンも、ジェノタイプ1型である。
過去において、豚コレラのサブジェノタイプの移転(1.3から2へ)がヨーロッパとアジアで始まり、さらに、2014年から2015年にかけ中国の山東省から出発した蔓延過程で「2.1b」から「2.1d」にサブジェノタイプが移転してきた。
今回の岐阜株が2.1d型であることも、その流れの中のものであるのかもしれない。
今回の豚コレラワクチン接種によって、どの程度の抗体陽性率 (Antibody Positive Rate )を示すのかは、各地での接種後の今後の実績を待つしかない。
言えるのは、これまで、GPEマイナス株生ワクチンは、ジェノタイプ1、ジェノタイプ2のサブジェノタイプ2.2と2.3、ジェノタイプ3に対しては有効だったということである。
今回の岐阜株の2.1dに対して実地において有効かどうかは、未知の分野である。
なお、8月に発表された農林水産省調査チームによる「豚コレラの疫学調査に係る中間取りまとめ 」においては、新種2.1d豚コレラウイルスに対する現在の備蓄ワクチンによる効果についても述べられており、ここでは
「備蓄豚コレラワクチンを豚4頭に投与し、1か月後に血清を採取した。
中和試験2によって、JPN/1/2018株に対する採取血清の抗体価を測定した。
結果は、ワクチン投与豚血清は、JPN/1/2018株に対して8~90倍の中和抗体価を示した。
一方、対照としておいたワクチン非投与豚血清には中和抗体が検出されなかった。
全てのワクチン投与豚血清がJPN/1/2018株を中和したことから、現在流行しているCSFVに対し備蓄ワクチンの効果が期待出来ると考えられた。 」
として、岐阜株に対してのGPEマイナス株生ワクチンの有効性を確認している。
ちなみに、農林水産省は、今回のGPEマイナス株生ワクチン接種による 抗体陽性率(Antibody Positive Rate)について、一定のワクチネーションプログラムのもとでは、80%以上の豚に能動的な免疫を付与することが可能であるとしている。
なお、子豚の場合は、母豚からの移行抗体価の高低によってワクチン効果が異なり、接種時の移行抗体価が32倍以下の低い場合は100%テイク、64~512倍の中位では50%、1024倍の高い場合ではワクチン効果がないとしている。
参考「豚コレラワクチンについて 」「豚コレラの診断と防疫」
いくつかの懸念
今回の日本での27年ぶりの豚コレラについては、世界から、ある視点から注目されている。
参考「Classical Swine Fever in China-An Update Minireview」
それは、中国以外から、サブサブジェノタイプ2.1d型の豚コレラが発生したということ。これに対して、日本の備蓄ワクチンが有効に働くかどうか?ということである。
その問題意識の根底には、重複感染排除現象(SIE))(Superinfection Exclusion Phenomenon)がある。
重複感染排除現象とは、既存のウイルス感染と同じまたは密接に関連するウイルスによる重複した感染を、ウイルス自体が回避する現象のことをいう。
例えば、中国においては、これまでC-Strain ワクチンによって制御されてきたはずの中国の山東省をはじめとした養豚場が、なぜ2017年になって次々と2.1d新種ウイルスによって、いともたやすく、襲われてしまったのか?
例えば、キューバにおいて、1993年以来、厳密なC-Strain ワクチン接種プログラムによって完璧な防疫体制が敷かれているにも関わらず、なぜ、いまだに、毎年数件の豚コレラ(1.2型)が発生し、ワクチン効果を無力化し、無症状型の豚コレラが風土病化しているのか?
この原因に、研究者たちは、ワクチン株やBVDV(牛ウイルス性下痢ウイルス)、BDV(ボルナ病)やPRRSV(豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス)などのウイルス感染により発生する重複感染排除現象が関係しているのではないのか?と疑いはじめているのである。
参考
「Chinese border disease virus strain JSLS12-01 infects piglets」
「Porcine reproductive and respiratory syndrome virus expressing E2 of classical swine fever virus protects pigs from a lethal challenge of highly-pathogenic PRRSV and CSFV.」
豚コレラウイルスと、これから蔓延するであろうアフリカ豚コレラウイルスとの重複感染についても、重複感染排除現象による無症状化・慢性化を懸念する研究もすでに出ている。
参考「African swine fever virus infection in Classical swine fever subclinically infected wild boars」
中国やキューバのようなワクチン常用地帯では、ウイルスの免疫応答過程で、+の自然選択圧で塩基配列E2に変異をもたらしているのでは?との知見もある。
ちなみに、自然選択圧はウイルスを一定方向へと進化させ
自然選択圧が
+ならウイルス塩基配列を変異させ
-ならワクチンを効きやすくする。
とされている。
また、ウイルス塩基配列E2ドメインAは変異しにくくB.Cは変異しやすいとされ、B.C変異は劇症性を緩和させるとしている。
BVDV(牛ウイルス性下痢ウイルス)およびBDV(ボルナ病)が、豚コレラウイルスに対するワクチンの免疫応答を強く阻害するとの知見もあり、これも重複感染排除現象によるものではないのか?との知見もあるようだ。
参考「Classical Swine Fever in China」
先にも言ったように、今回日本を襲っている岐阜株ウイルスは、中国由来のウイルスであり、2017年に北京で採取の「BJ2-2017」と98.9%の高い相同性をもつ、2.1d新種豚コレラウイルスである。
中国の研究所の解析では、この2.1dウイルスは、旧来の豚コレラウイルス株と異なり、塩基配列E2ドメインに変異(ポジションはR31, I56, K205,A331)を起こしている。
参考「Protein Gene E2 in East China under C-Strain VaccGenetic Diversity and Positive Selection Analysis of Classical Swine Fever Virus Envelope ination」
そして、この変異が、抗原性と毒性を変化させているとしている。
これにより、2.1d新種豚コレラウイルスは、劇症性が緩和されており、臨床症状を示すまでの時間が長くなるなどの特徴をもち、呈する臨床症状も、旧来型のものとは異なっており、判断に紛らわしいというウイルス特性を持つ。
このことから、ワクチン接種豚に交じって、野生株感染豚が感染肉として、市場に出荷されるリスクが、より大きくなりうる、といえる。
今回、日本で使われるGPEマイナス株生ワクチンが接種された豚肉を食べても大丈夫なのか?
農林水産省が発表している「CSF(豚コレラ)に関するQ&A」では、豚コレラワクチン接種肉の安全性について、次のように書かれている。
「Q12 CSFワクチンに含まれる添加剤が人の健康に影響を及ぼすことはありませんか?
A12 CSFワクチンに含まれている添加剤は、(1)食品又は食品から通常摂取されている成分(塩化ナトリウム、精製水、乳糖)及び(2)食品衛生法に基づく食品添加物として使用されている成分(ポリビニルピロリドン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム)ですので、ワクチンに含まれている添加物の量であれば、人の健康に影響はありません。
Q13 CSFワクチンの成分は豚肉に残留しているのですか?
A13 CSFワクチンを接種した健康な豚は、体内でCSFに対する免疫を獲得します。人の予防接種のように免疫を獲得すると、ワクチンに含まれているCSFウイルスは体内から消失します。このため、ワクチンに含まれているCSFウイルスが豚肉に残留することはないと考えられます。なお、ワクチンの成分(Q11及び12参照)が万一残留したとしても、人の健康に影響はありません。」
ワクチンに含まれている上記添加剤のうち
①ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone)(PVP)(別名 ポビドン)((C6H9NO)n)
②リン酸水素二ナトリウム(sodium hydrogen phosphate)(Disodium phosphate)(DSP)(別名 リン酸二ナトリウム)(Na2HPO4)
③リン酸二水素ナトリウム()(Sodium dihydrogen phosphate)(Monosodium phosphate )(MSP)(別名 リン酸一ナトリウム)(MSP)(NaH2PO4)
について注目してみよう。
まず、発がん性については、この三者については、大丈夫のようである。
問題は、アレルゲンについてである。
「ポリビニルピロリドン」のアレルギー
特に、この内、「ポリビニルピロリドン」については、かねてから、別の食品についても、生協連などから問題にされている物質であり、
「PVP(ポリビニルピロリドン) (povidone)を含有する医薬品等の使用によるアナフィラキシーの発症について、複数の症例報告があり、プリックテストなどによって PVP が原因物質であると示唆されている。」
との指摘もあるようだ。
PVP(ポリビニルピロリドン) の含有によって、アナフィラキシー反応を示した例は多い。
参考「Learn more about Polyvinylpyrrolidone」
PVP(ポリビニルピロリドン) は、例えば、コンタクトレンズ洗浄保存液に使われていて、コンタクトレンズの使用感に潤い性(親水性) を与えるために使われている。
「動物用ワクチンに添加剤として含まれる成分の食品健康影響評価について」によると、PVP(ポリビニルピロリドン) は、「ヒドラジンの含有が1 ppm 以下のもの」についてのみ、認められている。
しかし、「PVPのアレルギー誘発性に関する症例報告」などを見ると、「PVP の摂取量に関する情報」は限られており、不安材料は多い。
「リン酸ナトリウム」のアレルギー
では、残りのDSPともMSPについてはどうだろう?
これらは一括して「リン酸ナトリウム」であるが。これについては「リン酸ナトリウム・アレルギー」(sodium phosphate allergy )と言われるものがある。
参考「Sodium phosphate Side Effects」
発疹、蕁麻疹、かゆみなどである。
通常の消費レベルでは毒性がないが、大腸内視鏡検査のため経口リン酸ナトリウムを服用すると、一部個人ではリン酸腎症の形で腎障害のリスクを負う可能性があると言われている。
米国では経口リン酸塩製剤は中止されている。
以上のことから、特に、アレルギーを抱える子供さんたちについては、豚コレラワクチン接種済の豚肉を食べることは避けたほうが良さそうだ。
「ワクチン免疫の基礎と臨床−ワクチン効果を上げるもの下げるもの−本川賢司 学校法人北里研究所 生物製剤研究所」では、生ワクチンと不活化ワクチンの持つ、それそれの利点と欠点を上げており、その中で、本川さんは、「生ワクチンは、アジュバントを使わないことに利点が有るが、逆に欠点として、保存剤としてつかわれているものにアレルゲンの懸念がある」との趣旨のことを、下記の表を示し、いみじくも述べられている。
上記表は「ワクチン免疫の基礎と臨床−ワクチン効果を上げるもの下げるもの−本川賢司 学校法人北里研究所 生物製剤研究所」 より引用
農林水産省はワクチン接種肉流通についての2019年8月9日時点の考え方を変節させたのか?
農林水産省は、当初、豚コレラワクチン接種肉の扱いについては、次のような考え方を持っていた。
2019年8月9日の「ワクチン接種の考え方について」では、次のように記載されている。
15ページでは
「ワクチンを接種した場合の防疫上の留意点」
【技術上の課題】
・ ワクチンを接種した農場においても、全ての豚が⼗分な免疫を得るとは限らず、豚コレラウイルスによる感染の可能性は残る。
・ ワクチンを接種した場合、ウイルスが農場に侵⼊し感染した場合でも、症状を⽰すものは少なく、また、感染した豚とワクチン接種をした豚を検査(抗体)で区別できない。
【懸念点】
・ 感染の発⾒が遅れてしまい、感染を拡げてしまうおそれ。
・ 感染した豚や豚⾁・⾁製品を流通させてしまい、ウイルスを他の地域に拡げ、さらに定着させてしまうおそれ。
16ページでは
【ワクチン接種時に必要な対応】
・ ワクチン接種を⾏う場合は、地域全体で接種し、接種した豚には⽿標を付け、ワクチン接種をした豚と接種していない豚が⼀緒にいないようにすることが必要。
・ 他の地域にウイルスを拡げないよう、ワクチン接種をした豚や接種豚に由来する豚⾁・⾁製品の流通経路を明らかにできるよう(トレーサビリティ)にし、地域外に出ないようにしておくことが必要。
ワクチン接種をしてもその他の地域を清浄地域とする条件
国内の⼀部の地域(A)が、他の地域(B)と豚や豚⾁・豚⾁製品の動きがきちんと分けられ、別の国との関係と同じような状況になっていることが必要。
Aの都道府県(防疫の主体)=⾮清浄地域
Bの地域=清浄地域
とすれば
・⾮清浄地域の豚や豚⾁・豚⾁製品が清浄地域に流出していないことが確認されている限り、輸出国との交渉によるが、輸出の継続が可能。
※国際獣疫事務局(OIE)のルールに則らずにワクチンを接種した場合、⽇本全体が「⾮清浄国」となる。
下記図(農林水産省作成)をご参照
19ページでは
懸念事項
②ワクチンを打った豚であっても、その豚のみならず生肉も感染源となり得る(流通関係者の協力のもとでの流通経路の確認・制限(トレーサビリティ)が必要)
以上に見るように、農林水産省は、8月9日の時点では、地域限定ワクチン接種のスキームで、OIE豚コレラ清浄国ステータス復帰を目指していたものと思われる。
地域限定ワクチン接種のスキームは、現在、ブラジル、コロンビア、エクアドル(ガラパゴスのみ)、の三国でOIEから容認されているスキームであり、これらの国々は「豚コレラ清浄地域を含む国」との概念で擬似的清浄国としての立場にある。
ブラジルの地域限定スキームについては私のブログ「豚コレラ感染拡大で、混乱するワクチン接種是非問題」に紹介されているのでご参照願いたい。
そのOIEに認められている地域限定スキームによる清浄国復帰スキームのカギとなりうるのが、
①「国内の⼀部の地域(A)(⾮清浄地域)が、他の地域(B)(清浄地域)と豚や豚⾁・豚⾁製品の動きがきちんと分けられ、別の国との関係と同じような状況になっていること」
であり
そのためには
②「A(⾮清浄地域)からB(清浄地域)に豚、豚⾁・豚⾁製品を出さない。」
ことであったはずだ。
そしてこの条件が満たされる限りは、
③「⾮清浄地域の豚や豚⾁・豚⾁製品が清浄地域に流出していないことが確認されている限り、輸出国との交渉によるが、輸出の継続が可能。」
であったはずだ。
このスキームが崩れたのは、9月27日であり、
この時点で
①接種した豚や精液、受精卵、死体、排せつ物などの移動は、原則として域内に制限
するが
②精肉や加工品については、流通制限にかかるコストや農家への影響を踏まえて対象とせず、事実上域外への流通を容認
することとなり、当初予定の地域限定ワクチン接種スキームのカギとなる要件を緩和してしまった。
つまり、この農林水産省の方針転換が何を意味するのか?といえば、それは、「部分地域清浄化を目指すことでOIEから「豚コレラ清浄地域を含む国」として認められることを、この時点で断念した」ことを意味するのではないのか?
さらに言わせてもらえれば、農林水産省はこの際、豚コレラワクチン接種肉の流通について、OIEルールを守るのか?それとも、もはや守らないのか?をはっきりすべきではないのかな?
守るのであれば、ワクチン接種地域とワクチン非接種地域との関係は、別の国との関係と同じようにすべきであり、豚⾁・豚⾁製品の動きを厳格に分けなければならない。
ダブルスタンダードは国際的に許されない。
「風評被害」という名の「風評被害」
農林水産省は、当初は、ワクチン接種豚や加工品は域内に流通制限を検討していたが、域内のみでは販路確保できず農家経営を維持できないと判断したという。
このことによって、接種していない地域の豚肉と混在して流通することで域外生産地も風評被害を受ける可能性が有ると、懸念しているようである。
11月21日の参議院農林水産委員会で、江藤農林水産大臣は、次のような発言をされた。
「(風評対策をメディア系など)用意はしてます。しかしそれを出すことによって消費者の方々がCSF(豚コレラ)のことをもう一回思い出してしまうのは逆効果ではないか?との考えもあり表に出してません」
「消費者の方々がCSF(豚コレラ)のことをもう一回思い出してしまう」から、消費者に対する説明責任を放棄する、との農林水産省の意図とも受け取られかねない発言である。
もし、そうならば、日本の農林水産省の豚肉消費者行政は「知らしむべからず、由らしむべし」のスタンスに基づいて行われているのか?
そもそも、「風評被害」という言葉の意味は、生産者側と消費者側とでは、意味が異なる。
つまり、生産者サイドが懸念する「風評被害によるリスク」と、消費者サイドが懸念する「風評被害という言葉でマスキングされるリスク」とは、異なるのである。
その後者の消費者サイドのリスクを、「知らしむべからず」のスタンスで、やり過ごす行政の態度が、上記農林水産大臣発言のような形で現れているとすれば、それは、由々しき事態であるとも言える。
「風評被害」というのは、多くの場合、消費者に対して、十分な説明責任を果たさないままに、安易に、被害者側に逃げ込んで、利得を得るための、サプライサイドでの、都合のいい逃げ言葉となっている。
消費者サイドは、「風評被害という名の風評被害」を、はからずも、受けてしまっている場合がある。
豚コレラワクチン接種で心緩めては、次なるアフリカ豚コレラ感染拡大も招きかねない。
昨日の豚コレラワクチン接種で、現地では、一安心のあまり、これまでのバイオセキュリティを緩和させたり、予算上の理由か、弱めたりするモラルハザードが早くも発生している模様だ。
これでは、これから間もなく日本にも登場するであろうアフリカ豚コレラの感染拡大は防げない。
農林水産大臣の冒頭の発言は、とらえようによっては、感染肉流通のループホールの可能性のもとにある日本の消費者が、無意識的に、ウイルス感染拡大の負の循環のルートの当事者にさらされてしまうことを容認する発言ともなりうるので、発言にはよくよく注意しなければならないフェーズに差し掛かってきているということだ。
以上
2019年10月26日 笹山 登生 記
(追記)(2019年11月12日記載)
どうして、「豚コレラ」と名付けられてきたのか? その興味深い歴史
2019年11月11日、農林水産省は、豚コレラの呼称を原則「CSF」とする、と、発表した。
理由は「「コレラのイメージが悪い」といった指摘を踏まえた措置で、豚へのワクチン接種により懸念される豚肉への風評被害を抑えるのが狙い」とのことだ。
ここで、なぜ、CSF(Classical swine fever)が「豚コレラ(英語でHog Cholera、ドイツ語で Schweinepest)」と呼ばれてきたのか?その歴史を見ることにしよう。
アメリカ・オハイオ州で豚コレラ発見
豚コレラ(CSF)は、1833年米オハイオ州で発見された。
当初、豚コレラの原因は腸チフス菌に似た細菌と考えられ、「Hog Cholera」(豚コレラ)または「Swine Fever(SF)」(豚熱)と名付けられてきた。
USDAに原因究明のため動物産業局(BAI)設置
1884年USDAは、豚コレラの原因究明と蔓延拡大を防ぐために、新たに動物産業局(BAI)(Bureau of Animal Industry)を設立した。
その動物産業局(BAI)の検査官になったのが、セオバルド・スミス(Theobald Smith)だった。
セオバルド・スミスは、上司ダニエル・サルモン(Salmon, D. E.,)(サルモネラの発見者)の研究助手として活躍していた。
セオバルド・スミスの発見
1885年、セオバルド・スミスは、ダニエル・サルモン との共著 “Investigations in Swine Plague,”
を発表した。
参考「Special report on the cause and prevention of swine plague.」
同じく、1885年、同じ動物産業局(BAI)のMoore.V.A が、豚コレラ発生地域のハトから、サルモネラ菌を抽出した。
参考「On a pathogenic bacillus of the hog–cholera group associated with a fatal disease in pigeons」(Moore.V.A(1895) USDA BAI Bulletin)
Edwin M.Ellisの「Salmonella Reservoirs in Animals and Feeds」によれば、
1889年に、セオバルド・スミスとダニエル・サルモンは、豚から細菌(bacillus )を分離し、これが豚コレラの原因菌であるとした。
哺乳類からサルモネラ菌が分離されたのはこれが初めてであり、これを「Salmonella choleraesuis」(豚コレラ菌)と名付けた。
参考「How did theobald smith discovered salmonella infection」
続いて、アメリカでも、1931年にRettgerから、1932年にPomeroyから、いずれも、七面鳥からサルモネラ菌を抽出したという報告がされた。
スミスの豚コレラ・サルモネラ菌説をUSDA BIの後輩達が否定、ウイルス説に
1903年、USDA動物産業局(BAI)(Bureau of Animal Industry)のエミル・シュバイニッツ( Emil A. de Schweinitz )と、マリオン・ドーセット(Marion Dorset)が、1833年発見の豚コレラの血清を使い、免疫試験を試みたところ、検体に免疫を獲得させることができず死亡したので、この豚コレラは、細菌ではなく、ウイルスなのではないかとの結論に達した。
参考
「Control of swine fever by immunization」(予防接種による豚コレラのコントロール:マリオン・ドーセット著)
「Healthy hogs for a healthy nation」
「History of Research at the U.S. Department of Agriculture and Agricultural Research Service Eradicating Hog Cholera」
以降、豚コレラ(CSF)は、豚のコレラ(Hog Cholera)ではなく、豚コレラウイルス(CSFV)によるものとされた。
モンゴメリーがアフリカ豚コレラと豚コレラとの違いを究明
1910年、ケニアでアフリカ豚コレラ(ASF)が発見されたが、当時は、豚コレラ(CSF)と同じものと考えられた。
1921年モンゴメリー(R.Eustace Montgomery)が「英領東アフリカ(ケニアコロニー)で発生のSF(豚熱)の型について」(「On a form of swine fever ocurring in British East Africa (Kenya Colony)」)と題する論文で、初めて、ケニアで発見のSF( swine fever)は、オハイオ州で発見のSF( swine fever)とは異なることを指摘した。
それ以降、オハイオ州で発見のSF( swine fever)については、「古い豚コレラ」という意味を込めて「Classical」の「C」を付け、「CSF」とし、東アフリカで発見のSFについては、「Africa」の「A」を付け。「ASF」とした。
その後も、「豚コレラ」の用語は使われつづけられた
しかし、その後も、「Hog Cholera」の名称は「CSF(Classical swine fever)」の名称とともに、アメリカではいまだに使われつづけられている。
終わり
2019年9月1日
8月25日、フランスのビアリッツでのG7の開催中、トランプ米大統領と安倍晋三首相との日米首脳会談が行われた席で、トランプ大統領は次の発言をした。
「安倍首相は米国の各地で残ったトウモロコシを購入することに同意しました。(コーンが余ったのは)中国が自分たちが買うと言っていたトウモロコシを買わなかったからです。そして安倍首相が、日本を代表して、そのトウモロコシを全量買うことにしました。これは大きな取り決めです。日本が、我々アメリカの農家から、余ったトウモロコシを買おうというのですから。」
(And one of the things that Prime Minister Abe has also agreed to is we have excess corn in various parts of our country, with our farmers, because China did not do what they said they were going to do. And Prime Minister Abe, on behalf of Japan, they’re going to be buying all of that corn. And that’s a very big transaction. They’re going to be buying it from our farmers.)
(動画はホワイトハウス提供のもの)
参考「Remarks by President Trump and Prime Minister Abe of Japan After Meeting on Trade | Biarritz, France」(ホワイトハウス発表)
形通りトランプ発言をとらえれば、自らが引き起こしているアメリカと中国との貿易戦争で、中国側が拒否したトウモロコシの引き取り先が見つからず、トウモロコシ生産地帯の農民の不安をなだめるために、上記の発言をしたとも、素直にとれる。
しかし、アメリカのトウモロコシ生産地帯の農業者のトランプ大統領に対する不満は、異なるところにあった。
トウモロコシを原料にしたエタノール問題についての、農業者たちの不満が、中国貿易戦争による在庫不満よりも、はるかに大きかったのである。
しかも、それは、今回の米中貿易戦争が本格化する前から、続いてきた問題であった。
ここで、トウモロコシをエタノールにし、ガソリンに混入してきた過去の歴史をざっと見てみよう。
トウモロコシから作ったエタノールをガソリンに混入してきた歴史
アメリカのトウモロコシの用途別シェアは下記(2011年時点の数字)のとおりであり、ほぼ、飼料向け(34%)とエタノール向け(29%)のシェアは、拮抗している。
そして、年を追うごとに、エタノール向けのコーンの伸長が著しい。
これは、ブッシュ政権時代に始まった「ガソリンに一定割合のエタノールを混入する」政策インセンティブによるところが大きい。
そこで、下記に、ブッシュ政権時代からオバマ政権を経て、現在のトランプ政権に至るまでの、「ガソリンに一定割合のエタノールを混入する」政策の変遷を見てみる。
①2005年9月 ブッシュ政権時代に、エネルギー政策法法(Energy Policy Act 2005)成立。
ここにおいて「再生燃料使用基準量」(RFS)(The Renewable Fuel Standard )が設定され、ガソリンへのエタノール混入が義務付けされた。
この時点では、大気浄化法(Clean Air Act)セクション211及び、連邦規則集40 CFR 80.1441において、小規模精油所に対する義務付けは2011年まで一時的に免除の規定(Small Refinery Exemptions (SRE))があったが、実際の申請はなかった。
参考「RFS Small Refinery Exemptions」
②2007年12月エタノール自立・保障法(Energy Independence and Security Act of 2007 (EISA ))が成立し、これまでの「再生燃料使用基準量」(RFS)が倍増されることになった。
③2011年1月環境保護庁(EPA)は、ガソリンへのエタノール混入比率をこれまでの10%(E-10)から15%に拡大したE-15を認めた。
④2011年オバマ政権はこれまでの10%混入(E-10)から15%混入(E-15)シフトに伴い、E-15が、夏場のスモッグの原因になるとし、E-15販売を夏季(6月1日から9月15日まで)には販売禁止(summertime ban)を決定した。
ちなみに、これまでは「E10ブレンドウォール」ルールにもとづき、通年でのメタノール混入は10%(正式には9.7%)が限度とされてきた。(石油産業界は、エタノール燃料消費割合は10%(E10)が限度であり、車両は10%を超える燃料を使用できないと主張してきた。これをブレンド・ウォールーエタノール混入限界の壁-と言ってきた。)
エタノールは、蒸気圧が高く、温度が上昇する夏場には、大気汚染の懸念があるとの環境団体の見解を取り入れたものだ。
⑤2011年と2012年に 、24 の小規模精油所がエタノール混入義務の除外を受けた。
⑥2016年時点で、オバマ政権は、14件の小規模精油所について、エタノール混入除外の申請(Small Refinery Exemptions (SRE))を受けていた。
環境保護局はそのうちの7つについて、エタノール混入義務の除外を認めた。
小規模精製所が経済的困難を示したと判断された場合、延長を許可される事ができる。
⑦2016年1月トランプがテッド・クルーズと共和党大統領候補予備選を争っているとき、トランプはアイオワ州のトウモロコシ生産者たちに、エタノール使用増加によるトウモロコシ需要の拡大を約束した。
このことで、トランプはアイオワ州のトウモロコシ生産農民から信頼を得て、テッド・クルーズに勝利した。
参考「The Trump-Cruz Brawl」
⑧2017年1月20日トランプが大統領に就任。
この年には39件の小規模精油所について、エタノール混入除外の申請を受けた。
⑨2018年4月トランプ大統領は、ホワイトハウス詰めの記者団との懇談の席で、政府が、これまで夏季期間中使用禁止となっていたE15燃料(15%エタノールのガソリン混合物)を一年中販売することを許可することになると示唆した。
参考「Trump signals support for changing summer ethanol policy」
バイオ燃料団体は、これを歓迎したが、製油業界では、現在の再生可能燃料基準(RFS)では、製油業者が、ガソリンへのエタノール混入か、公開市場での再生可能燃料クレジット(RIS)(Renewable Identification Number)購入(混入義務が果たせない場合は、RISの購入で義務を果たす代替にすることができる。)を義務付けていることから、今後、経営を圧迫するのではないのか?という懸念が広がった。
一方、エタノールの原料となるトウモロコシの生産地帯の農民は、このトランプの方針に全面的な賛成の意を示した。
これまでのエタノール10%混入のE-10から15%混入のE-15に変わることによって、収入が3〜5%、上昇すると見込んだ。
環境団体は夏場のスモッグ加速を懸念し、これは大気汚染防止法違反と反対を表明した。
また、自動車ユーザー団体は、エタノール混入比率上昇による自動車本体の腐食懸念を表明した。
⑩2019年3月、環境保護局は、2017年基準に基づく37件の中小製油所エタノール混入義務免除申請を受け、この内、35件について認めた。
これまで
2013年基準分16件申請、内8件認可
2014年基準分13件申請、内8件認可
2015年基準分14件申請、内7件認可
2016年基準分20件申請、内19件認可
2017年基準分37件申請、内35件認可
となっている。
参考「US EPA approves another 2017 small refinery exemption to RFS」
「39 REASONS THE EPA SHOULDN’T GRANT ANY ADDITIONAL SMALL REFINERY EXEMPTIONS」
申請が増えてきている背景としては、混入義務を果たす代替となるRIN(再生可能識別番号)( Renewable Identification Number)という売買可能クレジットが値上がりし、中小製油業者経営を圧迫しているものとみられている。
段々とひろがってくる中小製油所へのエタノール混入免除措置に対し、コーン生産地からは、反対の動きが広がってきた。
⑪2019年5月24日 エタノール業界グループが、米国第10巡回区控訴裁判所へ、米国環境保護局(EPA)が中小精油業者に対しガソリンへのエタノール混入義務の免除を認めていることに対し、訴訟をおこした。
参考「Biofuels Group’s Small Refinery Waivers Lawsuit Runs Into Trouble in Court of Appeals」
⑫2019年5月29日 EPA(環境保護庁)は、E-15ガソリンについてのこれまでの夏季期間使用停止ルールを撤廃し、周年、E-15が使用できるための新しいルールを発表。
参考「EPA Delivers On President Trump’s Promise To Allow Year-Round Sale Of E15 Gasoline And Improve Transparency In Renewable Fuel Markets」
⑬2019年8月8日EPAは全国の中小製油所31にガソリンへのエタノール混入義務の免除を認めた。 これに対して、コーンの生産者団体が激怒、この决定により14億ブッシェルのトウモロコシ需要を失ったとしている。
一方、中小製油所は「再生可能燃料基準プログラムが小規模精製所に困難をあたえていることをEPAが認識しはじめた」とコメント。
ここにきて、E-15の通年使用が解除されたにも関わらず、一方で、中小製油業者のエタノール混入義務が免除されたことにより、米コーン生産者の危機感が上昇。 おりしもの中国貿易戦争によるコーン在庫の増加が加わり生産者の怒りが極点に。
⑭2019年8月25日 このような環境の中で、トランプ米大統領と安倍晋三首相との日米首脳会談で、日本が中国向け余剰コーンの買い取りとトランプが発表。
米コーン生産者は一応歓迎はしたが、エタノール混入免除の中小製油所の数は今後も増えると、そのことについては依然不安視している。
参考「Renewable Fuels Program Hobbled by Small Refinery Exemptions」
トランプ大統領が味方するのは“Big Oil” なのか? “Big Corn”なのか?
以上、トウモロコシをエタノールにし、ガソリンに混入してきた過去の歴史を、見てきた。
トランプ大統領が、今最も気にしているのは、次期大統領選挙再選如何にかかわりかねない、トウモロコシ生産地帯の農業者たちの投票動向である。
前回の共和党大統領候補决定戦で、アイオワ州において、トランプがテッド・クルーズに勝利したのは、ほかならぬ、トウモロコシ生産地帯に、エタノールの振興を約束したことによる。
そのアイオワ州のコーン生産者が、今度は、トランプに対して、「一体、トランプが味方しているのは“Big Oil” なのか? “Big Corn”なのか?」を問うているのである。
トランプ政権下で、これまでEPAがガソリンへのエタノール混入を免除した中小製油所数は54あるが、すでに16のエタノール工場が閉鎖や休止においこまれている。
このことで、2,500人以上の雇用に影響が出ているという。
トランプ大統領にとっての、今回の日本へのコーンの売り込みは、「迫られる中国市場からの撤退の代わりの市場としての日本」という意味では決してなく、中小製油所へのガソリンへのエタノール混入義務の免除が拡大しすぎたことへの、トウモロコシ生産地帯の農民の怒りを、三角決済する都合のいい道具として、日本が使われたということに過ぎない。
依然おさまらないアメリカのコーン生産地帯の農民の怒りを受け、トランプ大統領は、8月29日、エタノールに関連する「巨大なパッケージ」を計画と発表した。
参考「Trump promises ethanol-related ‘giant package’ to please farmers」
内容は明らかでないが、E15の振興と免除精油所分エタノールの再配分とRIN( Renewable Identification Number)市場改革と見られる。
8月31日記 笹山登生
2019年8月1日
豚コレラ感染から来月で一年
今日から8月である。
明日8月2日は、中国初のアフリカ豚コレラ発生の情報が初めて流れて一年目の日であり、その約一ヶ月後の9月9日は、岐阜県から、初めて豚コレラ発生の情報が流れた日である。
その後、約一年、中国のアフリカ豚コレラは、国内一巡後、ベトナム、ラオス、カンボジアへと感染拡大を続けたが、中国国内での感染は、今年に入ってから急速に衰えをみせ、現在では、なお散発的発生はあるものの、一応はおさまっているようである。
一方、日本の岐阜県の豚コレラ感染は、一向に収まる気配を見せず、岐阜県から愛知県へと感染拡大した後、隣接する三重県、福井県、長野県へと感染を広げている外、ついに、富山県にも感染が広がっているといった有様だ。
この間に、発見または捕獲された感染イノシシの数は岐阜県801頭(7月31日現在)、愛知県59頭(7月20日現在)、長野県39頭(7月31日現在)、福井県7頭(7月23日現在)、三重県4頭(7月1日現在)、富山県2頭(8月1日現在)合計912頭となっている。
一方、豚コレラに感染した飼養豚の感染例は岐阜県20例(うち、疫学関連農場1例)、愛知県18例(うち、疫学関連農場5例)、三重県1例、福井県1例、長野県1例(豊田市からの感染子豚出荷による)、滋賀県1例(同左)、大阪府1例(同左)、岐阜県1例(同左)となり、疫学関連農場も含めた発生例は7月28日現在で44例にも及ぶ。
発生に伴い、殺処分された飼養豚の数は、岐阜県42,928頭(関連農場も含む。うち21頭は飼養イノシシ)、愛知県64,468頭(関連農場と他県-長野・岐阜・大坂・滋賀-に感染豚を出荷した分も含む)、三重県4,189頭、福井県297頭、2019年8月1日現在合計111,882頭にのぼっている。
ここにきて、感染拡大が、東海地方にとどまらず、北陸信越地方にまで拡大してくるに及び、かねてから、業界からの要望である、「ワクチン接種論」が再び沸き起こりつつある。
現在のOIEにおける日本の立場は?
現在のOIEにおける日本の立場は「清浄国状態の延期/復帰」(Suspension/reinstatement of status)の状態にある。
日本は昨年9月の岐阜県岐阜市豚コレラ発生によって、昨年9月3日から「Suspension」(清浄国資格停止)にある。
これは「the OIE World Assembly of Delegates in terms of Resolution No. 24 in May 2015」167ページで認可された清浄国ステータスが昨年9月3日から資格停止されたということである。
現在日本が清浄国資格停止にある状態を元の2015年5月時点の状態に戻すためには、次の手続きにより、豚コレラ清浄国資格回復(reinstatement )を、はからなければならない。
この場合、「Suspension_SOP」に従い、OIEガイドラインに従い、2年間のうちに、元の状態に戻ることが求められる。
すなわち、OIEのガイドライン「Standard Operating Procedures(SOP) on suspension, recovery or withdrawal of officially
recognised disease status and withdrawal of the endorsement of national official control programmes of Member Countries 」
では、ステップの3頁「7」と4頁「21」に「2年以内」と記載されている。
参考「Japan – Suspension of CSF-free status」
ワクチン接種による豚コレラ・ウイルス・コントロールの困難さ
農林水産省は、当初から、ワクチン接種については、「まだその時期ではない」としてきた。
その理由として農林水産省は次のものを上げている。
①接種に踏み切れば、日本は、OIEコードの規定から、清浄国ステータスを失い、海外から輸入規制を招きかねず、輸出に影を落とす懸念がある。
②ワクチンのないアフリカ豚コレラが水際まで来ている状況から、豚コレラについても、いまから、ワクチンに頼らず、飼養衛生管理基準を守る体制を、国内養豚業はとっていく必要がある。
OIE陸生コードではどうなっているのか?
①について、OIE陸生コード(英文はこちら)に基づいて、詳述しよう。
OIE陸生コードで、豚コレラについて詳述されているのは、「第 15.2 章」である。
清浄国の条件について詳述されているのは、「第 15.2.6 条」である。
清浄化復帰3つのケース
ここでは、3つのケースを想定している。
①ワクチン接種なしに殺処分により淘汰の場合は、最終症例 3 ヶ月後、清浄国に復帰。
②緊急ワクチン接種(接種後殺処分 vaccinate-to-kill)を伴う殺処分淘汰の場合は、以下の各号のいずれかの時点に清浄国に復帰。
a) 最終症例及びすべてのワクチン接種動物の と畜 3 ヶ月後、復帰。
b)陸生動物の診断及びワクチンに関するマニュアルChapter 2.8.3. 「Classical swine fever」 に掲げるDIVAワクチン接種であり、ワクチンの接種を受けた動物がと畜されない場合は、最終症例 3 ヶ月後、復帰。
③殺処分がなされなかった場合は、第 15.2.3 条 (サーベイランスが12ヶ月間行われ、過去 12 ヶ月間、家畜及び飼育野生豚に CSF の発生がなく、DIVAでないワクチン接種が、家畜及び飼育野生豚に対し行われていない。) にしたがう。
現在の日本の豚コレラ感染状況に照らしてみると?
以上の条項を現在の日本に照らし合わせてみると
①現在、日本が備蓄ワクチンとして100万頭分保有しているワクチンは、GPE株ワクチンであり、野生株とワクチン株とを識別できるDIVAワクチン(Differentiating Infected from Vaccinated Animals)ではない。
参考
「日本における豚コレラの撲滅 – 農研機構」
「食料・農業・農村政策審議会 消費・安全分科会家畜衛生部会 第3回 議事録(平成17年3月30日)」
したがって、「第 15.2.6 条 」の規定中、②-bは該当しない。
②養豚業界側が要望しているワクチン接種は、ワクチン接種後に食用としてと畜にまわす「vaccinate-to-slaughter」又は、接種後生かす「vaccinate-to-live」のようである。
しかし、接種後生かす「vaccinate-to-live」は、②-bの規定により、DIVAワクチンのみにしか許されていないので、2-aの「ワクチン接種後に食用としてと畜にまわす「vaccinate-to-slaughter」のスキーム」しか、残されていない。
ネックは「最終症例及びすべてのワクチン接種動物のと畜」の確認
では、①(ワクチン接種なしに殺処分のみ)と、②-a(ワクチン接種後に食用として と畜にまわす「vaccinate-to-slaughter」)との違いはどこにあるのだろう?
後者の清浄国復帰条件は「 最終症例及びすべてのワクチン接種動物のと畜 3 ヶ月後」である。
農林水産省がワクチン接種に渋っているのは、この「最終症例及びすべてのワクチン接種動物のと畜 」の確認が困難なためであると思われる。
それは、日本の豚コレラ感染の拡大が、飼養豚のみならず、野生イノシシにまで広がっており、その野生イノシシの感染拡大の終了が見通せないうちは、飼養豚への感染拡大の終了をも見通せないからである。
日本養豚開業獣医師協会からの提言とは?
もう一度、翻って、日本の養豚業界が要望しているスキームとして、その代表例として、日本養豚開業獣医師協会(JASV)の呉克昌代表理事さんが中心になり掲げているスキームを見てみよう。
日本養豚開業獣医師協会は、今年の3月にイノシシ陽性エリアの地域限定・期間限定の緊急ワクチン接種の要望書を農水省消費・安全局長宛に提出している。
内容は下記の通りのようである。
地域限定(イノシシ陽性エリア)、期間限定での養豚場への豚コレラワクチン接種による、豚とイノシシの両面からの豚コレラウイルスの封じ込めを実施する。
そのために、以下の要件で養豚場での豚コレラワクチン接種を行う。
〈1〉地域はイノシシでの豚コレラ陽性エリアとする
〈2〉期間はイノシシでのワクチン投与期間を参考とする
〈3〉接種については地域内全養豚場の全頭に一斉接種後、母豚年1回、候補豚1回、肉豚1回
〈4〉と畜場では豚コレラワクチン接種豚の専用と畜場でのと畜
〈5〉イノシシ豚コレラ陽性エリアの境界道路への、畜産関係車両のための消毒ポイントの設置
日本の備蓄ワクチンが、野生株とワクチン株とを見分けられるDIVAワクチンでないのが致命的
上記のスキームで、果たして、OIE陸生コード、「第 15.2.6 条」の2-aの条件での清浄国復帰を果たすことができるのか?
日本のワクチンはDIVAワクチンでないので、と畜後の感染肉が、野外株によって感染したのか?ワクチン株によって感染したのか?は、判定できない。
したがって、呉克昌さんのスキームで、接種後、と畜を分離しただけでは、豚コレラ感染イノシシの淘汰の確認が困難である以上、「最終症例及びすべてのワクチン接種動物のと畜 」の確認は、至難なことになりうる。
ここにも、日本が備蓄保有のワクチンが、野生株とワクチン株とを分けて認識できないワクチンであるため、そこに大きなネックが立ちはだかってくるのである。
農林水産省が検討を始めているらしきスキームとは?
ここに来て、農林水産省が、ようやく重い腰を上げて、検討を始めているらしきスキームが、漏れ伝わってきている。
すなわち、
①一定の地域を指定し、その地域内の飼養豚全てにワクチン接種をする。
②接種した豚や豚肉や豚肉加工製品は、その一定の地域内にとどめ、流通させる。
③県は、②のためのトレーサビリティシステムを確立させる。
④現行の「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」では、①の「予防的ワクチン接種」は認めていない(「第13 ワクチン(法第31 条」に「平常時の予防的なワクチンの接種は行わないこととする。」と記載されている。)ので、そのための指針の改正を行う。
以上の内容のようだが、基本的には、OIEコード第 15.2.5 条「CSF 清浄国又は地域内の封じ込め地域(containment zone)の設定」に準じる内容のもののようである。
OIEにおける「OIE参加メンバーによってCSFフリーと認められた地域境界」(the delimitation of the zones of the Members recognised as CSF free) の考え方
OIEでは
「RESOLUTION Recognition of the Classical Swine Fever Status of Member Countries 」にもとづいて、「Chapter 15.2.にしたがって、一国内にCSFフリーゾーン( CSF free zone)が設定されることが、ブラジルを初めとしてコロンビアそしてエクアドル(ガラパゴスのみ)に認められている。
参考「OIE Final Report 2019」
これらの国々は「豚コレラ清浄地域を含む国」との概念で擬似的清浄国としての立場にある。
現在のブラジル・コロンビア・エクアドルにおける限定地域におけるフリーゾーン状態は下記のとおりである。
ゾーンは、下記地図 左から、ブラジル-コロンビア-エクアドル
ブラジルの実情は?
ここで、はやくから地域限定ワクチン接種スキームに取り組んでいるブラジルの現状について詳述しよう。
現在、ブラジルは豚コレラについて、
①豚コレラがない地域(CSFフリーゾーン)
と、
②豚コレラがある地域(ワクチン接種ゾーン)
に分けている。
地図では下記のとおりである。
①の「豚コレラのない地域」は「CSFフリーゾーン」としている。
「CSFフリーゾーン」はブラジル南部16州(直轄区1を含む)で、下記地図のマゼンタ色の丸印である。
豚コレラフリーゾーンの州名は下記の16州である。
このフリーゾーンでの豚肉生産高はブラジル全体の95%を、占めている。
①アクレ
②バイーア
③エスピリトサント
④ゴイアス
⑤マツトグロッソ
⑥マツトグロッソ・ド・スル
⑦ミナスジエライス
⑧パラナ
⑨リオディジャネイロ
⑩リオグランデ・ド・スル
⑪ロンドニア
⑫サンタカリーナ
⑬サンパウロ
⑭セルジッペ
⑮トカンティンス
⑯連邦直轄区
②の「豚コレラのある地域」は北部11州の赤色の☓印である。
ワクチン接種の州名は下記のとおり。
①アラゴアス
②アマバー
③アマゾナス
④セアラー
⑤マラニョン
⑥パラー
⑦パライバ
⑧ペルナンプーコ
⑨ピアウイ
⑩リオグランデ・ド・ノルデ
⑪ロライマ
現在まで、CSFフリーゾーンでは1998年1月以降豚コレラの発生はない。
ワクチン接種ゾーンでは、間歇的に、未だに豚コレラ発生をみている。
2018年8月に域外のセアラー州で新たに豚コレラが発生した。
2019年4月に豚コレラ根絶を目指すCSFECPプログラム(CSF Eradication and Control Program)が発表された。
しかし、その二週間後に、CSFフリーゾーンから600 kmに位置するピアウイ州で、新たに豚コレラが発生してしまった。
ここで、これまでのブラジルでの豚コレラとの戦いを振り返れば、ブラジルでは、1998年5月に豚コレラワクチンの使用を禁止したが、その年の1998年12月に、サンパウロで豚コレラが発生してしまった。
しかし、この時はブラジルの豚飼養頭数の半分以上を占めるサンタカタリーナ州とリオグランデ・ド・スル州(1990年と1991年に大発生)での発生は見られなかった。
ブラジルの豚コレラCSFフリーゾーンは2001年から2009年にかけ27州(直轄区を含む)中15州(現在16州)に達した。
感染ゾーンでは、この間49件の豚コレラが発生した。
感染ゾーンの2つの州、アマパとリオグランデ・ド・ノルテでは緊急ワクチン接種もした。
総じて見れば、CSFフリーゾーンでは、20年近くも、豚コレラ発生を見ないにも関わらず、ワクチン接種ゾーンでは、多少の清浄化に向けた州(2州)もあったが、根絶プログラム(CSFECPプログラム)があるにも関わらず、清浄化へのテンポは遅々としている。
ブラジルの各州ごとの豚飼養頭数は次の通り。
①サンタカタリナ 約9百万頭
②リオグランデドスル 約7百万頭
③パラナ 約6百万頭
④ミナスジェライス 約540万頭
⑤マトグロッソ 約240万頭
⑥サンパウロ 約180万頭
⑦マトグロッソドスル 約130万頭
ブラジルも、野生イノシシの生息数増加は著しい。
ブラジルでのイノシシ事情は複雑で、おおきく、三種類のイノシシの棲息が見られるようだ。
①「ポルコモンテイロ」(下記の地図では黄色)
200年以上前に野生化した豚
②「ジャガーランRS」(下記の地図では赤色)
1989年にウルグアイからブラジル南部リオ・グランデ・ド・スルに侵入してきたもの。
③「ジャワポルコ」
ヨーロッパ・カナダから家畜用として移入されてきたもの。
なお、下記地図における野生イノシシ分布では
2007年分は緑で、
2014年分はオレンジで、表示されている。
OIEコードにおける「封じ込め地域における清浄ステイタス回復」の条件は?
OIE陸生コード第 15.2.5 条では、
「封じ込め地域外の区域の清浄ステイタスは、当該封じ込め地域が設定されるまでの間、失効する。」
(The free status of the areas outside the containment zone is suspended while the containment zone is being established.)
「その区域の清浄ステイタスは、第 15.2.6 条の規定にかかわらず、当該封じ込め地域が明確に設定されてはじめて回復することができる。」
(The free status of these areas may be reinstated irrespective of Article 15.2.6., once the containment zone is clearly established.)
とあり、更に
「封じ込め地域に CSF が再発した場合には、封じ込め地域の認定は取り消される」
(It should be demonstrated that commodities for international trade have originated outside the containment
zone.)
「国又は地域の清浄ステイタスは第 15.2.3 条の関連要件が満たされるまでの間、失効する。」
(The free status of these areas may be reinstated irrespective of Article 15.2.6., once the containment zone is clearly
established.)
「封じ込め地域に CSF が再発した場合には、封じ込め地域の認定は取り消される 」
(In the event of the recurrence of CSF in the containment zone, the approval of the containment zone is withdrawn.)
「国又は地域の清浄ステイタスは第 15.2.3 条の関連要件が満たされるまでの間、失効する。」
(The recovery of the CSF free status of the containment zone should follow Article 15.2.6.)
とある。
すなわち、たとえ、東海地方を限定としての地域限定ワクチンを接種しても、サーベイランスによってその封じ込め確立が確認されるまでは、東海地方以外の地域の養豚業についても、清浄化ステータスは失われ、もし、東海地方での封じ込めが失敗すれば、第 15.2.6 条の規定に基づく清浄化ステータス回復が図られない限りは、東海地方以外の地域の養豚業についても、清浄化ステータスは失われる、ということである。
USDAマニュアルによる封じ込め地域のイメージ
USDAのマニュアルによる「封じ込め地域のイメージ」は、下記地図のとおりである。
封じ込め地域は下記の各種ゾーンから形成される。
中核から外側にむかって
①「既感染ゾーン」
②「ワクチン接種ゾーン」
③「コントロールゾーン」
③「バッファーゾーン」
④「サーベイランスゾーン」
⑤「フリーエリア」
参考-USDA「CLASSICAL SWINE FEVER RESPONSE PLAN」の62ページから73ページ
OIEでの豚コレラのゾーニングの考え方については、下記サイトをご参照ください。
「Requirements of the Terrestrial Code for zoning 」
なお、このOIE陸生コード第 15.2.5 条については、2016年7月、パリでのOIEアドホック会合において補足的な議論が重ねられている。
参考「MEETING OF THE OIE AD HOC GROUP ON CLASSICAL SWINE FEVER」(Paris, 5-6 July 2016 )の3ページ
すなわち
①封じ込め区域の設定は12ヶ月を持って満期とする。
②12ヶ月を越しても清浄化が達成できない場合は、再申請を要する。
③これは、2016年における、口蹄疫についてのアドホック会合における議論に準じて、これを豚コレラについても適用するものである。
参考「MEETING OF THE OIE AD HOC GROUP ON FOOT AND MOUTH DISEASE 」(Paris, 14-16 June 2016)の4ページ
地域限定ワクチン接種スキーム実施の困難は?
感染した野生イノシシの存在
問題は、飼養豚の清浄化ではなく、その間接要因となっている野生イノシシの清浄化の確認が、現状では、ほとんど不可能な点にある。
そのような中で、地域限定ワクチン接種が、県単位の関係者の合意、あるいは、東海地方以外の関係者の合意を得て、スタートできるのかどうか? 大きな不透明感は拭えない。
ワクチン接種済み感染肉のセパレート流通は可能か?
さらに、接種済み感染肉の流通についてのループホールの懸念である。
今年2月の愛知県豊田市から出荷した感染子豚が、長野県を初めとして、地域外感染を引き起こしている現状や、東海地方から出荷された子豚が、東海地方以外の各地で、銘柄豚のOEM生産のもととなっているという実態、豚肉製品に含まれてしまう豚コレラウイルスの東海地方外への流出懸念など、地域限定ワクチン接種実施までのハードルはあまりに大きすぎる。
以上に見るように、東海地方を限定とした地域限定ワクチンの実施の利害は、当該東海地方の関係者にとどまるだけでなく、それ以外の全国の地域の関係者の利害につながるものであり、そのための合意取り付けが必要なものと思われる。
アメリカ農務省の豚コレラ感染阻止ワクチン戦略とは?
では、欧米での豚コレラワクチン戦略はどうなっているのか?
米農務省動植物検疫局(APHIS)の戦略を紹介しよう。
「国立動物検疫研究所プログラム」(The National Veterinary Stockpile (NVS) program)では
二種類ワクチンを使い分けコントロールし
①旧来型MLVワクチンは局地的に接種後殺す“vaccinate-to-kill”戦略に。
②DIVAワクチンは、一定のゾーン内で、接種後生かす“vaccinate-to-live” 戦略に
と、有機的なワクチン戦略によっている。
参考「Questions and Answers:The National Veterinary Stockpile and Classical Swine Fever Virus Vaccine」
「CLASSICAL SWINE FEVER RESPONSE PLAN THE RED BOOK」
「Secure Pork Supply Plan」
USDAでは、豚コレラ感染拡大経緯を3段階に分けて対処している。
1.初期段階-4日以内
2.中期段階
①スポット感染
②地域感染
③複数地域感染
によってと、戦略は異なってくる。
ワクチン対応は
2②又は2③で殺処分補強的手段として使う。
また、在来型MLV CSFワクチンでは、接種後殺処分又はと畜(Vaccinate-to-slaughter)が原則であり
DIVAワクチンの場合に限りワクチン後生かせる戦略(Vaccinate-to-live)が取りうる。
というのが相場のようである。
また、USDAには「Foreign Animal Disease Preparedness & Response Plan」(FAD PReP)の名のもとに、海外からの疾病由来に備えた対応ブランを設けている。
その中に、上記「限定地域スキーム」によるゾーニングの規定も含まれいる。
概念図は下記の通り
参考「Foreign Animal Disease Preparedness & Response Plan」
一方、EUでは豚コレラ感染野生イノシシ対策について、下記の4フェーズで対処している。
すなわち
200平方キロ以内を域内として
フェーズ①
域内に感染がとどまり、域外への感染拡大なし
フェーズ②
域内感染拡大は続くが域内におさまっている。
フェーズ③
域外へ感染拡大。最初の発生地域の感染も継続。
フェーズ④
域内感染は収まったが、域外へ感染拡大継続。
この4つのフェーズに応じた対策をしている。
参考「Classical Swine Fever in Wild Boar」
SPS協定との関係は?
OIEコードの
第 15.2.4 条 に「CSF 清浄コンパートメント(ecompartment)」の規定がある。
これは、二国間貿易条件に絡むものであり、二国間合意での「擬似的な清浄国規定」ともいえるものだが、これについては、第 4.3 章及び
第 4.4 章に規定する原則に従うこととなる。
なお、SPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)には、「同等性の原則」と言うのがある。
「同等性の原則」とは、輸出国の基準が輸入国と異なっていても、輸出国の基準が適切なものであると客観的に証明できれば、輸入国は輸出国の基準も自国と同等のものとして扱うという原則である。
もし輸出国の基準が適切なものであるとされれば、輸入国は自国の基準を満たしていないことを理由にその食品の輸入を拒否することはできない。
豚コレラにおいても、自国が清浄国のステータスを持っていれば、輸出国の低レベルの衛生基準を拒否できるが、そうでない場合は、低レベルの衛生基準の物品輸入を拒否できなくなる恐れが出てくる。
そもそも、日本に蔓延の新種豚コレラウイルスに現在の備蓄ワクチンは効果があるのか?
今年の3月に書いた私のブログ記事「岐阜県豚コレラ発生から半年~見えてきたこと・こないこと~」でも触れたことだが、今回の岐阜県から蔓延が始まった豚コレラウイルスは、農研機構の遺伝子解析によると、中国・北京で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」(遺伝子バンクアクセスナンバーMG387218)と98.9%の相同性を持つとされている。
参考「Genome Sequence of a Classical Swine Fever Virus of Subgenotype 2.1, Isolated from a Pig in Japan in 2018」
このサブサブジェノタイプ2.1d豚コレラウイルスは、2014年10月に中国の山東省での発生に始まり、2014.12 江蘇省、2015.03 湖北省、2015.04 吉林省、2015.04黒竜江省、2015.5.河南省、2017.8.9.北京、と、次々と中国の養豚場を襲った。
しかも、驚くべきことに、これらの養豚場は、いずれも、これまでC株ワクチンで淘汰されてきた農場であった。
中国農業科学院哈爾浜獣医研究所の研究では、
豚コレラ2.1dウイルスとC株ワクチンとには ①分子変異 と ②抗原性の差異 があり、C株ワクチンは2.1dウイルスに対し、かならずしも有効ではない、としている。
参考「Efficacy evaluation of the C-strain-based vaccines against the subgenotype 2.1d classical swine fever virus emerging in China」
また、ウイルス特性には特徴があり
同じく、中国農業科学院哈爾浜獣医研究所による遺伝子分析と感染実験によると、
①ウイルス中和反応のための主要な抗原E2塩基配列に変異(ポジションはR31, I56, K205,A331)がある。
②ウイルスのE2たんばく質塩基配列で極性変化(親水性から疎水性へ)が生じ、これが抗原性と毒性を変化させたものとしている。
③このため、感染実験において、2.1dウイルス感染豚は何の臨床症状も示さず、死亡率も低く、実験の最後まで生き残った。
とされている。
参考「Genetic Diversity and Positive Selection Analysis of Classical Swine Fever Virus Envelope Protein Gene E2 in East China under C-Strain Vaccination」
日本の農研機構において岐阜株の感染実験を行った結果でも、「当該ウイルスは豚に発熱や白血球減少を引き起こすものの、強毒株と比べ、病原性は低い」(2018年11月16日発表)としており、両者において共通性が見られる。
参考「農研機構 (研究成果)2018年分離株を用いた豚コレラウイルスの感染試験」
過去において、豚コレラのサブジェノタイプの移転(1.3から2へ)がヨーロッパとアジアで始まり、さらに、2014年から2015年にかけ中国の山東省から出発した蔓延過程で「2.1b」から「2.1d」にサブジェノタイプが移転し、その分岐したウイルスが日本の岐阜県に入って来たとしたら、世界的に大きな出来事であるとすら言えるかもしれない。
そして、もし、農研機構が、はやくから、今回の岐阜県蔓延の豚コレラウイルスが、サブサブジェノタイプ2.1dに属し、中国での研究によれば、遅発性であり、劇症型でなく、臨床症状を示すまでの時間が長くなる、等の特性を、農林水産省や岐阜県や愛知県に熟知させ、ウイルス感染拡大阻止戦略に生かしていれば、豊田市の農場からの感染子豚の出荷による長野県宮田村への感染拡大は阻止出来たはずだ。
なお、8月に発表された農林水産省調査チームによる「豚コレラの疫学調査に係る中間取りまとめ 」においては、新種2.1d豚コレラウイルスに対する現在の備蓄ワクチンによる効果についても述べられており、ここでは
「備蓄豚コレラワクチンを豚4頭に投与し、1か月後に血清を採取した。
中和試験2によって、JPN/1/2018株に対する採取血清の抗体価を測定した。
結果は、ワクチン投与豚血清は、JPN/1/2018株に対して8~90倍の中和抗体価を示した。
一方、対照としておいたワクチン非投与豚血清には中和抗体が検出されなかった。
全てのワクチン投与豚血清がJPN/1/2018株を中和したことから、現在流行しているCSFVに対し備蓄ワクチンの効果が期待出来ると考えられた。 」
としている。
参考 世界の豚コレラワクチンとそのメーカー一覧
豚コレラ感染イノシシ用経口ワクチンは有効か?
同じようなことは、野生イノシシ用に現在岐阜県愛知県などに撒かれている豚コレラ感染イノシシ用経口ワクチンについても言えそうだ。
今回日本で頒布される野生イノシシ用豚コレラ(CSF)経口ワクチンの概要は下記のとおりである。
豚コレラ(CSF)用経口ワクチンIDT Biologika GmbH社「Pestiporc Oral」の仕様書
今回、日本が採用の野生イノシシ用豚コレラ(CSF)経口ワクチンは、ドイツ製豚コレラ(CSF)用経口ワクチンIDT Biologika GmbH社「Pestiporc Oral」である。
このワクチンの仕様書には次のように書かれている。(独語仕様書はこちらご参照)
A.1ドーズに含まれる成分
豚コレラ(CSF)ウイルス=弱毒化株「C」:最大104.0 CCID50
宿主系:ブタブタ腎細胞株 *細胞培養感染量50%
賦形剤:安定化培地:qsp 1,6 ml
B.免疫抗体獲得までの期間
経口ワクチン接種の約10日後
免疫抗体は少なくとも10か月間持続。
C.対象
すべての年齢の使用豚とイノシシ
D.接種方法(経口投与)
a.イノシシについては
イノシシ:
接種時期
春(2月から4月)、夏(5月から7月)、秋(9月から11月)に、3回の二重予防接種(4週間間隔)
配布時間は、地域の気候条件に合わせて調整する必要あり。
配布エリアは、100ヘクタールの狩猟エリアごとに少なくとも1つの餌場。
一つの餌場所に、30〜40のワクチン餌。
再経口接種は、最初の予防接種の4週間後に行う。
群れのサイズに応じて、イノシシの縄張りの200 m2以上エリア(餌場)に餌が均等に分配されるようにする。
餌を狙うライバルの野生動物による餌場荒らしを減らし、また、温度や光などの環境要因によるワクチンへの悪影響を避けるために、餌は配布時に土で覆われなければならない。
b.飼養豚については
4週間の間隔で二重経口接種。
すべての飼育ブタが経口で少なくとも1回の経口接種するようにする。
一回の頒布でこれができない場合は、翌日に2回目の頒布することを推奨。
一般的には、飼養豚については、経口接種よりも、ワクチン接種を勧める。
E.頒布後の注意事項
頒布後は頒布地域への立ち入りは避ける。
そのため、狩猟活動は少なくとも5日間、または好ましくは10日間、経口ワクチン頒布地域では、停止する必要がある。
ワクチンは温度の変化と直射日光に敏感。
このため、経口ワクチンは配布時に土で覆われている必要がある。
F.経口ワクチンの保管上の注意
子供の視界と手の届かないところに保管。
-20°C±2°Cで保管。
輸送中の霜取りは避ける。
光から保護。
飼養豚ーの経口接種の場合は、接種直前に解凍する必要がある。
G.特記事項
このワクチンは、家畜、野生動物、および人間にとって完全に安全ではあるが、頒布された経口ワクチンにに触れたり、収集したりすることは絶対に禁止。
液体ワクチンに人が接触した場合は、石鹸と水を使用して、ワクチンで汚染された手と体の部分を徹底的に洗う必要がある。
過剰接種については、10倍接種でも支障はない。
未使用経口ワクチンは製造業者に送り返すか、該当する国内規制に従って安全に処分する必要がある。
H.仕様書作成日時
2016年11月
いくつかの懸念事項
次の点が気になる。
①このワクチンも、野生株とワクチン株とを見分けられるDIVAワクチンではない。
DIVAの経口ワクチンとしては、たとえば、「 CP7E2alf」というワクチンがある。
USDAは、この「CP7_E2」というワクチンに注目しているようだ。
参考「CP7_E2alf oral vaccination confers partial protection against early classical swine fever virus challenge and interferes with pathogeny-related cytokine responses」
「A Review of Classical Swine Fever Virus and Routes of Introduction into the United States and the Potential for Virus Establishment」
②同種の経口ワクチンを使ってのドイツでの実験では、次の点が指摘されている。
若イノシシは豚コレラ経口ワクチンを食べない。
新しい経口ワクチンは食いつきがいいが、古いワクチンは食いつきが悪い。
若イノシシには経口ワクチン効果は薄いので、並行し、ハンティングによる殺処分を行う必要がある。
ちなみに、このサイト「Controlling of CSFV in European wild boar using oral vaccination: A review 2015年11月」では、経口ワクチンによる豚コレラ感染野生イノシシのコントロールの困難性について、いくつかの点をあげていて、興味深い。
なお、日本と同じ経口ワクチンの独ニーダーザクセン州での二年間にわたる野外感染実験では、
摂餌率52.4–67.6%
抗体形成49–60.3%
という数字が出ている。
全体を100とすれば抗体獲得率は25%からよくて40%程度のものとも見られる。
参考「Oral immunisation of wild boar against classical swine fever: evaluation of the first field study in Germany」
③野生イノシシへのワクチン投与により、不定型(Atypical)ウイルスが定在化し、不顕性感染イノシシから飼養豚へのコンタミの危険性が増す。
④今回の豚コレラウイルスはサブサブジェノタイプ2.1dの新種ウイルスなので、今回の経口ワクチンがC株ワクチンであることから、上記に見たような2.1dウイルスの特性に鑑み、その効果の点で疑念が残る。
経口ワクチンについての十分な効果分析はされているのか?
岐阜県ではこれまで「経口ワクチン散布地域で捕獲された野生いのししの国によるシークエンス結果」(捕獲した豚コレラ感染イノシシのウイルスの塩基配列と豚コレラ岐阜株との塩基配列との相同性分析)がこれまで三回発表が行われた。
A.第1期第1回目(3~5月)散布地域
6月10日発表
B.第1期第2回目(7~9月)散布地域
7月26日発表
C.第1期第3回目()散布地域9月27日発表
となっており、上記のシークエンス分析結果では、ワクチン株の塩基配列と相同性を示した例は下記のとおりである。
これまで三回のシークエンス検査でワクチン由来と判明したのは
第一回17頭中2頭
第二回19頭中0頭
第三回16頭中1頭
累計52頭中3頭=5.8%
のみとなっている。
例えば、経口ワクチンの摂餌率を多めに60%と見積もっても、経口ワクチン摂餌による抗体獲得率は、0.058×0.6=0.035(3.5%)にすぎなくなってしまう。
参考「経口ワクチン散布地域で捕獲された野生いのししの国によるシークエンスの結果について」
第一期
第一回
第二回
第二期
第一回
一方、「犬山市、小牧市、春日井市及び瀬戸市(北部)豚コレラ経口ワクチン散布及び野生イノシシの免疫獲得率」にみるように、簡便法で、経口ワクチンのの免疫獲得率を類推する動きもある。
ここにおいては、以下の公式によっている。
愛知県の豚コレライノシシ用の経口ワクチンの免疫獲得率(A)
=
遺伝子検査(PCR)が「-」
and
抗体検査(ELISA)が「+」
であるイノシシ
の頭数(B)
÷
検査頭数(C)
この考え方の前提としては、「抗体検査(ELISA)が「+」」であっても、遺伝子検査(PCR)が「-」の場合は、その抗体は、経口ワクチンによって獲得された抗体である」という前提であるが、果たしてそうであろうか?
ちなみに、昨年9月の岐阜市における第一例の飼養豚の豚コレラ感染例においては、「FA(蛍光抗体法)」、「PCR(遺伝子検査)」、「ELISA(エライザ法)」の判定が一致せずに、陽性確定が遅れた。
正確な経口ワクチンの抗体獲得率は、シークエンス法により遺伝子塩基配列の豚コレラウイルス岐阜株との相同性によって、その抗体が、ワクチン株によるものか?野生株によるものか?を判断しなければならない。
また、経口ワクチンのイノシシの摂餌率についても、オキシテトラサイクリン(Oxytetracycline)をバイト・マーカーにしての、骨への残留率を元にした正確な把握が図られるべきである。
なお、EU②おいては、これら野生生物用の経口ワクチンのバイト・マーカーとして、テトラサイクリンを推奨している。
参考
「平成30年岐阜県豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~ 」
「第1回豚コレラ経口ワクチン対策検討会の概要について」
「Oral immunization of wild boar against classical swine fever: evaluation of the first field study in Germany」
なお、8月に発表された農林水産省調査チームによる「豚コレラの疫学調査に係る中間取りまとめ 」においては、
「豚・イノブタ各3頭及びベイトワクチンを経口投与後14日経過したイノブタ3頭にJPN/27/2019株106.5TCID50を経口投与し、1回目の感染実験の倍の期間となる28日間にわたってこれら3群の観察を続けた。
ベイトワクチンを投与したイノブタは3頭とも症状を示さず、試験終了日まで生残し、剖検において肉眼的病変がないか、あるいは軽微な病変が認められたのみであった。
JPN/27/2019株のウイルス遺伝子は接種後2~4日目から豚・イノブタの血中に検出されるようになり、血中の抗体が接種後10~14日目に陽転した後も、試験終了日まで長期間にわたり検出され続けた。
ベイトワクチンを投与したイノブタの血中にはウイルス接種時点から抗体が検出され、ウイルス遺伝子は試験期間を通じて検出されなかった。 」
としている。
航空散布は果たして有効か?
今回の経口ワクチン散布について、自衛隊からの協力を得て、ヘリコプターから航空散布する構想がる。
しかし、上記の経口ワクチンの仕様書を見る限り、その効果については、多くの疑念が残る。
その第一点は、この経口ワクチンは、温度変化と太陽光線に弱いので、原則、土で被覆師、設置する必要があるとしている点である。
第二は、頒布後に、子供が広い口にしたり手にしたりした場合のリスクを十分に考慮していない点である。
仕様書では「子供が手に触れないように、また、万が一、ワクチン液が人体に触れた場合には、石鹸水で強く洗う」と書かれている。
まして、子供が経口ワクチンを口にするリスクの可能性も残されている。
豚コレラウイルス(CSFV)とアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)とのダブル感染の事態も想定しておかなくてはならない。
もし、野生イノシシに豚コレラウイルスが依然残存している日本に、更にアフリカ豚コレラウイルスが侵入してきたら、どうなるのか?
興味深い研究がここにある。
バルセロナ自治大学のOscar Cabezón氏らの研究によると、
①生後24時間以内に豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシ
と、
②生後無菌室に入れたBグループの野生イノシシ
とに対し、同時にアフリカ豚コレラ感染をさせたところ、
生後無菌室に入れたBグループは程なく臨床症状を示し死亡したのに対して、
すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループは、さして臨床症状を示すことなく、実験の最後まで生存し続けたと言う。
その原因として、この研究グループは、すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシには、インターフェロン阻害物質が出来ていて、著しく劇症性が緩和されていたのだと結論付けている。
参考「African swine fever virus infection in Classical swine fever subclinically infected wild boars」
アフリカ豚コレラ日本上陸でも対応は現在豚コレラ対策と変わらない。
豚コレラにはワクチンはあるが使えない。
アフリカ豚コレラには、そもそもワクチンがない。
ただ、豚コレラとアフリカ豚コレラの決定的に異なるのは、感染力である。
ウイルスの感染力は、細胞感染性を持つウイルス粒子の数によって決定される。
これを、ウイルス力価(Virus Titer)またはウイルス感染価(Virus Infectivity Titer) といい、ウイルス力価の単位は「log 10 HAD 50 /ml」で表される。
ウイルス力価が高いほど、感染から死亡までの日数は短くなり、低いほど、感染から死亡までの日数は長くなる。。
豚コレラのウイルス力価は
低い時は「2 log10 HAD50/ml」以下であり、
中間が「3 log10 HAD50/ml」位であり
高いときが「4 log10 HAD50/ml」以上である。
一方、アフリカ豚コレラのウイルス力価は
低い時は「2 log10 HAD50/ml」以下であり、
中間が「5 log10 HAD50/ml」位であり
高いときが「9 log10 HAD50/ml」以上である。
もし、この豚コレラの倍以上の感染力を持つアフリカ豚コレラが東海地方などに上陸し、これまで豚コレラに感染済みの野生イノシシにダブル感染し始め、慢性型のアフリカ豚コレラ感染豚を促したら、非常に憂慮すべき事態に陥ることは必至である。
以上
(令和元年8月1日 笹山登生 記)
2019年3月31日
1.特性の異なる新種の豚コレラウイルスが、初動のすべてを狂わせていった。
岐阜県に豚コレラ発生の一報が入ってきたのは、2018年9月9日のことだった。
この3月9日で、もう半年になってしまう。
当時、私は約一ヶ月前の8月2日から中国ではじまったアフリカ豚コレラの発生追跡に追われていた。
毎日、中国語のサイトからアフリカ豚コレラの発生情報を検索しては、自らのブログを日々新情報に更新し続けていく、という地道な作業を続けていた。
次々と私の悪い予感があたっていった岐阜県・国の初動体制
岐阜県での豚コレラ発生時にも、第一番に、岐阜発生の「豚コレラ(CSF)」と中国で発生の「アフリカ豚コレラ(ASF)」を混同されるツイートが多数を占め、ツイッター上で私は、その違いの説明に追われていた。
9月9日午前7時41分に私がツイッターで発信していたのは、次のメッセージだった。
「みなさん。お間違いのないようにね。
今回、岐阜市で発生した「豚コレラ」は「古典的豚コレラ」(CSF)というもので、現在、中国で蔓延している「アフリカ豚コレラ」(ASF)とは全く異なるものです。
撲滅も可能です。」
そして、この9月9日のツイッターでは、早くもすでにこんな心配もしていた。
「岐阜市の豚コレラ、アフリカ豚コレラでなく古典的豚コレラだったのは一安心だけど、古典的豚コレラも猪によるウイルス媒介があるのは心配ね。 古典的豚コレラが日本から淘汰清浄国になったのが2007年4月1日から。 その後の過疎地での猪の増加が岐阜県でも相当の数に。 その意味で気になるのだけどね。」
9月10日には次のようなツイッターも、私は発していた。
「たしかに。岐阜市の古典的豚コレラ(CSF)。
発症から、すくなくとも、一週間は、初動鎮圧体制をとるべきなのが、遅れているな。
これで、もし、収まれば、奇跡に近いかも?」
後から見れば、はからずも、このときの私の予感はあたってしまっていた。
確定検査までに大幅なロスタイムが
最初、農林水産省から次のような発表があった。
「(1)9月3日、岐阜県は、岐阜市の養豚場から飼養豚が死亡しているとの通報を受け、検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体により蛍光抗体法(FA)検査。陰性)
その時点では、豚コレラが否定されたことから経過観察。
(2)9月4日、異常が収まらないことから、岐阜県が検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体によりPCR検査)
これも、豚コレラを疑う結果とはならなかった。(9月5日結果判明。ペチスウイルス群遺伝子検査は陽性、PCR増幅産物を用いた豚コレラウイルス簡易的判別は陰性)
(3)9月7日、引き続き異常が認められることから、岐阜県が改めて、検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体により二度目のPCR検査、陽性)
同時に、岐阜県中央家畜保健所が8月24日採取の血液を検体によりエライザ法およびPCR検査を実施。結果は同日判明。エライザ法及びPCR検査、いずれも陽性。
豚コレラを否定できない結果が得られた。
(4)9月8日、岐阜県中央家畜保健所が、発生養豚場の豚ー生体2頭、死体1頭ーから検体を採取。剖検も実施。
この検体を岐阜県中央家畜保健衛生所が検査実施。(①「蛍光抗体法(FA)」と②「PCR法」と③「エライザ法の三種類の検査を実施。同日結果判明。①と③は陽性、②は陰性)
豚コレラの疑いが生じたため、農研機構動物衛生研究部門で精密検査を実施。
9月9日、患畜であることが確定。(朝6時に農研機構検査結果、陽性と発表)」
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
今から見れば、一番大切な初動における、丸6日~7日間のものすごいロス・タイムである。
教科書外の事態が起こっていた!
一体、どうして、このように、確定検査まで、時間がかかってしまったのだろう?
その理由は、おそらく、岐阜県の聴取に対して答えた岐阜市獣医師の次の言葉に集約されるだろう。
「豚コレラは教科書の中の病気。豚コレラに罹患すれば、もっとバタバタと豚が死亡するはずだった。」
つまり、後から説明するように、今回岐阜県・愛知県を襲った豚コレラは、これまでの豚コレラウイルスとは特性の異なる新種のウイルスであることが、すべての初動の動作を狂わせていたのだった。
2.初めは封じ込め楽観論だった岐阜県と農林水産省
その後、岐阜県発の豚コレラ報道が詳細を帯びるにつれ、私は、さらなる初動の生ぬるさに、疑念といらだちを感じ始めていた。
コロコロ変わる証言への不信が
9月9日感染確定発表の翌日、9月10日に、次のような報道があった。
「①1頭が急死した9月3日以降に豚約80頭が相次ぎ死んだことを8日に立ち入り検査するまで岐阜県は把握できず。
②豚が大量に死ぬ間に養豚場は5日に9頭の豚を出荷。
③岐阜県が、8月の時点で複数の豚が衰弱していることを把握していたことがわかった。
④岐阜県はこれまで9月3日に豚の異変を確認したとしていたが、関係者への取材で8月24日に養豚場に調査に入り複数の豚の衰弱を把握していた。
3日豚急死との獣医師報告を受け、解剖結果豚コレラの疑いになつた。」
この内、③の「岐阜県が、8月の時点で複数の豚が衰弱していることを把握していた」とは、8月24日に岐阜県中央家畜保健所が実施した血液検査の結果、岐阜県中央家畜保健所が8月27日に「何らかの感染が起きている可能性があります」と岐阜県畜産研究所に、最終考察の結果報告とアドバイスを求めていたことを指すものと見られる。
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
このような前からの感染疑いストーリーがあって、その後に、ようやく、ここから、上記農林水産省の発表の流れになる。というのが実は真実だったのだ。
「おやおや、当初の話と大幅に違うではないか」というのが、私の率直な印象だった。
初感染の可能性時期は更にさかのぼった
一体、感染の初めはいつまでさかのぼりうるのだろう?
発生養豚場に第三者がはいったのは、8月9日の獣医師である。
ここでは、農場主からは、「元気のない親豚がいる」との報告を受け、さらに8月20日には衰弱している9頭を診察し、日射病によるものと診断し、抗生物質の注射をし、8月23日には、5頭に予防注射、6頭に冷水浣腸を実施している。
8月24日には当該獣医師の要請で、岐阜県家畜保健衛生所に血液検査を依頼し、6頭分について、「臨床検査」「血液検査」「血液生化学検査」を実施した。という。
血液検査の結果、岐阜県中央家畜保健所が8月27日に「何らかの感染が起きている可能性があります」と岐阜県畜産研究所に、最終考察の結果報告とアドバイスを求めていたという。
また、発生元養豚場の人の話として「8月16日~9月3日に約20頭の豚が死んだ」との話もある。
しかし、岐阜県の初期対応検証報告では「8月中旬から9月3日に死亡の20頭や9月3日以降死亡80頭の死体の行き先が判明していない。また、これらの豚の頭数の明確な記録はされていない。」とある。
参考
「初期対応の推移」(9月18日 岐阜県)
「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
では、当該発生養豚場の豚は、いつから豚コレラウイルスに曝露していたのだろうか?
ウイルスの曝露から臨床症状までの過程
ウイルス感染の過程には
①ウイルスへの曝露
②他への感染能力獲得期間(latent period)= 通常は感染から4-7日の範囲
③ウイルス排出開始
④潜伏期間(incubation period) 終了
↓
⑤臨床症状( clinical sign )= 潜伏期間経過後(通常は感染から 2〜15日の範囲 急性症例では3〜7日)
の過程がある。
なお、潜伏期間にはいろいろな説があるが、その各種説の最短と最長を取れば、感染から2日~15日ということになりそうだ。(下図ご参照)
野外での感染の場合は、2週間から4週間という説もあるが、レアなケースと見られる。
参考「Classical Swine Fever—An Updated Review」
ウイルスの感染力
ウイルスの感染力は、細胞感染性を持つウイルス粒子の数によって決定される。
これを、ウイルス力価(Virus Titer)またはウイルス感染価(Virus Infectivity Titer) という。
CSFのウイルス力価の単位は「log 10 HAD 50 /ml」で表す。
ウイルス力価は
低い時は「2 log10 HAD50/ml」以下であり、
中間が「3 log10 HAD50/ml」位であり
高いときが「4 log10 HAD50/ml」以上である。
ウイルス力価が高いほど、感染から死亡までの日数は短くなり、低いほど、感染から死亡までの日数は長くなる。。
8月初旬にはすでに感染拡大か?
9月8日検査検体に用いた血液は、8月24日に採取した血液であり、これがエライザ法およびPCR検査とも陽性だったのだから、当該養豚場の豚の一部は、少なくとも、8月24日には臨床症状を示していたということになる。
そこから最長15日さかのぼったとしても、8月初旬には、当該養豚場の豚は、すでに豚コレラウイルスに曝露していたことになりうる。
最初に獣医師が発生養豚場に入った8月9日を臨床症状を呈した日とすれば、それから最長15日さかのぼったとして、7月25日には、当該養豚場の豚は、ウイルスに曝露していたことになりうる。
変わる農場主の証言
更には、9月11日には次のような報道があった。
「岐阜県は10日、飼育業者が感染を疑われる豚の一部を農作物の肥料の原料として、市内の処理施設に持ち込んでいたと明らかにした。」
まさに当時私は「ひどい話だ」と思わす゛ツイートしてしまうほどの異常事態の続出であった。
しかし、この「豚の一部を農作物の肥料の原料として、市内の処理施設に持ち込んだ」という点については、後に、9月9日に実施された国の豚コレラ疫学調査チームの現地調査の報告書でも同様の記載がなされたが、その後の岐阜県の聞き取り調査では、養豚場主は、このことを否定しており、また、持ち込まれ側のJA岐阜堆肥センターも、それに合わせた証言をした後は、どういうわけか、岐阜県も、そのことについての追求をこれ以降、深くしていないし、化製法違反を問う声もなくなってしまった。
岐阜県の初期対応についての検証報告では「 農場が豚の死体をふん尿に混ぜ堆肥原料として JA ぎふ堆肥センターへ出荷していたかは判断困難。関係者への更なる聞き取りや立ち入り検査を実施していく必要がある」とだけ記されているだけで、その後は、何らの言及もなかった。
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
その時私は9月11日のツイッターで「なんか、嫌な流れになってきたな。県担当者が、そのたびごとに異なる、責任逃れめいた発言を、ころころかえて、繰り返すのは、一番悪いシナリオなのだけどな。」とつぶやいていた。
岐阜県知事も農林水産大臣も、最初はノー天気だった
それでも、当時の岐阜県も農林水産省も、あたかも「封じ込め」間近のような楽観ぶりであった。
岐阜県知事は、平成30年9月11日15時の記者会見で「発生農場についての封じ込めといいますかね、これについては一つ区切りを迎えたということでございます。」と、至って楽観的な見解を述べていた。
当時の齋藤農林水産大臣も、9月9日の農林水産省豚コレラ対策会議の席上で「豚コレラのまん延防止のためには、初動対応がなによりも重要だ。初動で完全に封じ込めるために気を引き締めて対応するよう指示する」と述べたのだったが、実際は、既にこの時点で、初動対応ではなかったのだ。
次の9月11日の記者会見では「農林水産省としては、早期の封じ込めを図るために、引き続き、県、関係省庁等と連携。」との簡単なコメントをしているのみであった。
更に、9月25日の齋藤農林水産大臣記者会見では、岐阜の豚コレラについての言及が、見事に全くなかった。
岐阜県議会の議員も当初は楽観的だった。
地元紙である中日新聞では「豚コレラ問題を受け、岐阜県議と県幹部らが県産豚肉を使ったカツ丼を食べて安全をアピール。「どえらいうまい」と舌鼓を打ちました。」として、議会内でカツ重を食ベる写真まで掲載するという楽観ぶりであった。
ところが、9月14日になり、岐阜県は、岐阜市で野生のイノシシから豚コレラの陽性反応が出たと発表したことで、流れは大きく早期解決には悲観的な方向に変わってしまった。
解決の長期化を予測させる豚コレラ感染イノシシの相次ぐ発見で、早期封じ込めの可能性はどんどん遠のいていったのである。
3.一体、原因は豚なのか?イノシシなのか?
この9月14日の岐阜市での豚コレラ感染イノシシの死体の発表を契機にし、以降、岐阜県は、続々発見される感染イノシシの検査にてんてこ舞いになる羽目となる。
消去法で、野生イノシシを感染元にする愚
当初、感染イノシシの死骸は、当初の発生発見養豚場から8キロ西の岐阜市の椿洞周辺での発見から始まった。
どうして、発生養豚場周辺のイノシシでなく、8キロも離れた地域で感染イノシシが相次いで発見されたのかはわからない。
ただ、8月21日に、ちょうど発生養豚場と椿洞との間に位置する、岐阜市大蔵台の道路と同市諏訪山の山裾で2頭の野生イノシシの死骸が見つかったが、検査をせずに焼却処理したことはわかっている。
その他にも、7月から8月にかけ、岐阜市のいくつかの地点で、イノシシの死骸は発見されていたようである。
一体、最初のイノシシへの豚コレラの感染をどの時点で見るか?によって、初発が発生養豚場内部からなのか?感染イノシシからなのか?は、およそ、推定可能のはずなのだが、あれから半年近くたっての「拡大豚コレラ疫学調査チーム検討会」の調査でも、そこは判然とはしていない。
参考「第5回拡大豚コレラ疫学調査チーム検討会の結果概要(拡大豚コレラ疫学調査チーム(チーム長-津田 知幸)、平成31年2月22日)」
一部に、鳥や猫などを感染媒介要因に上げる向きもあるが、豚コレラの宿主域は下記図の通り、狭い。
豚コレラの宿主は実質、豚とイノシシとクビワペッカリーしかない。
また、カラスへの感染実験もあるが、いずれも、豚コレラの媒介の可能性は低いとの研究結果のようである。
参考「Role of birds in transmission of classical swine fever virus.」
ただ「発生養豚場には瑕疵はなさそうだから」ということで、消去法で、野生イノシシに初発の感染責任を転嫁しているだけである。
農林水産省疫学調査チームの津田知幸氏も9月27日頃は、次のような見解であった。
「豚コレラウイルスは豚とイノシシの体内でしか増えない。豚が先か、イノシシが先か。豚の感染が先である可能性が高い。
堆肥場のふんも感染源になりうる。ウイルス汚染ふんをイノシシが鼻でいじくるケースも」
しかし、いつしか、無難な「イノシシ感染主因説」に変わっていった。
岐阜市柴橋正直市長が12月の定例記者会見で国と県でつくる拡大豚コレラ疫学調査チームが同市椿洞で野生イノシシが最初に感染した可能性があるとの見方を示したことについて「(検討結果の)中身をみると、仮定の話が多い。」と述べたのは至言であった。
いつの間にか忘れ去られた発生元の空の飼料タンクの謎
上記調査チームでは、初発元の発生養豚場においては、飼料由來も医薬品由來も疑われるものはなかったとしている。
ただ、後の拡大豚コレラ疫学調査チームが触れていない点がある。
それは、当初の9月10日農林水産省主催第28回牛豚等疾病小委員会会議録に書かれた次の部分である。
「飼料タンクは数日前に飼料搬入口のふたが破損、降雨により飼料が濡れたため全量を廃棄していた。また飼養豚に異常が認められていたことから、新たな搬入も停止していたため、タンク内は空であった。」
この点のその後の検証については、後の拡大豚コレラ疫学調査チームでは、なにも触れられていないのである。
もし、感染が、「飼料タンクの飼料搬入口ふたが破損する前に発生し、降雨で飼料が濡れ飼料を廃棄する前に発生」していたのだとすると、シナリオはおおきく変わってくるのではないのか?
発生元の堆肥場の原因究明は完全になされたのか?
また、先述の「死亡豚についても、農場内の堆肥場に運ばれ、糞便と混ぜられた後、共同堆肥場に運搬されていた。」については、農場主もJA堆肥センターも否定したことで、その後の追求はされていないが、もし、その事実があったとすれば、それはよく養豚家で行われている堆肥での死亡豚の減量化のために、農場内の堆肥場に運ばれ糞便と混ぜられたのだと思う。
そこに、もし、発酵促進剤や、EM菌液のような補助剤が使われたのだとしたら、本来は、そのことについても、調査は続けられるべきだつたのだろう。
堆肥由來の感染の可能性についての岐阜県や国の調査も不十分と言える。
もし、発生元養豚場主が、8月中旬更には上旬あるいは7月下旬にまでさかのぼりうる時点で、初期感染死亡豚を、JA堆肥センターには運ばないとしても、自分の農場内の堆肥場に、減量化のために積み上げていたとしたら、この堆肥場由來の野生イノシシへの感染拡大は、容易であろう。
衛星写真で見る限りだが、この発生元養豚場の堆肥場と農場外との間には、明確な柵はないように見え、野生イノシシの堆肥場へのアクセスは可能と思われる。
不完全な飼料由來・堆肥由來の感染経路調査
岐阜県畜産研究所が推奨している銘柄豚育成に関するヨモギ原料の推奨飼料についての疑念も残る。
では、どうして、当初の野生イノシシへの豚コレラ感染が、岐阜市西部の椿洞に集中して発生したのだろう?
ここでも、堆肥由來の感染がなかったのかどうなのか?私自身は疑問に思っている。
仮にの話だが、この椿洞の畜産センター公園の真ん前にある岐阜市堆肥センター(岐阜市椿洞813-3)の「エコプラント椿」では、 養鶏農家の鶏ふん、学校等から出る給食の残さ及び岐阜市畜産センター公園の家畜ふん等をブレンド発酵させた環境にもやさしい肥料「椿」を、広く供給している。
下記写真(左が「エコプラント椿」、右が畜産センター公園)の立て看板にあるように、畜産センター公園内でも、ここで製造されたエコ肥料「椿」は、市民のために販売されているようだ。
ここが、感染のハブになってしまった可能性も捨てきれない。
また、今回の感染拡大農場で広く子豚などの死体処理→堆肥化にも使われていたらしき「急速醗酵堆肥化装置(コンポスト)」についても、バイオセキュリティ上のループホールがなかったかどうか?についての検証を進めるべきであろう。
東へ急速に進んだ感染拡大
では、発生養豚場の東への感染イノシシの拡大は何によるものなのか?
発生養豚場から一番近いイノシシ感染場所は、9月30日の芥見影山、10月5日の諏訪山、10月26日の芥見、9月15日の大洞である。
感染拡大の初期の頃の豚コレラ感染イノシシ発見地点は下記の図のとおりである。
これらが、8キロも離れた椿洞のイノシシからの感染とするには無理がある。
むしろ、先述の8月21日に未検査死骸発見の岐阜市大蔵台と同市諏訪山との関連を見たほうが良さそうだ。
これら死亡イノシシが豚コレラ感染によるものかどうかは、今となってはわからないが、初発養豚場周辺の感染拡大が、イノシシを通じて東にウイングを徐々に伸ばしていったのであろう。
豚コレラ感染イノシシ発見が初めて岐阜市以外の隣接市に拡大したのは、9月27日各務原市須衛が最初である。
関市は10月19日関市倉地南に初侵入、
その後、木曽川を越河し可児市に感染拡大が進んだ。
以下は岐阜県各市町村における豚コレラ感染イノシシの初発見日である。
関市10月19日
可児市西囃子10月30日、
山県市11月1日
坂祝町11月24日、
八百津町11月26日、
美濃加茂市12月5日畜産研究所、
川辺町12月24日、
多治見市1月15日、
御嵩町1月21日、
本巣市1月29日
美濃市2月12日、
瑞浪市2月13日、
富加町2月13日、
恵那市2月18日
白川 町3月25日
七宗 町3月26日
郡上 市3月27日
土岐 市4月8日
中津 川 市4月22日
下呂市5月21日
東⽩川村5月21日
養⽼町5月22日
⾼⼭市6月6日
⼤野町6月13日
揖斐川町6月19日
海津市7月12日
,
⾶騨市7月29日,,
⼤垣市8月1日,
垂井町8月2日
,
関ケ原町8月17日
,
以上が、いずれも当該市町村における初侵入日である。
岐阜市の西の隣接市には、
山県市へは11月1日、
本巣市へは1月29日
に初侵入している。
2019年4月30日現在の岐阜県豚コレラ感染イノシシの生息可能域は下記のように、拡大している。
隣県、愛知県への感染野生イノシシの初侵入は、
犬山市へ12月22日
であり、その後
春日井市に1月30日
初侵入している。
下記図赤矢印は、11月3日の時点で、今後の愛知県への感染方向を予測したものである。
12月19日に発生した愛知県犬山市野中の発生地点が、偶然にも、この赤矢印の下に出てしまった。
また、3月27日に発生の瀬戸市北丘町の養豚団地は、偶然にも、この赤い矢印の下の位置に所在していた。
4.飼料由來や堆肥由來の感染経路追求が甘過ぎはしないか?
ここで、豚コレラウイルスの特性を見てみよう。
日本での豚コレラウイルスは古典的豚コレラウイルス(CSFV)と言われるものであり、中国で感染拡大中のアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)とは完全に異なるウイルスである。
豚加工品由來感染リスクはCSFVもASFVも同じ
しかし、ではあるが、その特性を見てみると、例えば生存可能な温度やPH、そして豚肉加工品の中でウイルスが生き残りうる日数などについて見ると、両者、ほぼ同じなのである。
ウイルスが生きながらえる温度
は、
豚コレラウイルスは、Phによつて異なり。
①Ph2の場合、60度の温度で10分で不活化
②Ph14の場合、60度の温度で30分で不活化
との研究がある。
アフリカ豚コレラは
80度の温度では30分で死滅
とのことである。
ウイルスが生きながらえるph
は
アフリカ豚コレラも豚コレラも両者ほとんど同じで。
豚コレラはph4から11の間、
アフリカ豚コレラはph4から13まで
となっている。
また、
肉加工品などに生存しうる最長日数
は
豚コレラの場合
塩蔵・燻製17~188日
未調理肉34~85日
パルマ・プロシュート・ハム189~313日
イベリア豚ハム252日
ソーセージ147日
保管温度により幅あり
参考「CLASSICAL SWINE FEVER INACTIVATION IN MEAT」
アフリカ豚コレラの場合
冷凍肉1000日
空気乾燥ボンレス肉・ミートボール 300日
冷蔵ボンレス肉・ミートボール 110日
塩蔵ボンレス肉・ミートボール 182日
ボンレス肉・ミートボール105 日
燻製ボンレス肉30日
ひき肉105日
調理済みボンレス肉・ミートボール 0日
缶詰肉0日
参考「非洲猪瘟防控」
となっている。
現在岐阜県や愛知県で指導基準で出している警告では
「食品残さ(肉製品)の加熱
肉製品の入った食品残渣を使用されている場合は加熱
(70℃30分以上、80℃3分以上)してから与えてください。」
とは書いてあるものの、実際の場合は、塩分や加工法やPhなどの微妙な条件によって変わってくるようだ。
ある研究では、
①ハムの場合は、
硬化過程(塩漬け→脱水・脱脂肪→エージング)の違いによって豚コレラウイルス生存率が異なり、
②ソーセージの場合は、
スターター(種菌)の違い、肉の粒子の大きさの違い、ソーセージの直径の違い、腸詰めの腸の違い、添加物の違いにより豚コレラウイルス生存率は異なって来る、
との指摘もあるようだ。
参考「CLASSICAL SWINE FEVER INACTIVATION IN MEAT」
現在、中国からの豚肉加工製品から続々アフリカ豚コレラウイルスが隣接国台湾で検出されているが、これらは、取り締まりの厳しくなかった感染初期においての「隠蔽→ミンチ化→冷凍保存」されたものが時を経てウイルス生存のまま、市場に出てきたものである。
アフリカ豚コレラと豚コレラとの豚肉加工冷蔵品の中でのウイルスの生存日数を考えれば、この両者のリスクはほとんど同じと見ていいだろう。
豚コレラ(CSF)ウイルスとアフリカ豚コレラ(ASF)ウイルスと
どこが違いどこが同じ特性なのか?については、次のサイトが参考になる。
「African and classical swine fever: similarities, differences and epidemiological consequences」
中国に学ぶべき「泔水喂猪」徹底規制
中国でのアフリカ豚コレラの発生が、この新年に入り、急速に減少を見せている要因は、徹底的な省区間の生豚の移動禁止措置とともに、「泔水喂猪」の徹底的な取り締まりがあげられる。
「泔水喂猪」=「泔水」(食堂の残飯・残滓、流し水)+「喂」(を飼料にして育てられた)+「猪」(豚)
の意味である。
特に、この禁止措置は、中国の大都市近郊でのアフリカ豚コレラの発生を急速に減少させた。
豚コレラウイルスも、豚肉製品の中で、特に冷凍状態では、アフリカ豚コレラ同様に、長期の生存をし続けている。
このウイルスにみあう飼養規制を日本の養豚業が行っているのかどうか? 不安な点も多い。
懸念するのは、この岐阜県が、とりわけ環境に優しい県を目指し、各種施策を重視しているのに、今回のような豚コレラの蔓延という事態に見舞われたことである。
環境に優しい岐阜県だからこそのループホールはないのか?
どこかに、環境に優しいがためのループホールがあるのではないのか?との疑いの気も持ちも出てくるのだ。
リサイクルは、必ずしも、ウイルスの蔓延阻止にとっては、好循環とは言えない部分が多すぎる。
今回の発生養豚業の経営者の皆様方を見ると、いずれも、格別に、エコ畜産に人一倍ご熱心な方が見受けられるのは、痛ましい。
逆に、本来のエコの逆連鎖が、今回の豚コレラ感染拡大の機動力になってしまっているのではないのか?との疑いも、同時に生まれてきてしまう。
それは「畜産のエコ化が豚コレラ感染拡大を一方で呼び起こしていないか?」との疑念でもある。
例えば、「エコフィード」「リキッドフィード」が、十分な加熱基準の元に作られていることは、重々承知している。
しかし、もし、ウイルスにとって、適度なPhと適度な温度との組み合わせによって、生きながらえるループホールがあるのだとしたら、その点については、十分な点検が必要だろう。
それは、エコ堆肥についても同じことである。
先にも述べた岐阜県畜産研究所推薦のヨモギ使用の飼料についても、さらなる点検が必要だろう。
岐阜県畜産研究所での、堆肥ペレット製造のための堆肥や豚糞の流れがどうなってたのかについても気になる。
今回被害にあわれた養豚業者の中には、全国的な表彰を数多くされている耕畜連携の模範的な養豚家もおられた。
ニンジン栽培と養豚との連携のようである。
このスキームについても、果たして新たな事態におけるループホールがないのか?点検する必要がありそうだ。
5.なぜ、再点検が必要なのか?
それは、これまでのウイルスにない特性をもった新種の豚コレラウイルスだから
重要なポイントとなる遺伝子型
今回の岐阜県での豚コレラ発生以降の農研機構の動きは素早かった。
9月14日には、「農業・食品産業技術総合研究機構」による検出ウイルス遺伝子情報分析が発表され、過去に国内で発症した豚のウイルスや、使用ワクチンと比較すると、配列が明らかに異なったことから「海外由来と考えられる」と指摘。
同時にウイルス系統樹も発表され、
ウイルス系統樹では
今回の岐阜ウイルス「Gifu/2018」は
「Mongolian/2014」と「Chinese/2015」と
相同性は強いが一致せず。
との分析結果が公表された。
ここで、特記すべきは、今回の岐阜県で採取された豚コレラウイルスが遺伝子系統樹では、サブジェノタイプでは「2.1」に分類されるという事実だった。
遺伝子型は2.1bなのか?それとも2.1dなのか?
しかし、当方として知りたいのは、更にその下位の「サブサブジェノタイプ」が何に属しているのか?ということであった。
当時の私の9月17日のツイッターでは、次のようなことをつぶやいている。
「9月14日農研機構発表では、
9月9日発見岐阜県感染豚コレラ感染採取ウイルス「Gifu/2018」系統樹では、
①「Gifu/2018」はサブ・ジェノタイプ2.1型
②「Gifu/2018」は「Mongolian/2014」「Chinese/2015」と相同性強い。
と。
しかしサブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型か?2.1d型か?が書いてない。」
そしておなじく、9月17日のツイッターではこんなことも。
「 農研機構としては、いち早く、岐阜市の豚コレラウイルスのサブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型なのか?それとも2.1d型なのか?を世間に対して明らかにすべきときだと思う。
それによって、同じ海外由来豚コレラ株であっても、感染源推定への、大きな力となりうるのだから。」
どうして、私がここで「サブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型か?2.1d型か?」にこだわったのか?
それは、2.1d型のウイルスは、これまで出現しているウイルスとは著しくその特性が異なっているからである。
もしこのウイルスがサブ・サブ・ジェノタイプ2.1d型であるとすれば、それは、世界の多くの関係者にとっては、驚くべき事態だからであった。
2014年からの中国感染拡大の豚コレラは新種だった!
中国で2014年山東省発生の豚コレラ(CSF)は、これまでC株ワクチンで淘汰の農場を次々襲った。
ここから抽出25のウイルスサンプルは、すべてサブジェノタイプ2.1であり、うち23がサブサブジェノタイプ2.1dであった。
また、2014年から2015年にかけて中国で発生した豚コレラから採取した61のウイルス(2014年採取20,2015年採取41)をサブ・サブ タイプ別に分けると
①2.1d 52
②2.1b 9
であった。
このことから、2.1dタイプは2.1bタイプから分岐したものと思われると、研究グループは結論づけた。
これらサブサブジェノタイプ2.1dウイルスは中国で2014年から2015年にかけ、山東省、江蘇省、河北省、吉林省、黒竜江省で豚コレラ感染が拡大した過程で採取されたものであった。
遺伝子バンクに登録されている代表的な2.1d型ウイルスには次のものがある。
中国
①SDLS1410 (2014.10 山東省) ②SDSG1410(2014.10 同上) ③JSZL1412 (2014.12 江蘇省 ) ④HB150309 (2015.03 湖北省) ⑤ JL150418 (2015.04 吉林省) ⑦NK150425 (2015.04黒竜江省) ⑧SDZC150601 (2015.06山東省)⑨HLJ1 (2015.08 黒竜江省) ⑩BJ2-2017(2017.8.9、北京) ⑪BJ1-2017(2017.8.9、北京) ⑫SDZP01-2015(2015、山東省) ⑬SDYN-2016(2016,山東省) ⑭SDYN-2015(2015,山東省) ⑮SDXJ-2015(2015,山東省)⑯SDWF2-2015(2015,山東省) ⑰SDWF01-2015(2015,山東省) ⑱SDWF-2016(2016,山東省) ⑲SDSH-2016(2016,山東省) ⑳SDQH-2015(2015,山東省) ㉑SDMY-2016(2016,山東省) ㉒SDMY-2015(2015,山東省)㉓SDLY02-2016(2016,山東省) ㉔SDLY01-2016(2016,山東省) ㉕SDLX-2016(2016,山東省) ㉖SDJN02-2014(2014,山東省) ㉗SDJN01-2015(2015,山東省) ㉘SDJN-2016(2016,山東省) ㉙SDJN-2014(2014,山東省)㉚SDGR-2015(2015,山東省) ㉛HeN1505(2015.5.河南省)
なお、韓国の野生イノシシから採取されたウイルス「PC11WB(2011)」もあるが、これについては、議論があるようだ。
参考
「Characterisation of newly emerged isolates of classical swine fever virus in China,2014–2015」
「Complete genomic characteristics and pathogenic analysis of the newly emerged classical swine fever virus in China」
「China struggling to control new strain of CSF」
中国の新種ウイルスには特異な特性が
中国農業科学院哈爾浜獣医研究所による遺伝子分析と感染実験によると、
①ウイルス中和反応のための主要な抗原E2塩基配列に変異(ポジションはR31, I56, K205,A331)がある。
②ウイルスのE2たんばく質塩基配列で極性変化(親水性から疎水性へ)が生じ、これが抗原性と毒性を変化させたものとしている。
③このため、感染実験において、2.1dウイルス感染豚は何の臨床症状も示さず、死亡率も低く、実験の最後まで生き残った。
参考「Genetic Diversity and Positive Selection Analysis of Classical Swine Fever Virus Envelope Protein Gene E2 in East China under C-Strain Vaccination」
これら特性は2006年と2009年に山東省で蔓延の2.1bウイルスとは明らかに異なるものであり、また、これまでC株ワクチンでコントロールされていた農場をも、次々襲ったという。
C株ワクチンを無力化する中国新種豚コレラウイルス
現在、中国で豚コレラ(CSF)のために使われている「HCDV」生ワクチンはC株ワクチンと言われるもので、遺伝子配列はサブジェノタイプ2.1aに属する。
中国は1950年から、このウサギ馴化(lapinized)ワクチン(C株)を使ってきた。
上記の中国農業科学院哈爾浜獣医研究所の研究では、
豚コレラ2.1dウイルスとC株ワクチンとには ①分子変異 と ②抗原性の差異 があり、C株ワクチンは2.1dウイルスに対し有効ではない、としている。
つまり、これまでの旧来型豚ウイルスには万能だったC株ワクチンは、豚コレラ新株2.1dウイルスには、効力が薄いということになりそうだ。
参考「Efficacy evaluation of the C-strain-based vaccines against the subgenotype 2.1d classical swine fever virus emerging in China」
ようやく農研機構が遺伝子型サブサブジェノタイプ2.1dであることを年明けに明らかに
農研機構が、岐阜県の豚コレラウイルスがサブサブジェノタイプ2.1dであることを初めて示唆したのは、今年に入ってのことである。
Microbiology Resource Announcementsの2019年1月17日号に農研機構の西達也さん外発表論文で、
岐阜県で昨年9月に採取の豚コレラウイルス「CSFV/JPN/1/2018」は、中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」と98.9%の相同性を持つことが確認された。
参考「Genome Sequence of a Classical Swine Fever Virus of Subgenotype 2.1, Isolated from a Pig in Japan in 2018」
岐阜県採取の豚コレラウイルスと98.9%の相同性を持つ中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」のゲノム概要は次のとおりである。
「Classical swine fever virus isolate BJ2-2017, complete genome」
この論文は世界中が注目する新たな知見になりうるだろう。
すなわち、2014年から2015年にかけ中国豚コレラ蔓延の過程で「2.1b」から「2.1d」に分岐したウイルスが日本に入っていたのだから。
豚コレラのサブジェノタイプの移転(1.3から2へ)がヨーロッパとアジアに始まっている、と、指摘する向きもある。
参考「Recent phylogenetic analyses have indicated a “switch” of field CSFV from the historical group 1 or 3 to the more recently prevalent group 2 in Europe and Asia .」
日本での感染実験結果は中国の2.1dウイルス特性と全く同じ
中国の研究者が2014-15年の中国蔓延のサブサブジェノタイプ2.1d豚コレラウイルスの分析研究ですでに指摘している「2.1d豚コレラウイルス」の特性は、日本で蔓延中の豚コレラの特性とも、極めて近似している。
ちなみに、2月10日のNHK報道では次のような警告を発していた。
「岐阜県と愛知県の飼育施設で見つかったウイルスは、ブタに高熱を引き起こす一方で、2週間が経過しても死なないことも分かった。農林水産省は「高い発熱が特徴だが、すぐには死なないなど、一般的に言われる症状が出ない可能性もあるので、関係者は症状の特徴を踏まえて早い段階で異変を見つけてほしい」と呼びかけている。」
まさに、中国で発見のサブサブジェノタイプ2.1dウイルスの特性そっくりではないか。
農研機構も、ウイルス11月16日の発表で「当該ウイルスは豚に発熱や白血球減少を引き起こすものの、強毒株と比べ、病原性は低い」
としている。
参考「2018年分離株を用いた豚コレラウイルスの感染試験」
では、中国の2.1d豚コレラウイルスはどこから?
もちろん、中国からの豚肉製品に潜んでいたウイルスが入ってきたという仮説も成り立ちうるが、それでは、まるで雲を掴むような話ではある。
二つの可能性をさぐってみよう。
①岐阜で採取のウイルスと98.9%の相同性を持つ中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」(遺伝子バンクアクセスナンバーMG387218)は、どこから採取されたか?
遺伝子バンクで「MG387218」で確かめると「BJ2-2017」は『09-Aug-2017』に採取されたものである。
この「BJ」を「北京 」と見れば、2017年8月9日に中国 北京で採取されたものと、読み解くことができそうだ。
②もう一つの可能性として、ちょうど、2018年8月29日に、湖北省黄石市陽新県阳新县黄颡口镇三洲村(黃岡市羅田縣)で、アフリカ豚コレラではない、日本と同じ豚コレラが発生していた。
日本の岐阜県愛知県で発見された豚コレラウイルスと同じサブサブジェノタイプ2.1dでこれまで遺伝子バンクに登録されたものが30ある。
ウイルス採取地域別には
山東省-22 北京-2 黒竜江省-2 江蘇省-1 吉林省-1 湖北省-1 河南省-1
農研機構が相同性98.9%としたBJ2-2017は北京で2017年8月9日に採取された
新主ウイルスの遅発的特性を生かせなかった愛知県の早期出荷の愚
豚コレラ生ワクチン開発者の清水悠紀臣北大名誉教授によると
「豚コレラには、欧州の事例をみると、急速に感染が広がって収まる終息型と、持続型に分かれる。
猪の生息密度が高くウイルスの毒力が弱いと持続型。
今回は最初の発生から約4カ月が経過。
持続型ならば撲滅には10年以上かかるかも?」
とのご見解のようである。
参考「豚コレラ撲滅計画を 生ワクチン開発、清水北大名誉教授に聞く」
また、「豚コレラの低病原性ウイルス株は、不顕性の、又は、不定型の慢性症状および無症状の症例を高い割合で誘発する可能性がある。」と指摘する向きもある。
参考「Deciphering the Intricacies of the Swine Fever Virus」
もし、農研機構が、はやくから、今回の岐阜県蔓延の豚コレラウイルスが、サブサブジェノタイプ2.1dに属し、中国での研究によれば、遅発性であり、劇症型でなく、臨床症状を示すまでの時間が長くなる、等の特性を、農林水産省や岐阜県愛知県に熟知させ、ウイルス感染拡大阻止戦略に生かしていれば、豊田市のフアームから長野県宮田村への早まった出荷は阻止出来たはずだ。
この点は、かえすがえすも、残念であった。
6.全く不在だった日本の感染野生イノシシ・コントロール戦略
今回の事態のように、豚コレラに感染した野生イノシシが、これほど感染拡大に寄与するなど、行政担当者には思いもよらなかったことなのだろう。
そもそも、農林水産省では、野生イノシシが感染母体となることすら考えていなかった。
かつて、神奈川県と農林水産省との間に次のようなやり取りがあった。
「Q神奈川県
抗体保有状況調査
野生いのしし抗体検査が削除されたが今回改正で実施しなく てよいか。
A農林水産省
現在の我が国の状況から最初に野生いのししに豚コレラウイルスが侵入することは考えにくいこ とから平時には実施しない」
参考「豚コレラ特定家畜伝染病防疫指針全部変更(知事意見)」
戦略的位置づけが曖昧だったサーベイランス
9月末になり感染野生イノシシ死亡発見例が5例目を数えた時点で、岐阜県は9月22日から、これまでの野生イノシシの死亡報告に加え、捕獲調査を開始した。
参考「野生いのししの調査捕獲の開始について」
私は、この時点で、調査捕獲の非効率性と、果たして、この手順が戦略的手順に沿ったものなのか、疑問視するツイッターをしていた。
一般的なサーベイランスの手順
豚コレラが野生イノシシに感染拡大してしまった後の対策は「Regionalization」(地域限定化)という手法が一般的に用いられる。
その地域限定化のための手法としては、
①サンプルエリアを確定する。
②サーベイランスをする。
③ゾーニング確定(バッファー、コア、監視ゾーン)
④淘汰又はワクチネーション
-a.淘汰(ハンター、罠&殺処分)
-b.淘汰とワクチン併用か?
-c.ワクチン(リングor地域限定)
このうち、②のサーベイランスは次に別れうる。
野生イノシシのサーベイランスの種類
①パッシブ(受動的)
死亡や病気のイノシシの報告を受け、感染か否かを検査する。
②アクティブ(能動的)
イノシシの射殺や罠でかかったものについて、感染か否かを検査する。
③センチネル(Sentinel)(定点観測)
指標となるイノシシを決め、定期検査する。
曖昧だった捕獲調査の戦略目的
岐阜県が行おうとする捕獲調査は、上記サーベイランスの②(アクティブ・サーベイランス)に当たるはずだ。
しかし、どうも、話は、淘汰を兼ねたサーベランスのようにも見える。
そもそも、これほど野生イノシシに感染が拡大した時点で、感染イノシシの完全淘汰等無理な話だ。
そして、その後は、戦略的目的も曖昧なまま、ダラダラと、捕獲調査は続けられた。
新しい、ロープを使ったイノシシの唾液によるサーベイランスの方法
そもそも、捕獲調査によるサーベイランスは、コストが高くつくため、海外の専門家は、「Rope-based oral fluid sampling」という方法を勧めている。
これらの方法は、イノシシなり豚の口内粘液から、豚コレラ ウイルスのサンプルを採取して、状況把握に務める方法である。
以下はその図示である。
①この方法の概念図
②縄と餌
③林の中で仕掛ける
④集めたサンプリング
残念ながら、岐阜県では、サーベイランスのための捕獲か?殺処分のための捕獲か?があいまいなまま続けられたことによって、本来は、早くゾーニング確定による感染地域の限定化を図り地域限定の撲滅化戦略が確立されるべきところが、それが行われないままに、今に至るまで、漫然と続けられている、というのが実情なのだろう。
海外に見る感染野生イノシシ・コントロール戦略
今回の一見を契機に、私は、海外に置ける野生イノシシのコントロール戦略を多く学ぶことが出来た。
例えば次のようなものである。
「Can African swine fever be controlled through wild boar management?」
「AHAW Panel Control and Eradication of CSF in wild boar」
「Feral pig control A practical guide to pig control in Queensland」
「Classical Swine Fever in Wild Boar」
「The control of classical swine fever in wild boar」
その他
これらは、これから日本にも入ってくるであろうアフリカ豚コレラの侵入に備える戦略ともなりうる。
野生イノシシ限定での経口ワクチン投与~いくつかの問題点の指摘~
12月に入り、にわかに、飼養豚にワクチン投与を、という悲痛な叫びが、全国から湧き上がってきた。
農林水産省は、一貫して、これを拒否してきた。
そのかわり、といってはなんだが、野生イノシシ限定での経口ワクチン投与の方針を固めてきた。
実は、私は12月23日のツイッターで次のようなことを言っていた。
「誰か、農林水産省のOIEの専門家、OIEに解釈を正してみたらどうなのかな?
豚コレラの飼養豚への感染を防ぐために、野生イノシシだけ、餌によるワクチン経口摂取をしても、飼養豚の清浄化条件や清浄国復帰 待機期間(waiting period)には影響するのかしないのか?
ちょっと虫のいいやり方だけどネ。」と。
現在の世界の豚コレラウイルスに対するワクチンは次の分類となる。
1.生ワクチン
修飾生ウイルスワクチン(MLVs)
( C-strain ベースの生ワクチン)
2.不活化ワクチン
①マーカー・ワクチン
サブユニット・マーカー・ワクチン
②DIVAワクチン
DNAワクチン
相補性欠失変異体
ウイルス・ベクター・ワクチン
キメラ・ワクチン
今回、農林水産省が、野生イノシシにかぎり、経口ワクチン接種導入予定ワクチンはおそらく、IDT Biologika GmbH社(前身は RIEMSER® 社)のPestiporc Oralワクチンなのだろう。
この豚コレラ用の経口ワクチンはいろいろな豚の好きそうなものから作られているようだ。
ココナッツオイル
トウモロコシの粉
脱脂粉乳
ポーラライト
香料(アーモンド風味など)
など。
参考「Köderentwicklung und Ködervarianten」
しかし、以下、気になる点がいくつかある。
①このワクチンは、野生株とワクチン株とを見分けられるDIVAワクチンではないことである。
DIVAの経口ワクチンも、たとえば、「 CP7E2alf」というワクチンも、あることはあるのだが、導入できないのは知見が伴わなかったのだろう。
参考「CP7_E2alf oral vaccination confers partial protection against early classical swine fever virus challenge and interferes with pathogeny-related cytokine responses」
混乱しているのは、ジビエの業界である。
当面、ワクチン頒布地域は狩猟禁止地域なのだから、混乱は起らないとしても、長期的にはどうか?
野生イノシシで、健康で経口ワクチンを食し、抗体ができたイノシシの位置付けは、野生株で自然感染した不顕性感染イノシシと、同じ扱いになるはずである。
混乱は生じないか?
②同種の経口ワクチンを使ってのドイツでの実験では、次の点が指摘されている。
若イノシシは豚コレラ経口ワクチンを食べない。
新しい経口ワクチンは食いつきがいいが、古いワクチンは食いつきが悪い。
若イノシシには経口ワクチン効果は薄いので、並行し、ハンティングによる殺処分を行う必要がある。
参考「Oral immunisation of wild boar against classical swine fever: uptake studies of new baits and investigations on the stability of lyophilised C-strain vaccine」
③野生イノシシへのワクチン投与により、不定型(Atypical)ウイルスが定在化し、不顕性感染イノシシから飼養豚へのコンタミの危険性が増す。
④そもそも、今回の豚コレラウイルスはサブサブジェノタイプ2.1dの新種ウイルスなので、今回の経口ワクチンがC株ワクチンであることから、上記に見たような2.1dウイルスの特性に鑑み、その効果の点で疑念が残る。
⑤なお、野生イノシシへの経口ワクチン投与がきまったあとも、飼養豚へもワクチン接種をとの要望があるが、一般的には、「飼養豚にはワクチン不使用」を前提にして、野生イノシシに対しワクチンが投与されているようだ。
どうして、野生イノシシに対する経口ワクチン接種と並行して、飼養豚に対して、ワクチンを打つことが出来ないのか?その理由について、下記サイトではこのように述べている。
「いくつかの非常に効果的な 改良型生ウイルスワクチンが、野生イノシシにも飼養豚にも、予防的ワクチン接種として使われている。
しかし、接種した野生イノシシは、野生株で感染したまま生き残っている飼養豚と区別することが出来ないので、改良型生ウイルスワクチンの使用は、血清診断を干渉してしまう。」
「Epidemiology, diagnosis and control of classical swine fever:
Recent developments and future challenges」
7.教訓とすべきは?
まだ、日本の豚コレラ感染は終息したわけではないので、教訓を求めるのは早いかもしれないが、少なくとも、次のことは言えるのかもしれない。
(1).ウイルス特性に応じた感染拡大阻止戦略構築の重要性
今回の豚コレラウイルスが2014年から中国で、すでにC株ワクチンで制御されていた養豚場を次々と襲ったものであったと、早くからわかっていれば、それ遅発性に応じた阻止戦略の構築は可能だったろう。
ウイルス拡散阻止は、まさに、科学なのだ。
農研機構のウイルス分析と特性分析に応じた迅速な農林水産省と政府の戦略構築こそ、ウイルス拡散を阻止しうると思う。
(2)長野県宮田村の悲劇を繰り返させないために
今回はそれが十分にできずに、長野県宮田村のような犠牲者を生んでしまった。
豊田市のTファームから、愛知県中央家畜保健衛生所支所に「豚に食欲不振や流産などの症状が見られる」と通報があったのは2月4日午前9時頃。
1月27日ころから食欲不振の豚が出ていて、2月4日になって6頭に増えたことから通報。
愛知県は豚コレラに関する遺伝子検査を2月5日午前9時から行い、その時点で豊田市の養豚場に出荷の自粛を求めた。
だが、養豚場はその2時間前の2月5日午前7時に宮田村の養豚場に子豚80頭を出荷していた。
そして、同じ2月5日昼前に陽性反応が出た。
宮田村の養豚場に出荷された子豚80頭のうち、79頭から豚コレラの陽性反応が確認。
また、この養豚場から食肉処理場に出荷された別の豚12頭からも陽性反応。
出荷側県の言い分は「「診断した豚は母豚。出荷したのは母豚ではなく子豚。異常がわからなかった」とのこと。
出荷を受けてしまった長野県側の言い分は「(感染の疑いを把握していたのに)出荷を抑制する措置がとられなかったのはなぜなのか、確認しなければいけない」と苦言。
ここで、もし、今回の2.1dウイルスの特性である「遅発性で非劇症性」ということを踏まえ、愛知県側が、慎重な対応をしていれば、宮田村の悲劇は防げたはずだ。
(3).どうして制限解除の直後に新たな感染例が発生してしまうのか?
1月29日に各務原市で発生し、さらに、そこから、すでに本巣市へ感染子豚を出荷していた例をみてみよう。
この各務原市の養豚場は、これまで、搬出・移動制限のかかるスレスレ半径10キロメートル以内にいたのではないのか?
相次いで、美濃加茂市や可児市や関市で豚コレラが発生し、それに伴い、そのいずれもの搬出・移動制限のトリプルの規制を受けるという、地政学的にハンディを伴う制限地域内にあったのではないか?
おそらく、1月29日の各務原市から本巣市への豚コレラ感染子豚売却は、わずかな搬出制限解除の隙間を利用した出荷が、悲劇をうんでしまった、とも、見てとれる。
ここで、これまで発生した各例での搬出制限解除と移動制限解除の日付を、時系列的に見てみよう。
岐阜県内
発生日(カッコ内は殺処分数)→搬出解除(発生から20日後)→移動解除(発生から30日後)
1例 岐阜市岩⽥⻄ N畜産(546) 9/9-9/29ー10/10
2例 岐⾩市椿洞 畜産公園(21) 11/16ー12/4ー12/15
3例 美濃加茂市前平町 県畜研(503)12/5-12/25ー1/5
4例 関市東志摩猟犬場(21イノシシ) 12/10-12/29-1/9
5例 可児市坂⼾ 県農大校(10) 12/15-1/3-1/14
6例 関市肥⽥瀬 K農産(8,083)12/25→1/16-1/26
7例 各務原市鵜沼⽻場町 Aファーム(1,609+と畜場150+本巣市M畜産784)1/29(疫学関連農場の本巣市M畜産へ1/17出荷)→2/18→3/1
本巣市M畜産は疫学関連農場。搬出制限・移動制限なし。
8例 瑞浪市⼤湫町Kファーム(5,765)2/19→3/13→3/24
9例 山県市上願S養豚(1,503) 3/7→3/28→4/7
10例 山県市松尾 H養豚(3,637) 3/23→4/14→4/24
11例 美濃加茂市蜂屋町下蜂屋 I養豚(666) 3/30→4/18→4/28
12例 恵那市⼭岡町久保原 Z畜産第二農場(3,521) 4/9→4/29→5/10
13例 恵那市笠置町⽑呂窪 Tミート(9,830+関連と場67) 4/17→5/10→5/21
14例⼭県市⼤桑 M畜産(2,040) 5/25→6/23→7/9
15例⼭県市⽥栗 H養豚(7,429) 6/5→6/28→7/9
16例 関市東⽥原(1,193) 6/23→7/13→7/24
17例恵那市⼭岡町⾺場 Z畜産(4,810) 7/3→7/25→8/5
18例七宗町神渕 K養豚場(401) 7/10→7/29→ 8/9
19例 恵那市串原⽊根 K養豚(1,007) 7/27→8/17→8/28
20例 揖斐川町谷汲名札 M養豚場(3,610 速報値) 8/17→ →
愛知県内
発生日→搬出解除(発生から20日後)→移動解除(発生から30日後)
1例 豊田市堤本町 Tファーム(5,620+関連1,611+出荷先8,202、明細は下記「愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染」参照) 2/6→3/2→3/13
2例 田原市野⽥町桜 K養豚(1,740+養豚団地15,585) 2/13→3/17→3/25
3例 瀬戸市北丘町 T畜産(4,131) 3/27→5/12→5/23
4例 田原市野⽥町東ひるわ H組合(1,730+関連6,421) 3/28→5/13→5/24
5例 瀬戸市北丘町 Sファーム(1,468) 3/29→5/12→5/23
6例 田原市⾚⽻根町野添原 Sフーズ(1,014) 3/29→5/13→5/24
7例 瀬戸市北丘町 Tファーム(4,641) 4/10→5/12→5/23
8例 田原市⾼松町椿沢(1,024+関連391+関連311) 4/21→5/13→5/24
9例 瀬戸市北丘町(966) 4/22→5/12→5/23
10例 ⽥原市⼤草町⼭⽥ T豚舎(2,410+関連1,304) 5/17 →7/7→7/15
11例 ⽥原市⽥原町東笹尾(1,271) 6/12 →7/7→7/15
12例 ⻄尾市吉良町津平⼤⼊ S養豚(1,141+関連6,687) 6/29 →7/28→8/7
13例 ⻑久⼿市岩作⼤根 Eファーム(583+関連217) 7/8→7/31→8/10
14例 豊田市⻄中⼭町向イ原(307) 8/9→ ?→?
15例 長久手市岩作三ケ峯 愛知県畜産総合試験場(707) 8/9→? →?
2月6日発生の愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染明細
長野県宮田村⼤久保 Uファーム(2,444) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
長野県松本市(38) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
大阪府東大阪市渋川町 N畜産(737) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
岐阜県恵那市岩村町 M畜産(4,284) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
滋賀県近江八幡市加茂町(699) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
その他県内
三重県いなべ市 Mファーム(4,189) 7/24→8/17→8/28
福井県越前市藤⽊町 Nファーム(297)7/29→8/19→8/30
福井県越前市寺地町 S養豚場(688)8/11→ →
岐阜県7例の各務原市の農場の場合、各務原市の農場から本巣市への養豚場への販売感染子豚の移動日は1月17日であった。
その前日平成31年1月16日午前0時に「平成30年12月25日関市K農産での発生に伴う搬出制限区域」が解除された。
おそらく、各務原市から本巣市への子豚の移動は、待ちに待った搬出制限解除をうけてのものだったと思われる。
ここで、流れをまとめると、下記の通りになる。
1月16日「12月25日の関市K農産発生に伴う搬出制限区域」解除
↓
1月17日各務原市Aファームから本巣市M畜産へ子豚80頭出荷
↓
1月29日各務原市Aファームで豚コレラ発生。
↓
1月30日本巣市M畜産で感染確認。
このような流れとなる。
ここで、1月15日時点で各務原のファーム(下図二重赤丸)が置かれていた搬出制限の網は、次の図のとおりであった。(なお、関市の発生養豚場から各務原市の発生養豚場までの距離は、すれすれ10キロメートル以内と見られるが、実際どうだったのかまでは確かめてはいない。)
この各務原市の養豚場のように、四方八方から二重三重に搬出・移動制限がかかってしまった場合、何らかの特例措置を設けないと、この制限区域内にある養豚場は、経営的にも資金繰り的にも、窒息状態におちいり、解除とともに、感染豚までも、安易に出荷してしまうことになりかねない。
この教訓は、今後の搬出移動制限措置の解除の柔軟なあり方の模索に結びつけるべきではなかろうか?
(4).養豚団地のバイオ・セキュリティは大丈夫か?
愛知県田原市野田町の養豚団地での17,325頭規模の殺処分は、今後の養豚団地のあり方に、疑問を抱かせた。
それは、中国のアフリカ豚コレラ感染でも見られた。
近代化した公司経営の超大規模養豚場では、一箇所で、大量の殺処分が行われていた。
1月2日の黒竜江省では73,000頭、 1月12日の江蘇省では68,000頭、
2月18日の広西チワン自治区では23,555頭、の殺処分が行われた
つくづく、畜産の感染症では、規模の経済の原則は通用しないということを感じさせられる。
ウイルス感染阻止の場合、養豚団地は、「集まって強くなる」のではなくて、かえって「集まって弱く」なってしまうのである。
田原市野田桜の養豚団地
田原市東ひるわ養豚団地
瀬戸市北丘町の養豚団地
日本においても、今後、この経験から、養豚団地のバイオセキュリティのあり方を見直す点が、多々ありそうだ。
愛知県の養豚団地では、三つの養豚団地が明暗を分けた。
2月13日に田原市野田町桜の養豚団地内のK養豚から発生した豚コレラは、翌日2月14日には、隣接した団地内の他の養豚農場に感染拡大し、その日の午後6時に愛知県は、団地全部の豚の殺処分を決定した。
その理由として
事務所、堆肥場、死体を保管する冷蔵庫、車両などが共同で利用されていあることを上げた。
また、3月28日に発生の田原市野田町東ひるわのH組合養豚団地においても、
農場毎の明確な境界なし。
中央の作業道路は4農場で利用
堆肥舎や堆肥化施設、死体保管施設共同利用
との理由により、養豚団地全体の殺処分が決定された。
対象的なのは、3月27日に発生の瀬戸市北丘町の養豚団地である。
ここも4つの養豚場があったが最初にT畜産が感染発生、翌日に左隣のSファームに感染拡大したが、ここの団地では、共同利用の施設がなかったために、Mファームを初めとした残りの養豚場は殺処分から免れた。
この例から学ぶとすれば、新しいバイオセキュリティの観点からの養豚団地での共同利用施設のあり方を更に模索する必要があるのではないか?
(5)ワクチン是か非か?
これにつきましては、別のブログ記事「豚コレラ感染拡大で、混乱するワクチン接種是非問題」 にまとめてありますので、そちらをご参照ください。
(6).ブランド豚の再生は可能か?
今回、岐阜県では、いくつもある岐阜県内のブランド豚の産地が軒並み豚コレラでやられてしまった。
影響を受けたのは次のとおりである。(例の数は岐阜県内での数)
①美濃ヘルシーポークー第1例岐阜市と第7例各務原市と第10例山県市
②美濃けんとん・飛騨けんとんー第6例関市。種豚喪失
③ボーノ・ブラウンー美濃加茂市の岐阜県畜産研究所で、ボーノ・ポークの種豚喪失
④文殊にゅうとんー本巣市。第7例から感染子豚80頭を供給された。
⑤寒天育ち豚ー恵那市。愛知県豊田市からの子豚感染
⑥ボーノ・ポークー8例。瑞浪市。
⑦デリシャス・ポークー9例。山県市
⑧はちや豚-11例
岐阜県以外のブランド豚でも、
東大阪市では「なにわポーク」、
豊田市では「三州豚」、
瀬戸市では「新鮮冨豚」
田原市では「みかわポーク」
長野県宮田村では「駒ヶ岳山麓「清流豚」」、
が影響を受けた。
複雑なのは、これらのブランド豚への影響が、ふるさと納税の返礼品にもおよび、当該市町村の財政にも直結してしまっていることである。
これらの市町村では、今回の豚コレラ感染直後に、ふるさと納税の返礼品リストから、豚肉関連を外した。
問題は、これらのブランド豚のスキーム、ひいては、ふるさと納税の返礼品のスキームを維持するために、いわば、工業産品のOEM的に、子豚を県外から供給し、それを育成し、ブランド豚の産地形成を図るというスキームが全国定着してしまっていることである。
果たしてこれが、バイオセキュリティ的に安全なスキームなのか?疑問が残る。
なにはともあれ、これら豚コレラ災禍にみまわれた産地の一日も早い再生を願うものだ。
(7)今後、豚コレラ感染イノシシ対策の課題は、慢性感染イノシシ対策へと移行するだろう。
これから岐阜県の野生イノシシは、慢性(Chronic)豚コレラ臨床症状を呈していくと思われる。
これには急性と異なる対処が求められる。
豚コレラは次の4つのタイプに分けられうる。
①急性豚コレラ(Acute)
②慢性豚コレラ(Chronic)
③先天性豚コレラ(母子感染)(Congenital)
④軽症型豚コレラ(死産などが現れる)(Mild)
これらのタイプによって、潜伏期間も臨床症状も異なってくる。
この中で、慢性豚コレラは、豚コレラが風土病化する要因をはらんでいる。
慢性豚コレラは下記のような急性とは異なった特性を持つ。
特に、潜伏期間が急性に比して極端に長く、また、ウイルス排出期間も長期にわたるところが特徴である。
対策も、中長期的な観点にたった戦略構築が求められる。
参考「Classical Swine Fever—An Updated Review」
8.おわりにーダブル感染の悪夢到来にそなえるべしー
それにしても、どうして、岐阜県も愛知県も農林水産省も、豚コレラ対応の初動を誤ったのか?
それは、農研機構が、発生直後に、今回のウイルスが新種であると分析してたのに、政府・両県とも、遅発性というウイルス特性にマッチしたウイルス対応戦略をうちだせなかったからだ。
ひとえに、政治・行政の責任であるといえる。
豚コレラに続くアフリカ豚コレラの脅威
こうして、日本が岐阜での豚コレラ(CSF)問題に追われている間に、中国でのアフリカ豚コレラ(ASF)は、中国国内では一応の終息の方向をみせてはいる。
しかし、一方、豚肉加工製品を通じてのウイルスの検疫での摘発は台湾を初め塁乗的に増えつつある。
これらの豚肉製品に潜むウイルスは、中国でのアフリカ豚コレラ感染拡大のごく初期に、隠蔽的に肉加工材料に回された感染肉・ミンチ肉などが、冷凍状態のまま保存され、中にウイルスを生きながらえさせながら加工肉にまわされて、今、ウイルスが日の目を見ているものと思われる。
また、中国と国境を接するヴェトナムやモンゴルでは、アフリカ豚コレラの発生が増加しつつある。
日本は、豚コレラのみならず、アフリカ豚コレラ感染拡大の危険も、一触即発の状態にあるとみられる。
ダブル感染のブラック・ストーリーはあるか?
あえて、ブラック・ストーリーを提示するわけではないが、もし、野生イノシシに豚コレラウイルスが依然残存している日本に、更にアフリカ豚コレラウイルスが侵入してきたら、どうなるのか?
興味深い研究がここにある。
バルセロナ自治大学のOscar Cabezón氏らの研究によると、
①生後24時間以内に豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシ
と、
②生後無菌室に入れたBグループの野生イノシシ
とに対し、同時にアフリカ豚コレラ感染をさせたところ、
生後無菌室に入れたBグループは程なく臨床症状を示し死亡したのに対して、
すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループは、さして臨床症状を示すことなく、実験の最後まで生存し続けた
と言う。
参考「African swine fever virus infection in Classical swine fever subclinically infected wild boars.」
その原因として、この研究グループは、すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシには、インターフェロン阻害物質が出来ていて、著しく劇症性が緩和されていたのだと結論付けている。
「転ばぬ先の杖戦略」が必要
この研究の評価は別として、もし、今後、日本本土にアフリカ豚コレラウイルスが侵入し、岐阜県や愛知県の山中にいるであろう、すでに豚コレラウイルスに感染した野生イノシシにCSFVとASFVとのダブル感染した場合、この研究実験のように、不顕性感染のイノシシが増加するのであろうか?
ここいらで、日本も、本格的な野生イノシシ・コントロール戦略を確立し、上記のようなブラック・ストーリーの出現に備えるべき時期にきているのかも知れない。(終わり)
2019年3月3日記述 笹山 登生
2019年3月3日
1.特性の異なる新種の豚コレラウイルスが、初動のすべてを狂わせていった。
岐阜県に豚コレラ発生の一報が入ってきたのは、2018年9月9日のことだった。
この3月9日で、もう半年になってしまう。
当時、私は約一ヶ月前の8月2日から中国ではじまったアフリカ豚コレラの発生追跡に追われていた。
毎日、中国語のサイトからアフリカ豚コレラの発生情報を検索しては、自らのブログを日々新情報に更新し続けていく、という地道な作業を続けていた。
次々と私の悪い予感があたっていった岐阜県・国の初動体制
岐阜県での豚コレラ発生時にも、第一番に、岐阜発生の「豚コレラ(CSF)」と中国で発生の「アフリカ豚コレラ(ASF)」を混同されるツイートが多数を占め、ツイッター上で私は、その違いの説明に追われていた。
9月9日午前7時41分に私がツイッターで発信していたのは、次のメッセージだった。
「みなさん。お間違いのないようにね。
今回、岐阜市で発生した「豚コレラ」は「古典的豚コレラ」(CSF)というもので、現在、中国で蔓延している「アフリカ豚コレラ」(ASF)とは全く異なるものです。
撲滅も可能です。」
そして、この9月9日のツイッターでは、早くもすでにこんな心配もしていた。
「岐阜市の豚コレラ、アフリカ豚コレラでなく古典的豚コレラだったのは一安心だけど、古典的豚コレラも猪によるウイルス媒介があるのは心配ね。 古典的豚コレラが日本から淘汰清浄国になったのが2007年4月1日から。 その後の過疎地での猪の増加が岐阜県でも相当の数に。 その意味で気になるのだけどね。」
9月10日には次のようなツイッターも、私は発していた。
「たしかに。岐阜市の古典的豚コレラ(CSF)。
発症から、すくなくとも、一週間は、初動鎮圧体制をとるべきなのが、遅れているな。
これで、もし、収まれば、奇跡に近いかも?」
後から見れば、はからずも、このときの私の予感はあたってしまっていた。
確定検査までに大幅なロスタイムが
最初、農林水産省から次のような発表があった。
「(1)9月3日、岐阜県は、岐阜市の養豚場から飼養豚が死亡しているとの通報を受け、検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体により蛍光抗体法(FA)検査。陰性)
その時点では、豚コレラが否定されたことから経過観察。
(2)9月4日、異常が収まらないことから、岐阜県が検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体によりPCR検査)
これも、豚コレラを疑う結果とはならなかった。(9月5日結果判明。ペチスウイルス群遺伝子検査は陽性、PCR増幅産物を用いた豚コレラウイルス簡易的判別は陰性)
(3)9月7日、引き続き異常が認められることから、岐阜県が改めて、検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体により二度目のPCR検査、陽性)
同時に、岐阜県中央家畜保健所が8月24日採取の血液を検体によりエライザ法およびPCR検査を実施。結果は同日判明。エライザ法及びPCR検査、いずれも陽性。
豚コレラを否定できない結果が得られた。
(4)9月8日、岐阜県中央家畜保健所が、発生養豚場の豚ー生体2頭、死体1頭ーから検体を採取。剖検も実施。
この検体を岐阜県中央家畜保健衛生所が検査実施。(①「蛍光抗体法(FA)」と②「PCR法」と③「エライザ法の三種類の検査を実施。同日結果判明。①と③は陽性、②は陰性)
豚コレラの疑いが生じたため、農研機構動物衛生研究部門で精密検査を実施。
9月9日、患畜であることが確定。(朝6時に農研機構検査結果、陽性と発表)」
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
今から見れば、一番大切な初動における、丸6日~7日間のものすごいロス・タイムである。
教科書外の事態が起こっていた!
一体、どうして、このように、確定検査まで、時間がかかってしまったのだろう?
その理由は、おそらく、岐阜県の聴取に対して答えた岐阜市獣医師の次の言葉に集約されるだろう。
「豚コレラは教科書の中の病気。豚コレラに罹患すれば、もっとバタバタと豚が死亡するはずだった。」
つまり、後から説明するように、今回岐阜県・愛知県を襲った豚コレラは、これまでの豚コレラウイルスとは特性の異なる新種のウイルスであることが、すべての初動の動作を狂わせていたのだった。
2.初めは封じ込め楽観論だった岐阜県と農林水産省
その後、岐阜県発の豚コレラ報道が詳細を帯びるにつれ、私は、さらなる初動の生ぬるさに、疑念といらだちを感じ始めていた。
コロコロ変わる証言への不信が
9月9日感染確定発表の翌日、9月10日に、次のような報道があった。
「①1頭が急死した9月3日以降に豚約80頭が相次ぎ死んだことを8日に立ち入り検査するまで岐阜県は把握できず。
②豚が大量に死ぬ間に養豚場は5日に9頭の豚を出荷。
③岐阜県が、8月の時点で複数の豚が衰弱していることを把握していたことがわかった。
④岐阜県はこれまで9月3日に豚の異変を確認したとしていたが、関係者への取材で8月24日に養豚場に調査に入り複数の豚の衰弱を把握していた。
3日豚急死との獣医師報告を受け、解剖結果豚コレラの疑いになつた。」
この内、③の「岐阜県が、8月の時点で複数の豚が衰弱していることを把握していた」とは、8月24日に岐阜県中央家畜保健所が実施した血液検査の結果、岐阜県中央家畜保健所が8月27日に「何らかの感染が起きている可能性があります」と岐阜県畜産研究所に、最終考察の結果報告とアドバイスを求めていたことを指すものと見られる。
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
このような前からの感染疑いストーリーがあって、その後に、ようやく、ここから、上記農林水産省の発表の流れになる。というのが実は真実だったのだ。
「おやおや、当初の話と大幅に違うではないか」というのが、私の率直な印象だった。
初感染の可能性時期は更にさかのぼった
一体、感染の初めはいつまでさかのぼりうるのだろう?
発生養豚場に第三者がはいったのは、8月9日の獣医師である。
ここでは、農場主からは、「元気のない親豚がいる」との報告を受け、さらに8月20日には衰弱している9頭を診察し、日射病によるものと診断し、抗生物質の注射をし、8月23日には、5頭に予防注射、6頭に冷水浣腸を実施している。
8月24日には当該獣医師の要請で、岐阜県家畜保健衛生所に血液検査を依頼し、6頭分について、「臨床検査」「血液検査」「血液生化学検査」を実施した。という。
血液検査の結果、岐阜県中央家畜保健所が8月27日に「何らかの感染が起きている可能性があります」と岐阜県畜産研究所に、最終考察の結果報告とアドバイスを求めていたという。
また、発生元養豚場の人の話として「8月16日~9月3日に約20頭の豚が死んだ」との話もある。
しかし、岐阜県の初期対応検証報告では「8月中旬から9月3日に死亡の20頭や9月3日以降死亡80頭の死体の行き先が判明していない。また、これらの豚の頭数の明確な記録はされていない。」とある。
参考
「初期対応の推移」(9月18日 岐阜県)
「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
では、当該発生養豚場の豚は、いつから豚コレラウイルスに曝露していたのだろうか?
ウイルスの曝露から臨床症状までの過程
ウイルス感染の過程には
①ウイルスへの曝露
②他への感染能力獲得期間(latent period)= 通常は感染から4-7日の範囲
③ウイルス排出開始
④潜伏期間(incubation period) 終了
↓
⑤臨床症状( clinical sign )= 潜伏期間経過後(通常は感染から 2〜15日の範囲 急性症例では3〜7日)
の過程がある。
なお、潜伏期間にはいろいろな説があるが、その各種説の最短と最長を取れば、感染から2日~15日ということになりそうだ。(下図ご参照)
野外での感染の場合は、2週間から4週間という説もあるが、レアなケースと見られる。
参考「Classical Swine Fever—An Updated Review」
ウイルスの感染力
ウイルスの感染力は、細胞感染性を持つウイルス粒子の数によって決定される。
これを、ウイルス力価(Virus Titer)またはウイルス感染価(Virus Infectivity Titer) という。
CSFのウイルス力価の単位は「log 10 HAD 50 /ml」で表す。
ウイルス力価は
低い時は「2 log10 HAD50/ml」以下であり、
中間が「3 log10 HAD50/ml」位であり
高いときが「4 log10 HAD50/ml」以上である。
ウイルス力価が高いほど、感染から死亡までの日数は短くなり、低いほど、感染から死亡までの日数は長くなる。。
8月初旬にはすでに感染拡大か?
9月8日検査検体に用いた血液は、8月24日に採取した血液であり、これがエライザ法およびPCR検査とも陽性だったのだから、当該養豚場の豚の一部は、少なくとも、8月24日には臨床症状を示していたということになる。
そこから最長15日さかのぼったとしても、8月初旬には、当該養豚場の豚は、すでに豚コレラウイルスに曝露していたことになりうる。
最初に獣医師が発生養豚場に入った8月9日を臨床症状を呈した日とすれば、それから最長15日さかのぼったとして、7月25日には、当該養豚場の豚は、ウイルスに曝露していたことになりうる。
変わる農場主の証言
更には、9月11日には次のような報道があった。
「岐阜県は10日、飼育業者が感染を疑われる豚の一部を農作物の肥料の原料として、市内の処理施設に持ち込んでいたと明らかにした。」
まさに当時私は「ひどい話だ」と思わす゛ツイートしてしまうほどの異常事態の続出であった。
しかし、この「豚の一部を農作物の肥料の原料として、市内の処理施設に持ち込んだ」という点については、後に、9月9日に実施された国の豚コレラ疫学調査チームの現地調査の報告書でも同様の記載がなされたが、その後の岐阜県の聞き取り調査では、養豚場主は、このことを否定しており、また、持ち込まれ側のJA岐阜堆肥センターも、それに合わせた証言をした後は、どういうわけか、岐阜県も、そのことについての追求をこれ以降、深くしていないし、化製法違反を問う声もなくなってしまった。
岐阜県の初期対応についての検証報告では「 農場が豚の死体をふん尿に混ぜ堆肥原料として JA ぎふ堆肥センターへ出荷していたかは判断困難。関係者への更なる聞き取りや立ち入り検査を実施していく必要がある」とだけ記されているだけで、その後は、何らの言及もなかった。
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
その時私は9月11日のツイッターで「なんか、嫌な流れになってきたな。県担当者が、そのたびごとに異なる、責任逃れめいた発言を、ころころかえて、繰り返すのは、一番悪いシナリオなのだけどな。」とつぶやいていた。
岐阜県知事も農林水産大臣も、最初はノー天気だった
それでも、当時の岐阜県も農林水産省も、あたかも「封じ込め」間近のような楽観ぶりであった。
岐阜県知事は、平成30年9月11日15時の記者会見で「発生農場についての封じ込めといいますかね、これについては一つ区切りを迎えたということでございます。」と、至って楽観的な見解を述べていた。
当時の齋藤農林水産大臣も、9月9日の農林水産省豚コレラ対策会議の席上で「豚コレラのまん延防止のためには、初動対応がなによりも重要だ。初動で完全に封じ込めるために気を引き締めて対応するよう指示する」と述べたのだったが、実際は、既にこの時点で、初動対応ではなかったのだ。
次の9月11日の記者会見では「農林水産省としては、早期の封じ込めを図るために、引き続き、県、関係省庁等と連携。」との簡単なコメントをしているのみであった。
更に、9月25日の齋藤農林水産大臣記者会見では、岐阜の豚コレラについての言及が、見事に全くなかった。
岐阜県議会の議員も当初は楽観的だった。
地元紙である中日新聞では「豚コレラ問題を受け、岐阜県議と県幹部らが県産豚肉を使ったカツ丼を食べて安全をアピール。「どえらいうまい」と舌鼓を打ちました。」として、議会内でカツ重を食ベる写真まで掲載するという楽観ぶりであった。
ところが、9月14日になり、岐阜県は、岐阜市で野生のイノシシから豚コレラの陽性反応が出たと発表したことで、流れは大きく早期解決には悲観的な方向に変わってしまった。
解決の長期化を予測させる豚コレラ感染イノシシの相次ぐ発見で、早期封じ込めの可能性はどんどん遠のいていったのである。
3.一体、原因は豚なのか?イノシシなのか?
この9月14日の岐阜市での豚コレラ感染イノシシの死体の発表を契機にし、以降、岐阜県は、続々発見される感染イノシシの検査にてんてこ舞いになる羽目となる。
消去法で、野生イノシシを感染元にする愚
当初、感染イノシシの死骸は、当初の発生発見養豚場から8キロ西の岐阜市の椿洞周辺での発見から始まった。
どうして、発生養豚場周辺のイノシシでなく、8キロも離れた地域で感染イノシシが相次いで発見されたのかはわからない。
ただ、8月21日に、ちょうど発生養豚場と椿洞との間に位置する、岐阜市大蔵台の道路と同市諏訪山の山裾で2頭の野生イノシシの死骸が見つかったが、検査をせずに焼却処理したことはわかっている。
その他にも、7月から8月にかけ、岐阜市のいくつかの地点で、イノシシの死骸は発見されていたようである。
一体、最初のイノシシへの豚コレラの感染をどの時点で見るか?によって、初発が発生養豚場内部からなのか?感染イノシシからなのか?は、およそ、推定可能のはずなのだが、あれから半年近くたっての「拡大豚コレラ疫学調査チーム検討会」の調査でも、そこは判然とはしていない。
参考「第5回拡大豚コレラ疫学調査チーム検討会の結果概要(拡大豚コレラ疫学調査チーム(チーム長-津田 知幸)、平成31年2月22日)」
一部に、鳥や猫などを感染媒介要因に上げる向きもあるが、豚コレラの宿主域は下記図の通り、狭い。
豚コレラの宿主は実質、豚とイノシシとクビワペッカリーしかない。
また、カラスへの感染実験もあるが、いずれも、豚コレラの媒介の可能性は低いとの研究結果のようである。
参考「Role of birds in transmission of classical swine fever virus.」
ただ「発生養豚場には瑕疵はなさそうだから」ということで、消去法で、野生イノシシに初発の感染責任を転嫁しているだけである。
農林水産省疫学調査チームの津田知幸氏も9月27日頃は、次のような見解であった。
「豚コレラウイルスは豚とイノシシの体内でしか増えない。豚が先か、イノシシが先か。豚の感染が先である可能性が高い。
堆肥場のふんも感染源になりうる。ウイルス汚染ふんをイノシシが鼻でいじくるケースも」
しかし、いつしか、無難な「イノシシ感染主因説」に変わっていった。
岐阜市柴橋正直市長が12月の定例記者会見で国と県でつくる拡大豚コレラ疫学調査チームが同市椿洞で野生イノシシが最初に感染した可能性があるとの見方を示したことについて「(検討結果の)中身をみると、仮定の話が多い。」と述べたのは至言であった。
いつの間にか忘れ去られた発生元の空の飼料タンクの謎
上記調査チームでは、初発元の発生養豚場においては、飼料由來も医薬品由來も疑われるものはなかったとしている。
ただ、後の拡大豚コレラ疫学調査チームが触れていない点がある。
それは、当初の9月10日農林水産省主催第28回牛豚等疾病小委員会会議録に書かれた次の部分である。
「飼料タンクは数日前に飼料搬入口のふたが破損、降雨により飼料が濡れたため全量を廃棄していた。また飼養豚に異常が認められていたことから、新たな搬入も停止していたため、タンク内は空であった。」
この点のその後の検証については、後の拡大豚コレラ疫学調査チームでは、なにも触れられていないのである。
もし、感染が、「飼料タンクの飼料搬入口ふたが破損する前に発生し、降雨で飼料が濡れ飼料を廃棄する前に発生」していたのだとすると、シナリオはおおきく変わってくるのではないのか?
発生元の堆肥場の原因究明は完全になされたのか?
また、先述の「死亡豚についても、農場内の堆肥場に運ばれ、糞便と混ぜられた後、共同堆肥場に運搬されていた。」については、農場主もJA堆肥センターも否定したことで、その後の追求はされていないが、もし、その事実があったとすれば、それはよく養豚家で行われている堆肥での死亡豚の減量化のために、農場内の堆肥場に運ばれ糞便と混ぜられたのだと思う。
そこに、もし、発酵促進剤や、EM菌液のような補助剤が使われたのだとしたら、本来は、そのことについても、調査は続けられるべきだつたのだろう。
堆肥由來の感染の可能性についての岐阜県や国の調査も不十分と言える。
もし、発生元養豚場主が、8月中旬更には上旬あるいは7月下旬にまでさかのぼりうる時点で、初期感染死亡豚を、JA堆肥センターには運ばないとしても、自分の農場内の堆肥場に、減量化のために積み上げていたとしたら、この堆肥場由來の野生イノシシへの感染拡大は、容易であろう。
衛星写真で見る限りだが、この発生元養豚場の堆肥場と農場外との間には、明確な柵はないように見え、野生イノシシの堆肥場へのアクセスは可能と思われる。
不完全な飼料由來・堆肥由來の感染経路調査
岐阜県畜産研究所が推奨している銘柄豚育成に関するヨモギ原料の推奨飼料についての疑念も残る。
では、どうして、当初の野生イノシシへの豚コレラ感染が、岐阜市西部の椿洞に集中して発生したのだろう?
ここでも、堆肥由來の感染がなかったのかどうなのか?私自身は疑問に思っている。
仮にの話だが、この椿洞の畜産センター公園の真ん前にある岐阜市堆肥センター(岐阜市椿洞813-3)の「エコプラント椿」では、 養鶏農家の鶏ふん、学校等から出る給食の残さ及び岐阜市畜産センター公園の家畜ふん等をブレンド発酵させた環境にもやさしい肥料「椿」を、広く供給している。
下記写真(左が「エコプラント椿」、右が畜産センター公園)の立て看板にあるように、畜産センター公園内でも、ここで製造されたエコ肥料「椿」は、市民のために販売されているようだ。
ここが、感染のハブになってしまった可能性も捨てきれない。
また、今回の感染拡大農場で広く子豚などの死体処理→堆肥化にも使われていたらしき「急速醗酵堆肥化装置(コンポスト)」についても、バイオセキュリティ上のループホールがなかったかどうか?についての検証を進めるべきであろう。
東へ急速に進んだ感染拡大
では、発生養豚場の東への感染イノシシの拡大は何によるものなのか?
発生養豚場から一番近いイノシシ感染場所は、9月30日の芥見影山、10月5日の諏訪山、10月26日の芥見、9月15日の大洞である。
感染拡大の初期の頃の豚コレラ感染イノシシ発見地点は下記の図のとおりである。
これらが、8キロも離れた椿洞のイノシシからの感染とするには無理がある。
むしろ、先述の8月21日に未検査死骸発見の岐阜市大蔵台と同市諏訪山との関連を見たほうが良さそうだ。
これら死亡イノシシが豚コレラ感染によるものかどうかは、今となってはわからないが、初発養豚場周辺の感染拡大が、イノシシを通じて東にウイングを徐々に伸ばしていったのであろう。
豚コレラ感染イノシシ発見が初めて岐阜市以外の隣接市に拡大したのは、9月27日各務原市須衛が最初である。
関市は10月19日関市倉地南に初侵入、
その後、木曽川を越河し可児市に感染拡大が
可児市西囃子10月30日、
坂祝町11月24日、
八百津町11月26日、
美濃加茂市12月5日畜産研究所、
川辺町12月24日、
多治見市1月15日、
御嵩町1月21日、
美濃市2月12日、
瑞浪市2月13日、
富加町2月13日、
恵那市2月18日
白川 町3月25日
七宗 町3月26日
郡上 市3月27日
土岐 市4月8日
中津 川 市4月22日
が、いずれも当該市町村における初侵入日である。
岐阜市の西の隣接市には、
山県市へは11月1日、
本巣市へは2月18日
に初侵入している。
2019年4月30日現在の岐阜県豚コレラ感染イノシシの生息可能域は下記のように、拡大している。
隣県、愛知県への感染野生イノシシの初侵入は、
犬山市へ12月22日
であり、その後
春日井市に1月30日
初侵入している。
下記図赤矢印は、11月3日の時点で、今後の愛知県への感染方向を予測したものである。
12月19日に発生した愛知県犬山市野中の発生地点が、偶然にも、この赤矢印の下に出てしまった。
また、3月27日に発生の瀬戸市北丘町の養豚団地は、偶然にも、この赤い矢印の下の位置に所在していた。
4.飼料由來や堆肥由來の感染経路追求が甘過ぎはしないか?
ここで、豚コレラウイルスの特性を見てみよう。
日本での豚コレラウイルスは古典的豚コレラウイルス(CSFV)と言われるものであり、中国で感染拡大中のアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)とは完全に異なるウイルスである。
豚加工品由來感染リスクはCSFVもASFVも同じ
しかし、ではあるが、その特性を見てみると、例えば生存可能な温度やPH、そして豚肉加工品の中でウイルスが生き残りうる日数などについて見ると、両者、ほぼ同じなのである。
ウイルスが生きながらえる温度
は、
豚コレラウイルスは、Phによつて異なり。
①Ph2の場合、60度の温度で10分で不活化
②Ph14の場合、60度の温度で30分で不活化
との研究がある。
アフリカ豚コレラは
80度の温度では30分で死滅
とのことである。
ウイルスが生きながらえるph
は
アフリカ豚コレラも豚コレラも両者ほとんど同じで。
豚コレラはph4から11の間、
アフリカ豚コレラはph4から13まで
となっている。
また、
肉加工品などに生存しうる最長日数
は
豚コレラの場合
塩蔵・燻製17~188日
未調理肉34~85日
パルマ・プロシュート・ハム189~313日
イベリア豚ハム252日
ソーセージ147日
保管温度により幅あり
参考「CLASSICAL SWINE FEVER INACTIVATION IN MEAT」
アフリカ豚コレラの場合
冷凍肉1000日
空気乾燥ボンレス肉・ミートボール 300日
冷蔵ボンレス肉・ミートボール 110日
塩蔵ボンレス肉・ミートボール 182日
ボンレス肉・ミートボール105 日
燻製ボンレス肉30日
ひき肉105日
調理済みボンレス肉・ミートボール 0日
缶詰肉0日
参考「非洲猪瘟防控」
となっている。
現在岐阜県や愛知県で指導基準で出している警告では
「食品残さ(肉製品)の加熱
肉製品の入った食品残渣を使用されている場合は加熱
(70℃30分以上、80℃3分以上)してから与えてください。」
とは書いてあるものの、実際の場合は、塩分や加工法やPhなどの微妙な条件によって変わってくるようだ。
ある研究では、
①ハムの場合は、
硬化過程(塩漬け→脱水・脱脂肪→エージング)の違いによって豚コレラウイルス生存率が異なり、
②ソーセージの場合は、
スターター(種菌)の違い、肉の粒子の大きさの違い、ソーセージの直径の違い、腸詰めの腸の違い、添加物の違いにより豚コレラウイルス生存率は異なって来る、
との指摘もあるようだ。
参考「CLASSICAL SWINE FEVER INACTIVATION IN MEAT」
現在、中国からの豚肉加工製品から続々アフリカ豚コレラウイルスが隣接国台湾で検出されているが、これらは、取り締まりの厳しくなかった感染初期においての「隠蔽→ミンチ化→冷凍保存」されたものが時を経てウイルス生存のまま、市場に出てきたものである。
アフリカ豚コレラと豚コレラとの豚肉加工冷蔵品の中でのウイルスの生存日数を考えれば、この両者のリスクはほとんど同じと見ていいだろう。
豚コレラ(CSF)ウイルスとアフリカ豚コレラ(ASF)ウイルスと
どこが違いどこが同じ特性なのか?については、次のサイトが参考になる。
「African and classical swine fever: similarities, differences and epidemiological consequences」
中国に学ぶべき「泔水喂猪」徹底規制
中国でのアフリカ豚コレラの発生が、この新年に入り、急速に減少を見せている要因は、徹底的な省区間の生豚の移動禁止措置とともに、「泔水喂猪」の徹底的な取り締まりがあげられる。
「泔水喂猪」=「泔水」(食堂の残飯・残滓、流し水)+「喂」(を飼料にして育てられた)+「猪」(豚)
の意味である。
特に、この禁止措置は、中国の大都市近郊でのアフリカ豚コレラの発生を急速に減少させた。
豚コレラウイルスも、豚肉製品の中で、特に冷凍状態では、アフリカ豚コレラ同様に、長期の生存をし続けている。
このウイルスにみあう飼養規制を日本の養豚業が行っているのかどうか? 不安な点も多い。
懸念するのは、この岐阜県が、とりわけ環境に優しい県を目指し、各種施策を重視しているのに、今回のような豚コレラの蔓延という事態に見舞われたことである。
環境に優しい岐阜県だからこそのループホールはないのか?
どこかに、環境に優しいがためのループホールがあるのではないのか?との疑いの気も持ちも出てくるのだ。
リサイクルは、必ずしも、ウイルスの蔓延阻止にとっては、好循環とは言えない部分が多すぎる。
今回の発生養豚業の経営者の皆様方を見ると、いずれも、格別に、エコ畜産に人一倍ご熱心な方が見受けられるのは、痛ましい。
逆に、本来のエコの逆連鎖が、今回の豚コレラ感染拡大の機動力になってしまっているのではないのか?との疑いも、同時に生まれてきてしまう。
それは「畜産のエコ化が豚コレラ感染拡大を一方で呼び起こしていないか?」との疑念でもある。
例えば、「エコフィード」「リキッドフィード」が、十分な加熱基準の元に作られていることは、重々承知している。
しかし、もし、ウイルスにとって、適度なPhと適度な温度との組み合わせによって、生きながらえるループホールがあるのだとしたら、その点については、十分な点検が必要だろう。
それは、エコ堆肥についても同じことである。
先にも述べた岐阜県畜産研究所推薦のヨモギ使用の飼料についても、さらなる点検が必要だろう。
岐阜県畜産研究所での、堆肥ペレット製造のための堆肥や豚糞の流れがどうなってたのかについても気になる。
今回被害にあわれた養豚業者の中には、全国的な表彰を数多くされている耕畜連携の模範的な養豚家もおられた。
ニンジン栽培と養豚との連携のようである。
このスキームについても、果たして新たな事態におけるループホールがないのか?点検する必要がありそうだ。
5.なぜ、再点検が必要なのか?
それは、これまでのウイルスにない特性をもった新種の豚コレラウイルスだから
重要なポイントとなる遺伝子型
今回の岐阜県での豚コレラ発生以降の農研機構の動きは素早かった。
9月14日には、「農業・食品産業技術総合研究機構」による検出ウイルス遺伝子情報分析が発表され、過去に国内で発症した豚のウイルスや、使用ワクチンと比較すると、配列が明らかに異なったことから「海外由来と考えられる」と指摘。
同時にウイルス系統樹も発表され、
ウイルス系統樹では
今回の岐阜ウイルス「Gifu/2018」は
「Mongolian/2014」と「Chinese/2015」と
相同性は強いが一致せず。
との分析結果が公表された。
ここで、特記すべきは、今回の岐阜県で採取された豚コレラウイルスが遺伝子系統樹では、サブジェノタイプでは「2.1」に分類されるという事実だった。
遺伝子型は2.1bなのか?それとも2.1dなのか?
しかし、当方として知りたいのは、更にその下位の「サブサブジェノタイプ」が何に属しているのか?ということであった。
当時の私の9月17日のツイッターでは、次のようなことをつぶやいている。
「9月14日農研機構発表では、
9月9日発見岐阜県感染豚コレラ感染採取ウイルス「Gifu/2018」系統樹では、
①「Gifu/2018」はサブ・ジェノタイプ2.1型
②「Gifu/2018」は「Mongolian/2014」「Chinese/2015」と相同性強い。
と。
しかしサブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型か?2.1d型か?が書いてない。」
そしておなじく、9月17日のツイッターではこんなことも。
「 農研機構としては、いち早く、岐阜市の豚コレラウイルスのサブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型なのか?それとも2.1d型なのか?を世間に対して明らかにすべきときだと思う。
それによって、同じ海外由来豚コレラ株であっても、感染源推定への、大きな力となりうるのだから。」
どうして、私がここで「サブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型か?2.1d型か?」にこだわったのか?
それは、2.1d型のウイルスは、これまで出現しているウイルスとは著しくその特性が異なっているからである。
もしこのウイルスがサブ・サブ・ジェノタイプ2.1d型であるとすれば、それは、世界の多くの関係者にとっては、驚くべき事態だからであった。
2014年からの中国感染拡大の豚コレラは新種だった!
中国で2014年山東省発生の豚コレラ(CSF)は、これまでC株ワクチンで淘汰の農場を次々襲った。
ここから抽出25のウイルスサンプルは、すべてサブジェノタイプ2.1であり、うち23がサブサブジェノタイプ2.1dであった。
また、2014年から2015年にかけて中国で発生した豚コレラから採取した61のウイルス(2014年採取20,2015年採取41)をサブ・サブ タイプ別に分けると
①2.1d 52
②2.1b 9
であった。
このことから、2.1dタイプは2.1bタイプから分岐したものと思われると、研究グループは結論づけた。
これらサブサブジェノタイプ2.1dウイルスは中国で2014年から2015年にかけ、山東省、江蘇省、河北省、吉林省、黒竜江省で豚コレラ感染が拡大した過程で採取されたものであった。
遺伝子バンクに登録されている代表的な2.1d型ウイルスには次のものがある。
中国
①SDLS1410 (2014.10 山東省) ②SDSG1410(2014.10 同上) ③JSZL1412 (2014.12 江蘇省 ) ④HB150309 (2015.03 湖北省) ⑤ JL150418 (2015.04 吉林省) ⑦NK150425 (2015.04黒竜江省) ⑧SDZC150601 (2015.06山東省)⑨HLJ1 (2015.08 黒竜江省) ⑩BJ2-2017(2017.8.9、北京) ⑪BJ1-2017(2017.8.9、北京) ⑫SDZP01-2015(2015、山東省) ⑬SDYN-2016(2016,山東省) ⑭SDYN-2015(2015,山東省) ⑮SDXJ-2015(2015,山東省)⑯SDWF2-2015(2015,山東省) ⑰SDWF01-2015(2015,山東省) ⑱SDWF-2016(2016,山東省) ⑲SDSH-2016(2016,山東省) ⑳SDQH-2015(2015,山東省) ㉑SDMY-2016(2016,山東省) ㉒SDMY-2015(2015,山東省)㉓SDLY02-2016(2016,山東省) ㉔SDLY01-2016(2016,山東省) ㉕SDLX-2016(2016,山東省) ㉖SDJN02-2014(2014,山東省) ㉗SDJN01-2015(2015,山東省) ㉘SDJN-2016(2016,山東省) ㉙SDJN-2014(2014,山東省)㉚SDGR-2015(2015,山東省) ㉛HeN1505(2015.5.河南省)
なお、韓国の野生イノシシから採取されたウイルス「PC11WB(2011)」もあるが、これについては、議論があるようだ。
参考
「Characterisation of newly emerged isolates of classical swine fever virus in China,2014–2015」
「Complete genomic characteristics and pathogenic analysis of the newly emerged classical swine fever virus in China」
「China struggling to control new strain of CSF」
中国の新種ウイルスには特異な特性が
中国農業科学院哈爾浜獣医研究所による遺伝子分析と感染実験によると、
①ウイルス中和反応のための主要な抗原E2塩基配列に変異(ポジションはR31, I56, K205,A331)がある。
②ウイルスのE2たんばく質塩基配列で極性変化(親水性から疎水性へ)が生じ、これが抗原性と毒性を変化させたものとしている。
③このため、感染実験において、2.1dウイルス感染豚は何の臨床症状も示さず、死亡率も低く、実験の最後まで生き残った。
参考「Genetic Diversity and Positive Selection Analysis of Classical Swine Fever Virus Envelope Protein Gene E2 in East China under C-Strain Vaccination」
これら特性は2006年と2009年に山東省で蔓延の2.1bウイルスとは明らかに異なるものであり、また、これまでC株ワクチンでコントロールされていた農場をも、次々襲ったという。
C株ワクチンを無力化する中国新種豚コレラウイルス
現在、中国で豚コレラ(CSF)のために使われている「HCDV」生ワクチンはC株ワクチンと言われるもので、遺伝子配列はサブジェノタイプ2.1aに属する。
中国は1950年から、このウサギ馴化(lapinized)ワクチン(C株)を使ってきた。
上記の中国農業科学院哈爾浜獣医研究所の研究では、
豚コレラ2.1dウイルスとC株ワクチンとには ①分子変異 と ②抗原性の差異 があり、C株ワクチンは2.1dウイルスに対し有効ではない、としている。
つまり、これまでの旧来型豚ウイルスには万能だったC株ワクチンは、豚コレラ新株2.1dウイルスには、効力が薄いということになりそうだ。
参考「Efficacy evaluation of the C-strain-based vaccines against the subgenotype 2.1d classical swine fever virus emerging in China」
ようやく農研機構が遺伝子型サブサブジェノタイプ2.1dであることを年明けに明らかに
農研機構が、岐阜県の豚コレラウイルスがサブサブジェノタイプ2.1dであることを初めて示唆したのは、今年に入ってのことである。
Microbiology Resource Announcementsの2019年1月17日号に農研機構の西達也さん外発表論文で、
岐阜県で昨年9月に採取の豚コレラウイルス「CSFV/JPN/1/2018」は、中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」と98.9%の相同性を持つことが確認された。
参考「Genome Sequence of a Classical Swine Fever Virus of Subgenotype 2.1, Isolated from a Pig in Japan in 2018」
岐阜県採取の豚コレラウイルスと98.9%の相同性を持つ中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」のゲノム概要は次のとおりである。
「Classical swine fever virus isolate BJ2-2017, complete genome」
この論文は世界中が注目する新たな知見になりうるだろう。
すなわち、2014年から2015年にかけ中国豚コレラ蔓延の過程で「2.1b」から「2.1d」に分岐したウイルスが日本に入っていたのだから。
豚コレラのサブジェノタイプの移転(1.3から2へ)がヨーロッパとアジアに始まっている、と、指摘する向きもある。
参考「Recent phylogenetic analyses have indicated a “switch” of field CSFV from the historical group 1 or 3 to the more recently prevalent group 2 in Europe and Asia .」
日本での感染実験結果は中国の2.1dウイルス特性と全く同じ
中国の研究者が2014-15年の中国蔓延のサブサブジェノタイプ2.1d豚コレラウイルスの分析研究ですでに指摘している「2.1d豚コレラウイルス」の特性は、日本で蔓延中の豚コレラの特性とも、極めて近似している。
ちなみに、2月10日のNHK報道では次のような警告を発していた。
「岐阜県と愛知県の飼育施設で見つかったウイルスは、ブタに高熱を引き起こす一方で、2週間が経過しても死なないことも分かった。農林水産省は「高い発熱が特徴だが、すぐには死なないなど、一般的に言われる症状が出ない可能性もあるので、関係者は症状の特徴を踏まえて早い段階で異変を見つけてほしい」と呼びかけている。」
まさに、中国で発見のサブサブジェノタイプ2.1dウイルスの特性そっくりではないか。
農研機構も、ウイルス11月16日の発表で「当該ウイルスは豚に発熱や白血球減少を引き起こすものの、強毒株と比べ、病原性は低い」
としている。
参考「2018年分離株を用いた豚コレラウイルスの感染試験」
では、中国の2.1d豚コレラウイルスはどこから?
もちろん、中国からの豚肉製品に潜んでいたウイルスが入ってきたという仮説も成り立ちうるが、それでは、まるで雲を掴むような話ではある。
二つの可能性をさぐってみよう。
①岐阜で採取のウイルスと98.9%の相同性を持つ中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」(遺伝子バンクアクセスナンバーMG387218)は、どこから採取されたか?
遺伝子バンクで「MG387218」で確かめると「BJ2-2017」は『09-Aug-2017』に採取されたものである。
この「BJ」を「北京 」と見れば、2017年8月9日に中国 北京で採取されたものと、読み解くことができそうだ。
②もう一つの可能性として、ちょうど、2018年8月29日に、湖北省黄石市陽新県阳新县黄颡口镇三洲村(黃岡市羅田縣)で、アフリカ豚コレラではない、日本と同じ豚コレラが発生していた。
日本の岐阜県愛知県で発見された豚コレラウイルスと同じサブサブジェノタイプ2.1dでこれまで遺伝子バンクに登録されたものが30ある。
ウイルス採取地域別には
山東省-22 北京-2 黒竜江省-2 江蘇省-1 吉林省-1 湖北省-1 河南省-1
農研機構が相同性98.9%としたBJ2-2017は北京で2017年8月9日に採取された
新主ウイルスの遅発的特性を生かせなかった愛知県の早期出荷の愚
豚コレラ生ワクチン開発者の清水悠紀臣北大名誉教授によると
「豚コレラには、欧州の事例をみると、急速に感染が広がって収まる終息型と、持続型に分かれる。
猪の生息密度が高くウイルスの毒力が弱いと持続型。
今回は最初の発生から約4カ月が経過。
持続型ならば撲滅には10年以上かかるかも?」
とのご見解のようである。
参考「豚コレラ撲滅計画を 生ワクチン開発、清水北大名誉教授に聞く」
また、「豚コレラの低病原性ウイルス株は、不顕性の、又は、不定型の慢性症状および無症状の症例を高い割合で誘発する可能性がある。」と指摘する向きもある。
参考「Deciphering the Intricacies of the Swine Fever Virus」
もし、農研機構が、はやくから、今回の岐阜県蔓延の豚コレラウイルスが、サブサブジェノタイプ2.1dに属し、中国での研究によれば、遅発性であり、劇症型でなく、臨床症状を示すまでの時間が長くなる、等の特性を、農林水産省や岐阜県愛知県に熟知させ、ウイルス感染拡大阻止戦略に生かしていれば、豊田市のフアームから長野県宮田村への早まった出荷は阻止出来たはずだ。
この点は、かえすがえすも、残念であった。
6.全く不在だった日本の感染野生イノシシ・コントロール戦略
今回の事態のように、豚コレラに感染した野生イノシシが、これほど感染拡大に寄与するなど、行政担当者には思いもよらなかったことなのだろう。
そもそも、農林水産省では、野生イノシシが感染母体となることすら考えていなかった。
かつて、神奈川県と農林水産省との間に次のようなやり取りがあった。
「Q神奈川県
抗体保有状況調査
野生いのしし抗体検査が削除されたが今回改正で実施しなく てよいか。
A農林水産省
現在の我が国の状況から最初に野生いのししに豚コレラウイルスが侵入することは考えにくいこ とから平時には実施しない」
参考「豚コレラ特定家畜伝染病防疫指針全部変更(知事意見)」
戦略的位置づけが曖昧だったサーベイランス
9月末になり感染野生イノシシ死亡発見例が5例目を数えた時点で、岐阜県は9月22日から、これまでの野生イノシシの死亡報告に加え、捕獲調査を開始した。
参考「野生いのししの調査捕獲の開始について」
私は、この時点で、調査捕獲の非効率性と、果たして、この手順が戦略的手順に沿ったものなのか、疑問視するツイッターをしていた。
一般的なサーベイランスの手順
豚コレラが野生イノシシに感染拡大してしまった後の対策は「Regionalization」(地域限定化)という手法が一般的に用いられる。
その地域限定化のための手法としては、
①サンプルエリアを確定する。
②サーベイランスをする。
③ゾーニング確定(バッファー、コア、監視ゾーン)
④淘汰又はワクチネーション
-a.淘汰(ハンター、罠&殺処分)
-b.淘汰とワクチン併用か?
-c.ワクチン(リングor地域限定)
このうち、②のサーベイランスは次に別れうる。
野生イノシシのサーベイランスの種類
①パッシブ(受動的)
死亡や病気のイノシシの報告を受け、感染か否かを検査する。
②アクティブ(能動的)
イノシシの射殺や罠でかかったものについて、感染か否かを検査する。
③センチネル(Sentinel)(定点観測)
指標となるイノシシを決め、定期検査する。
曖昧だった捕獲調査の戦略目的
岐阜県が行おうとする捕獲調査は、上記サーベイランスの②(アクティブ・サーベイランス)に当たるはずだ。
しかし、どうも、話は、淘汰を兼ねたサーベランスのようにも見える。
そもそも、これほど野生イノシシに感染が拡大した時点で、感染イノシシの完全淘汰等無理な話だ。
そして、その後は、戦略的目的も曖昧なまま、ダラダラと、捕獲調査は続けられた。
新しい、ロープを使ったイノシシの唾液によるサーベイランスの方法
そもそも、捕獲調査によるサーベイランスは、コストが高くつくため、海外の専門家は、「Rope-based oral fluid sampling」という方法を勧めている。
これらの方法は、イノシシなり豚の口内粘液から、豚コレラ ウイルスのサンプルを採取して、状況把握に務める方法である。
以下はその図示である。
①この方法の概念図
②縄と餌
③林の中で仕掛ける
④集めたサンプリング
残念ながら、岐阜県では、サーベイランスのための捕獲か?殺処分のための捕獲か?があいまいなまま続けられたことによって、本来は、早くゾーニング確定による感染地域の限定化を図り地域限定の撲滅化戦略が確立されるべきところが、それが行われないままに、今に至るまで、漫然と続けられている、というのが実情なのだろう。
海外に見る感染野生イノシシ・コントロール戦略
今回の一見を契機に、私は、海外に置ける野生イノシシのコントロール戦略を多く学ぶことが出来た。
例えば次のようなものである。
「Can African swine fever be controlled through wild boar management?」
「AHAW Panel Control and Eradication of CSF in wild boar」
「Feral pig control A practical guide to pig control in Queensland」
「Classical Swine Fever in Wild Boar」
「The control of classical swine fever in wild boar」
その他
これらは、これから日本にも入ってくるであろうアフリカ豚コレラの侵入に備える戦略ともなりうる。
野生イノシシ限定での経口ワクチン投与~いくつかの問題点の指摘~
12月に入り、にわかに、飼養豚にワクチン投与を、という悲痛な叫びが、全国から湧き上がってきた。
農林水産省は、一貫して、これを拒否してきた。
そのかわり、といってはなんだが、野生イノシシ限定での経口ワクチン投与の方針を固めてきた。
実は、私は12月23日のツイッターで次のようなことを言っていた。
「誰か、農林水産省のOIEの専門家、OIEに解釈を正してみたらどうなのかな?
豚コレラの飼養豚への感染を防ぐために、野生イノシシだけ、餌によるワクチン経口摂取をしても、飼養豚の清浄化条件や清浄国復帰 待機期間(waiting period)には影響するのかしないのか?
ちょっと虫のいいやり方だけどネ。」と。
現在の世界の豚コレラウイルスに対するワクチンは次の分類となる。
1.生ワクチン
修飾生ウイルスワクチン(MLVs)
( C-strain ベースの生ワクチン)
2.不活化ワクチン
①マーカー・ワクチン
サブユニット・マーカー・ワクチン
②DIVAワクチン
DNAワクチン
相補性欠失変異体
ウイルス・ベクター・ワクチン
キメラ・ワクチン
今回、農林水産省が、野生イノシシにかぎり、経口ワクチン接種導入予定ワクチンはおそらく、IDT Biologika GmbH社(前身は RIEMSER® 社)のPestiporc Oralワクチンなのだろう。
この豚コレラ用の経口ワクチンはいろいろな豚の好きそうなものから作られているようだ。
ココナッツオイル
トウモロコシの粉
脱脂粉乳
ポーラライト
香料(アーモンド風味など)
など。
参考「Köderentwicklung und Ködervarianten」
しかし、以下、気になる点がいくつかある。
①このワクチンは、野生株とワクチン株とを見分けられるDIVAワクチンではないことである。
DIVAの経口ワクチンも、たとえば、「 CP7E2alf」というワクチンも、あることはあるのだが、導入できないのは知見が伴わなかったのだろう。
参考「CP7_E2alf oral vaccination confers partial protection against early classical swine fever virus challenge and interferes with pathogeny-related cytokine responses」
混乱しているのは、ジビエの業界である。
当面、ワクチン頒布地域は狩猟禁止地域なのだから、混乱は起らないとしても、長期的にはどうか?
野生イノシシで、健康で経口ワクチンを食し、抗体ができたイノシシの位置付けは、野生株で自然感染した不顕性感染イノシシと、同じ扱いになるはずである。
混乱は生じないか?
②同種の経口ワクチンを使ってのドイツでの実験では、次の点が指摘されている。
若イノシシは豚コレラ経口ワクチンを食べない。
新しい経口ワクチンは食いつきがいいが、古いワクチンは食いつきが悪い。
若イノシシには経口ワクチン効果は薄いので、並行し、ハンティングによる殺処分を行う必要がある。
参考「Oral immunisation of wild boar against classical swine fever: uptake studies of new baits and investigations on the stability of lyophilised C-strain vaccine」
③野生イノシシへのワクチン投与により、不定型(Atypical)ウイルスが定在化し、不顕性感染イノシシから飼養豚へのコンタミの危険性が増す。
④そもそも、今回の豚コレラウイルスはサブサブジェノタイプ2.1dの新種ウイルスなので、今回の経口ワクチンがC株ワクチンであることから、上記に見たような2.1dウイルスの特性に鑑み、その効果の点で疑念が残る。
⑤なお、野生イノシシへの経口ワクチン投与がきまったあとも、飼養豚へもワクチン接種をとの要望があるが、一般的には、「飼養豚にはワクチン不使用」を前提にして、野生イノシシに対しワクチンが投与されているようだ。
どうして、野生イノシシに対する経口ワクチン接種と並行して、飼養豚に対して、ワクチンを打つことが出来ないのか?その理由について、下記サイトではこのように述べている。
「いくつかの非常に効果的な 改良型生ウイルスワクチンが、野生イノシシにも飼養豚にも、予防的ワクチン接種として使われている。
しかし、接種した野生イノシシは、野生株で感染したまま生き残っている飼養豚と区別することが出来ないので、改良型生ウイルスワクチンの使用は、血清診断を干渉してしまう。」
「Epidemiology, diagnosis and control of classical swine fever:
Recent developments and future challenges」
7.教訓とすべきは?
まだ、日本の豚コレラ感染は終息したわけではないので、教訓を求めるのは早いかもしれないが、少なくとも、次のことは言えるのかもしれない。
(1).ウイルス特性に応じた感染拡大阻止戦略構築の重要性
今回の豚コレラウイルスが2014年から中国で、すでにC株ワクチンで制御されていた養豚場を次々と襲ったものであったと、早くからわかっていれば、それ遅発性に応じた阻止戦略の構築は可能だったろう。
ウイルス拡散阻止は、まさに、科学なのだ。
農研機構のウイルス分析と特性分析に応じた迅速な農林水産省と政府の戦略構築こそ、ウイルス拡散を阻止しうると思う。
(2)長野県宮田村の悲劇を繰り返させないために
今回はそれが十分にできずに、長野県宮田村のような犠牲者を生んでしまった。
豊田市のTファームから、愛知県中央家畜保健衛生所支所に「豚に食欲不振や流産などの症状が見られる」と通報があったのは2月4日午前9時頃。
1月27日ころから食欲不振の豚が出ていて、2月4日になって6頭に増えたことから通報。
愛知県は豚コレラに関する遺伝子検査を2月5日午前9時から行い、その時点で豊田市の養豚場に出荷の自粛を求めた。
だが、養豚場はその2時間前の2月5日午前7時に宮田村の養豚場に子豚80頭を出荷していた。
そして、同じ2月5日昼前に陽性反応が出た。
宮田村の養豚場に出荷された子豚80頭のうち、79頭から豚コレラの陽性反応が確認。
また、この養豚場から食肉処理場に出荷された別の豚12頭からも陽性反応。
出荷側県の言い分は「「診断した豚は母豚。出荷したのは母豚ではなく子豚。異常がわからなかった」とのこと。
出荷を受けてしまった長野県側の言い分は「(感染の疑いを把握していたのに)出荷を抑制する措置がとられなかったのはなぜなのか、確認しなければいけない」と苦言。
ここで、もし、今回の2.1dウイルスの特性である「遅発性で非劇症性」ということを踏まえ、愛知県側が、慎重な対応をしていれば、宮田村の悲劇は防げたはずだ。
(3).どうして制限解除の直後に新たな感染例が発生してしまうのか?
1月29日に各務原市で発生し、さらに、そこから、すでに本巣市へ感染子豚を出荷していた例をみてみよう。
この各務原市の養豚場は、これまで、搬出・移動制限のかかるスレスレ半径10キロメートル以内にいたのではないのか?
相次いで、美濃加茂市や可児市や関市で豚コレラが発生し、それに伴い、そのいずれもの搬出・移動制限のトリプルの規制を受けるという、地政学的にハンディを伴う制限地域内にあったのではないか?
おそらく、1月29日の各務原市から本巣市への豚コレラ感染子豚売却は、わずかな搬出制限解除の隙間を利用した出荷が、悲劇をうんでしまった、とも、見てとれる。
ここで、これまで発生した各例での搬出制限解除と移動制限解除の日付を、時系列的に見てみよう。
岐阜県内
発生日(カッコ内は殺処分数)→搬出解除(発生から20日後)→移動解除(発生から30日後)
1例 岐阜市N畜産(546) 9/9-9/29ー10/10
2例 畜産公園(21) 11/16ー12/4ー12/15
3例 県畜研(503)12/5-12/25ー1/5
4例 関市猟犬場(21イノシシ) 12/10-12/29-1/9
5例 県農大校(10) 12/15-1/3-1/14
6例 関市K農産(8,083)12/25→1/16-1/26
7例 各務原市Aファーム(1,609+と畜場150+本巣市M畜産784)1/29(疫学関連農場の本巣市M畜産へ1/17出荷)→2/18→3/1
本巣市M畜産は疫学関連農場。搬出制限・移動制限なし。
8例 瑞浪市Kファーム(5,765)2/19→3/13→3/24
9例 山県市S養豚(1,503) 3/7→3/28→4/7
10例 山県市H養豚(3,637) 3/23→4/14→4/24
11例 美濃加茂市I養豚(666) 3/30→4/18→4/28
12例 恵那市Z畜産第二農場(3,521) 4/9→4/29→5/10
13例 恵那市Tミート(9,830+関連と場67) 4/17→5/10→5/21
14例⼭県市⼤桑 M畜産(2,040) 5/25→6/23→7/9
15例⼭県市⽥栗 H養豚(7,429) 6/5→6/28→7/9
16例 関市東⽥原(1,193) 6/23→7/13→7/24
17例恵那市⼭岡町⾺場 Z畜産(4,810) 7/3→7/25→8/5
18例七宗町神渕 K養豚場(401) 7/10→7/29→ 8/9
19例 恵那市串原⽊根 K養豚(1,007) 7/27→8/17→8/28
愛知県内
発生日→搬出解除(発生から20日後)→移動解除(発生から30日後)
1例 豊田市 Tファーム(5,620+関連1,611+出荷先8,202、明細は下記「愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染」参照) 2/6→3/2→3/13
2例 田原市 K養豚(1,740+養豚団地15,585) 2/13→3/17→3/25
3例 瀬戸市 T畜産(4,131) 3/27→5/12→5/23
4例 田原市 H組合(1,730+関連6,421) 3/28→5/13→5/24
5例 瀬戸市 Sファーム(1,468) 3/29→5/12→5/23
6例 田原市 Sフーズ(1,014) 3/29→5/13→5/24
7例 瀬戸市 Tファーム(4,641) 4/10→5/12→5/23
8例 田原市(1,024+関連391+関連311) 4/21→5/13→5/24
9例 瀬戸市(966) 4/22→5/12→5/23
10例 ⽥原市⼤草町⼭⽥ T豚舎(2,410+関連1,304) 5/17 →7/7→7/15
11例 ⽥原市⽥原町東笹尾(1,271) 6/12 →7/7→7/15
12例 ⻄尾市吉良町津平⼤⼊ S養豚(1,141+関連6,687) 6/29 →7/28→8/7
13例 ⻑久⼿市岩作⼤根 Eファーム(583+関連217) 7/8→7/31→8/10
14例 豊田市(307) 8/9→ ?→?
15例 長久手市 愛知県畜産総合試験場(約700) 8/9→? →?
2月6日発生の愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染明細
長野県宮田村Uファーム(2,444) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
長野県松本市(38) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
大阪府東大阪市N畜産(737) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
岐阜県恵那市(4,284) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
滋賀県近江八幡市(699) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
その他県内
三重県いなべ市(4,189) 7/24→8/17→8/28
福井県越前市(297)7/29→8/19→8/30
岐阜県7例の各務原市の農場の場合、各務原市の農場から本巣市への養豚場への販売感染子豚の移動日は1月17日であった。
その前日平成31年1月16日午前0時に「平成30年12月25日関市K農産での発生に伴う搬出制限区域」が解除された。
おそらく、各務原市から本巣市への子豚の移動は、待ちに待った搬出制限解除をうけてのものだったと思われる。
ここで、流れをまとめると、下記の通りになる。
1月16日「12月25日の関市K農産発生に伴う搬出制限区域」解除
↓
1月17日各務原市Aファームから本巣市M畜産へ子豚80頭出荷
↓
1月29日各務原市Aファームで豚コレラ発生。
↓
1月30日本巣市M畜産で感染確認。
このような流れとなる。
ここで、1月15日時点で各務原のファーム(下図二重赤丸)が置かれていた搬出制限の網は、次の図のとおりであった。(なお、関市の発生養豚場から各務原市の発生養豚場までの距離は、すれすれ10キロメートル以内と見られるが、実際どうだったのかまでは確かめてはいない。)
この各務原市の養豚場のように、四方八方から二重三重に搬出・移動制限がかかってしまった場合、何らかの特例措置を設けないと、この制限区域内にある養豚場は、経営的にも資金繰り的にも、窒息状態におちいり、解除とともに、感染豚までも、安易に出荷してしまうことになりかねない。
この教訓は、今後の搬出移動制限措置の解除の柔軟なあり方の模索に結びつけるべきではなかろうか?
(4).養豚団地のバイオ・セキュリティは大丈夫か?
愛知県田原市野田町の養豚団地での17,325頭規模の殺処分は、今後の養豚団地のあり方に、疑問を抱かせた。
それは、中国のアフリカ豚コレラ感染でも見られた。
近代化した公司経営の超大規模養豚場では、一箇所で、大量の殺処分が行われていた。
1月2日の黒竜江省では73,000頭、 1月12日の江蘇省では68,000頭、
2月18日の広西チワン自治区では23,555頭、の殺処分が行われた
つくづく、畜産の感染症では、規模の経済の原則は通用しないということを感じさせられる。
ウイルス感染阻止の場合、養豚団地は、「集まって強くなる」のではなくて、かえって「集まって弱く」なってしまうのである。
田原市野田桜の養豚団地
田原市東ひるわ養豚団地
瀬戸市北丘町の養豚団地
日本においても、今後、この経験から、養豚団地のバイオセキュリティのあり方を見直す点が、多々ありそうだ。
愛知県の養豚団地では、三つの養豚団地が明暗を分けた。
2月13日に田原市野田町桜の養豚団地内のK養豚から発生した豚コレラは、翌日2月14日には、隣接した団地内の他の養豚農場に感染拡大し、その日の午後6時に愛知県は、団地全部の豚の殺処分を決定した。
その理由として
事務所、堆肥場、死体を保管する冷蔵庫、車両などが共同で利用されていあることを上げた。
また、3月28日に発生の田原市野田町東ひるわのH組合養豚団地においても、
農場毎の明確な境界なし。
中央の作業道路は4農場で利用
堆肥舎や堆肥化施設、死体保管施設共同利用
との理由により、養豚団地全体の殺処分が決定された。
対象的なのは、3月27日に発生の瀬戸市北丘町の養豚団地である。
ここも4つの養豚場があったが最初にT畜産が感染発生、翌日に左隣のSファームに感染拡大したが、ここの団地では、共同利用の施設がなかったために、Mファームを初めとした残りの養豚場は殺処分から免れた。
この例から学ぶとすれば、新しいバイオセキュリティの観点からの養豚団地での共同利用施設のあり方を更に模索する必要があるのではないか?
(5)ワクチン是か非か?
これにつきましては、別のブログ記事「豚コレラ感染拡大で、混乱するワクチン接種是非問題」 にまとめてありますので、そちらをご参照ください。
(6).ブランド豚の再生は可能か?
今回、岐阜県では、いくつもある岐阜県内のブランド豚の産地が軒並み豚コレラでやられてしまった。
影響を受けたのは次のとおりである。(例の数は岐阜県内での数)
①美濃ヘルシーポークー第1例岐阜市と第7例各務原市と第10例山県市
②美濃けんとん・飛騨けんとんー第6例関市。種豚喪失
③ボーノ・ブラウンー美濃加茂市の岐阜県畜産研究所で、ボーノ・ポークの種豚喪失
④文殊にゅうとんー本巣市。第7例から感染子豚80頭を供給された。
⑤寒天育ち豚ー恵那市。愛知県豊田市からの子豚感染
⑥ボーノ・ポークー8例。瑞浪市。
⑦デリシャス・ポークー9例。山県市
⑧はちや豚-11例
岐阜県以外のブランド豚でも、
東大阪市では「なにわポーク」、
豊田市では「三州豚」、
瀬戸市では「新鮮冨豚」
田原市では「みかわポーク」
長野県宮田村では「駒ヶ岳山麓「清流豚」」、
が影響を受けた。
複雑なのは、これらのブランド豚への影響が、ふるさと納税の返礼品にもおよび、当該市町村の財政にも直結してしまっていることである。
これらの市町村では、今回の豚コレラ感染直後に、ふるさと納税の返礼品リストから、豚肉関連を外した。
問題は、これらのブランド豚のスキーム、ひいては、ふるさと納税の返礼品のスキームを維持するために、いわば、工業産品のOEM的に、子豚を県外から供給し、それを育成し、ブランド豚の産地形成を図るというスキームが全国定着してしまっていることである。
果たしてこれが、バイオセキュリティ的に安全なスキームなのか?疑問が残る。
なにはともあれ、これら豚コレラ災禍にみまわれた産地の一日も早い再生を願うものだ。
(7)今後、豚コレラ感染イノシシ対策の課題は、慢性感染イノシシ対策へと移行するだろう。
これから岐阜県の野生イノシシは、慢性(Chronic)豚コレラ臨床症状を呈していくと思われる。
これには急性と異なる対処が求められる。
豚コレラは次の4つのタイプに分けられうる。
①急性豚コレラ(Acute)
②慢性豚コレラ(Chronic)
③先天性豚コレラ(母子感染)(Congenital)
④軽症型豚コレラ(死産などが現れる)(Mild)
これらのタイプによって、潜伏期間も臨床症状も異なってくる。
この中で、慢性豚コレラは、豚コレラが風土病化する要因をはらんでいる。
慢性豚コレラは下記のような急性とは異なった特性を持つ。
特に、潜伏期間が急性に比して極端に長く、また、ウイルス排出期間も長期にわたるところが特徴である。
対策も、中長期的な観点にたった戦略構築が求められる。
参考「Classical Swine Fever—An Updated Review」
8.おわりにーダブル感染の悪夢到来にそなえるべしー
それにしても、どうして、岐阜県も愛知県も農林水産省も、豚コレラ対応の初動を誤ったのか?
それは、農研機構が、発生直後に、今回のウイルスが新種であると分析してたのに、政府・両県とも、遅発性というウイルス特性にマッチしたウイルス対応戦略をうちだせなかったからだ。
ひとえに、政治・行政の責任であるといえる。
豚コレラに続くアフリカ豚コレラの脅威
こうして、日本が岐阜での豚コレラ(CSF)問題に追われている間に、中国でのアフリカ豚コレラ(ASF)は、中国国内では一応の終息の方向をみせてはいる。
しかし、一方、豚肉加工製品を通じてのウイルスの検疫での摘発は台湾を初め塁乗的に増えつつある。
これらの豚肉製品に潜むウイルスは、中国でのアフリカ豚コレラ感染拡大のごく初期に、隠蔽的に肉加工材料に回された感染肉・ミンチ肉などが、冷凍状態のまま保存され、中にウイルスを生きながらえさせながら加工肉にまわされて、今、ウイルスが日の目を見ているものと思われる。
また、中国と国境を接するヴェトナムやモンゴルでは、アフリカ豚コレラの発生が増加しつつある。
日本は、豚コレラのみならず、アフリカ豚コレラ感染拡大の危険も、一触即発の状態にあるとみられる。
ダブル感染のブラック・ストーリーはあるか?
あえて、ブラック・ストーリーを提示するわけではないが、もし、野生イノシシに豚コレラウイルスが依然残存している日本に、更にアフリカ豚コレラウイルスが侵入してきたら、どうなるのか?
興味深い研究がここにある。
バルセロナ自治大学のOscar Cabezón氏らの研究によると、
①生後24時間以内に豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシ
と、
②生後無菌室に入れたBグループの野生イノシシ
とに対し、同時にアフリカ豚コレラ感染をさせたところ、
生後無菌室に入れたBグループは程なく臨床症状を示し死亡したのに対して、
すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループは、さして臨床症状を示すことなく、実験の最後まで生存し続けた
と言う。
参考「African swine fever virus infection in Classical swine fever subclinically infected wild boars.」
その原因として、この研究グループは、すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシには、インターフェロン阻害物質が出来ていて、著しく劇症性が緩和されていたのだと結論付けている。
「転ばぬ先の杖戦略」が必要
この研究の評価は別として、もし、今後、日本本土にアフリカ豚コレラウイルスが侵入し、岐阜県や愛知県の山中にいるであろう、すでに豚コレラウイルスに感染した野生イノシシにCSFVとASFVとのダブル感染した場合、この研究実験のように、不顕性感染のイノシシが増加するのであろうか?
ここいらで、日本も、本格的な野生イノシシ・コントロール戦略を確立し、上記のようなブラック・ストーリーの出現に備えるべき時期にきているのかも知れない。(終わり)
2019年3月3日記述 笹山 登生
2019年2月24日
いよいよ、アフリカ豚コレラ・ウイルスは、ロシアから中国へ
昨年3月からロシアのシベリア地方でも蔓延しはじめたアフリカ豚コレラ・ウイルスが、中国遼寧省瀋陽市の養豚繁殖農場に侵入したのがわかったのが、今月8月1日(現地養豚場では、6月半ばから症状を示していたという。)だった。
ECTADの獣医Wantanee Kalpravidh氏は、「瀋陽のASFV感染は今年3月から」とも言っているのだが、真相はまだわからない。
ロシア及びその周辺国の状況
今年に入ってのロシアの状況
それに先立つて、ロシアでは、すでに今年に入ってから7月までに 38例の発生を確認している。
主な発生場所は、カリーニングラード、ノヴゴロド、サラトフ、トゥーラ、モスクワなどである。
先月には7月16日と22日に、二例の発生を見ている。
ロシアでの7月一例目はBelgorod OblastにあるRusagro(ルサグロ社)というロシア第三の大手食肉会社の種豚農場での発生であった。
このRusagro(ルサグロ社)の関係施設での発生は、今回が初めてではなく、昨年9月5日にも同じBelgorod地域で発生を確認している。
ちなみに、2007年以降、日本は、ロシアからの生および熱処理加工された豚肉、牛肉、羊肉、および家禽の肉の輸入禁止措置が講じられている。
ただ、このルサグロ社については、中国の北東に養豚場建設のために10億ドルの投資をしたり、沿海地方(プリモルスキー地方)でのプロジェクトを活発化させたりして、ゆくゆくは、中国そして日本のマーケットも視野に入れているとの報道もある。
参考「RusAgro pushes into China by building pig farms 」
ほとんど感染され尽くされようとしているヨーロッパ大陸
アフリカ豚コレラ ウイルスのヨーロッパ大陸への上陸は、二期に分かれる。
第一期は、1957年から1990年半ばにかけての侵入であり、第二期は、2006年末から2007年にかけての東ヨーロッパへの侵入である。
第一期の時は、スペイン,フランス,イタリア,マルタ,ベルギー、オランダに侵入し、1990年半ばにようやく撲滅を果たした。
第二期の侵入は、東ヨーロッパから始まり、2006年末からのジョージアへの侵入が最初と言われている。。
2006年末から2007年にかけて、黒海のポティ港に寄港した船のゴミを通じて、ASFVは、南アフリカからヨーロッパ大陸に初めて伝搬し、まづ、ポティ港のあるグルジア(現在のジョージア)に侵入した。
そこから、ASFV感染は、ロシア(初発2007年春)、そして周辺の各国にも及んでいった。( 括弧内は初発年)
ジョージア(2007)→ロシア(2007)、アルメニア(2007)→アゼルバイジャン (2008)→ウクライナ(2012)→ベラルーシ(2013)→ポーランド(2014)、エストニア(2014)、ラトビア(2014)、リトアニア(2014)→モルドバ(2016)→チェコ(2017)、ルーマニア(2017)→ハンガリー(2018)、ブルガリア(2018)
へと、である。
参考「African Swine Fever in Europe – Evolution in time」
特に、ウクライナでは、6月に14.18.23日の三例、7月に3日.30日の二例と、感染が急速に拡大しているようだ。
これらの国々と国境を接しているドイツなど、各国への感染拡大が懸念されている。
なお、ブルガリアは、ついこれまでは未感染国であったが、8月31日についに感染国となってしまった。
ルーマニアの国境に近い、プロヴァディアのTutrakantsiという村のようである。
ブルガリアは、これ以上の感染拡大を防ぐために、ルーマニアとの国境に柵を設ける予定とのことである。
更に、9月13日、ベルギー政府は、ルクセンブルグ国境に近いリュクサンブール州ヴィルトン行政区エタルで、二頭の野生イノシシから、ASFVが発見されたと発表した。
ここは、チェコから500Km、ハンガリーから800Km、ルーマニアから1200Km。
ドイツ・フランスとも国境が近いため、西ヨーロッパの各国は、ASFV侵入の脅威にさらされている。
なお、フランスは第一期発生時に根絶済なので、このウイルスがどこから来たのか?またジャンプしたのか? に関心が集まっている。。
参考「SPECIAL ANNOUNCEMENT: ASF CONFIRMED IN BELGIUM」
なお、ヨーロッパ大陸全体では、2007年の初発以来、2017年7月までに、5,445例があり、うち903例がロシアであった。
2018年5月までの状況は、サイト「Overview of ASF situation in EU」
最新の状況については、「EURL-Aflican swine fever (ASF) activities 2017-2018」
を、ご参照
地図上での確認は「Disease outbreak maps – OIE」からどうぞ。
使い方は
「Terrestrial」で「African Swine Fever」を選択
「Choose a species」で「Swine」を選択。「OK」クリック
「Period From」で、表示対象期間を選択。「OK」クリック
ピンク色の「Legend」をクリック→マップに表示
マップ表示の丸印をクリック→地域名や状態詳細がポップ・アップ
ASFは、ついに、ウラル山脈を超えた
ロシア連邦動植物衛生監督庁(VPSS)によると、2017年初頭以降 年末までに、121例の豚、21例の野生イノシシに、アフリカ豚コレラ(ASF)が確認されている。
発生以降、疾病撲滅措置として80万頭が淘汰されている。
2016年は豚222例、野生イノシシ76例だった。
近時のロシアでのASF発生地域の変化で特記すべきは、これまでの発生地域が、ロシア中央地域や沿ボルガ地域だったものが、ウラル山脈を超え、イルクーツク(2017年3月18日)→オムスク(2017年7月4日)→クラスノヤルスク(2017年10月2日)→チュメニ(2017年11月2日)へと、シベリア地域にまで飛び火し、今後、中国への感染までも、視野に入れざるを得ない状態に変化したことだった。
参考「Russia 2017 Livestock and Products Annual」「African swine fever in Russian federation current epizootic situation and control」
参照 2017年から2018年7月にかけてのシベリア地方におけるASF発生例一覧
ウラル連邦管区
チェリャビンスク
2017年10月30日
チュメニ州
2017年11月2日
ヤマロ・ネネツ自治管区
2017年11月12日
シベリア連邦管区
オムスク州
2017年7月6日
2017年7月23日~7月29日
2017年8月12日~8月16日
2017年8月16日
2017年8月27日
2017年10月6日
クラスノヤルスク地方
2017年10月2日
イルクーツク州
2017年3月18日
極東
なし
中国の状況
中国では、今日(2009年8月1日)までに、合計140例目の発生(うち2例は野性イノシシへの感染例)が確認されている。
場所は、
一例目 遼寧省瀋陽市(8月01日)
二例目 河南省鄭州市(黒竜江省チャムス市経由)(8月14日)
三例目 江蘇省連雲港市(8月15日)
四例目 浙江省温州市悦清市(8月17日)
五例目 安徽省蕪湖市南陵(8月29日)
六例目 安徽省宣城市宣州区(古泉镇)(9月2日)
七例目 安徽省宣城市宣州区(五星郷)(9月2日)
八例目 安徽省 宣城市 宣州区(金壩)(9月3日)
九例目 江蘇省無錫市宜興市(9月3日)
十例目 黒龍江省佳木斯市(ジャムス市)(長青)(9月5日)
十一例目 安徽省徐州市鳳陽県(9月6日)
十二例目 黒竜江佳木斯市(ジャムス市)(向阳区)(9月6日)
十三例目 安徽省蕪湖市南陵県(9月6日)
十四例目 安徽省宣城市宣州区(天湖街道)(9月6日)
十五例目 安徽省銅陵市(9月10日)
十六例目 内モンゴル自治区シリンゴル盟アバグ旗(9月12日)
十七例目 河南省新郷市獲嘉県(9月14日)
十八例目 内モンゴル自治区シリンゴル盟ショローン・フフ旗(9月15日)
十九例目 吉林省公主岭市 南崴子镇(9月17日)
二十例目 内モンゴル自治区ヒンガン盟ホルチン右翼中旗(9月20日)
二十一例目 内モンゴル自治区フフホト市(9月22日)
二十二例目 吉林省松原市長嶺県(9月28日)
二十三例目 遼寧省営口市大石橋市(9月28日)
二十四例目 遼寧省営口市老辺区(9月28日)
二十五例目 遼寧省営口市大石橋市(高坎镇)((10月7日)
二十六例目 遼寧省営口市大石橋市(旗口镇) (10月7日)
二十七例目 遼寧省営口市老辺区(路南镇)(10月7日)
二十八例目 遼寧省営口市老辺区(边城镇)(10月7日)
二十九例目 遼寧省鞍山市(台安県)(10月8日)
三十例目 遼寧省大連市(普蘭店区)(10月11日)
三十一例目 遼寧省鞍山市(台安県)(10月12日)
三十二例目 天津市(蓟州区)(10月12日)
三十三例 遼寧省鞍山市(台安県)(10月14日)
三十四例 遼寧省锦州市(北镇市)(10月14日)
三十五例 遼寧省盘锦市(大洼区)(王家街道曙光村)(10月14日)
三十六例 遼寧省盘锦市(大洼区)(王家街道王家村)(10月14日)
三十七例 遼寧省铁岭市(开原市)(庆云堡镇)(10月15日)
三十八例 遼寧省盘锦市(大洼区)(清水镇)(10月15日)
三十九例 遼寧省盘锦市(大洼区)(王家街道)(10月15日)
四十例 遼寧省盘锦市(大洼区)(西安镇)(10月16日)
四十一例 山西省大同市(左云县)(10月17日)
四十二例 雲南省昭通市(鎮雄県牛场镇)(10月21日)
四十三例 雲南省昭通市(鎮雄県母享镇)(10月21日)
四十四例 浙江省台州市(三門県)(10月21日)
四十五例 湖南省益陽市(10月22日)
四十六例 湖南省常德市(10月22日)
四十七例 貴州省畢節市(赫章県)(10月25日)
四十八例から五十例 貴州省畢節市(七星関区)(10月26日)
五十一例 湖南省常徳市(桃源県)(10月28日)
五十二例 山西省太原市(陽曲県)(10月30日)
五十三例 湖南省懐化市(沅陵県)(10月30日)
五十四例 雲南省普洱市(思茅区)(10月30日)
五十五例 山西省太原市陽曲県(西凌井乡)(11月3日)
五十六例 重慶市豊都県(興義鎮)(11月4日)
五十七例 湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州(保靖県)(11月5日)
五十八例 湖北省羅田県(11月7日)
五十九例 湖南省婁底市(漣源市)(11月8日)
六十例 江西省上饒市(万年県)(11月8日)
六十一例 吉林省延辺朝鮮族自治州竜井市(城廂区)(11月8日)
六十二例 福建省莆田市(城廂区))(11月8日)
六十三例目 安徽省池州市(青陽県)(11月9日)
六十四例目 湖北省黄岡市(武穴市)(11月12日)
六十五例目 湖北省黄岡市(キ水県)(11月15日)
六十六例目 四川省宜賓市(高県)(11月15日)
六十七例目 吉林省白山市(渾江区)(11月16日)-野生イノシシ感染例
六十八例目 雲南省昭通市(威信県)(11月16日 )
六十九例目 江西省上饒市(ハ陽県)(11月17日)
七十例目 雲南省昆明市(呈貢区)(11月17日)
七十一例目 四川省成都市(新津県)(11月17日)
七十二例目 上海市金山区(11月17日)
七十三例目 黒竜江省ハルビン市(道外区)(11月19日)
七十四例目 湖南省懐化市(鶴城区)(11月19日)
七十五例目 北京市 房山区(青龍湖鎮)(11月23日)
七十六例目 北京市 房山区(琉璃河鎮)(11月23日)
七十七例目 内モンゴル自治区包頭市(ホンドロン区)(11月23日)
七十八例目 湖北省黄石市(陽新県)(11月25日)
七十九例目 天津市(寧河区)(11月29日)
八十例目 江西省九江市(柴桑区)(11月30日)
八十一例目 陝西省西安市(鄠邑区)(12月3日)
八十二例目 北京市通州区(12月3日)
八十三例目 黒竜江省(イノシシ養殖場)(12月3日)
(12月3日の中共农业农村部副部长于康震氏の発表では、これまでの発生数豚79例、野生イノシシ2例、合計81例としているが、別の報道として、12月3日現在での中国当局の発表では、これまでに88例発症とあリ、12月3日時点では7例の食い違いがある。)
八十四例目 四川省瀘州市(合江県)(12月5日)
八十五例目 陝西省西安市(長安区)(12月5日)
八十六例目 北京市順義区(12月5日)
八十七例目 山西省臨汾市(堯都区)(12月6日)
八十七例目 山西省臨汾市(堯都区)(12月6日)
八十八例目 陝西省楡林市(神木市)(12月9日)
八十九例目 貴州省貴陽市(白雲区)(12月9日)
九十例目 四川省巴中市(巴州区)(12月12日)
九十一例目 青海省西寧市(大通回族トゥ族自治県)(12月12日)
九十二例目 四川省綿陽市(塩亭県)(12月16日)
九十三例目 黒竜江省鶏西市(鶏冠区)(12月16日)
九十四例目 重慶市璧山区(12月18日)
九十五例目 広東省珠海市(香洲区)(12月19日)
九十六例目 福建省三明市(尤渓県)(12月20日)
九十七例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州(竜里県)(12月21日)
九十八例目 広東省広州市(黄埔区)(12月22日)
九十九例目 福建省南平市延平区(王台鎮)(12月24日)
百例目 広東省恵州市(博羅県)(12月25日)
百一例目 山西省の晋城市(沢州県)(12月30日)
百二例目 黒竜江省綏化市(明水県)(2009年1月2日)
百三例目 江蘇省宿遷市(泗陽県)(1月12日)
百四例目 甘粛省慶陽市(慶城県)(1月13日)
百五例目 甘粛省蘭州市(七里河区)(1月18日)
百六例目 寧夏回族自治区銀川市(永寧県)(1月19日)
百七例目 湖南省永州市(経済技術開発区)(2月8日)
百八例目 広西チワン自治区北海市(銀海区)(2月18日)
百九例目 山東省済南市(莱蕪区)(2月20日)
百十例目 雲南省江リス族自治州(瀘水市)(2月21日)
百十一例目 河北省保定市(徐水区)(2月24日)
百十二例目 内モンゴル自治区大興安嶺重点国有林管局(2月24日)
百十三例目 陝西省楡林市靖辺県(2月27日)
百十四例目 広西チワン族自治区貴港市港南区(3月7日)
百十五例目 四川省広安市隣水県(3月12日)
百十六例目 重慶市石柱トゥチャ族自治県(3月21日)
百十七例目 湖北省利川市(3月30日)
百十八例目 新疆ウイグル自治区ウルムチ市米東区(4月3日)
百十九例目 チベット自治区ニンティ市巴宜区(4月7日)
百二十例目 新疆ウイグル自治区カシュガル地区カルギリク県(4月7日)
百二十一例目 新疆ウイグル自治区カシュガル地区疏勒県(4月11日)
百二十二例目 海南省ダン州市(4月19日)
百二十三例目 海南省万寧市(4月19日)
百二十四例目 海南省海口市秀英区(4月21日)
百二十五例目 海南省澄邁県(4月21日)
百二十六例目 海南省保亭リー族ミャオ族自治県 (4月21日)
百二十七例目 海南省陵水リー族自治県(4月21日)
百二十八例目 四川省アバ・チベット族チャン族自治州若爾蓋県(5月20日)
百二十九例目 寧夏回族自治区石嘴山市恵農区(5月21日)
百三十例目 雲南省文山州砚山県(5月25日)
百三十一例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州都イン市(6月11日)
百三十二例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州平塘県(6月20日)
百三十三例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州三都スイ族自治県(6月21日)
百三十四例目 青海省海東市平安区(6月23日)
百三十五例目 寧夏回族自治区中衛市(6月28日)
百三十六例目 広西チワン族自治区玉林市陸川県(7月5日)
百三十七例目 広西チワン族自治区貴港市(7月6日)
百三十八例目 湖北省黄岡市団風県(7月11日)
百三十九例目 四川省楽山市夾江県(7月17日)
百四十例目 湖北省荊州市洪湖市万全镇(8月1日)
である。
殺処分の状況
全国での殺処分数は2019年10月16日現在、全国28省区市157例発生。合計119万2千頭殺処分。
殺処分補助金として、口蹄疫の場合(FMD手当)に順じ、アフリカ豚コレラについても、豚一頭につき800 元 (USD 117.50)の補助金があたえられる(9月13日からは、800元/頭から1200元/頭に上げる通知を発表)ので、患畜隠蔽のメリットはないと言われている。
この殺処分補助金は、豚のサイズにかかわらず一律なので、子豚にとっては、効率がいいが、処理にコストがかかる成豚にとっては効率がわるい。
また、瀋陽市では、補助金稼ぎの詐欺事件もあったと言われている。
参考
「四起非洲猪瘟源头难索 扑杀成本高昂对行业冲击巨大」
「沈阳警方破获一起谎报“非洲猪瘟”骗补偿款案」
各例の詳細
一例目 遼寧省瀋陽市の例
感染豚を出した遼寧省瀋陽市瀋北新区の養豚農家では、7月5日に瀋陽市渾南区から45匹の豚を購入した、としている。
その渾南区の豚販売元である王さんは、3月24日に吉林市船营区から100匹購入し、そのうちの一部が4月になって発症し、一部は死んだという。
生き残った豚については、当局に報告せずに、同じ瀋陽市内の農場へ売却したという。
ちなみに、8月15日までに、遼寧省動物衛生当局は、遼寧省中の355 ,400頭の豚を検査し、うち、疑いのある検体10 791を取ったところ、瀋陽市からの全22検体がウイルス陽性であった。
参考
「辽宁非洲猪瘟疫情防控:对8116头生猪扑杀和无害化处理」
「SPECIAL ANNOUNCEMENT: SECOND CASE OF ASF IN CHINA」
「AFRICAN SWINE FEVER-CHINA (03): DOMESTIC SWINE, CULL, ALERT」
8月1日に感染豚を発見した遼寧省瀋陽市瀋北新区では、その後、2つの町の246,100の農場と63,861,600頭の豚について、スクリーニングを続けた結果、次の4農場で、感染豚を発見。いずれも8月29日までに全殺処分とした。
①财落街道
3養豚場431頭から39サンプル採取、うち6サンプルが陽性
②尹家街道
1農場140頭から14サンプル採取、うち1サンプルが陽性。
参考「OIEフォローアップレポート」
二例目 河南省鄭州市の例
感染豚が発見されたのは、世界的企業である万洲国際有限公司(WHグループ)の子会社であり双匯集団系の鄭州双匯食品の食肉加工施設の屠殺場(郑州双汇屠宰场)であった。
この感染豚自体は、黒竜江省佳木斯市(チャムス市)湯原県鶴立郷の交易市場(黑龙江省佳木斯市汤原县鹤立镇交易市场)から260頭搬入された加工用豚であり、そのうちの30頭が死亡した。
どこでASFVに感染したのか?については、いまのところ謎のようである。
なお、この豚は、黒竜江省哈爾濱(ハルピン)市 通河县 清河林业局から来たものだという。
上記一例目と二例目とをあわせてみると、黒竜江省と吉林省と遼寧省とが感染ベルト地帯としてつながってしまうのだが、果たして真実はどうなのだろう?
なお、黒竜江省佳木斯市(チャムス市)から搬送された感染豚ということで、世界的企業である万洲国際有限公司(WHグループ)各社は、その後、操業を中止している。
三例目 江蘇省連雲港市の例
8月17日7時48分、连云港市海州区浦南镇の连云港连成牧业有限公司が当局に豚の異変を報告、
この会社は今年の4月に開設、4棟の豚舎からなる。
5月6日から8回に分けて豚を購入。
子豚はすべて泰安晟旺牧业有限公司から購入、
総頭数4,626頭。
発症は2号豚舎から始まった。
8月15日7時に3頭の異常発見、午後には死亡。
8月16日に8頭が急死、10頭が高熱。
8月17日に23頭が死亡、150頭が高熱。
8月18日に、54頭が死亡、465頭が新たに発症。
8月19日に、88頭が死亡、615頭が新たに発症。
参考「连云港市非洲猪瘟疫情防控最新进展公布:猪肉可以正常食用」
四例目 浙江省温州市悦清市の例
8月17日、浙江省温州市乐清市淡溪镇の淡溪镇樟岙村经济合作畜牧养殖小区で、三軒の養豚農家でアフリカ豚コレラ発生。
430頭発症、340頭死亡。
原因は、自動車車両が感染媒体と推測。
浙江省の岳清市の農民の証言では、8月初めに地元の屠殺場が遼寧省から2頭の豚を受け取ったとの話もある。
五例目 安徽省蕪湖市の例
8月29日、安徽省がアフリカ豚コレラの実態調査中に、安徽省 蕪湖市 南陵の農場で、アフリカ豚コレラを発見、459頭中、185頭が発症、80頭が死亡していた。
六例目&七例目 安徽省宣城市宣州区の例
9月2日、安徽省宣城市宣州区で発生。
古泉镇農場には285頭の豚がいて40頭が死亡。
五星郷農場には、440頭の豚がいて94頭が死亡。
八例目 安徽省 宣城市 宣州区(金壩)の例
9月3日 安徽省 宣城市 宣州区 金壩 の養豚場で発生。
飼養頭数308頭
発症頭数152
死亡頭数83
六例目と七例目の位置関係は下記の通り
九例目 江蘇省無錫市宜興市の例
9月3日に、江蘇省無錫市宜興市で発生。
飼養頭数97頭
発症頭数12頭
死亡頭数9頭
十例目 黒龍江省佳木斯市(ジャムス市)の例
9月5日に、黒龍江省佳木斯市(ジャムス市)郊外長青郷の農家で。
飼養頭数87
発症頭数39
死亡頭数12
この發生元と、第二例目の河南省への感染豚搬送元だった湯原県鶴立郷との位置関係は下記地図のとおり。
黒竜江省での第二例と第九例と第十一例との関係位置図は下記の通り
十一例目 安徽省徐州市の例
9月6日、安徽省 滁州市 鳳陽県の農場で発生。
飼養頭数886頭
発症頭数62頭
死亡頭数22頭
十二例目 黒竜江省佳木斯市の例
9月6日 黒竜江省佳木斯市向阳区の農家で
飼養頭数203頭
発症頭数26頭
死亡頭数10頭
十三例目 安徽省蕪湖市南陵県の例
9月6日、安徽省蕪湖市南陵県で
飼養頭数30頭
発症頭数13頭
死亡頭数4頭
十四例目 安徽省宣城市宣州区天湖街道の例
9月6日、安徽省宣城市宣州区天湖街道で
飼養頭数52頭
発症頭数15頭
死亡頭数15頭
十五例目 安徽省銅陵市義安区の例
9月10日、安徽省銅陵市義安区で発生。
飼養頭数219頭
発症豚頭63頭
死亡頭数23頭
この十四例目で、安徽省での発生例は通算七例となった。
地理的分布には、下記の通り。
十六例目 内モンゴル自治区シリンゴル盟アバグ旗(阿巴嘎旗)の例
9月12日 内モンゴル自治区シリンゴル盟アバグ旗 で発生
発症頭数16頭
死亡頭数16頭
十七例目 河南省新郷市の例
9月14日 河南省新郷市獲嘉県で発生
飼養頭数148頭
死亡頭数64頭
十八例目 内モンゴル自治区シリンゴル盟ショローン・フフ旗(正藍旗)の例
9月15日 内モンゴル自治区シリンゴル盟ショローン・フフ旗(正藍旗)で発生
飼育頭数頭159頭
感染頭数14頭
死亡頭数8頭
このシリンゴル盟では、9月12日にもアバグ旗(阿巴嘎旗)で、15例目が発生していた。
十九例目 吉林省公主岭市 南崴子镇の例
9月17日、吉林省公主岭市 南崴子镇で発生
飼養頭数484頭
発症頭数56頭
死亡頭数56頭
二十例目 内モンゴル自治区ヒンガン盟ホルチン右翼中旗の例
9月20日、内モンゴル自治区ヒンガン盟ホルチン右翼中旗で発生
飼養頭数138頭
発症頭数23頭
死亡頭数22頭
二十一例目 内モンゴル自治区フフホト市の例
9月22日 内モンゴル自治区フフホト市の と畜場で、と畜される豚の検査中にアフリカ豚コレラ感染豚を発見。
この と畜場には388頭の豚がいて、4頭が発症、2頭が死亡。
なお、このフフホト市の と畜場で感染豚が発見された背景に、公設獣医師が、8000元(13万円)の闇報酬を得て、地域内での輸送が可能となる検疫証明書(B)を偽造し、これを元にして、9月20日午後に、遼寧省鉄嶺市昌図県から、96頭の豚生体を、内モンゴル 通遼市 ナイマン旗の奈曼旗金泉養豚場へ送り、それを直接、と畜場に送り込んだと、報道されている。
参考「内蒙四人因猪瘟疫情被拘:兽医收钱开检疫证明致辽宁病猪流入」
この20例目で、内モンゴル自治区では、合計4地区でアフリカ豚コレラが発生したわけだが、これまで発生した地区の地図上の位置関係は下記のとおりである。
二十二例目 吉林省松原市長嶺県の例
9月28日、 吉林省松原市長嶺県の農場で
飼養頭数44頭
発症頭数8頭
死亡頭数3頭
吉林省では、18例目の公主岭市 南崴子镇の発生に続き二例目
二十三例目&二十四例目 遼寧省営口市大石橋市と老辺区の例
9月28日、遼寧省営口市大石橋市と老辺区の3つの镇,4つの村で、五戸の農家から発生。
飼養頭数378頭、死亡頭数102頭。
二十五例目&二十六例目&二十七例目&二十八例目 遼寧省営口市大石橋市と老辺区の例
10月7日発生、
9月28日に次ぐ再発、
発生は遼寧省営口市の広範囲に及ぶ。
二十五例目
大石桥市高坎镇
革家村
二十六例目
大石桥市旗口镇
宿东村、新兴村、王围村
二十七例目
老边区边城镇
北于杨村,
二十八例目
老边区南镇
新立村
総飼養頭数3358頭,
総発症数334頭,
総死亡頭数93頭
二十九例目 遼寧省鞍山市台安県の例
10月8日、遼寧省 鞍山市 台安郡の農家から発生。
飼養頭460頭、
発症頭数160頭、
死亡頭数160頭
三十例目 遼寧省大連市普蘭店区の例
10月11日、遼寧省大連市普蘭店区の一農場に発生
飼養頭数1353頭
発症頭数20頭
死亡頭数11頭
三十一例目 遼寧省鞍山市台安県の例
10月12日に遼寧省鞍山市台安県新台鎮の農家から発生
飼養頭数120頭、
発症頭数88頭、
死亡頭数72頭。
三十二例目 天津市蓟州区の例
10月12日、天津市蓟州区侯家营镇の農家に発生。
飼養頭数639頭
発症頭数292頭
死亡頭数189頭
これでこれまでの発症省市に新たに天津市が加わり、感染省市は8省1直辖市に拡大したことになる。
三十三例目 遼寧省鞍山市台安県(桑林镇)の例
10月14日、遼寧省鞍山市台安県桑林镇の農家で発生。
飼養頭数 180頭
発症頭数 14頭
死亡頭数 14頭
なお、鞍山市台安郡としては、10月8日と12日に続く三回目の発生。
三十四例 遼寧省锦州市北镇市の例
10月14日發生
飼養頭数19,938頭
発症頭数221頭,
死亡頭数221頭
中国の北京大北农科技集团股份有限公司(略称 大北农)は、火曜日、傘下の北镇大北农农牧食品公司(略称 北镇大北农)でアフリカ豚コレラが発生したと発表。 人口密集区にあり感染の疑いはあるが原因は調査中。 同社持株会社に同様な会社が山东省福建省にあるが異変はない。
三十五例 遼寧省盘锦市大洼区王家街道曙光村の例
10月14日發生
飼養頭数1571頭,
発症頭数109頭,
死亡頭数109頭
三十六例 遼寧省盘锦市大洼区王家街道王家村の例
10月14日發生
飼養頭数270頭,
発症頭数129頭,
死亡頭数129頭。
三十七例 遼寧省铁岭市(开原市)の例
10月15日、铁岭市开原市庆云堡镇
飼養6640頭,発症50頭,死亡14頭
三十八例 遼寧省盘锦市(大洼区)の例
10月15日、盘锦市大洼区清水镇
飼養4323頭,発症1030頭,死亡1030頭
三十九例 遼寧省盘锦市(大洼区)の例
10月15日、盘锦市大洼区王家街道
飼養3223頭,発症31頭,死亡20頭。
四十例 遼寧省盘锦市(大洼区)の例
10月16日、遼寧省盘锦市大洼区西安镇。
飼養頭数161頭、発症頭数43頭,死亡頭数43頭、
四十一例 山西省大同市(左云县)の例
10月17日 山西省大同市左云县で発生。
飼養頭数15頭
発症頭数7頭
死亡頭数4頭
山西省としては初の感染。
四十二例 雲南省昭通市(鎮雄県牛场镇)の例
10月21日、雲南省昭通市鎮雄県牛场镇で発生。
飼養頭数804頭、
発症頭数298頭、
死亡頭数298頭,
四十三例 雲南省昭通市(鎮雄県母享镇)の例
10月21日、雲南省昭通市鎮雄県母享镇で発生。
飼養頭数353頭,
発症頭数247頭,
死亡頭数247頭,
四十四例 浙江省台州市(三門県)の例
10月21日、浙江省台州市三門県で発生 。
飼養頭数2280頭
発症頭数56頭
四十五例 湖南省益陽市の例
10月22日、湖南省益陽市桃江縣
飼養頭数546頭
発症頭数44頭
死亡頭数17頭
四十六例 湖南省常德市の例
10月22日、湖南省常德市桃源縣
飼養頭数268頭
発症頭数
四十七例 貴州省畢節市(赫章県)の例
10月25日、貴州省畢節市赫章県
飼養頭数10頭
発症頭数8頭
死亡頭数8頭
四十八例から五十例 貴州省畢節市(七星関区)の例
10月26日 貴州省畢節市七星関区。同じ地区で三例発生。
飼養頭数49頭
発症頭数25頭
死亡頭数25頭
五十一例 湖南省常徳市(桃源県)の例
10月28日、湖南省常徳市桃源県
飼養頭数7,684頭
発症頭数106頭
死亡頭数99頭
五十二例 山西省太原市(陽曲県)の例
10月30日 山西省太原市陽曲県 で発生。
飼養頭数210頭,
発症頭数75頭,
死亡頭数47頭
五十三例 湖南省懐化市(沅陵県)の例
10月30日、湖南省懐化市沅陵県で発生。
飼養頭数144頭
発症頭数25頭,
死亡頭数22頭
五十四例 雲南省普洱市(思茅区)の例
10月30日 雲南省普洱市思茅区で発生。
飼養頭数36頭,
発症頭数5頭,
五十五例 山西省太原市陽曲県(西凌井乡)の例
11月3日、山西省太原市陽曲県西凌井乡
飼養頭数47頭
発症頭数25頭
死亡頭数7頭死亡頭数1頭
五十六例 重慶市豊都県(興義鎮)の例
11月4日 重慶市豊都県興義鎮
飼養頭数309頭
発症頭数3頭
死亡頭数3頭
五十七例 湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州(保靖県)の例
11月5日 湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州保靖県
飼養頭数119頭
発症頭数11頭
死亡頭数4頭
五十八例 湖北省羅田県の例
11月7日 湖北省羅田県
飼養頭数821頭
発症頭数 22頭
死亡頭数 4頭
五十九例 湖南省婁底市(漣源市)の例
11月8日 湖南省婁底市漣源市
飼養頭数 9頭
発症頭数 4頭
死亡頭数 1頭
六十例 江西省上饒市万年県の例
11月8日 江西省上饒市万年県
飼養頭数 154頭
発症頭数 49頭
死亡頭数 49頭
六十一例 吉林省延辺朝鮮族自治州竜井市(城廂区)の例
11月8日 吉林省延辺朝鮮族自治州竜井市城廂区
飼養頭数 930頭
発症頭数 144頭
死亡頭数 144頭
六十二例 福建省莆田市(城廂区)の例
11月8日 福建省莆田市城廂区
飼養頭数 4521頭
発症頭数 85頭
死亡頭数 85頭
六十三例目 安徽省池州市(青陽県)の例
11月9日 安徽省池州市青陽県
飼養頭数8,339頭
発症頭数96頭
死亡頭数47頭
六十四例目 湖北省黄岡市(武穴市)の例
11月12日 湖北省黄岡市武穴市の2つの隣接地区で発生。
飼養頭数147頭
発症頭数7頭
死亡頭数6頭
六十五例目 湖北省黄岡市(キ水県)の例
11月15日、湖北省黄岡市キ水県
飼養頭数636頭
発症頭数24頭
死亡頭数13頭
六十六例目 四川省宜賓市(高県)の例
11月15日 四川省宜賓市高県
飼養頭数40頭
発症頭数16頭
死亡頭数10頭
六十七例目 吉林省白山市(渾江区)の例
11月16日 吉林省白山市渾江区で野生イノシシ一頭がアフリカ豚コレラで死亡が発見。
六十八例目 雲南省昭通市(威信県)の例
11月16日 雲南省昭通市威信県
飼養頭数1頭
発症頭数1頭
死亡頭数1頭
六十九例目 江西省上饒市(ハ陽県)の例
11月17日 江西省上饒市ハ陽県
飼養頭数150
発症頭数10
死亡頭数10
七十例目 雲南省昆明市(呈貢区)の例
11月17日 雲南省昆明市呈貢区のと畜場
預かり頭数348
七十一例目 四川省成都市(新津県)の例
11月17日 四川省成都市新津県
飼養110頭
発症27頭
死亡13頭
七十二例目 上海市金山区の例
11月17日 上海市金山区
飼養頭数314頭
発症頭数50頭
死亡頭数11頭
七十三例目 黒竜江省ハルビン市(道外区)の例
11月19日 黒竜江省ハルビン市道外区の2つの農家
飼養頭数900頭
発症頭数269頭
死亡頭数269頭
ハルビン市発生は今回が初めてだが、二例目河南省鄭州市発生時感染豚は黒竜江省佳木斯市交易市場から来、更にその豚はハルピン市通河县から来た。
七十四例目 湖南省懐化市(鶴城区)の例
11月19日 湖南省懐化市鶴城区
飼養頭数73頭、
発症頭数61頭、
死亡頭数55頭。
七十五例目 北京市 房山区(青龍湖鎮)の例
11月23日 北京市 房山区青龍湖鎮
飼養頭数1325
死亡頭数49
七十六例目 北京市 房山区(琉璃河鎮)の例
11月23日 北京市 房山区琉璃河鎮
飼養頭数429
死亡頭数37
七十七例目 内モンゴル自治区包頭市(ホンドロン区)(11月23日)の例
11月23日 内モンゴル自治区包頭市ホンドロン区
飼養頭数88頭
発症頭数69頭
死亡頭数53頭
七十八例目 湖北省黄石市(陽新県)の例
11月25日 湖北省黄石市陽新県
飼養頭数63
発症頭数9
死亡頭数5
七十九例目 天津市(寧河区)の例
11月29日 天津市寧河区
飼養頭数361頭
死亡頭数67頭
八十例目 江西省九江市(柴桑区)の例
11月30日 江西省九江市柴桑区
飼養頭数159頭
発症頭数16頭
死亡頭数4頭
八十一例目 陝西省西安市(鄠邑区) の例
12月3日 陝西省西安市鄠邑区
飼養頭数245頭
発症頭数205頭
死亡頭数79頭
八十二例目 北京市通州区の例
12月3日 北京市通州区
飼養頭数9835頭
発症頭数85頭
死亡頭数17頭
八十三例目 黒竜江省イノシシ養殖場の例
12月3日 黒竜江省のイノシシ養殖場
飼養イノシシ頭数375頭
死亡頭数77頭
八十四例目 四川省瀘州市(合江県)の例
12月5日 四川省瀘州市合江県
飼養頭数165頭
発症頭数68頭
死亡頭数68頭
八十五例目 陝西省西安市長安区の例
12月5日 陝西省西安市長安区
飼養頭数245頭
発症頭数85頭
死亡頭数64頭
八十六例目 北京市順義区の例
12月5日 北京市順義区
飼養頭数2461頭
発症頭数53頭
死亡頭数26頭
八十七例 山西省臨汾市(堯都区)の例
12月6日 山西省臨汾市堯都区
飼養頭数91頭
発症頭数45頭
死亡頭数35頭
八十八例 陝西省楡林市(神木市)の例
12月9日 陝西省楡林市神木市
飼養頭数33頭
発症頭数19頭
死亡頭数19頭
八十九例 貴州省貴陽市(白雲区)の例
12月9日 貴州省貴陽市白雲区
飼養頭数26頭
発症頭数5頭
死亡頭数5頭
九十例目 四川省巴中市(巴州区)の例
12月12日 四川省巴中市巴州区
飼養頭数117
発症頭数51
死亡頭数19
九十一例目 青海省西寧市(大通回族トゥ族自治県)の例
12月12日 青海省西寧市大通回族トゥ族自治県
飼養頭数69
発症頭数14
死亡頭数14
九十二例目 四川省綿陽市(塩亭県)の例
12月16日 四川省綿陽市塩亭県
飼養頭数210頭
発症頭数35頭
死亡頭数26頭
九十三例目 黒竜江省鶏西市(鶏冠区)の例
12月16日 黒竜江省鶏西市鶏冠区
飼養頭数84頭
発症頭数24頭
死亡頭数24頭
九十四例目 重慶市(璧山区)の例
12月18日 重慶市璧山区
飼養頭数23頭
発症頭数8頭
死亡頭数3頭
九十五例目 広東省珠海市(香洲区)の例
12月19日 広東省珠海市香洲区のと畜場で。
飼養頭数1598頭
発症頭数11頭
死亡頭数11頭
これらの豚は広東省 仏山市 順徳区 均安鎮の胡德志養豚場から送られてきた豚で、この豚には、禁止されている泔水(レストランなどの残飯)が使用されていたため、この養豚場の豚342頭も殺処分された。
九十六例目 福建省三明市(尤渓県)の例
12月20日 福建省三明市尤渓県
飼養頭数11,950頭
発症頭数27頭
死亡頭数27頭
九十七例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州(竜里県)の例
12月21日 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州竜里県
飼養頭数156頭
発症頭数42頭
死亡頭数42頭
九十八例目 広東省広州市(黄埔区)の例
12月22日 広東省広州市黄埔区
飼養頭数6027頭
発症頭数30頭
死亡頭数9頭
九十九例目 福建省南平市延平区(王台鎮)の例
12月24日 福建省南平市延平区王台鎮 の 华荣畜産開発有限公司 の養豚場で
飼養頭数5776頭
発症頭数35
死亡頭数11
百例目 広東省恵州市(博羅県)の例
12月25日 広東省恵州市博羅県
飼養頭数90
発症頭数11
死亡頭数11
百一例目 山西省晋城市(沢州県)の例
12月30日 山西省晋城市沢州県
飼養頭数8016頭
発症頭数24頭
死亡頭数7頭
百二例目 黒竜江省綏化市(明水県)の例
1月2日 黒竜江省綏化市明水県
飼養頭数73000頭
発症頭数4686頭
死亡頭数3766頭
百三例目 江蘇省宿遷市(泗陽県)の例
1月12日 江蘇省宿遷市泗陽県
飼養頭数68969頭
発症頭数2452頭
死亡頭数1369頭
百四例目 甘粛省慶陽市(慶城県)の例
1月13日 甘粛省慶陽市慶城県駅馬鎮
飼養頭数109頭
発症頭数44頭
死亡頭数9頭
百五例目 甘粛省蘭州市(七里河区)の例
1月18日 甘粛省蘭州市七里河区西胡街道の二箇所で
飼養頭数190頭
発症頭数143頭
死亡頭数37頭
百六例目 寧夏回族自治区銀川市(永寧県)の例
1月19日 寧夏回族自治区銀川市永寧県望遠鎮
飼養頭数57頭
発症頭数26頭
死亡頭数13頭
百七例目 湖南省永州市(経済技術開発区)の例
2月8日 湖南省永州市経済技術開発区
飼養頭数4600頭
発症頭数270頭
死亡頭数171頭
百八例目 広西チワン自治区北海市(銀海区)
2月18日広西チワン自治区北海市銀海区で発生。
飼養頭数23555頭
発症頭数1629頭
死亡頭数924頭
広西チワン自治区では最初の発生。
百九例目 山東省済南市(莱蕪区)の例
2月20日、山東省済南市莱蕪区
飼養頭数4504頭
発症頭数17頭
死亡頭数3頭
百十例目 雲南省江リス族自治州(瀘水市)の例
2月21日 雲南省江リス族自治州瀘水市
飼養頭数300頭,
発症頭数6頭,
死亡頭数2頭。
百十一例目 河北省保定市(徐水区)の例
2月24日 河北省保定市徐水区
飼養頭数5600頭
百十二例目 内モンゴル自治区大興安嶺重点国有林管局の例
2月24日 内モンゴル自治区大興安嶺重点国有林管局の桑都爾林場のイノシシ養豚場
飼養頭数222頭
発症頭数222頭
死亡頭数210頭
百十三例 陝西省楡林市靖辺県の例
2月27日 陝西省楡林市靖辺県
飼養頭数11334頭
発症頭数150頭
死亡頭数62頭
百十四例 広西チワン族自治区貴港市港南区の例
3月7日 広西チワン族自治区貴港市港南区
飼養頭数3172頭
発症頭数24頭
死亡頭数20頭
百十五例 四川省広安市(隣水県)の例
3月12日 四川省広安市隣水県
飼養頭数 150
死亡頭数 9
百十六例 重慶市石柱トゥチャ族自治県の例
3月21日 重慶市石柱トゥチャ族自治県
飼養頭数 91,
発症頭数 9,
死亡頭数6
百十七例 湖北省利川市の例
3月30日 湖北省利川市
二農場で
①
飼養頭数 142,
発症頭数 8,
死亡頭数 5
②
飼養頭数 83,
発症頭数 83,
死亡頭数 73
百十八例 新疆ウイグル自治区ウルムチ市米東区の例
4月3日 新疆ウイグル自治区ウルムチ市米東区
飼養頭数200頭
発症頭数15頭
死亡頭数15頭
百十九例 チベット自治区ニンティ市巴宜区の例
4月7日 チベット自治区ニンティ市巴宜区
飼養頭数55頭
百二十例目 新疆ウイグル自治区カシュガル地区カルギリク県の例
4月7日 新疆ウイグル自治区カシュガル地区カルギリク県
飼養頭数341頭
発症頭数39頭
死亡頭数39頭
百二十一例目 新疆ウイグル自治区カシュガル地区疏勒県の例
4月11日 新疆ウイグル自治区カシュガル地区疏勒県
飼養頭数583頭
発症頭数150頭
死亡頭数92頭
百二十二例目 海南省ダン州市の例
4月19日 海南省ダン州市
飼養頭数302頭
発症頭数28頭
死亡頭数28頭
百二十三例目 海南省万寧市の例
4月19日 海南省万寧市
飼養頭数419頭
発症頭数49頭
死亡頭数49頭
百二十四例目 海南省海口市秀英区の例
4月21日 海南省海口市秀英区
飼養頭数252頭
発症頭数252頭
死亡頭数43頭
百二十五例目 海南省澄邁県の例
4月21日 海南省澄邁県
飼養頭数172頭
発症頭数62頭
死亡頭数62頭
百二十六例目 海南省保亭リー族ミャオ族自治県の例
4月21日 海南省保亭リー族ミャオ族自治県
飼養頭数7頭
発症頭数7頭
死亡頭数7頭
百二十七例目 海南省陵水リー族自治県の例
4月21日 海南省陵水リー族自治県
飼養頭数86頭
発症頭数34頭
死亡頭数34頭
百二十六例目 海南省保亭リー族ミャオ族自治県の例
4月21日 海南省保亭リー族ミャオ族自治県
飼養頭数7頭
発症頭数7頭
死亡頭数7頭
百二十七例目 海南省陵水リー族自治県の例
4月21日 海南省陵水リー族自治県
飼養頭数86頭
発症頭数34頭
死亡頭数34頭
百二十八例目 四川省アバ・チベット族チャン族自治州若爾蓋県の例
5月20日 四川省アバ・チベット族チャン族自治州若爾蓋県
飼養頭数429頭
発症頭数111頭
死亡頭数78頭
百二十九例目 寧夏回族自治区石嘴山市恵農区の例
5月21日 寧夏回族自治区石嘴山市恵農区
飼養頭数40頭
発症頭数4頭
死亡頭数3頭
百三十例目 雲南省文山州砚山県の例
5月25日 雲南省文山州砚山県
飼養頭数104頭
発症頭数49頭
死亡頭数48頭
百三十一例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州都イン市の例
6月11日 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州都イン市
飼養頭数331頭
発症頭数15頭
死亡頭数10頭
百三十二例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州平塘県の例
6月20日 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州平塘県
斗篷组
飼養頭数65頭
発症頭数24頭
死亡頭数21頭
董老组
飼養頭数121頭
発症頭数19頭
死亡頭数15頭
百三十三例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州三都スイ族自治県の例
6月21日 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州三都スイ族自治県
飼養頭数898頭
発症頭数114頭
死亡頭数82頭
百三十四例目 青海省海東市平安区の例
6月23日 青海省海東市平安区
飼養頭数32頭
発症頭数32頭
死亡頭数17頭
百三十五例目 寧夏回族自治区中衛市の例
6月28日 寧夏回族自治区中衛市
殺処分60+82頭
百三十六例目 広西チワン族自治区玉林市陸川県の例
7月5日 広西チワン族自治区玉林市陸川県
飼養頭数147頭
発症頭数9頭
死亡頭数9頭
百三十七例目 広西チワン族自治区貴港市の例
7月6日 広西チワン族自治区貴港市
飼養頭数744頭
発症頭数42頭
死亡頭数1頭
百三十八例目 湖北省黄岡市団風県の例
7月11日 湖北省黄岡市団風県
飼養頭数102頭
発症頭数5頭
死亡頭数5頭
百三十九例目 四川省楽山市夾江県の例
7月17日 四川省楽山市夾江県
飼養頭数102頭
発症頭数21頭
死亡頭数21頭
百四十例目 湖北省荊州市洪湖市万全镇の例
8月1日 湖北省荊州市洪湖市万全镇
飼養頭数32頭
発症頭数9頭
トータルでは?
これで、2019年8月1日までに、発生省市別数は
遼寧省18.安徽省9.貴州省9.湖南省8.四川省8.雲南省7.湖北省7.海南省6.黒竜江省6.内モンゴル自治区6.山西省5.吉林省4.北京市4.陝西省4.広西チワン自治区4.新疆自治区3.江西省3.広東省3.福建省3.江蘇省3.重慶市3.寧夏回族自治区3.河南省2浙江省2.甘粛省2.天津市2.青海省2.上海市1.山東省1.河北省1.チベット自治区1.
合計22省4市5区140例(内イノシシ感染2例)になった。
現在の中国の省市別感染地図は、下記のとおりである。
すでに、北京・上海は感染地域となり、台湾も、その玄関口の福建省がついに感染地域と化している。
現在、アフリカ豚コレラが発生していない省区は海南省への感染でゼロとなった。
なお、一番数の多い遼寧省の地区別内訳は下記のとおり。
营口市6(9/28.9/28.10/7.10/7.10/7.10/7).鞍山市3(10/8.10/12.10/14).大连市1(10/11).锦州市1(10/14).盘锦市5(10/14.10/14.10/15.10/15.10/16).铁岭市1(10/15)沈阳市1(8/01)
遼寧省合計18
8月31日に、中国当局の今後の防御方針を含めた通知「国务院办公厅关于做好非洲猪瘟等动物疫病防控工作的通知」(“Notice on the Prevention and Control of Animal Diseases in African Swine Flies”)」が発令された。
このなかには、「ASF発症を見た省での豚の生体取引市場を閉鎖する」との方針も含まれている。
更に、9月12日、中国当局は、これまでアフリカ豚コレラが発生した省に隣接する省市区においては、豚の省市区間の輸送を禁止し、隣接省市区のすべての豚の生体取引市場を一時的に閉鎖することを決定。
対象となる省市区は、上海、山東、河北、山西、陝西、湖北、江西、福建、内蒙古、吉林、の10省市区となる。
参考「农业农村部:非洲猪瘟疫情相邻省份暂停生猪跨省调运」
参考「月初爆發 殺2.5萬隻無助阻止疫情 內地12省市列高危 非洲豬瘟恐傳粵」
中国のASFV感染原因はロシアからの輸入肉からか?
ECTADの獣医Wantanee Kalpravidh氏は、これらの感染原因を輸入肉にもとめる見解を出している。
これが、どこからの肉を指しているのか? Kalpravidh氏は明確にはしていないが、言外にロシアからの肉輸入を指していることは明らかであろう。
その一因として、米中との貿易戦争の激化による中国の豚肉輸入事情の変化をあげる向きもある。
中国は4月2日に25%の追加関税を課したため、アメリカの米産豚肉の中国/香港への輸出が減少。
USMEFによると、5月時点で、米産豚肉の中国/香港への輸出は31%減の3万4千191㌧。輸出額も25%減の7千987万2千㌦となった。
このことと、今回の中国でのASF発生との関係について、中国・台湾のメディアは次のように伝えている。
参考
「中國轉購俄羅斯豬肉 疑為非洲豬瘟源頭」「非洲猪瘟蔓延 抵制美国转买俄猪肉惹祸?」「抗衡美国转购俄国猪肉 疑非洲猪瘟散播源头」
「米中間の貿易戦争の激化によって、米国からの輸入豚肉は高額になり、輸入量はほとんどゼロになり、それにかわって輸入されたのがロシアからの豚肉だった。今年4月時点で、キロ6元から10元の米国産高級豚肉は、輸入ストップとなり、その代わりにロシアからの豚肉がキロ12元で入ってきた」とメディアは言う。
8月初旬で、そのロシアからの豚肉輸入量は24万トンから30万トンに及んでいると言う。
ちなみに、昨年のロシアからの豚肉輸入量は17万トンに過ぎなかった。
なお、ロシアのクラスノヤルスク地方から中国 黒竜江省への豚肉製品の輸出がされていた、という報道もある。
これに対して、ロシア側は、9月11日、ロシア連邦農業省 連邦動物植物検疫監督局(Rosselkhoznadzor)の見解として、中国のアフリカ豚コレラのウイルスは、おそらくEUから中国に輸出の豚肉関連食品に混ざり侵入した、との推測を調査結果を引用しつつ示した。
また、もう一つの可能性として南コーカサスの野生イノシシによる侵入も考えられうるが、そのシナリオの可能性は低いとした。
そして、ロシアでは、ベラルーシから輸入される豚肉製品にその懸念があるとして、ベラルーシからのそれら豚肉製品の輸入の中止をすることもありうる とした。
参考「Russia says ASF might have come to China from the EU」
これらについての真偽は別として、米中貿易戦争の余波が、一人当たり豚肉の世界最大の消費国である、今回の中国でのアフリカ豚コレラ問題にまで尾を引いていることは事実だろう。
11月20日、ベラルーシ、グロドノ州で製造されたソーセージ・腸詰めから、アフリカ豚コレラ(ASF)のウイルスのDNAが検出された。
製品は17カ国に輸出されているという。
かねてから、ベラルーシは豚肉加工製品の輸出に積極的で、日本に対しても、10月 協力覚書を締結、
Miratorg-Zapad LLCおよびRatimir LLCの二社が日本に向けての加熱処理肉輸出の認可をとった。
日本の他、アラブ首長国連邦、韓国、中国、ブラジル、カナダ、アメリカ、イラクへの輸出を計画していた。
都市近郊で効果をあげた「泔水喂猪」規制
なお、中国でのアフリカ豚コレラの感染拡大原因として、「泔水喂猪」を上げる向きがあるようだ。
「泔水喂猪」とは、レストランの残飯 残滓 残水を、レストランから直接養豚農家に毎日届け、それを加熱処理することなく、豚に与える違法な養豚法のことである。
参考
「“泔水喂猪”不只是监管的命题」
「中华人民共和国畜牧法」(第43条 家畜及び家禽の飼育について、以下の行為は認められない。
(2)高温で処理されていないレストラン及び食堂からの「泔水」(食堂の残飯・残滓、流し水)を、家畜に餌として与えること。)
「泔水喂猪」=「泔水」(食堂の残飯・残滓、流し水)+「喂」(を飼料にして育てられた)+「猪」(豚)の意味である。
中国で、この「泔水喂猪」が多い省が、アフリカ豚コレラを多く発症させているのかもしれない。
ちなみに、第一例目 遼寧省瀋陽市での発生養豚農家は、「泔水喂猪」の飼育方法であったとされている。
9月13日、中国政府当局は次の通達を出した。
①豚血液使用飼料生産停止
②通達以前生産豚血液由来飼料はサンプル提出、陰性は販売継続。
③農家は豚血液由来飼料使用停止。メーカー製品テスト陰性は使用可。
④ASF発生地域は「泔水」(食堂の残飯残滓)使用禁止、隣接地域は高温処理なし「泔水」使用禁止
参考「中华人民共和国农业农村部公告 第64号」
なお、上記「豚血液由来飼料」としては、例えば、下記「抗病猪饲料」のようなものがある。
遼寧省ASFウイルス遺伝子配列はロシアのイルクーツク・ウイルスと相同性一致
一方、遼寧省でのASFウイルスの遺伝子解析が進み、ロシアのウイルスとの相同性が指摘されている。
一例目遼寧省ウイルスの遺伝子解析の結果、アフリカ豚コレラ遺伝子ASFV-SY18は、ジョージア(Georgia 2007/1), ロシアのクラスノダール(Krasnodar 2012), ロシアのイルクーツク(Irkutsk 2017), エストニア(Estonia 2014)と一致しているという。
参考
「Molecular Characterization of African Swine Fever Virus, China, 2018」
「AFRICAN SWINE FEVER – ASIA (02): CHINA (LIAONING) GENOTYPING, EPIDEMIOLOGY」
「2018年中国首例非洲猪瘟疫情」
中国のアフリカ豚コレラウイルスの遺伝子 塩基配列についての公式報道は、8月22日の「科技日報」での発表しかない。
以下
「另据《科技日报》报道,中国农业科学院哈尔滨兽医研究所猪传染病研究室主任兼猪烈性病创新团队首席科学家仇华吉介绍,基因测序结果显示,引起中国本次非洲猪瘟疫情的毒株为基因Ⅱ型,部分基因序列与格鲁吉亚2007株和俄罗斯伊尔库茨克2017株的相应序列完全一致。」
なお、一例目以外のウイルスの遺伝子配列については、これまで公開がない。
第一例目の遺伝子系統樹は下記の通り。
気になるのは?
気になる点がいくつかある。
①これまでの中国での発生場所が、いずれも、中国の東部であり、しかも、次第に南下しているということ。
②中国の第二例での感染場所がまだわからないが、もし、黒竜江省佳木斯市(チャムス市)の交易市場とすると、ロシアとの国境地帯である、ということ。
ちなみに、このサイト「非洲猪瘟疫情升温 病毒来源真相为何」によると、「2018年4月22日から24日にかけて、FAOの4人からなる調査団が黒竜江省黒河市に行き、ASFの調査をした」とある。(当時の現地の報道は「联合国粮农组织调研组到黑河市调研非洲猪瘟防控情况」)
ちなみにFAOは、今年3月にレポート「African Swine Fever Threatens People’s Republic of China–A rapid risk assessment of ASF introduction」を発行し、黒竜江省が中国で最もASFの発生しやすい場所として、警告を発していた。
参考-動画「非洲猪瘟来自俄罗斯FOA3月就警告」
③ロシアの7月の第一例と中国の第二例には、いずれも、大手の食肉一貫加工場関連施設でのアフリカ豚コレラ菌の発見、という共通点があること。
アフリカ豚コレラ・ウイルスの特性は?
では改めて、ここで、アフリカ豚コレラ・ウイルスの特性を見てみよう。
第一に強調すべきは、アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)は、これまで、ごく普通に蔓延し淘汰されてきた古典的豚コレラ・ウイルス(CSFV)とは全く異なるウイルスである、ということである。
①古典的豚コレラ・ウイルス(CSFV)=一本鎖プラスRNAウイルス。フラビウイルス科
②アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)=二本鎖DNAウイルス。アスファウイルス科
第二に、アフリカ豚コレラ・ウイルスは、淘汰しにくい特異な特性を持っているということである。
主なアフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)の特徴は、次のとおりである。
①生存期間が長い。
室温では18ヶ月も生き延びる。
②寒さに強く、暑さに弱い。
冷凍状態でも生き残る。
逆に温度が上昇すると生存期間は短縮。
③広いレンジでのPHレベルで生息可能。
PHが4から13まで生息可能。
④発症までの潜伏期間
諸説があるが、個別要因によつて幅がある。
アルメニアの野生イノシシの感染実験では、潜伏期間3日から4日。ウイルス排出期間2日から6日。
という一応の目安は確認されている。
参考「Dynamics of African swine fever virus shedding and excretion in domestic pigs infected by intramuscular inoculation and contact transmission」
以下の図は、。ウイルス感染から発症・死亡までの流れである。
A. 潜伏期間(incubation period) =
通常は感染から 3〜14日の範囲
急性症例では3〜4日
B. 他への感染能力獲得期間(latent period)=
通常は感染から3-6日の範囲
C. 臨床症状( clinical sign )=
潜伏期間経過後
なお、これらの数字は、症例によってまちまちであるが、一応の目安を一覧表にしたものが下記にある。
⑤ウイルスの感染力
ウイルスの感染力は、細胞感染性を持つウイルス粒子の数によって決定される。
これを、ウイルス力価(Virus Titer)またはウイルス感染価(Virus Infectivity Titer) という。
ASFのウイルス力価の単位は「log 10 HAD 50 /ml」で表す。
ウイルス力価は
低い時は「2 log10 HAD50/ml」以下であり、
中間が「3 log10 HAD50/ml」位であり
高いときが「4 log10 HAD50/ml」以上である。
⑥感染豚は7日から9日または10日内に死ぬ。
性別、年齢関係なし。
ASFのウイルス力価「log 10 HAD 50 /ml」によって、死亡までの日数は異なる。
ある研究では
ウイルス力価
「2 log 10 HAD 50 /ml」の場合、死亡までの日数 9日
「3 log 10 HAD 50 /ml」の場合、死亡までの日数 8日
「4 log 10 HAD 50 /ml」の場合、死亡までの日数 7日
との数字もある。
ただし、アフリカ中南部には野生のイボイノシシやダ ニが ASFVに不顕性感染し存在している場合もあるようだ。
⑦人には感染しない
通説的には、そうだが、しかし、一部には下記のように異論はある。
参考「「Although ASFV is not known to infect humans even where the virus is
endemic, identification of ASFV-like sequences in serum from multiple human
patients suggests human infection may occur. 」
「Discovery of novel ASFV-like sequences in human serum 」
⑧感染豚の症状
熱、下痢、食欲不振、呼吸不全、鼻血、皮膚出血など
⑨感染豚の死体の状態
リンパ節の腫れ出血、脾臓拡大、内臓や皮膚出血あり。肺や呼吸器系に泡。
これらの症状がない場合は、ASFではないと見てよい。
⑩ASFVの感染経路
四つの感染経路があるとされている。
A.森林サイクル-森林に住むイノシシの数の増減による-イノシシ媒体
B.豚ダニ・サイクル-豚のダニの増減による-豚ダニ(ヒメダニ属)媒体
C.国内サイクル-国内飼養豚の数の増減による-感染豚媒体
D.その他-間接的感染ルート-人間や交通機関がウイルス移転。飼料食物残滓豚加工食品由来感染
直接的には、豚同士の体液や血のふれあいにより拡大することが多い。
感染豚の体液、血液、糞尿などにふくまれるウイルスの数では、鼻水や直腸流体には少ない。故に、血液感染の可能性が最も多い。
間接的には、豚由来の食物や汚染施設経由。海外旅行者の持ち帰り残滓の豚への飼料のコンタミネーション。
冷凍肉などへのウイルスの残留期間については下記表をご参照
空気感染については諸説ある。
「Quantification of airborne African swine fever virus after experimental infection.」によると
アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)が空気中にエアゾール化した時
「大気中のASFVの半減期をPCR分析した結果では平均19分」
との記述があり「ASFV感染豚が大気中にウイルスを排出する可能性はある」と示唆する研究もある。
その他、留意すべき感染経路として
イノシシの精液由来感染・人工授精由来感染、
豚やイノシシの母子感染の可能性。
感染豚の糞便の乾燥粉末化による空気感染
の可能性もある。
⑪感染豚発見時の処理
感染集団全部の殺処分。
立入禁止地域の設置とモニタリングエリアの設定。
これら地域内での野生イノシシ、野生豚の感染監視や捕獲後検査。
感染野生猪発見の場合は地区内豚移動禁止
疑わしい患畜発見の場合は、養豚家やハンターは血液サンプルを所定機関に送る。
⑫アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)に対するワクチン
現在時点では、世界中どこにも無い。
したがって、対策は衛生的手段と個体数調節・殺処分しか、手段がない。
現在、世界中に不在のアフリカ豚コレラ・ワクチンの開発は、いろいろ、試行錯誤がされている。
一つが「プライム-ブースト異種ワクチン接種法」(heterologous prime-boost vaccination strategies)というもの。
参考「Blueprint and Roadmap (BRMP) on the possible development of an African Swine Fever (ASF) vaccine」
異なる二種類の組換えウイルスを免疫誘導と免疫増強の二段階で接種し目的抗原への免疫応答のみ増強するもの。
以上が、アフリカ豚コレラ・ウイルスの特性であるが、この特性故に、淘汰しにくい面が憂慮される。
⑬現在、中国当局が、国内への持ち込み・国外への持ち出しについて、制限監視をしている豚肉製品
A.腌渍火腿(漬けハム)
B.肉干(乾燥肉)
C.肉松(フロス)
D.火腿(ハム)
E.臘肉(ベーコン)
F.臘腸(ソーセージ)
G.米腸(スンデ)
H.饺子(餃子)
I.香腸(ソーセージ)
J.生絞肉(生ひき肉)
K.紅腸
等の猪肉制品(豚肉製品)
⑭肉製品におけるアフリカ豚コレラの生存率(日数)
冻肉 1000日 (冷凍肉)
风干的去骨肉 300日 (空気乾燥ボンレス肉)
风干的肉丸子 300日 (空気乾燥ミートボール)
冷藏去骨肉 110日 (冷蔵ボンレス肉)
冷藏肉丸子 110日 (冷蔵ミートボール)
盐腌制的去骨肉 182日 (塩漬けボンレス肉)
盐腌制的肉丸子 182日 (塩漬けミートボール)
去骨肉 105 日(ボンレス肉)
肉丸子 105日 (ミートボール)
熏制的去骨肉 30日 (燻製ボンレス肉)
肉馅 105日 (ひき肉)
做熟的去骨肉 0日 (調理済みボンレス肉)
做熟的肉丸子 0日 (調理済みミートボール)
肉罐头 0日 (缶詰肉)
出典:FAO、中国 – タイ証券研究所
参考「非洲猪瘟防控」
憂慮されること
憂慮される点としては、以下の点が挙げられる。
①野生イノシシによる感染拡大が懸念される。
ロシアなどでは、野生のイノシシがアフリカ豚コレラ・ウイルスを媒介しているということである。
中国での第二例の感染源が、もし、発見場所の双匯集団系の鄭州双匯食品の食肉加工施設でなく、それ以前の搬入元の黒竜江省佳木斯市(チャムス市)湯原県鶴立村の交易市場であるとしたら、ロシア国境地帯での野生イノシシを介した感染豚の国境地帯での密売による感染拡大、というシナリオも十分考えられる。
また、完全に殺処分されるべき感染豚の掘り起こしなどのニュースもあり、中国の現地での動向には、注視していく必要がありそうだ。
②豚加工食品を通じての中国外への感染拡大が懸念される。
アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)の「熱に弱く、寒さに強い」という特性が、豚肉加工肉やその残滓を介しての感染拡大につながりうる可能性を秘めている、ということである。
特に、今回感染豚が発見されたロシアのRusagro(ルサグロ社)はロシア第三の大手食肉加工企業であり、中国の双匯集団系の鄭州双匯食品も、米国の食肉大手スミスフィールド・フーズを買収するほどの世界的大手食品加工企業であり、日本の日本ハム・グループとは、肉鶏に関する合弁会社「双匯万中禽業」を設立している。
これらの一貫生産加工食品ルートによる感染拡大も、視野に入れる必要がありそうだ。
2月18日に中国の有力冷食メーカーほか11社がアフリカ豚コレラ感染水餃子を出荷した。
このうち、三全食品は中国では思念食品と並ぶ調理冷凍食品の二大メーカーの一つ。
大手メーカーの三全、思念、湾仔碼頭、安井食品の4社で7割のシェアを占めている
対日輸出にも積極的、
中国でアフリカ豚コレラ感染の食品とメーカーの一覧(その1)
1.冷食(餃子、ミートボール)
①三全食品
②郑州郑荣食品有限公司
③科廸食品集団股彬有限公司
④上海国福龍鳳食品股彬有限公司
⑤河南科迪速冻食品有限公司
2.冷食以外(ベーコン、ソーセージ、ハムソーセージ)
①河南省长隆食品有限责任公司
②济南康利斯食品(有限公司、
③山东齐汇食品有限公司
④山东临沂金锣文瑞食品有限公司
⑤河南惠万家食品有限公司
⑥合肥市凯乐斯食品有限公司
以下は製品名とメーカー名の一覧
③中国との隣接国での発生が懸念される
ヴェトナムでは?
ヴェトナムも、ついにASFの侵入をされた。。
ベトナム当局は2月19日、同国の農場3カ所でアフリカ豚コレラウイルスを初検出したことを明らかにした。
発生したのは首都ハノイ南東のフンイエン省とタイビン省にある関連の農場で、すべての豚を殺処分したと発表した。
その後、2月下旬から3月にかけて、ヴェトナム北部で、急速な感染拡大を見せている。
省市別の初発月日は下記のとおり、
2/1フンイェン
2/12タイビン
2/18ハイフォン
2/23タインホア
2/24ハノイ
2/27ハナム
3/1ハイズオン
3/5ディエンビエン、ホアピン
3/6タイグェン
3/9ニンビン、クアンニン、ナムディン
3/11バクカン、ランソン
3/12ゲアン、ソンラ
3/13トゥアティエン・フエ
3/16バクザン
3/17バクニン
3/18ライチャウ
3/25 クァンチ
3/25ヴィンフック
6月25日バリア=ブンタウ省
6月26日ラムドン省
7月02日ベンチェ省
7月06日タイニン省
3月25日時点でのベトナムの各省市での拡大状況は、下記のとおりである。(◎が感染拡大済の省市)
カンボジアでは?
なお、ベトナムに国境を接するカンボジアでも、4月に入り、ラタナキリ州で、初めてアフリカ豚コレラの発生が確認された。
この州は ベトナムとの国境地帯にあり、ベトナムのザーライ省、コントゥム省と、国境を接している。
台湾では?
また、台湾では、台北の南門市場に、中国製の金華火腿(ハムの一種)↓が売られているのを、警戒する向きもある。
①台湾では、10月31日行政院(内閣)農業委員会発表によると、10月25日に金門島の水頭埠頭にある入境前の旅客用の農産物廃棄箱に捨てられていた中国産ソーセージからアフリカ豚コレラが検出されたとのことである。
このソーセージは「雙匯香脆腸」というもので、メーカーは8月16日二例目の河南省鄭州市の鄭州双匯食品と同じ双匯食品系列のものである。
しかし、双匯食品では、このソーセージは偽物であると、反論している。
②さらに、11月13日には、台中空港で、10月25日の金門島水頭埠頭の例と同じく、検疫前の農産物廃棄箱に捨てられていた自家製ソーセージにアフリカ豚コレラが発見された。
③11月30日に、台湾の高雄国際空港の税関の放棄箱に捨てられていた、遼寧省の会社の製品パッケージの紅腸(中国東北部のロシア風ソーセージ)からアフリカ豚コレラウイルスが検出された。
この製品は、「秋林 里道斯哈爾賓紅腸」という名のもので、「哈爾浜秋林里道斯食品有限責任公司」の製品のようである。
④12月12日、台湾の桃園国際空港で、台湾国籍の旅行者が重慶から持ち帰った手荷物の臘腸(豚肉ソーセージ)と、⑤別便の中国人旅行者の手荷物の紅腸から、アフリカ豚コレラ(ASF)のウィリスを検出された。
今回は4-5例目で、これまでに、10月31日、11月13日、11月30日の三例があつた。
⑥12月20日、本土のマカオからの乗客が高雄小江空港に豚肉ソーセージの持ち込みがあった。
⑦12月21日に、中国の福建省から船で、台中港に燕皮を運んだ。
⑧1月3日、桃園国際空港で乗客が中華豚肉製品「哈爾濱兒童腸」を持ち込んだ。
⑨1月5日、三通水頭碼頭のゴミ箱に同安封肉(豚肉の煮込み料理)と哈爾濱紅腸が捨てられていた。
⑩⑪1月11日、台湾、動植物防疫検疫局は、桃園国際空港で渡航者手荷物のソーセージ2例からアフリカ豚コレラ(ASF)を検出と発表。
⑫2月15日、台湾、動植物防疫検疫局は、ベトナムから台湾に帰国した旅行者が持っていたサンドイッチから、アフリカ豚コレラ(ASF)のウイルスが検出されたと発表した。
その後も、数多くの台湾への持ち込みが続き、トータルでは、これまで46例の豚製品持ち込みが発見されている。
内訳は
10月1例、11月2例、12月4例、1月11例、2月11例、3月5例、4月12例
である。
タイでは?
感染の恐れは、タイにまで及びつつある。
11月26日、タイ北部のチェンライの空港で、中国の四川省成都市からのフライトで入境した中国人旅行者が持っていたソーセージから、アフリカ豚コレラのウイルスが検出された。
モンゴルでは?
OIE)の1月27日発表によると、モンゴル国の北部のセレンゲ県で4件と、セレンゲ県に囲まれたダルハン・オール県で1件のアフリカ豚コレラ(ASF)が発生した。
全部で、発症184頭、死亡184頭、殺処分321頭。
その他の国では?
その他、現在なお、アフリカ豚コレラの発生を続けている主な国としては
ポーランド、ルーマニア、モンゴル、ジンバヴェ、ハンガリー、ウクライナ、ラトビア、ベルギー、ブルガリア
等がある。
各国の発生状況は下記のとおりである。(2019年時点)
ルーマニア 250頭(飼養豚79頭、野生イノシシ171頭)
(2019年以来)(3月11日時点)
ブルガリア 7頭(飼養豚1頭、野生イノシシ6頭)(2019年以来)
(2月19日時点)
ベルギー 322頭(野生イノシシ322頭)(2019年以来)
(3月4日時点)
ポーランド 569頭(飼養豚1頭、野生イノシシ568頭)
(2019年以来)(3月1日時点)
モンゴル 10頭(飼養豚10頭)(2019年以来)(2月14日時点)
ハンガリー 303頭(野生豚303頭)(2019年以来)(3月4日時点)
ウクライナ 117頭(飼養豚7頭、野生イノシシ4頭)(2019年以来)
(3月7日時点)
ラトビア 112頭(野生イノシシ112頭)(2019年以来)
(3月8日時点)
なお、アフリカ豚コレラ(ASF)ウイルスがどうやって国境を超えて入り込んで来るのか?各国で、主な原因として推測している原因の一覧が下表にある。
北朝鮮での感染拡大が、大きな懸念材料としてある。
中国第一例目は北朝鮮と国境を接しているし、第三例目の搬入元も、北朝鮮に近い。
口蹄疫の場合も、鳥インフルエンザの場合も、北朝鮮での感染実態については、何も知らされていない。
これが韓国に飛び火し、ついで、日本へ飛び火してくる可能性も否定はできない。
韓国への感染拡大への懸念がある。
韓国では、既に下記のケースがある。
A. 8月3日に、中国の瀋陽市から仁川国際空港に帰国の二人の韓国旅行客が持ち帰ったスンデ(豚の血のソーセージ)と餃子の中からアフリカ豚コレラ(프리카돼지열병)・ウイルスがPCR検査で検出されたと、8月24日に発表があった。
旅行客が当局へ自己申告したもの。
B. 8月20日に、仁川国際空港に到着した中国人旅行客が、韓国内に持ち込んだスンデ(自家製のもの)から、アフリカ豚コレラウイルスが検出
C. 8月26日に、瀋陽から済州空港に到着した中国国籍旅行者が、韓国内に持ち込んだと香腸(ソーセージ)から、アフリカ豚コレラウイルスが検出。
参考「AFRICAN SWINE FEVER – ASIA (09): SOUTH KOREA ex CHINA, CONTAMINATED FLIGHT FOOD」
「제주서도 아프리카돼지열병 바이러스 확인」
「韩国现第二例非洲猪瘟 来自中国游客的香肠」
中国から日本への感染の懸念がある。
口蹄疫の日本への感染拡大の一要因として、大連の中国産の稲わらにあったかもしれない、ということは記憶に新しい。
一応の熱処理は義務づけられてはいるものの、この中国からの稲わら輸入が日本での初感染へのトリガーとならないことを祈りたい。
①農林水産省は10月22日、中国の北京から新千歳空港に入った乗客が持ち込もうとした豚肉ソーセージ(香腸)(10数本のソーセージを真空パックにしたもの、計約1.5キロ分)から、日本では感染が確認されていないアフリカ豚コレラの陽性反応が出たと発表した。
②さらに、11月9日、農林水産省は中国・上海から羽田空港に持ち込まれたギョーザから、アフリカ豚コレラウイルスの遺伝子が確認されたと発表。
10月14日に到着した客が持っていた非加熱の手作りギョーザを遺伝子検査したところ陽性反応が出た。
③11月22日、農林水産省は、11月9日に中国(大連)から成田空港に到着した旅客が任意放棄した携行品の豚肉製品(ソーセージ2.5kg)から、アフリカ豚コレラウイルスの遺伝子が11月22日に検出されたと発表した。
11月9日に中国(大連)から成田空港に到着した旅客が任意放棄した携行品の豚肉製品(ソーセージ2.5kg)から、アフリカ豚コレラウイルスの遺伝子が11月22日に検出した。
④⑤⑥⑦農林水産省は1月25日、中国からの旅客の手荷物にあった食品から、アフリカ豚コレラの陽性反応を新たに4例確認したと発表した。
新たな4例は今月12日と16日に税関などの検査で見つけた。中部空港が3例、羽田空港が1例で、禁止されている市販品や自家製のソーセージを持ち込もうとしていた。
アフリカ豚コレラの持ち込み事例は昨年からの合計で7例となった。
⑧2月6日、農林水産省は、中国の吉林省から関西国際空港に到着した旅行客が持ち込もうとした豚肉ソーセージを回収し、検査したところ「アフリカ豚コレラ」の陽性反応が出たと発表
⑨⑩農林水産省は2月13日、成田、福岡の各空港に1月下旬に到着した中国からの旅客が持ち込んだ豚肉製品計2品から、アフリカ豚コレラウイルスの遺伝子が検出されたと発表した。
北京から成田空港に到着した旅客が持ち込んだ豚肉の薫製と、青島から福岡空港に着いた旅客のソーセージ。成田、福岡へはそれぞれ1月24、27日に到着した。
11.農林水産省は、4月1日、中国から持ち込まれた豚肉製品2点から、家畜伝染病「アフリカ豚コレラ(ASF)」の感染力のあるウイルスが確認された、と発表
国内に持ち込まれた肉製品からウイルス遺伝子が検出された例は、この県も含めて17件となった。
これまで、日本の空港で発見されたアフリカ豚コレラ感染肉製品の発見日と検査確定美一覧は下記のとおりである。
アフリカ豚コレラ検疫発見日→検査確定日
① 10/01→10/19 北京→千歳 ソーセージ 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陰性
② 10/14→11/09 上海→羽田 豚肉製品 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陰性
③ 11/09→11/22 大連→成田 ソーセージ 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陰性
④0 1/12→01/25 上海→中部 ソーセージ 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陽性
⑤0 1/12→01/25 青島→中部 ソーセージ 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陽性
⑥ 01/16→01/25 瀋陽→中部 ソーセージ 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陰性
⑦ 01/12→01/25 上海→羽田 ソーセージ 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陰性
⑧ 01/26→02/05 延吉→関空 ソーセージ 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陰性
⑨ 01/24→02/07 北京→成田 豚肉製品 遺伝子検査 陽性
⑩ 01/27→02/07 青島→福岡 ソーセージ 遺伝子検査 陽性
⑪0 1/31→02/18 青島→福岡 ソーセージ 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性 ウイルス分離検査 陰性
⑫ 02/8→02/21 杭州→那覇 ソーセージ 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性
⑬ 02/11→02/21 上海→岡山 ソーセージ 遺伝子検査 陽性
⑭0 2/21→03/05 瀋陽→成田 ソーセージ 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性
⑮0 2/20→03/07 ハノイ→成田 豚肉製品 遺伝子検査 陽性
⑯ 03/13→03/25 瀋陽→中部 ソーセージ 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性
⑰03/13→03/25 瀋陽→中部 ソーセージ 検疫探知犬 遺伝子検査 陽性
⑱03/22→03/29上海→那覇 ソーセージ 遺伝子検査 陽性
⑲03/27→04/03ハノイ→成田 ソーセージ 遺伝子検査 陽性
③日本の過疎地に急速に増えつつある野生イノシシが感染媒体になるのではないか?との懸念がある。
日本における野生イノシシ対策は、即アフリカ豚コレラ対策ともなり得る。
豚コレラの感染経路で有力なのは、野生イノシシであり、イラン 、リトアニア 、ポーランドでも、いずれも、イノシシによる拡大であった。
ロシアも、イノシシ由来での感染拡大を阻止できていないと言われている。
日本においては、過疎地を中心に、野生イノシシの増殖増加問題が騒がれているが、ジャーナリズムの取材スタンスは、単に近隣の農作物の被害問題ばかり取り上げているだけにもみえる。
しかし、もし、日本においても、この増殖している野生イノシシが、アフリカ豚コレラ・ウイルスを媒介する事態になったら、現在の対策ではまっく役立たないだろう。
これら野生イノシシの疫病媒介動物としての対処と本格的なコントロール(アメリカ並の、不妊ワクチン「Gonacon」の「darting syringe gun」による投与など)が必要となるのではなかろうか?
なお、野生イノシシにまで感染が及んだ場合、次のような対応を求める意見もある。
豚コレラ感染の野生イノシシのコントロールについて
「感染野生生物の防除
もし、豚コレラウイルスに感染した野生のイノシシの個体数が定着した場合、更に撲滅は困難となる。
したがって戦略は野生のイノシシと飼養豚との接触の最小化が取られるべきであり、できれば養豚施設の二重の柵の設置、柵の中の豚がいる地域での野生のイノシシの数を減らすこと、他動物に食い荒らされないよう死骸や内蔵などの早急な処理が必要である。
なお、電気柵の網目間隔は、下図の高さ60センチメートルのものが適用されるようだ。
参照「ELECTRIC FENCE FOR PIGS AND HOGS」
もし、上記方法にもかかわらず、感染が風土病的になった場合、そのコントロールの方法には、議論がある。
すなわち、狩猟は逆効果を及ぼすという議論があるからだ。
なぜなら、狩猟によって、野生イノシシの行動範囲を拡大させ、長距離での移動を余儀なくさせてしまうということである。
加えて、狩猟によっては、必ずしも野生イノシシの数を減らすことにはつながらない。
野生イノシシを一定の範囲にとどめ分散を防ぐため、栄養補給を行うことは、病気感染の機会を増やしてしまう。
狩猟による野生イノシシの個体調整の場合には、ハンターと獣医とのサーベイランスにおける協力が重要となる。」
引用「African Swine Fever (ASF) recent developments – timely updates」より
各国でも、ASFVに感染した野生イノシシ対策で、各種のマニュアルを作成しているる
以下はそのいくつかの例になる。
「Guidelines on surveillance and control of African swine fever in feral pigs and preventive measures for pig holdings」
「Disease Control Strategy for African and Classical Swine Fever in Great Britain」
「Can African swine fever be controlled through wild boar management?」
また、アフリカ豚コレラ対策に限ってのものではないが、オーストラリアのクイーンズランド州が作成した「イノシシ対策マニュアルが平易に書かれている。
これ
「Feral pig control A practical guide to pig control in Queensland」
感染野性イノシシの実態調査のためのサンプリング方法について
サンプリング調査の方法としては、伝統的な捕獲調査の他に、より効率的な方法として、「ロープ利用でイノシシの口内粘液からサンプリングを採取する「Rope-based oral fluid sampling」が効率的とする専門家もいる。
これには、以下のようなロープを使っての唾液などの粘液採取となる。
参考「COLLECTION OF ORAL FLUID SAMPLES FROM WILD BOAR IN THE FIELD CONDITIONS TO DETECT AFRICAN SWINE FEVER VIRUS (ASFV)」
また、伝統的な捕獲調査の方法にもいろいろな方法が考えられているようだ。
このサイト「TRAPPING OF FERAL PIGS」はオースリラリアにおけるイノシシ捕獲のための様々なトラップについて書かれていて、興味深い。
一般的に、ウイルスが野生イノシシにまで感染拡大した場合、とりうる手段は限られてくる。
感染拡大後の対策は「Regionalization」(地域限定化)しかない。
その地域限定化のための手法としては、
①サンプルエリアを確定する。
②パッシブサーベイランス(疾病疑い事例の通報に基づく)をする。
③ゾーニング確定
④淘汰(stamping out)へ
ワクチン使用 リング・ワクチネーション(ring vaccination)や地域限定ワクチン(area vaccination)
参考「EU Strategy for ASF – SVA」
なお、野生イノシシのサーベイランスの種類としては、次のものがある。
①パッシブ(受動的) サーベイランス
死亡や病気のイノシシの報告を受け、感染か否かを検査する。
②アクティブ(能動的) サーベイランス
イノシシの射殺や罠でかかったものについて、感染か否かを検査する。
③センチネル(Sentinel)(定点観測) サーベイランス
指標となるイノシシを決め、定期検査する。
まとめ
上記の中国での感染拡大状況を踏まえ、FAO(国連食糧農業機関)は、遅ればせながらも、2,018年9月7日に、日本を含むアジア諸国の担当者や専門家などを集めた緊急の会合を開き、現在の中国での感染拡大状況は「まさに、氷山の一角」(just the tip of the iceberg)にすぎないとし、アジア諸国に感染が拡大するのはほぼ確実だと警告した。
参考
「Asian countries warned that deadly African Swine Fever is ‘here to stay’ – utmost diligence required to avoid major damage to food security and livelihoods」
「African Swine Fever in Asia: ‘Just the tip of the iceberg’」
「EARLY DETECTION AND CONTINGENCY PLANS FOR ASF」
以上
参考-アフリカ豚コレラについての啓蒙ビデオ(英語)
参考「African and classical swine fever: similarities, differences and epidemiological consequences」
2018年8月22日
いよいよ、アフリカ豚コレラ・ウイルスは、ロシアから中国へ
昨年3月からロシアのシベリア地方でも蔓延しはじめたアフリカ豚コレラ・ウイルスが、中国遼寧省瀋陽市の養豚繁殖農場に侵入したのがわかったのが、今月8月1日(現地養豚場では、6月半ばから症状を示していたという。)だった。
ECTADの獣医Wantanee Kalpravidh氏は、「瀋陽のASFV感染は今年3月から」とも言っているのだが、真相はまだわからない。
ロシア及びその周辺国の状況
今年に入ってのロシアの状況
それに先立つて、ロシアでは、すでに今年に入ってから7月までに 38例の発生を確認している。
主な発生場所は、カリーニングラード、ノヴゴロド、サラトフ、トゥーラ、モスクワなどである。
先月には7月16日と22日に、二例の発生を見ている。
ロシアでの7月一例目はBelgorod OblastにあるRusagro(ルサグロ社)というロシア第三の大手食肉会社の種豚農場での発生であった。
このRusagro(ルサグロ社)の関係施設での発生は、今回が初めてではなく、昨年9月5日にも同じBelgorod地域で発生を確認している。
ちなみに、2007年以降、日本は、ロシアからの生および熱処理加工された豚肉、牛肉、羊肉、および家禽の肉の輸入禁止措置が講じられている。
ただ、このルサグロ社については、中国の北東に養豚場建設のために10億ドルの投資をしたり、沿海地方(プリモルスキー地方)でのプロジェクトを活発化させたりして、ゆくゆくは、中国そして日本のマーケットも視野に入れているとの報道もある。
参考「RusAgro pushes into China by building pig farms 」
ほとんど感染され尽くされようとしているヨーロッパ大陸
アフリカ豚コレラ ウイルスのヨーロッパ大陸への上陸は、二期に分かれる。
第一期は、1957年から1990年半ばにかけての侵入であり、第二期は、2006年末から2007年にかけての東ヨーロッパへの侵入である。
第一期の時は、スペイン,フランス,イタリア,マルタ,ベルギー、オランダに侵入し、1990年半ばにようやく撲滅を果たした。
第二期の侵入は、東ヨーロッパから始まり、2006年末からのジョージアへの侵入が最初と言われている。。
2006年末から2007年にかけて、黒海のポティ港に寄港した船のゴミを通じて、ASFVは、南アフリカからヨーロッパ大陸に初めて伝搬し、まづ、ポティ港のあるグルジア(現在のジョージア)に侵入した。
そこから、ASFV感染は、ロシア(初発2007年春)、そして周辺の各国にも及んでいった。( 括弧内は初発年)
ジョージア(2007)→ロシア(2007)、アルメニア(2007)→アゼルバイジャン (2008)→ウクライナ(2012)→ベラルーシ(2013)→ポーランド(2014)、エストニア(2014)、ラトビア(2014)、リトアニア(2014)→モルドバ(2016)→チェコ(2017)、ルーマニア(2017)→ハンガリー(2018)、ブルガリア(2018)
へと、である。
参考「African Swine Fever in Europe – Evolution in time」
特に、ウクライナでは、6月に14.18.23日の三例、7月に3日.30日の二例と、感染が急速に拡大しているようだ。
これらの国々と国境を接しているドイツなど、各国への感染拡大が懸念されている。
なお、ブルガリアは、ついこれまでは未感染国であったが、8月31日についに感染国となってしまった。
ルーマニアの国境に近い、プロヴァディアのTutrakantsiという村のようである。
ブルガリアは、これ以上の感染拡大を防ぐために、ルーマニアとの国境に柵を設ける予定とのことである。
更に、9月13日、ベルギー政府は、ルクセンブルグ国境に近いリュクサンブール州ヴィルトン行政区エタルで、二頭の野生イノシシから、ASFVが発見されたと発表した。
ここは、チェコから500Km、ハンガリーから800Km、ルーマニアから1200Km。
ドイツ・フランスとも国境が近いため、西ヨーロッパの各国は、ASFV侵入の脅威にさらされている。
なお、フランスは第一期発生時に根絶済なので、このウイルスがどこから来たのか?またジャンプしたのか? に関心が集まっている。。
参考「SPECIAL ANNOUNCEMENT: ASF CONFIRMED IN BELGIUM」
なお、ヨーロッパ大陸全体では、2007年の初発以来、2017年7月までに、5,445例があり、うち903例がロシアであった。
2018年5月までの状況は、サイト「Overview of ASF situation in EU」
最新の状況については、「EURL-Aflican swine fever (ASF) activities 2017-2018」
を、ご参照
地図上での確認は「Disease outbreak maps – OIE」からどうぞ。
使い方は
「Terrestrial」で「African Swine Fever」を選択
「Choose a species」で「Swine」を選択。「OK」クリック
「Period From」で、表示対象期間を選択。「OK」クリック
ピンク色の「Legend」をクリック→マップに表示
マップ表示の丸印をクリック→地域名や状態詳細がポップ・アップ
ASFは、ついに、ウラル山脈を超えた
ロシア連邦動植物衛生監督庁(VPSS)によると、2017年初頭以降 年末までに、121例の豚、21例の野生イノシシに、アフリカ豚コレラ(ASF)が確認されている。
発生以降、疾病撲滅措置として80万頭が淘汰されている。
2016年は豚222例、野生イノシシ76例だった。
近時のロシアでのASF発生地域の変化で特記すべきは、これまでの発生地域が、ロシア中央地域や沿ボルガ地域だったものが、ウラル山脈を超え、イルクーツク(2017年3月18日)→オムスク(2017年7月4日)→クラスノヤルスク(2017年10月2日)→チュメニ(2017年11月2日)へと、シベリア地域にまで飛び火し、今後、中国への感染までも、視野に入れざるを得ない状態に変化したことだった。
参考「Russia 2017 Livestock and Products Annual」「African swine fever in Russian federation current epizootic situation and control」
参照 2017年から2018年7月にかけてのシベリア地方におけるASF発生例一覧
ウラル連邦管区
チェリャビンスク
2017年10月30日
チュメニ州
2017年11月2日
ヤマロ・ネネツ自治管区
2017年11月12日
シベリア連邦管区
オムスク州
2017年7月6日
2017年7月23日~7月29日
2017年8月12日~8月16日
2017年8月16日
2017年8月27日
2017年10月6日
クラスノヤルスク地方
2017年10月2日
イルクーツク州
2017年3月18日
極東
なし
中国の状況
中国では、今日(12月21日)までに、合計97例目の発生(うち2例は野生イノシシへの感染例)が確認されている。
場所は、
一例目 遼寧省瀋陽市(8月01日)
二例目 河南省鄭州市(黒竜江省チャムス市経由)(8月14日)
三例目 江蘇省連雲港市(8月15日)
四例目 浙江省温州市悦清市(8月17日)
五例目 安徽省蕪湖市南陵(8月29日)
六例目 安徽省宣城市宣州区(古泉镇)(9月2日)
七例目 安徽省宣城市宣州区(五星郷)(9月2日)
八例目 安徽省 宣城市 宣州区(金壩)(9月3日)
九例目 江蘇省無錫市宜興市(9月3日)
十例目 黒龍江省佳木斯市(ジャムス市)(長青)(9月5日)
十一例目 安徽省徐州市鳳陽県(9月6日)
十二例目 黒竜江佳木斯市(ジャムス市)(向阳区)(9月6日)
十三例目 安徽省蕪湖市南陵県(9月6日)
十四例目 安徽省宣城市宣州区(天湖街道)(9月6日)
十五例目 安徽省銅陵市(9月10日)
十六例目 内モンゴル自治区シリンゴル盟アバグ旗(9月12日)
十七例目 河南省新郷市獲嘉県(9月14日)
十八例目 内モンゴル自治区シリンゴル盟ショローン・フフ旗(9月15日)
十九例目 吉林省公主岭市 南崴子镇(9月17日)
二十例目 内モンゴル自治区ヒンガン盟ホルチン右翼中旗(9月20日)
二十一例目 内モンゴル自治区フフホト市(9月22日)
二十二例目 吉林省松原市長嶺県(9月28日)
二十三例目 遼寧省営口市大石橋市(9月28日)
二十四例目 遼寧省営口市老辺区(9月28日)
二十五例目 遼寧省営口市大石橋市(高坎镇)((10月7日)
二十六例目 遼寧省営口市大石橋市(旗口镇) (10月7日)
二十七例目 遼寧省営口市老辺区(路南镇)(10月7日)
二十八例目 遼寧省営口市老辺区(边城镇)(10月7日)
二十九例目 遼寧省鞍山市(台安県)(10月8日)
三十例目 遼寧省大連市(普蘭店区)(10月11日)
三十一例目 遼寧省鞍山市(台安県)(10月12日)
三十二例目 天津市(蓟州区)(10月12日)
三十三例 遼寧省鞍山市(台安県)(10月14日)
三十四例 遼寧省锦州市(北镇市)(10月14日)
三十五例 遼寧省盘锦市(大洼区)(王家街道曙光村)(10月14日)
三十六例 遼寧省盘锦市(大洼区)(王家街道王家村)(10月14日)
三十七例 遼寧省铁岭市(开原市)(庆云堡镇)(10月15日)
三十八例 遼寧省盘锦市(大洼区)(清水镇)(10月15日)
三十九例 遼寧省盘锦市(大洼区)(王家街道)(10月15日)
四十例 遼寧省盘锦市(大洼区)(西安镇)(10月16日)
四十一例 山西省大同市(左云县)(10月17日)
四十二例 雲南省昭通市(鎮雄県牛场镇)(10月21日)
四十三例 雲南省昭通市(鎮雄県母享镇)(10月21日)
四十四例 浙江省台州市(三門県)(10月21日)
四十五例 湖南省益陽市(10月22日)
四十六例 湖南省常德市(10月22日)
四十七例 貴州省畢節市(赫章県)(10月25日)
四十八例から五十例 貴州省畢節市(七星関区)(10月26日)
五十一例 湖南省常徳市(桃源県)(10月28日)
五十二例 山西省太原市(陽曲県)(10月30日)
五十三例 湖南省懐化市(沅陵県)(10月30日)
五十四例 雲南省普洱市(思茅区)(10月30日)
五十五例 山西省太原市陽曲県(西凌井乡)(11月3日)
五十六例 重慶市豊都県(興義鎮)(11月4日)
五十七例 湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州(保靖県)(11月5日)
五十八例 湖北省羅田県(11月7日)
五十九例 湖南省婁底市(漣源市)(11月8日)
六十例 江西省上饒市(万年県)(11月8日)
六十一例 吉林省延辺朝鮮族自治州竜井市(城廂区)(11月8日)
六十二例 福建省莆田市(城廂区))(11月8日)
六十三例目 安徽省池州市(青陽県)(11月9日)
六十四例目 湖北省黄岡市(武穴市)(11月12日)
六十五例目 湖北省黄岡市(キ水県)(11月15日)
六十六例目 四川省宜賓市(高県)(11月15日)
六十七例目 吉林省白山市(渾江区)(11月16日)-野生イノシシ感染例
六十八例目 雲南省昭通市(威信県)(11月16日 )
六十九例目 江西省上饒市(ハ陽県)(11月17日)
七十例目 雲南省昆明市(呈貢区)(11月17日)
七十一例目 四川省成都市(新津県)(11月17日)
七十二例目 上海市金山区(11月17日)
七十三例目 黒竜江省ハルビン市(道外区)(11月19日)
七十四例目 湖南省懐化市(鶴城区)(11月19日)
七十五例目 北京市 房山区(青龍湖鎮)(11月23日)
七十六例目 北京市 房山区(琉璃河鎮)(11月23日)
七十七例目 内モンゴル自治区包頭市(ホンドロン区)(11月23日)
七十八例目 湖北省黄石市(陽新県)(11月25日)
七十九例目 天津市(寧河区)(11月29日)
八十例目 江西省九江市(柴桑区)(11月30日)
八十一例目 陝西省西安市(鄠邑区)(12月3日)
八十二例目 北京市通州区(12月3日)
八十三例目 黒竜江省(イノシシ養殖場)(12月3日)
(12月3日の中共农业农村部副部长于康震氏の発表では、これまでの発生数豚79例、野生イノシシ2例、合計81例としているが、別の報道として、12月3日現在での中国当局の発表では、これまでに88例発症とあリ、12月3日時点では7例の食い違いがある。)
八十四例目 四川省瀘州市(合江県)(12月5日)
八十五例目 陝西省西安市(長安区)(12月5日)
八十六例目 北京市順義区(12月5日)
八十七例目 山西省臨汾市(堯都区)(12月6日)
八十七例目 山西省臨汾市(堯都区)(12月6日)
八十八例目 陝西省楡林市(神木市)(12月9日)
八十九例目 貴州省貴陽市(白雲区)(12月9日)
九十例目 四川省巴中市(巴州区)(12月12日)
九十一例目 青海省西寧市(大通回族トゥ族自治県)(12月12日)
九十二例目 四川省綿陽市(塩亭県)(12月16日)
九十三例目 黒竜江省鶏西市(鶏冠区)(12月16日)
九十四例目 重慶市璧山区(12月18日)
九十五例目 広東省珠海市(香洲区)(12月19日)
九十六例目 福建省三明市(尤渓県)(12月20日)
九十七例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州(竜里県)(12月21日)
である。
これまでの延べの殺処分(扑杀)頭数(头)は、OIE発表の数字では、9月28日の吉林省発生例までの累計で、96,057頭(うち、感染による死亡頭数1,087頭、殺処分数94,970頭)である。
明細は下記表の通り
出典「第22起非洲猪瘟:吉林省松原市长岭县发生一起非洲猪瘟疫情。据统计国内非洲猪瘟死亡和扑杀的生猪数量达9.6万头。」
なお、この後、11月1日での中国国務院発表では、中国での8月1日以来のアフリカ豚コレラ発生に伴う豚の殺処分数のトータルは、47万頭と発表している。
さらに、中国農業農村部畜産局副局長 冯忠武氏が11月23日発表したところによると、中国のアフリカ豚コレラは、8月1日の遼寧省発生から11月22日までの間に、中国全土で20省47市で、豚については73例、イノシシについては1例発生。
殺処分された豚の頭数は60万頭にのぼっている。うち7省の24疫区が封鎖解解除としている。
また、12月3日現在の累計殺処分数は、63万一千頭と発表された。
殺処分補助金として、口蹄疫の場合(FMD手当)に順じ、アフリカ豚コレラについても、豚一頭につき800 元 (USD 117.50)の補助金があたえられる(9月13日からは、800元/頭から1200元/頭に上げる通知を発表)ので、患畜隠蔽のメリットはないと言われている。
この殺処分補助金は、豚のサイズにかかわらず一律なので、子豚にとっては、効率がいいが、処理にコストがかかる成豚にとっては効率がわるい。
また、瀋陽市では、補助金稼ぎの詐欺事件もあったと言われている。
参考
「四起非洲猪瘟源头难索 扑杀成本高昂对行业冲击巨大」
「沈阳警方破获一起谎报“非洲猪瘟”骗补偿款案」
一例目 遼寧省瀋陽市の例
感染豚を出した遼寧省瀋陽市瀋北新区の養豚農家では、7月5日に瀋陽市渾南区から45匹の豚を購入した、としている。
その渾南区の豚販売元である王さんは、3月24日に吉林市船营区から100匹購入し、そのうちの一部が4月になって発症し、一部は死んだという。
生き残った豚については、当局に報告せずに、同じ瀋陽市内の農場へ売却したという。
ちなみに、8月15日までに、遼寧省動物衛生当局は、遼寧省中の355 ,400頭の豚を検査し、うち、疑いのある検体10 791を取ったところ、瀋陽市からの全22検体がウイルス陽性であった。
参考
「辽宁非洲猪瘟疫情防控:对8116头生猪扑杀和无害化处理」
「SPECIAL ANNOUNCEMENT: SECOND CASE OF ASF IN CHINA」
「AFRICAN SWINE FEVER-CHINA (03): DOMESTIC SWINE, CULL, ALERT」
8月1日に感染豚を発見した遼寧省瀋陽市瀋北新区では、その後、2つの町の246,100の農場と63,861,600頭の豚について、スクリーニングを続けた結果、次の4農場で、感染豚を発見。いずれも8月29日までに全殺処分とした。
①财落街道
3養豚場431頭から39サンプル採取、うち6サンプルが陽性
②尹家街道
1農場140頭から14サンプル採取、うち1サンプルが陽性。
参考「OIEフォローアップレポート」
二例目 河南省鄭州市の例
感染豚が発見されたのは、世界的企業である万洲国際有限公司(WHグループ)の子会社であり双匯集団系の鄭州双匯食品の食肉加工施設の屠殺場(郑州双汇屠宰场)であった。
この感染豚自体は、黒竜江省佳木斯市(チャムス市)湯原県鶴立郷の交易市場(黑龙江省佳木斯市汤原县鹤立镇交易市场)から260頭搬入された加工用豚であり、そのうちの30頭が死亡した。
どこでASFVに感染したのか?については、いまのところ謎のようである。
なお、この豚は、黒竜江省哈爾濱(ハルピン)市 通河县 清河林业局から来たものだという。
上記一例目と二例目とをあわせてみると、黒竜江省と吉林省と遼寧省とが感染ベルト地帯としてつながってしまうのだが、果たして真実はどうなのだろう?
なお、黒竜江省佳木斯市(チャムス市)から搬送された感染豚ということで、世界的企業である万洲国際有限公司(WHグループ)各社は、その後、操業を中止している。
三例目 江蘇省連雲港市の例
8月17日7時48分、连云港市海州区浦南镇の连云港连成牧业有限公司が当局に豚の異変を報告、
この会社は今年の4月に開設、4棟の豚舎からなる。
5月6日から8回に分けて豚を購入。
子豚はすべて泰安晟旺牧业有限公司から購入、
総頭数4,626頭。
発症は2号豚舎から始まった。
8月15日7時に3頭の異常発見、午後には死亡。
8月16日に8頭が急死、10頭が高熱。
8月17日に23頭が死亡、150頭が高熱。
8月18日に、54頭が死亡、465頭が新たに発症。
8月19日に、88頭が死亡、615頭が新たに発症。
参考「连云港市非洲猪瘟疫情防控最新进展公布:猪肉可以正常食用」
四例目 浙江省温州市悦清市の例
8月17日、浙江省温州市乐清市淡溪镇の淡溪镇樟岙村经济合作畜牧养殖小区で、三軒の養豚農家でアフリカ豚コレラ発生。
430頭発症、340頭死亡。
原因は、自動車車両が感染媒体と推測。
浙江省の岳清市の農民の証言では、8月初めに地元の屠殺場が遼寧省から2頭の豚を受け取ったとの話もある。
五例目 安徽省蕪湖市の例
8月29日、安徽省がアフリカ豚コレラの実態調査中に、安徽省 蕪湖市 南陵の農場で、アフリカ豚コレラを発見、459頭中、185頭が発症、80頭が死亡していた。
六例目&七例目 安徽省宣城市宣州区の例
9月2日、安徽省宣城市宣州区で発生。
古泉镇農場には285頭の豚がいて40頭が死亡。
五星郷農場には、440頭の豚がいて94頭が死亡。
八例目 安徽省 宣城市 宣州区(金壩)の例
9月3日 安徽省 宣城市 宣州区 金壩 の養豚場で発生。
飼養頭数308頭
発症頭数152
死亡頭数83
六例目と七例目の位置関係は下記の通り
九例目 江蘇省無錫市宜興市の例
9月3日に、江蘇省無錫市宜興市で発生。
飼養頭数97頭
発症頭数12頭
死亡頭数9頭
十例目 黒龍江省佳木斯市(ジャムス市)の例
9月5日に、黒龍江省佳木斯市(ジャムス市)郊外長青郷の農家で。
飼養頭数87
発症頭数39
死亡頭数12
この發生元と、第二例目の河南省への感染豚搬送元だった湯原県鶴立郷との位置関係は下記地図のとおり。
黒竜江省での第二例と第九例と第十一例との関係位置図は下記の通り
十一例目 安徽省徐州市の例
9月6日、安徽省 滁州市 鳳陽県の農場で発生。
飼養頭数886頭
発症頭数62頭
死亡頭数22頭
十二例目 黒竜江省佳木斯市の例
9月6日 黒竜江省佳木斯市向阳区の農家で
飼養頭数203頭
発症頭数26頭
死亡頭数10頭
十三例目 安徽省蕪湖市南陵県の例
9月6日、安徽省蕪湖市南陵県で
飼養頭数30頭
発症頭数13頭
死亡頭数4頭
十四例目 安徽省宣城市宣州区天湖街道の例
9月6日、安徽省宣城市宣州区天湖街道で
飼養頭数52頭
発症頭数15頭
死亡頭数15頭
十五例目 安徽省銅陵市義安区の例
9月10日、安徽省銅陵市義安区で発生。
飼養頭数219頭
発症豚頭63頭
死亡頭数23頭
この十四例目で、安徽省での発生例は通算七例となった。
地理的分布には、下記の通り。
十六例目 内モンゴル自治区シリンゴル盟アバグ旗(阿巴嘎旗)の例
9月12日 内モンゴル自治区シリンゴル盟アバグ旗 で発生
発症頭数16頭
死亡頭数16頭
十七例目 河南省新郷市の例
9月14日 河南省新郷市獲嘉県で発生
飼養頭数148頭
死亡頭数64頭
十八例目 内モンゴル自治区シリンゴル盟ショローン・フフ旗(正藍旗)の例
9月15日 内モンゴル自治区シリンゴル盟ショローン・フフ旗(正藍旗)で発生
飼育頭数頭159頭
感染頭数14頭
死亡頭数8頭
このシリンゴル盟では、9月12日にもアバグ旗(阿巴嘎旗)で、15例目が発生していた。
十九例目 吉林省公主岭市 南崴子镇の例
9月17日、吉林省公主岭市 南崴子镇で発生
飼養頭数484頭
発症頭数56頭
死亡頭数56頭
二十例目 内モンゴル自治区ヒンガン盟ホルチン右翼中旗の例
9月20日、内モンゴル自治区ヒンガン盟ホルチン右翼中旗で発生
飼養頭数138頭
発症頭数23頭
死亡頭数22頭
二十一例目 内モンゴル自治区フフホト市の例
9月22日 内モンゴル自治区フフホト市の と畜場で、と畜される豚の検査中にアフリカ豚コレラ感染豚を発見。
この と畜場には388頭の豚がいて、4頭が発症、2頭が死亡。
なお、このフフホト市の と畜場で感染豚が発見された背景に、公設獣医師が、8000元(13万円)の闇報酬を得て、地域内での輸送が可能となる検疫証明書(B)を偽造し、これを元にして、9月20日午後に、遼寧省鉄嶺市昌図県から、96頭の豚生体を、内モンゴル 通遼市 ナイマン旗の奈曼旗金泉養豚場へ送り、それを直接、と畜場に送り込んだと、報道されている。
参考「内蒙四人因猪瘟疫情被拘:兽医收钱开检疫证明致辽宁病猪流入」
この20例目で、内モンゴル自治区では、合計4地区でアフリカ豚コレラが発生したわけだが、これまで発生した地区の地図上の位置関係は下記のとおりである。
二十二例目 吉林省松原市長嶺県の例
9月28日、 吉林省松原市長嶺県の農場で
飼養頭数44頭
発症頭数8頭
死亡頭数3頭
吉林省では、18例目の公主岭市 南崴子镇の発生に続き二例目
二十三例目&二十四例目 遼寧省営口市大石橋市と老辺区の例
9月28日、遼寧省営口市大石橋市と老辺区の3つの镇,4つの村で、五戸の農家から発生。
飼養頭数378頭、死亡頭数102頭。
二十五例目&二十六例目&二十七例目&二十八例目 遼寧省営口市大石橋市と老辺区の例
10月7日発生、
9月28日に次ぐ再発、
発生は遼寧省営口市の広範囲に及ぶ。
二十五例目
大石桥市高坎镇
革家村
二十六例目
大石桥市旗口镇
宿东村、新兴村、王围村
二十七例目
老边区边城镇
北于杨村,
二十八例目
老边区南镇
新立村
総飼養頭数3358頭,
総発症数334頭,
総死亡頭数93頭
二十九例目 遼寧省鞍山市台安県の例
10月8日、遼寧省 鞍山市 台安郡の農家から発生。
飼養頭460頭、
発症頭数160頭、
死亡頭数160頭
三十例目 遼寧省大連市普蘭店区の例
10月11日、遼寧省大連市普蘭店区の一農場に発生
飼養頭数1353頭
発症頭数20頭
死亡頭数11頭
三十一例目 遼寧省鞍山市台安県の例
10月12日に遼寧省鞍山市台安県新台鎮の農家から発生
飼養頭数120頭、
発症頭数88頭、
死亡頭数72頭。
三十二例目 天津市蓟州区の例
10月12日、天津市蓟州区侯家营镇の農家に発生。
飼養頭数639頭
発症頭数292頭
死亡頭数189頭
これでこれまでの発症省市に新たに天津市が加わり、感染省市は8省1直辖市に拡大したことになる。
三十三例目 遼寧省鞍山市台安県(桑林镇)の例
10月14日、遼寧省鞍山市台安県桑林镇の農家で発生。
飼養頭数 180頭
発症頭数 14頭
死亡頭数 14頭
なお、鞍山市台安郡としては、10月8日と12日に続く三回目の発生。
三十四例 遼寧省锦州市北镇市の例
10月14日發生
飼養頭数19,938頭
発症頭数221頭,
死亡頭数221頭
中国の北京大北农科技集团股份有限公司(略称 大北农)は、火曜日、傘下の北镇大北农农牧食品公司(略称 北镇大北农)でアフリカ豚コレラが発生したと発表。 人口密集区にあり感染の疑いはあるが原因は調査中。 同社持株会社に同様な会社が山东省福建省にあるが異変はない。
三十五例 遼寧省盘锦市大洼区王家街道曙光村の例
10月14日發生
飼養頭数1571頭,
発症頭数109頭,
死亡頭数109頭
三十六例 遼寧省盘锦市大洼区王家街道王家村の例
10月14日發生
飼養頭数270頭,
発症頭数129頭,
死亡頭数129頭。
三十七例 遼寧省铁岭市(开原市)の例
10月15日、铁岭市开原市庆云堡镇
飼養6640頭,発症50頭,死亡14頭
三十八例 遼寧省盘锦市(大洼区)の例
10月15日、盘锦市大洼区清水镇
飼養4323頭,発症1030頭,死亡1030頭
三十九例 遼寧省盘锦市(大洼区)の例
10月15日、盘锦市大洼区王家街道
飼養3223頭,発症31頭,死亡20頭。
四十例 遼寧省盘锦市(大洼区)の例
10月16日、遼寧省盘锦市大洼区西安镇。
飼養頭数161頭、発症頭数43頭,死亡頭数43頭、
四十一例 山西省大同市(左云县)の例
10月17日 山西省大同市左云县で発生。
飼養頭数15頭
発症頭数7頭
死亡頭数4頭
山西省としては初の感染。
四十二例 雲南省昭通市(鎮雄県牛场镇)の例
10月21日、雲南省昭通市鎮雄県牛场镇で発生。
飼養頭数804頭、
発症頭数298頭、
死亡頭数298頭,
四十三例 雲南省昭通市(鎮雄県母享镇)の例
10月21日、雲南省昭通市鎮雄県母享镇で発生。
飼養頭数353頭,
発症頭数247頭,
死亡頭数247頭,
四十四例 浙江省台州市(三門県)の例
10月21日、浙江省台州市三門県で発生 。
飼養頭数2280頭
発症頭数56頭
四十五例 湖南省益陽市の例
10月22日、湖南省益陽市桃江縣
飼養頭数546頭
発症頭数44頭
死亡頭数17頭
四十六例 湖南省常德市の例
10月22日、湖南省常德市桃源縣
飼養頭数268頭
発症頭数
四十七例 貴州省畢節市(赫章県)の例
10月25日、貴州省畢節市赫章県
飼養頭数10頭
発症頭数8頭
死亡頭数8頭
四十八例から五十例 貴州省畢節市(七星関区)の例
10月26日 貴州省畢節市七星関区。同じ地区で三例発生。
飼養頭数49頭
発症頭数25頭
死亡頭数25頭
五十一例 湖南省常徳市(桃源県)の例
10月28日、湖南省常徳市桃源県
飼養頭数7,684頭
発症頭数106頭
死亡頭数99頭
五十二例 山西省太原市(陽曲県)の例
10月30日 山西省太原市陽曲県 で発生。
飼養頭数210頭,
発症頭数75頭,
死亡頭数47頭
五十三例 湖南省懐化市(沅陵県)の例
10月30日、湖南省懐化市沅陵県で発生。
飼養頭数144頭
発症頭数25頭,
死亡頭数22頭
五十四例 雲南省普洱市(思茅区)の例
10月30日 雲南省普洱市思茅区で発生。
飼養頭数36頭,
発症頭数5頭,
五十五例 山西省太原市陽曲県(西凌井乡)の例
11月3日、山西省太原市陽曲県西凌井乡
飼養頭数47頭
発症頭数25頭
死亡頭数7頭死亡頭数1頭
五十六例 重慶市豊都県(興義鎮)の例
11月4日 重慶市豊都県興義鎮
飼養頭数309頭
発症頭数3頭
死亡頭数3頭
五十七例 湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州(保靖県)の例
11月5日 湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州保靖県
飼養頭数119頭
発症頭数11頭
死亡頭数4頭
五十八例 湖北省羅田県の例
11月7日 湖北省羅田県
飼養頭数821頭
発症頭数 22頭
死亡頭数 4頭
五十九例 湖南省婁底市(漣源市)の例
11月8日 湖南省婁底市漣源市
飼養頭数 9頭
発症頭数 4頭
死亡頭数 1頭
六十例 江西省上饒市万年県の例
11月8日 江西省上饒市万年県
飼養頭数 154頭
発症頭数 49頭
死亡頭数 49頭
六十一例 吉林省延辺朝鮮族自治州竜井市(城廂区)の例
11月8日 吉林省延辺朝鮮族自治州竜井市城廂区
飼養頭数 930頭
発症頭数 144頭
死亡頭数 144頭
六十二例 福建省莆田市(城廂区)の例
11月8日 福建省莆田市城廂区
飼養頭数 4521頭
発症頭数 85頭
死亡頭数 85頭
六十三例目 安徽省池州市(青陽県)の例
11月9日 安徽省池州市青陽県
飼養頭数8,339頭
発症頭数96頭
死亡頭数47頭
六十四例目 湖北省黄岡市(武穴市)の例
11月12日 湖北省黄岡市武穴市の2つの隣接地区で発生。
飼養頭数147頭
発症頭数7頭
死亡頭数6頭
六十五例目 湖北省黄岡市(キ水県)の例
11月15日、湖北省黄岡市キ水県
飼養頭数636頭
発症頭数24頭
死亡頭数13頭
六十六例目 四川省宜賓市(高県)の例
11月15日 四川省宜賓市高県
飼養頭数40頭
発症頭数16頭
死亡頭数10頭
六十七例目 吉林省白山市(渾江区)の例
11月16日 吉林省白山市渾江区で野生イノシシ一頭がアフリカ豚コレラで死亡が発見。
六十八例目 雲南省昭通市(威信県)の例
11月16日 雲南省昭通市威信県
飼養頭数1頭
発症頭数1頭
死亡頭数1頭
六十九例目 江西省上饒市(ハ陽県)の例
11月17日 江西省上饒市ハ陽県
飼養頭数150
発症頭数10
死亡頭数10
七十例目 雲南省昆明市(呈貢区)の例
11月17日 雲南省昆明市(呈貢区のと畜場
預かり頭数348
七十一例目 四川省成都市(新津県)の例
11月17日 四川省成都市新津県
飼養110頭
発症27頭
死亡13頭
七十二例目 上海市金山区の例
11月17日 上海市金山区
飼養頭数314頭
発症頭数50頭
死亡頭数11頭
七十三例目 黒竜江省ハルビン市(道外区)の例
11月19日 黒竜江省ハルビン市道外区の2つの農家
飼養頭数900頭
発症頭数269頭
死亡頭数269頭
ハルビン市発生は今回が初めてだが、二例目河南省鄭州市発生時感染豚は黒竜江省佳木斯市交易市場から来、更にその豚はハルピン市通河县から来た。
七十四例目 湖南省懐化市(鶴城区)の例
11月19日 湖南省懐化市鶴城区
飼養頭数73頭、
発症頭数61頭、
死亡頭数55頭。
七十五例目 北京市 房山区(青龍湖鎮)の例
11月23日 北京市 房山区青龍湖鎮
飼養頭数1325
死亡頭数49
七十六例目 北京市 房山区(琉璃河鎮)の例
11月23日 北京市 房山区琉璃河鎮
飼養頭数429
死亡頭数37
七十七例目 内モンゴル自治区包頭市(ホンドロン区)(11月23日)の例
11月23日 内モンゴル自治区包頭市ホンドロン区
飼養頭数88頭
発症頭数69頭
死亡頭数53頭
七十八例目 湖北省黄石市(陽新県)の例
11月25日 湖北省黄石市陽新県
飼養頭数63
発症頭数9
死亡頭数5
七十九例目 天津市(寧河区)の例
11月29日 天津市寧河区
飼養頭数361頭
死亡頭数67頭
八十例目 江西省九江市(柴桑区)の例
11月30日 江西省九江市柴桑区
飼養頭数159頭
発症頭数16頭
死亡頭数4頭
八十一例目 陝西省西安市(鄠邑区) の例
12月3日 陝西省西安市鄠邑区
飼養頭数245頭
発症頭数205頭
死亡頭数79頭
八十二例目 北京市通州区の例
12月3日 北京市通州区
飼養頭数9835頭
発症頭数85頭
死亡頭数17頭
八十三例目 黒竜江省イノシシ養殖場の例
12月3日 黒竜江省のイノシシ養殖場
飼養イノシシ頭数375頭
死亡頭数77頭
八十四例目 四川省瀘州市(合江県)の例
12月5日 四川省瀘州市合江県
飼養頭数165頭
発症頭数68頭
死亡頭数68頭
八十五例目 陝西省西安市長安区の例
12月5日 陝西省西安市長安区
飼養頭数245頭
発症頭数85頭
死亡頭数64頭
八十六例目 北京市順義区の例
12月5日 北京市順義区
飼養頭数2461頭
発症頭数53頭
死亡頭数26頭
八十七例 山西省臨汾市(堯都区)の例
12月6日 山西省臨汾市堯都区
飼養頭数91頭
発症頭数45頭
死亡頭数35頭
八十八例 陝西省楡林市(神木市)の例
12月9日 陝西省楡林市神木市
飼養頭数33頭
発症頭数19頭
死亡頭数19頭
八十九例 貴州省貴陽市(白雲区)の例
12月9日 貴州省貴陽市白雲区
飼養頭数26頭
発症頭数5頭
死亡頭数5頭
九十例目 四川省巴中市(巴州区)の例
12月12日 四川省巴中市巴州区
飼養頭数117
発症頭数51
死亡頭数19
九十一例目 青海省西寧市(大通回族トゥ族自治県)の例
12月12日 青海省西寧市大通回族トゥ族自治県
飼養頭数69
発症頭数14
死亡頭数14
九十二例目 四川省綿陽市(塩亭県)の例
12月16日 四川省綿陽市塩亭県
飼養頭数210頭
発症頭数35頭
死亡頭数26頭
九十三例目 黒竜江省鶏西市(鶏冠区)の例
12月16日 黒竜江省鶏西市鶏冠区
飼養頭数84頭
発症頭数24頭
死亡頭数24頭
九十四例目 重慶市(璧山区)の例
12月18日 重慶市璧山区
飼養頭数23頭
発症頭数8頭
死亡頭数3頭
九十五例目 広東省珠海市(香洲区)の例
12月19日 広東省珠海市香洲区のと畜場で。
飼養頭数1598頭
発症頭数11頭
死亡頭数11頭
これらの豚は広東省 仏山市 順徳区 均安鎮の胡德志養豚場から送られてきた豚で、この豚には、禁止されている泔水(レストランなどの残飯)が使用されていたため、この養豚場の豚342頭も殺処分された。
九十六例目 福建省三明市(尤渓県)の例
12月20日 福建省三明市尤渓県
飼養頭数11,950頭
発症頭数27頭
死亡頭数27頭
九十六例目 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州(竜里県)の例
12月21日 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州竜里県
飼養頭数156頭
発症頭数42頭
死亡頭数42頭
これで、12月21日までに、発生省市別数は
遼寧省18.安徽省9.湖南省7.貴州省6.雲南省5.内モンゴル自治区5.黒竜江省5.四川省5.吉林省4.湖北省4.山西省4.北京市4.陝西省3.江西省3.河南省2.江蘇省2.浙江省2.天津市2.重慶市2.福建省2.青海省1.上海市1.広東省1.
合計19省4市97例(内イノシシ感染2例)になった。
現在の中国の省市別感染地図は、下記のとおりである。
すでに、北京・上海は感染地域となり、台湾も、その玄関口の福建省がついに感染地域と化している。
なお、一番数の多い遼寧省の地区別内訳は下記のとおり。
营口市6(9/28.9/28.10/7.10/7.10/7.10/7).鞍山市3(10/8.10/12.10/14).大连市1(10/11).锦州市1(10/14).盘锦市5(10/14.10/14.10/15.10/15.10/16).铁岭市1(10/15)沈阳市1(8/01)
遼寧省合計18
なお、8月31日に、中国当局の今後の防御方針を含めた通知「国务院办公厅关于做好非洲猪瘟等动物疫病防控工作的通知」(“Notice on the Prevention and Control of Animal Diseases in African Swine Flies”)」が発令された。
このなかには、「ASF発症を見た省での豚の生体取引市場を閉鎖する」との方針も含まれている。
更に、9月12日、中国当局は、これまでアフリカ豚コレラが発生した省に隣接する省市区においては、豚の省市区間の輸送を禁止し、隣接省市区のすべての豚の生体取引市場を一時的に閉鎖することを決定。
対象となる省市区は、上海、山東、河北、山西、陝西、湖北、江西、福建、内蒙古、吉林、の10省市区となる。
参考「农业农村部:非洲猪瘟疫情相邻省份暂停生猪跨省调运」
参考「月初爆發 殺2.5萬隻無助阻止疫情 內地12省市列高危 非洲豬瘟恐傳粵」
中国のASFV感染原因はロシアからの輸入肉からか?
ECTADの獣医Wantanee Kalpravidh氏は、これらの感染原因を輸入肉にもとめる見解を出している。
これが、どこからの肉を指しているのか? Kalpravidh氏は明確にはしていないが、言外にロシアからの肉輸入を指していることは明らかであろう。
その一因として、米中との貿易戦争の激化による中国の豚肉輸入事情の変化をあげる向きもある。
中国は4月2日に25%の追加関税を課したため、アメリカの米産豚肉の中国/香港への輸出が減少。
USMEFによると、5月時点で、米産豚肉の中国/香港への輸出は31%減の3万4千191㌧。輸出額も25%減の7千987万2千㌦となった。
このことと、今回の中国でのASF発生との関係について、中国・台湾のメディアは次のように伝えている。
参考
「中國轉購俄羅斯豬肉 疑為非洲豬瘟源頭」「非洲猪瘟蔓延 抵制美国转买俄猪肉惹祸?」「抗衡美国转购俄国猪肉 疑非洲猪瘟散播源头」
「米中間の貿易戦争の激化によって、米国からの輸入豚肉は高額になり、輸入量はほとんどゼロになり、それにかわって輸入されたのがロシアからの豚肉だった。今年4月時点で、キロ6元から10元の米国産高級豚肉は、輸入ストップとなり、その代わりにロシアからの豚肉がキロ12元で入ってきた」とメディアは言う。
8月初旬で、そのロシアからの豚肉輸入量は24万トンから30万トンに及んでいると言う。
ちなみに、昨年のロシアからの豚肉輸入量は17万トンに過ぎなかった。
なお、ロシアのクラスノヤルスク地方から中国 黒竜江省への豚肉製品の輸出がされていた、という報道もある。
これに対して、ロシア側は、9月11日、ロシア連邦農業省 連邦動物植物検疫監督局(Rosselkhoznadzor)の見解として、中国のアフリカ豚コレラのウイルスは、おそらくEUから中国に輸出の豚肉関連食品に混ざり侵入した、との推測を調査結果を引用しつつ示した。
また、もう一つの可能性として南コーカサスの野生イノシシによる侵入も考えられうるが、そのシナリオの可能性は低いとした。
そして、ロシアでは、ベラルーシから輸入される豚肉製品にその懸念があるとして、ベラルーシからのそれら豚肉製品の輸入の中止をすることもありうる とした。
参考「Russia says ASF might have come to China from the EU」
これらについての真偽は別として、米中貿易戦争の余波が、一人当たり豚肉の世界最大の消費国である、今回の中国でのアフリカ豚コレラ問題にまで尾を引いていることは事実だろう。
11月20日、ベラルーシ、グロドノ州で製造されたソーセージ・腸詰めから、アフリカ豚コレラ(ASF)のウイルスのDNAが検出された。
製品は17カ国に輸出されているという。
かねてから、ベラルーシは豚肉加工製品の輸出に積極的で、日本に対しても、10月 協力覚書を締結、
Miratorg-Zapad LLCおよびRatimir LLCの二社が日本に向けての加熱処理肉輸出の認可をとった。
日本の他、アラブ首長国連邦、韓国、中国、ブラジル、カナダ、アメリカ、イラクへの輸出を計画していた。
なお、中国でのアフリカ豚コレラの感染拡大原因として、「泔水喂猪」を上げる向きがあるようだ。
「泔水喂猪」とは、レストランの残飯 残滓 残水を、レストランから直接養豚農家に毎日届け、それを加熱処理することなく、豚に与える違法な養豚法のことである。
参考
「“泔水喂猪”不只是监管的命题」
「中华人民共和国畜牧法」(第43条 家畜及び家禽の飼育について、以下の行為は認められない。
(2)高温で処理されていないレストラン及び食堂からの「泔水」(食堂の残飯・残滓、流し水)を、家畜に餌として与えること。)
「泔水喂猪」=「泔水」(食堂の残飯・残滓、流し水)+「喂」(を飼料にして育てられた)+「猪」(豚)の意味である。
中国で、この「泔水喂猪」が多い省が、アフリカ豚コレラを多く発症させているのかもしれない。
ちなみに、第一例目 遼寧省瀋陽市での発生養豚農家は、「泔水喂猪」の飼育方法であったとされている。
9月13日、中国政府当局は次の通達を出した。
①豚血液使用飼料生産停止
②通達以前生産豚血液由来飼料はサンプル提出、陰性は販売継続。
③農家は豚血液由来飼料使用停止。メーカー製品テスト陰性は使用可。
④ASF発生地域は「泔水」(食堂の残飯残滓)使用禁止、隣接地域は高温処理なし「泔水」使用禁止
参考「中华人民共和国农业农村部公告 第64号」
なお、上記「豚血液由来飼料」としては、例えば、下記「抗病猪饲料」のようなものがある。
遼寧省ASFウイルス遺伝子配列はロシアのイルクーツク・ウイルスと相同性一致
一方、遼寧省でのASFウイルスの遺伝子解析が進み、ロシアのウイルスとの相同性が指摘されている。
一例目遼寧省ウイルスの遺伝子解析の結果、アフリカ豚コレラ遺伝子ASFV-SY18は、ジョージア(Georgia 2007/1), ロシアのクラスノダール(Krasnodar 2012), ロシアのイルクーツク(Irkutsk 2017), エストニア(Estonia 2014)と一致しているという。
参考
「Molecular Characterization of African Swine Fever Virus, China, 2018」
「AFRICAN SWINE FEVER – ASIA (02): CHINA (LIAONING) GENOTYPING, EPIDEMIOLOGY」
「2018年中国首例非洲猪瘟疫情」
中国のアフリカ豚コレラウイルスの遺伝子 塩基配列についての公式報道は、8月22日の「科技日報」での発表しかない。
以下
「另据《科技日报》报道,中国农业科学院哈尔滨兽医研究所猪传染病研究室主任兼猪烈性病创新团队首席科学家仇华吉介绍,基因测序结果显示,引起中国本次非洲猪瘟疫情的毒株为基因Ⅱ型,部分基因序列与格鲁吉亚2007株和俄罗斯伊尔库茨克2017株的相应序列完全一致。」
なお、一例目以外のウイルスの遺伝子配列については、これまで公開がない。
第一例目の遺伝子系統樹は下記の通り。
気になるのは?
気になる点がいくつかある。
①これまでの中国での発生場所が、いずれも、中国の東部であり、しかも、次第に南下しているということ。
②中国の第二例での感染場所がまだわからないが、もし、黒竜江省佳木斯市(チャムス市)の交易市場とすると、ロシアとの国境地帯である、ということ。
ちなみに、このサイト「非洲猪瘟疫情升温 病毒来源真相为何」によると、「2018年4月22日から24日にかけて、FAOの4人からなる調査団が黒竜江省黒河市に行き、ASFの調査をした」とある。(当時の現地の報道は「联合国粮农组织调研组到黑河市调研非洲猪瘟防控情况」)
ちなみにFAOは、今年3月にレポート「African Swine Fever Threatens People’s Republic of China–A rapid risk assessment of ASF introduction」を発行し、黒竜江省が中国で最もASFの発生しやすい場所として、警告を発していた。
参考-動画「非洲猪瘟来自俄罗斯FOA3月就警告」
③ロシアの7月の第一例と中国の第二例には、いずれも、大手の食肉一貫加工場関連施設でのアフリカ豚コレラ菌の発見、という共通点があること。
アフリカ豚コレラ・ウイルスの特性は?
では改めて、ここで、アフリカ豚コレラ・ウイルスの特性を見てみよう。
第一に強調すべきは、アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)は、これまで、ごく普通に蔓延し淘汰されてきた古典的豚コレラ・ウイルス(CSFV)とは全く異なるウイルスである、ということである。
①古典的豚コレラ・ウイルス(CSFV)=一本鎖プラスRNAウイルス。フラビウイルス科
②アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)=二本鎖DNAウイルス。アスファウイルス科
第二に、アフリカ豚コレラ・ウイルスは、淘汰しにくい特異な特性を持っているということである。
主なアフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)の特徴は、次のとおりである。
①生存期間が長い。
室温では18ヶ月も生き延びる。
②寒さに強く、暑さに弱い。
冷凍状態でも生き残る。
逆に温度が上昇すると生存期間は短縮。
③広いレンジでのPHレベルで生息可能。
PHが4から13まで生息可能。
④発症までの潜伏期間
諸説があるが、個別要因によつて幅がある。
アルメニアの野生イノシシの感染実験では、潜伏期間3日から4日。ウイルス排出期間2日から6日。
という一応の目安は確認されている。
参考「Dynamics of African swine fever virus shedding and excretion in domestic pigs infected by intramuscular inoculation and contact transmission」
以下の図は、。ウイルス感染から発症・死亡までの流れである。
A. 潜伏期間(incubation period) =
通常は感染から 3〜14日の範囲
急性症例では3〜4日
B. 他への感染能力獲得期間(latent period)=
通常は感染から3-6日の範囲
C. 臨床症状( clinical sign )=
潜伏期間経過後
なお、これらの数字は、症例によってまちまちであるが、一応の目安を一覧表にしたものが下記にある。
⑤感染豚は7日から9日または10日内に死ぬ。
性別、年齢関係なし。
ただし、アフリカ中南部には野生のイボイノシシやダ ニが ASFVに不顕性感染し存在している場合もあるようだ。
⑥人には感染しない
通説的には、そうだが、しかし、一部には下記のように異論はある。
参考「「Although ASFV is not known to infect humans even where the virus is
endemic, identification of ASFV-like sequences in serum from multiple human
patients suggests human infection may occur. 」
「Discovery of novel ASFV-like sequences in human serum 」
⑦感染豚の症状
熱、下痢、食欲不振、呼吸不全、鼻血、皮膚出血など
⑧感染豚の死体の状態
リンパ節の腫れ出血、脾臓拡大、内臓や皮膚出血あり。肺や呼吸器系に泡。
これらの症状がない場合は、ASFではないと見てよい。
⑨ASFVの感染経路
四つの感染経路があるとされている。
A.森林サイクル-森林に住むイノシシの数の増減による-イノシシ媒体
B.豚ダニ・サイクル-豚のダニの増減による-豚ダニ(ヒメダニ属)媒体
C.国内サイクル-国内飼養豚の数の増減による-感染豚媒体
D.その他-間接的感染ルート-人間や交通機関がウイルス移転。飼料食物残滓豚加工食品由来感染
直接的には、豚同士の体液や血のふれあいにより拡大することが多い。
感染豚の体液、血液、糞尿などにふくまれるウイルスの数では、鼻水や直腸流体には少ない。故に、血液感染の可能性が最も多い。
間接的には、豚由来の食物や汚染施設経由。海外旅行者の持ち帰り残滓の豚への飼料のコンタミネーション。
冷凍肉などへのウイルスの残留期間については下記表をご参照
空気感染については諸説ある。
「Quantification of airborne African swine fever virus after experimental infection.」によると
アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)が空気中にエアゾール化した時
「大気中のASFVの半減期をPCR分析した結果では平均19分」
との記述があり「ASFV感染豚が大気中にウイルスを排出する可能性はある」と示唆する研究もある。
その他、留意すべき感染経路として
イノシシの精液由来感染・人工授精由来感染、
豚やイノシシの母子感染の可能性。
感染豚の糞便の乾燥粉末化による空気感染
の可能性もある。
⑩感染豚発見時の処理
感染集団全部の殺処分。
立入禁止地域の設置とモニタリングエリアの設定。
これら地域内での野生イノシシ、野生豚の感染監視や捕獲後検査。
感染野生猪発見の場合は地区内豚移動禁止
疑わしい患畜発見の場合は、養豚家やハンターは血液サンプルを所定機関に送る。
⑪アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)に対するワクチン
現在時点では、世界中どこにも無い。
したがって、対策は衛生的手段と個体数調節・殺処分しか、手段がない。
現在、世界中に不在のアフリカ豚コレラ・ワクチンの開発は、いろいろ、試行錯誤がされている。
一つが「プライム-ブースト異種ワクチン接種法」(heterologous prime-boost vaccination strategies)というもの。
参考「Blueprint and Roadmap (BRMP) on the possible development of an African Swine Fever (ASF) vaccine」
異なる二種類の組換えウイルスを免疫誘導と免疫増強の二段階で接種し目的抗原への免疫応答のみ増強するもの。
以上が、アフリカ豚コレラ・ウイルスの特性であるが、この特性故に、淘汰しにくい面が憂慮される。
⑫現在、中国当局が、国内への持ち込み・国外への持ち出しについて、制限監視をしている豚肉製品
A.腌渍火腿(漬けハム)
B.肉干(乾燥肉)
C.肉松(フロス)
D.火腿(ハム)
E.臘肉(ベーコン)
F.臘腸(ソーセージ)
G.米腸(スンデ)
H.饺子(餃子)
I.香腸(ソーセージ)
J.生絞肉(生ひき肉)
K.紅腸
等の猪肉制品(豚肉製品)
⑬肉製品におけるアフリカ豚コレラの生存率(日数)
冻肉 1000日 (冷凍肉)
风干的去骨肉 300日 (空気乾燥ボンレス肉)
风干的肉丸子 300日 (空気乾燥ミートボール)
冷藏去骨肉 110日 (冷蔵ボンレス肉)
冷藏肉丸子 110日 (冷蔵ミートボール)
盐腌制的去骨肉 182日 (塩漬けボンレス肉)
盐腌制的肉丸子 182日 (塩漬けミートボール)
去骨肉 105 日(ボンレス肉)
肉丸子 105日 (ミートボール)
熏制的去骨肉 30日 (燻製ボンレス肉)
肉馅 105日 (ひき肉)
做熟的去骨肉 0日 (調理済みボンレス肉)
做熟的肉丸子 0日 (調理済みミートボール)
肉罐头 0日 (缶詰肉)
出典:FAO、中国 – タイ証券研究所
参考「非洲猪瘟防控」
憂慮されること
憂慮される点としては、以下の点が挙げられる。
①野生イノシシによる感染拡大が懸念される。
ロシアなどでは、野生のイノシシがアフリカ豚コレラ・ウイルスを媒介しているということである。
中国での第二例の感染源が、もし、発見場所の双匯集団系の鄭州双匯食品の食肉加工施設でなく、それ以前の搬入元の黒竜江省佳木斯市(チャムス市)湯原県鶴立村の交易市場であるとしたら、ロシア国境地帯での野生イノシシを介した感染豚の国境地帯での密売による感染拡大、というシナリオも十分考えられる。
また、完全に殺処分されるべき感染豚の掘り起こしなどのニュースもあり、中国の現地での動向には、注視していく必要がありそうだ。
②豚加工食品を通じての中国外への感染拡大が懸念される。
アフリカ豚コレラ・ウイルス(ASFV)の「熱に弱く、寒さに強い」という特性が、豚肉加工肉やその残滓を介しての感染拡大につながりうる可能性を秘めている、ということである。
特に、今回感染豚が発見されたロシアのRusagro(ルサグロ社)はロシア第三の大手食肉加工企業であり、中国の双匯集団系の鄭州双匯食品も、米国の食肉大手スミスフィールド・フーズを買収するほどの世界的大手食品加工企業であり、日本の日本ハム・グループとは、肉鶏に関する合弁会社「双匯万中禽業」を設立している。
これらの一貫生産加工食品ルートによる感染拡大も、視野に入れる必要がありそうだ。
また、台湾では、台北の南門市場に、中国製の金華火腿(ハムの一種)↓が売られているのを、警戒する向きもある。
台湾では、10月31日行政院(内閣)農業委員会発表によると、10月25日に金門島の水頭埠頭にある入境前の旅客用の農産物廃棄箱に捨てられていた中国産ソーセージからアフリカ豚コレラが検出されたとのことである。
このソーセージは「雙匯香脆腸」というもので、メーカーは8月16日二例目の河南省鄭州市の鄭州双匯食品と同じ双匯食品系列のものである。
しかし、双匯食品では、このソーセージは偽物であると、反論している。
さらに、11月13日には、台中空港で、10月25日の金門島水頭埠頭の例と同じく、検疫前の農産物廃棄箱に捨てられていた自家製ソーセージにアフリカ豚コレラが発見された。
11月30日に、台湾の高雄国際空港の税関の放棄箱に捨てられていた紅腸(中国東北部のロシア風ソーセージ)からアフリカ豚コレラウイルスが検出された。
この製品は、「秋林 里道斯哈爾賓紅腸」という名のもので、「哈爾浜秋林里道斯食品有限責任公司」の製品のようである。
12月12日、台湾の桃園国際空港で、台湾国籍の旅行者が重慶から持ち帰った手荷物の臘腸(豚肉ソーセージ)と、別便の中国人旅行者の手荷物の紅腸から、アフリカ豚コレラ(ASF)のウィリスを検出された。
今回は4-5例目で、これまでに、10月31日、11月13日、11月30日の三例があつた。
感染の恐れは、タイにまで及びつつある。
11月26日、タイ北部のチェンライの空港で、中国の四川省成都市からのフライトで入境した中国人旅行者が持っていたソーセージから、アフリカ豚コレラのウイルスが検出された。
ヴェトナムも、警戒を強めている。
③北朝鮮での感染拡大が、大きな懸念材料としてある。
中国第一例目は北朝鮮と国境を接しているし、第三例目の搬入元も、北朝鮮に近い。
口蹄疫の場合も、鳥インフルエンザの場合も、北朝鮮での感染実態については、何も知らされていない。
これが韓国に飛び火し、ついで、日本へ飛び火してくる可能性も否定はできない。
④韓国への感染拡大への懸念がある。
韓国では、既に下記のケースがある。
A. 8月3日に、中国の瀋陽市から仁川国際空港に帰国の二人の韓国旅行客が持ち帰ったスンデ(豚の血のソーセージ)と餃子の中からアフリカ豚コレラ(프리카돼지열병)・ウイルスがPCR検査で検出されたと、8月24日に発表があった。
旅行客が当局へ自己申告したもの。
B. 8月20日に、仁川国際空港に到着した中国人旅行客が、韓国内に持ち込んだスンデ(自家製のもの)から、アフリカ豚コレラウイルスが検出
C. 8月26日に、瀋陽から済州空港に到着した中国国籍旅行者が、韓国内に持ち込んだと香腸(ソーセージ)から、アフリカ豚コレラウイルスが検出。
参考「AFRICAN SWINE FEVER – ASIA (09): SOUTH KOREA ex CHINA, CONTAMINATED FLIGHT FOOD」
「제주서도 아프리카돼지열병 바이러스 확인」
「韩国现第二例非洲猪瘟 来自中国游客的香肠」
⑤中国から日本への感染の懸念がある。
口蹄疫の日本への感染拡大の一要因として、大連の中国産の稲わらにあったかもしれない、ということは記憶に新しい。
一応の熱処理は義務づけられてはいるものの、この中国からの稲わら輸入が日本での初感染へのトリガーとならないことを祈りたい。
農林水産省は10月22日、中国の北京から新千歳空港に入った乗客が持ち込もうとした豚肉ソーセージ(香腸)(10数本のソーセージを真空パックにしたもの、計約1.5キロ分)から、日本では感染が確認されていないアフリカ豚コレラの陽性反応が出たと発表した。
さらに、11月9日、農林水産省は中国・上海から羽田空港に持ち込まれたギョーザから、アフリカ豚コレラウイルスの遺伝子が確認されたと発表。
10月14日に到着した客が持っていた非加熱の手作りギョーザを遺伝子検査したところ陽性反応が出た。
11月9日に中国(大連)から成田空港に到着した旅客が任意放棄した携行品の豚肉製品(ソーセージ2.5kg)から、アフリカ豚コレラウイルスの遺伝子が11月22日に検出した。
日本でアフリカ豚コレラウイルスの遺伝子が見つかったのはこれで3例目となった。
⑥日本の過疎地に急速に増えつつある野生イノシシが感染媒体になるのではないか?との懸念がある。
日本における野生イノシシ対策は、即アフリカ豚コレラ対策ともなり得る。
豚コレラの感染経路で有力なのは、野生イノシシであり、イラン 、リトアニア 、ポーランドでも、いずれも、イノシシによる拡大であった。
ロシアも、イノシシ由来での感染拡大を阻止できていないと言われている。
日本においては、過疎地を中心に、野生イノシシの増殖増加問題が騒がれているが、ジャーナリズムの取材スタンスは、単に近隣の農作物の被害問題ばかり取り上げているだけにもみえる。
しかし、もし、日本においても、この増殖している野生イノシシが、アフリカ豚コレラ・ウイルスを媒介する事態になったら、現在の対策ではまっく役立たないだろう。
これら野生イノシシの疫病媒介動物としての対処と本格的なコントロール(アメリカ並の、不妊ワクチン「Gonacon」の「darting syringe gun」による投与など)が必要となるのではなかろうか?
なお、野生イノシシにまで感染が及んだ場合、次のような対応を求める意見もある。
豚コレラ感染の野生イノシシのコントロールについて
「感染野生生物の防除
もし、豚コレラウイルスに感染した野生のイノシシの個体数が定着した場合、更に撲滅は困難となる。
したがって戦略は野生のイノシシと飼養豚との接触の最小化が取られるべきであり、できれば養豚施設の二重の柵の設置、柵の中の豚がいる地域での野生のイノシシの数を減らすこと、他動物に食い荒らされないよう死骸や内蔵などの早急な処理が必要である。
なお、電気柵の網目間隔は、下図の高さ60センチメートルのものが適用されるようだ。
参照「ELECTRIC FENCE FOR PIGS AND HOGS」
もし、上記方法にもかかわらず、感染が風土病的になった場合、そのコントロールの方法には、議論がある。
すなわち、狩猟は逆効果を及ぼすという議論があるからだ。
なぜなら、狩猟によって、野生イノシシの行動範囲を拡大させ、長距離での移動を余儀なくさせてしまうということである。
加えて、狩猟によっては、必ずしも野生イノシシの数を減らすことにはつながらない。
野生イノシシを一定の範囲にとどめ分散を防ぐため、栄養補給を行うことは、病気感染の機会を増やしてしまう。
狩猟による野生イノシシの個体調整の場合には、ハンターと獣医とのサーベイランスにおける協力が重要となる。」
引用「African Swine Fever (ASF) recent developments – timely updates」より
各国でも、ASFVに感染した野生イノシシ対策で、各種のマニュアルを作成しているる
以下はそのいくつかの例になる。
「Guidelines on surveillance and control of African swine fever in feral pigs and preventive measures for pig holdings」
「Disease Control Strategy for African and Classical Swine Fever in Great Britain」
「Can African swine fever be controlled through wild boar management?」
また、アフリカ豚コレラ対策に限ってのものではないが、オーストラリアのクイーンズランド州が作成した「イノシシ対策マニュアルが平易に書かれている。
これ
「Feral pig control A practical guide to pig control in Queensland」
感染野性イノシシの実態調査のためのサンプリング方法について
サンプリング調査の方法としては、伝統的な捕獲調査の他に、より効率的な方法として、「ロープ利用でイノシシの口内粘液からサンプリングを採取する「Rope-based oral fluid sampling」が効率的とする専門家もいる。
これには、以下のようなロープを使っての唾液などの粘液採取となる。
参考「COLLECTION OF ORAL FLUID SAMPLES FROM WILD BOAR IN THE FIELD CONDITIONS TO DETECT AFRICAN SWINE FEVER VIRUS (ASFV)」
また、伝統的な捕獲調査の方法にもいろいろな方法が考えられているようだ。
このサイト「TRAPPING OF FERAL PIGS」はオースリラリアにおけるイノシシ捕獲のための様々なトラップについて書かれていて、興味深い。
一般的に、ウイルスが野生イノシシにまで感染拡大した場合、とりうる手段は限られてくる。
感染拡大後の対策は「Regionalization」(地域限定化)しかない。
その地域限定化のための手法としては、
①サンプルエリアを確定する。
②パッシブサーベイランス(疾病疑い事例の通報に基づく)をする。
③ゾーニング確定
④淘汰(stamping out)へ
ワクチン使用 リング・ワクチネーション(ring vaccination)や地域限定ワクチン(area vaccination)
参考「EU Strategy for ASF – SVA」
なお、野生イノシシのサーベイランスの種類としては、次のものがある。
①パッシブ(受動的) サーベイランス
死亡や病気のイノシシの報告を受け、感染か否かを検査する。
②アクティブ(能動的) サーベイランス
イノシシの射殺や罠でかかったものについて、感染か否かを検査する。
③センチネル(Sentinel)(定点観測) サーベイランス
指標となるイノシシを決め、定期検査する。
まとめ
上記の中国での感染拡大状況を踏まえ、FAO(国連食糧農業機関)は、遅ればせながらも、2,018年9月7日に、日本を含むアジア諸国の担当者や専門家などを集めた緊急の会合を開き、現在の中国での感染拡大状況は「まさに、氷山の一角」(just the tip of the iceberg)にすぎないとし、アジア諸国に感染が拡大するのはほぼ確実だと警告した。
参考
「Asian countries warned that deadly African Swine Fever is ‘here to stay’ – utmost diligence required to avoid major damage to food security and livelihoods」
「African Swine Fever in Asia: ‘Just the tip of the iceberg’」
「EARLY DETECTION AND CONTINGENCY PLANS FOR ASF」
以上
参考-アフリカ豚コレラについての啓蒙ビデオ(英語)
参考「African and classical swine fever: similarities, differences and epidemiological consequences」
2014年10月18日
1.安倍政権での憲法改正の動き
(1)国民投票法(日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律)の成立・施行(平成 26 年 6 月公布)
国民投票法はすでに平成22年5月18日に成立しているが、今回の改正を得て、3つの検討課題(年齢条項の見直し、公務員の政治的行為の制限に係る法整備、国民投票の対象拡大についての検討)が整備された。
国会の三分の二の発議を受ければ国民投票が出来る状態になった。
(2)これを受けて自民党憲法改正草案(2012 年4月自民党発表)をたたき台にしての与党(自民党・公明党)間話し合いの開始
(3)自民党は憲法改正推進本部(船田元 本部長)会合で論議開始。
船田氏は「改憲草案を一回の国民投票で3つ程度是非を問い、5年から10年かけて、4回から5回の国民投票を実施。9条改正については2回目以降とし、「ならし運転」をしたうえで国民投票にかける」と話した。
2年以内に、環境権が優先して国民投票にかけられる可能性が出てきた。
(4)2014年10月7日、衆院憲法審査会(会長・保利耕輔元自治相)の幹事懇談会で、自民党側が「環境権」「緊急事態条項」「財政健全化規定」の三つの論点について、今国会での審議を提案した。
民主党など野党4党は持ち帰って検討することになった。共産党は提案に反対した。
環境権を憲法に盛り込むことについての各政党のスタンス
(1)国会での論議では次の三つの方向が錯綜
①明文改憲が必要-環境権を明記
②明文改憲は必要ないが、下位の法律での立法措置が必要
③必要はない。現行で OK
(2)各政党のスタンス
①自民党―他の新しい人権(プライバシー権、国民の知る権利、犯罪被害者への配慮)とともに環境権を憲法に盛り込む
②公明党―「加憲論議」の対象として新しい人権の一つである環境権を加える。加憲のスタンス
③民主党―基本的人権は公益や公の秩序に劣るものではないという観点から環境権をも含む新しい人権を憲法に加えるための論議を進める。96条先行改正には反対。創憲のスタンス。
④維新・みんなの党―環境権については賛成
⑤共産党・社民党―現行憲法のもとで、具体的に立法で規定することで環境権は守れる。環境権を道連れにした憲法改正には反対。護憲を優先。
■2.サックス教授が唱えた「環境権」のもともとの概念
(1)ミシガン大学のサックス教授(Joseph L. Sax)が1970年4月1日提出「ミシガン州環境保護法(The Michigan Environmental Protection Act)(MEPA、現在はNREPA)で「天然資源または天然資源に関する公共信託に対する汚染・損傷・破壊について、市民・法人・団体などは訴えることができる。」と規定
英語では
「The People of the State of Michigan enact;
Section 2(1) ”The attorney general, any political subdivision of the state, any instrumentality or agency of the state or of a political subdivision thereof, any person, partnership, corporation, association, organization, or other legal entity may maintain an action in the circuit court having jurisdiction where the alleged violation occurred or is likely to occur for declaratory and equitable relief against the state, any political subdivision thereof, any instrumentality or agency of the state or other political subdivision thereof, any pertinent person, partnership, corporation, association, organization or other legal entity for the protection of the air, water and other natural resources and the public trust therein from pollution, impairment or destruction. “」
参照
「The Michigan Environmental Protection Act of 1970」
「Superior Public Rights, Inc. v. Department of Natural Resources」
(2)ここでの「公共信託」(Public Trust Doctrine)という概念は「公衆の共同財産である天然資源を、公衆が自由に利用できるよう、行政主体が公衆より信託され、管理・維持する義務」
サックス教授の「The Public Trust Doctrine in Natural Resource Law」もご参照
良好な環境資産は、後世代から現世代に託されつつ、世代から世代へ、受け継がれていくもの、という考え方。
(3)このように、サックス教授の言われる「環境権」には、単に現世代のための環境権ばかりでなく、将来の世代のための環境権も、含まれている。
■3.日本国憲法に環境権はあるのか?
二つの基本権の援用をし、司法救済しようとしている。
①憲法13条の幸福追及権
個人に対する環境の享受が公権力によって妨げられない権利。
新しい人権であり、環境権以外に、知る権利、プライバシー権などを救済しうる根拠が含まれる。
なお、これまで、司法は、肖像権のみ認容(昭和44年12月24日 最高裁 京都府学連事件)している。
②憲法25条の生存権
環境の保全のための積極的な施策をとるように、公権力に対して要求する権利。
経済的生存権だけでなく環境的生存権をも守るというもの。
プログラム規定的性格が強い。
憲法第13条
条文
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
憲法第25条
条文
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
■4.日本の環境権の不毛な出発
(1) 日本の環境 権 は、公 害 訴訟での損 害賠 償訴 訟 や差 し止め請 求訴 訟において、憲法 13条の幸 福追求権、憲法25条の生存権を援用し、司法救済をしようとすることから始まった。
(2) 初めて、憲法本文を援用し、司法救済を図ろうとした訴訟は「伊達火力発電所訴訟(札幌地裁 昭和55年10月14日判決)」
「火力発電操業による排出ガスは住民の健康を損なうものであり、環境権・人格権の侵害である」と原告は主張したが、「環境の要素は住民個々に差があり、地域住民が共通の排他的支配権を有するものではない」として、司法は環境権を否定。
(3) 以降の憲法13条.25条援用による環境訴訟においては、ことごとく司法は環境権を認容しなかったが、「大阪国際空港公害訴訟(最高裁昭和56年12月16日 大法廷判決)」においては、「差し止め請求と損害賠償訴訟は人格権を根拠にして認容しうるので環境権については認容するまでもない」としつつ、人格権に基づく「過去の損害賠償」についてのみ認容した。
そのほか、環境権が争われた主な裁判例としては次のものがある。
名古屋新幹線訴訟(名古屋地裁、昭和55年9月11日)(公共益が受忍限度に勝るとし却下)
関西電力多奈川火力発電所訴訟(大阪地裁、昭和59年2月8日)(原告の素因・加齢・喫煙要因と被告が加えた大気汚染物質要因との割合に応じ減責)
豊前火力発電所訴訟(最高裁昭和60年12月20日)(環境権については判示せず)
川崎製鉄高炉新設差止め請求訴訟(千葉地裁.昭和63年11月17日)(排出差し止め請求は不当で請求を却下。高炉操業差し止め請求は不当で請求を棄却)
琵琶湖総合開発差止め請求訴訟(大津地裁、平成元年3月8日)(浄水享受権が個別的環境権としてはなじまないとし却下)
長良川河口堰差止訴訟(岐阜地裁平成6年7月20日)(公共の利益を上回る損害の程度ではないとし却下)
(4)結論的には、日本における憲法13条25条援用による環境権は、司法救済しうるにたりない、あってなきがごときものであった。
なぜ第13条・25条援用では、日本の司法に環境権を認容させることが出来なかったのか?
四つの理由がある。
(1)憲法第13条・第25条 は国の責務を宣言する綱領的な規定であり、国 民に直接に具体的権利を与えるものではない。(プログラム規定の問題)
(2)環境権の属性があいまいで差し止め請求しにくい。(公益と私益との比較衡量(秤量)の問題)
外延性がありすぎる。
(3)環境権がなくても人格権や財産権根拠で差し止め請求・損害賠償請求ができる。(非代替性の欠如の問題)
(4)地域住民は景観・環境そのもので利益・権利を得ているものではない。(非使用価値の問題と反射的利益の問題)
ただし、鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁 平成21年10月1日)では「住民の景観利益は法律的保護に値する」とした。
■5.諸外国における憲法で環境権規定の実態
(1)憲法に環境権が制定されている国は
1.アゼルバイジャン、2.アルゼンチン、3.アルバニア、4.アルメリア、5.エチオピア、6.ギリシャ、7.グルジア、8.スペイン、9.スロバキ ア、10.スロべニア、11.韓国、12.チェコ、13.ドイツ 14.トルコ、15.ノルウェー、16.ハンガリー、17.フィンランド、18.フラン ス、19.ブルガリア、20.ベルギー、21.ポーランド、22. ボルトガル、23.ラトビア、24.ルーマニア、25.ロシア
(2) これらの国は、さらに、①憲法の前文に環境権が規定されている国 と、②憲法本文に環境権が規定されている国 とに分かれる。
前文規定と本文規定の差は、裁判規範性に違いがあり、前文規定では裁判規範性が弱い、とされる意見が強いが、そうではないとする意見もある。
さらに、環境権の原点であるサックス教授が主張されている「後世代への責務」を憲法に規定している国もある。
①憲法前文に環境権が規定されている国の例―フランスー
憲法前文
「フランス人民は 1789 年宣言により規定され 1946 年憲法前文により確認かつ補完された人民の諸権利と国民主権の諸原理に対する忠誠、及び、2004 年環境憲章により規定された権利と義務に対する忠誠を厳粛に宣言する。」
ゴチック部分が今回修正された前文箇所。
前文についてはこのサイトの「Preamble」をご参照
環境憲章
「フランス人民は、天然資源ならびに自然界の均衡が人類の出現を条件づけたということ、人類の将来ならびに存在そのものがその自然環境と不可分であ るということ、環境は人類の共有財産であるということ、人は、生存の条件ならびに自身の発展に対しますます影響を及ぼしつつあるということ、生物の多様 性、人格の開花、人間社会の進歩が、一定の消費もしくは生産様式および天然資源の過度の開発により影響を受けているということ、環境保全は、国民が有する 他の基本利益と同様に追求されなければならないということ、持続可能な発展を確保するためには、現在の欲求に応じることを目的とした選択は、将来世代なら びに他の人民が自身の欲求を充足させる能力を危うくするものであってはならないということ、
これらのことに鑑み、以下のとおり宣言する。」
以下に環境保護に関する5つの原則(①責任原則(4条)②予防原則(5条)③統合原則(6条)④防止原則(3条)⑤参加原則(2条))を例示
責任原則
第 4 条「何人も、法律により定められた条件においても自己が環境にもたらす損害の回復に貢献しなければないらない」
予防原則
第5条 科学的知見の現状において不確実であっても、損害の発生が環境に対し重大かつ不可逆的な影響を及ぼしうる場合には、公共機関は、予防原則の適用により、自 己の権限の範囲内において、リスク評価手続を実施し、損害の発生を予防するべく相応の暫定的措置を講じるよう留意する
統合原則
第6条 公共政策は、持続可能な発展を促進しなければならない。この目的のため、公共政策は、環境の保護ならびに開発、経済発展、社会の進歩を調整する
防止原則
第 3 条「何人も、法律に定められた条件において自己がおよぼしうる侵害を防止し、さもなくば、その侵害の影響を制限しなければならない」
参加原則
第2条 何人も、環境の保全ならびに改善に参加する義務を有する。
環境憲章全文についてはこのサイトご参照
シラク大統領が大統領選挙で公約し 2002 年実行したもの
環境憲章を憲法的法律と位置づけ、下位の法律に対する規範性を持たせている。
②憲法本文に環境権が規定されている国の例―ドイツー
第 20a 条(自然的生活基盤の保護義務)
「国は来るべき世代に対する責任を果たすためにも、憲法に適合する秩序の枠内において、立法を通じて、また法律および法の基準に従って、執行権および裁判を通じて、自然的生活基盤を保護する」
③「後世代への責務」を憲法に規定している国の例―グルジア―
第 37 条
「三項 すべての国民は健全な環境のもとに暮らす権利があり、また、自然・文化的環境を利用する権利がある。
四項 社会の生態的・経済的利益を一致させ、そして、現在の世代と将来の世代との利益を考慮 し、国 は、健 全な環 境を確実にするため、自 然の保 護を保 証し、自然 の合理 的な使 用 を保 証 する。 」
サックス教授の当初の環境権の精神にのっとった規定である。
■6.現行憲法での憲法 13 条・25 条援用による環境権の限界
次の点での現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”の限界がネック。
①私権としての環境権を、憲法第13条の幸福追求権から導き出される人格権をもって、公益に優先して司法救済することに限界がある。
公定力にはあらがえない。
②環境権の権 利の対象 の「環境の内容の範囲や地域的 範囲」「権利 侵害 の概念」「権 利者の主 体 と範囲」が不明確である。
外延性が拡大しすぎる。
③環境問題が広域化・複合化するなかでは、人格権侵害の問題として個人を原告とした訴訟を行っても、公益と私的環境損失との比較秤量を行えば、個人の受忍限度の量は公益に劣後してしまう。
集団訴訟がまだ慣行化していない。
環境価値の数値化手法が未成熟である。(CVM法やトラベルコスト法等が試行錯誤されてはいるが、司法に認容された例はない。)
④住民個人が環境資 産 から受ける利益が、司法 から反射利益と見なされれば、現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”のもとでは、差し止め請求の根拠となりえない。
反射利益は法に基づいた利益とはみなされない。
⑤私権としての環境権を争う民事訴訟では、原告個人への環境破壊による加害行為が具体的に立証されなければ、原告の請求は認容されない。
⑥環境権は原告の個人的な利益を超えた利益であるはずなのに、現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”のもとでは、私権としての環境権しか認められない。
公益と私益との二値化でしか司法の場でとらえられない。
個人が公益を主張することが出来ない。
以上のような限界から、現行の憲法第13条・第25条援用では賄いきれない、「私権としての環境権を逸脱した環境権」を、新しい条文で守る必要が出てきた。
■7.例え憲法に環境権が規定されても、環境訴訟の原告にハードルとなりうる諸問題
(1)原告適格の問題
①原告として訴訟を進行し判決を受けるための資格があるかどうか?
もし、原告適格がないと裁判所が判断されれば、そこで、門前払いとなる。
環境訴訟において原告適格が問題となるのは、次の場合
①環境資産が所在する土地に居住する者しか原告として認めらない。
②環境資産の処分が原告の一定の利益に対する侵害を伴うことが条件であり、かつ、その利益が法令により公益とともに保護される利益の範囲に含まれているもの。
③反射的利益を受ける者は、法律上、保護された利益ではないので、原告適格とはみなされない。
なお、平成16年に行政事件訴訟法の改正があり、「第9条(原告適格)「法律上の利益を有する者」」に2項をくわえ「考慮すべき利益の内容性質をも考慮」を付け加えた。
「法律上の利益」については以下の二説がある。
①「法律上、保護された利益説」(根拠法規が存在している)
②「法律上、保護に値する利益説」(事実上の利益でも、法律上の利益と見なす)
今回の行政事件訴訟法2項の新設は②の「法律上、保護に値する利益説」に配慮したものとみられる。
行政訴訟法改正直後に判決があった「小田急大法廷判決」(平成17年12月7日)は注目されたが、関連法規による利益の保護趣旨の範囲内での一部の原告の拡大にとどまった。
すなわち。
①東京都環境影響評価(アセスメント)条例の定める関係地域内(線路から概ね1キロ前後の範囲)に居住する37名に「原告適格」を認める。
②関係地域外に居住する3名の上告人は、原告適格を有しない。
③各附属街路(側道)事業の認可取り消しの各訴えに関する部分は、当該事業地内の地権者4名を除いて、これを棄却する。
④都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受ける おそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する。
④行政事件訴訟法9条と目的を共通にする関係法令として、都市計画法、公害基本対策基本法をあげ、これらの関連法規は住民の具体的利益を保護しようとするものと解されるところから、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難であると解釈される。
⑤以上から都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的 に受けるおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する。
ご参照「小田急訴訟 最高裁大法廷判決の意義」
参考
行政事件訴訟法 第九条 (原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。こ の場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものと し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質 並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
②苦肉の策としての「自然の権利訴訟」
原告適格を持つ人は限られてくる。たとえば、干潟なら、地元の漁業者など。それらの漁業者が補償金を得て、干潟をつぶすことに同意してしまうと、その干潟の地元には原告となる資格のものがいなくなる。
その干潟のある場所に住んでいなければ原告としては認められないので、苦肉の策として生れてきたのが、干潟に生息するムツゴロウを原告に仕立て上げるとい う方法。これを自然の権利訴訟という。実 際の裁判においては自然の権利訴訟は原告非適格で門前払いされ、住民訴訟に切り替えて受理されている。
アマミノクロウサギ訴訟(鹿児島地裁、平成13年1月22日)では、「アマミノクロウサギ こと 何山何男」として受理された。
日本における代表的な「自然の権利」訴訟
アマミノクロウサギ自然の権利訴訟(1995年2月23日提訴・鹿児島地方裁判所)
オオヒシクイ自然の権利訴訟(1995年12月19日提訴・水戸地方裁判所)
ムツゴロウ諫早湾自然の権利訴訟( 1996年7月16日提訴・長崎地方裁判所)
大雪山のナキウサギ裁判(1996年8月26日提訴・札幌地方裁判所)
生田緑地・里山・自然の権利訴訟(ホンドギツネ、ホンドタヌキ、ギンヤンマ、カネコトテタグモ、ワレモコウ)(1997年1月24日提訴・横浜地方裁判所)
馬毛島マゲシカ自然の権利訴訟(2002年01月22日提訴、鹿児島地方裁判所)
奄美ウミガメ自然の権利訴訟(2003年07月11日提訴、鹿児島地方裁判所)
沖縄ジュゴン訴訟(2003年提訴、サンフランシスコ連邦地裁)
③環境訴訟における原告拡大の試みー「オーフス条約」ー
国際的には環境訴訟における原告拡大の機運が高まっている。
その一つの動きが、「オーフス条約」である。
「環境に関する、情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセスに関する条約」
批准国はEUも含め39カ国。署名国は6カ国に及んでいる。
日本は批准国でも署名国でも、まだない。
「第 9 条 司法へのアクセス
2.各締約国は、その国内法の枠組みにおいて、以下のことを確保しなければならない。(中略)
何が十分な利益と権利の侵害を構成するかは、国内法の要件に従い、かつ、「関心をもつ公衆」にこの条約の範囲内で司法への広範なアクセスを付与するという目的に合致するように判断されなければならない。」
なお、上記の「関心を持つ公衆」の概念の中には、非使用価値を持つ人、観光客や非居住者、環境NGOまでをも含みうる。
(2) プログラム規定の問題
憲法上に規定される環境権は、抽象的権利なのか、それとも具体的権利なのか?という問題がある。。
憲法 25 条規定の生存権で環境権を争うとしても、それは具体的な権利なのか?
プログラム規定説は国民の生存を国が確保すべき政治的、道義的目標を定めたにすぎず、具体的な権利を定めたものではない、とする考え。
一方、憲法の下位の法律で生存権が具体化できる法律があれば、訴えを起こすことができるという説もあり、これを抽象的権利説という。
さらに、憲法25条は生存権の内容を具体的に定める法律がなくとも、直接 憲法第25条に基づいて訴えを起こせるという説があり、これを具体的権利説という。
(3)反射的利益の問題
たとえば大きな滝の名所があるとする。その滝には多くの観光客が訪れる。その滝の前には、土産物屋さんや、記念写真屋さんなどがある。これらの、滝の前の土産物屋さんや記念写真屋さんは、大きな滝の恩恵を受けて、商売での利益を受けていることになる。
このような「大きな滝」という環境資産から反射されて利益を受けることを「反射的利益を享受する」と言う。
一方、訪れる観光客は、その滝という環境資産で金銭的な恩恵を受けてはいないので、反射的利益を受けていない当事者といえる。
では、実際に環境資源である滝が工事のために破壊されるとして、反射的利益を有する写真屋さんがそれに反対して訴訟を起こし、原告になりうるか?
その利益が法律によって保護されていれば原告になりうるが、そうでなければ原告にはなりえない。
(4)使用価値(利用価値)と非使用価値(非利用価値)の問題
①景観や生態系は、それ自体、利用や使用ができる立場の人と、できない立場の人とがある。
たとえば干潟は、地元居住民にとっては、自然のもたらす海産物や貝類などを使用(利用)したり換金することができるが、そこに居住していない観光客にとっては、自然のもたらす海産物や貝類などを使用(利用)したり換金することはできない。
でも、そこに居住していない観光客(ビジター)であっても、干潟を散策する喜びや愛でる喜びといった、非使用価値(非利用価値) は持っている。
また海外の訪れない人でも、その環境価値を知り、ともに享受するという意味での非使用価値(非利 用価値)はもっている。
でも、そのような非使用価値(非利用価値)を持つ人々は、多くの場合、原告となることを認められていない。
②自然享有権
1986年、日本弁護士会の人権擁護大会で、「自然享有権」なる概念が提唱された。
この概念の意味するところは、「人が、生まれながらにして等しく有する、自然の恩沢を享有する権利」「自然の一員として、自然の生態 系のバランスを維持する権利」「自然自身および将来の国民から信託された、自 然を保護・保全する権利」であるといわれている。
したがって、この権利は、地域的に限定されない権利であり、権利主体にも、制約のない権利であり、さらに、個人の権利のみでなく、自然自身や将来の世代を も代表する権利である。さらに、その自然生態系なり景観に接することのできない人々の「非使用価値」に基づく権利を含む。
これらの権利は、防御権としての環境権とは異なり、妨害排除を請求できる権利である。
すなわち、環境被害の事前の差し止め請求権とともに、事後の現状回復請求権、そして、行政への措置請求権を有す。
これを憲法にどう盛り込むかは難問。
(5)個人の受忍限度の問題
公害などによって個人の環境権または人格権が、どの程度そこなわれたのか?その基準として、一般人が社会通念上,がまん (受忍) できる被害の程度をさす。
騒音などの場合なら、例えばその限界を「工場騒音の受忍限度は,被害者居住家屋の最も音源に近い場所において 55 ホン程度」(名古屋地判昭和 39・11・30)(騒音被害事件で受忍限度論を前提とした初めての最高裁判決)などと数値化しえるが、かなり司法サイドの裁量性の大きい概念といえる。
例え受忍限度で救済されたとしても、その時点で、原告の健康状態は死に近づいている場合もあるので、フランスの環境憲章にうたわれている「予防原則」が明記されている必要がある。
なお、原告本人が喫煙者の経歴を持つ場合などは、原因企業と原告との割合的責任が問われた判決も過去にみられた。
(6)公益と私益との比較衡量(秤量)の問題
環境権は、私権としての基本権利であると同時に、公益を志向した基本権利でもある。
国民個人が、私権としての環境権をもって民事訴訟に持ち込んだ場合、公権力の公益と原告個人の私的利益との双方の利益の程度の比較を行う。
これを公益と私益との比較衡量または比較秤量(ひかく・ひょうりょう)という。
これまでの憲法第13条・第25条援用の私権としての環境権では、その比較すべきは「公共益 vs 私的利益」の比較による受忍限度判断であった。
新しく憲法上に環境権が盛り込まれるた場合、その比較は「公共益 vs 環境の公共益」の比較、あるいは、「当該環境の公共益 vs 他の環境の公共益」の比較となる場合もあり得る。
現在では、個人が公益に関する権利侵害を訴えることが出来ない。
公益には、私益に内包化しうる公益とそうでない公益とがある。
平成17年の「小田急大法廷判決」では「不特定多数者の利益」には ①一般的公益に吸収・解消しうるもの ②個々人の個別的利益として保護されるもの との二つがあるとの問題意識が提起された。
なお、平成17年の行政訴訟法の改正にあたって、参議院の付帯決議の中に「公益と私益とは二分出来るものなのか?と言う趣旨の問題提起があった。
内容は下記の通り(平成16年6月1日参議院法務委員会 付帯決議)
「第三者の原告適格の拡大については、公益と私益に単純に二分することが困難な現代行政における多様な利益調整の在り方に配慮して、これまでの運用にとらわれることなく、国民の諸権利の救済を拡大する趣旨であることについて周知徹底に努めること。」
■8.近年 先進化している環境権についての司法判断
近年、各地の地裁・高裁レベルでも、環境訴訟において、先進的な司法判断が下されることが多くなってきた。
代表的な例として①鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁 平成 21 年 10 月 1 日判決) ②国立マンション
訴訟(最高裁 平成 18 年 3 月 30 日判決)がある。
前者の判決では、住民の景観に有する価値は、私法上保護されるべき経済的な利益にとどまらず、景観それ自体に利益を有するとの司法判断が下された。
後者の判決では、良好な景観に近接し居住する住民は、その景観を享受しうる景観利益を有する、との司法判断が下された。
ただ、このいずれの判決においても、環境権自体を認めるまでには、踏み込まなかった。
鞆の浦景観保全訴訟
鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁平成 21 年 10 月 1 日判決)
「鞆の浦の景観は、美しいだけでなく、歴史的、文化的価値を有し、近接する地域内に住み、その恵沢を日常的に享受する住民の景観利益は法律保護に値する。
公有水面埋立法は、景観利益を保護に値する個別利益として含むと解釈される。
住民は景観による恵沢を日常的に享受しており、法律上の利益を有する。」
「公有水面埋立法及びその関連法規は、法的保護に値する、鞆の景観を享受する利益をも個別的利益として保 護する趣 旨を含むものと解するのが相 当である。
したがって、原 告らのうち上記 景 観利 益 を有すると認める」
「景観の価値 は私法 上 保護されるべき利益であるだけでなく、瀬戸 内海 における美的景観 を成すもので、文化的、歴史的価値を有する景観としていわば国民の財産ともいうべき公益である。」
なお、法的保護に値するとした法令として、公有水面法のほか瀬戸内海環境保全特別措置法をあげている。
瀬戸内海環境保全特別措置法
第三条 政府は、瀬戸内海が、わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとつて貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国 民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものであることにかんがみ、瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するため、瀬戸内海の水質の保全、 自然景観の保全等に関し、瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき
計画を策定しなければならない。
国立マンション訴訟
国立マンション訴訟最高裁判決(平成 18 年 3 月 30 日最高裁判決)
「ある特定地域で、地権者らが十分な相互理解と結束の下に、一定の自己規制を長期間にわたり継続した結 果として、当 該地 域に独 特の街 並み(都 市 景観 )が形 成され、かつ広く一 般社 会でも良 好な景観だと認められることで特 定の付加価値を生み出 している場合には、地権 者らは形成された良好な景観を維持する義務を負うとともに、その維持を相互に求める利益を有するに至ったと解すべきだ。
この景観利益は法的保護に値し、これを侵害する行為は一定の場合に不法行為に該当する。」
「良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵沢を享受する利益(「景観利益」)は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。
本件について、景観に近接する地域内の居住者は、「景観利益」を有している。」
■9.政治サイドの動きの例としてー愛知私案と自民党草案ー
(1)愛知私案
具体的な政治家サイドの動きとして、元環境庁長官の愛知和男先生が 2000 年 2 月に提唱された「平成憲法 愛知試案 第三次改定版」がある。
そこでは、環境権は以下のように規定。
「平成憲法」愛知私案 第33条
環境に関する権利及び義務
① 何人も、良好な環境を享受する権利を有するとともに、良好な環境を保持し且つわれわれに続く世代にそれを引き継いでいく義務を有する。
② 国は良好な環境の維持及び改善に努める
(2)自民党 日本国憲法改正草案
自民党は 2012 年 4 月 27 日に自民党憲法改正草案を発表、現在、これをベースに公明党との与党間
協議に入っている。
環境権については以下の通り
「第 25 条の 2 国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することが出来るようにその保全に努めなければならない。」
「前文 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。」
■10.おわりにー残された課題―
(1)現世代が後世代のために良好な環境資産を残すことを憲法のどこで保証するのか?
現行憲法の第11条、第97条に「将来の国民より信託された権利」の規定がある。
憲法第11条(基本的人権の享有)「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」
憲法第97条(基本的人権の本質)「これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
しかし、これは、環境権の援用としては使われていない。
グルジアの憲法では、後世代への保護義務について述べている。
愛知和男私案では「われわれに続く世代に、権利を引き継ぐ義務を有する」との規定がある。
新憲法にこの趣旨を書き込むのかどうか? 書きこむとすればどこに書きこむのか?が検討課題
(2)環境基本法との関係
環境基本法には環境権は盛り込まれていないが、第3条に同様の趣旨の記載はある。
環境基本法第3条
「環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な 均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきているこ とにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適 切に行われなければならない。」
現在の環境基本 法を、フランスの「環境憲章」のように、「憲法的法律」に格 上げし、前 文から移譲 、という方法もある。
ただし、この場合、その憲法的法律に格上げした環境基本法が、下位の法律に対し、プログラム規定の役割を果たせるかどうか、裁判規範性を保持しうるかどうか、については疑問。
(3)自然享有権やグレーゾーンの環境権のとりあつかい
日本の環境資産の中には、所有があいまいなグレーゾーンのスペース(たとえば、入浜権というもの、長浜町入浜権訴訟(松山地裁昭和53年5月29日)など)がある。
これらのスペースでの環境権は「個別的環境権」と呼ばれるものであり、グレーゾーンでの環境権ともいうべきもの。
これらのスペースへの一般市民へのパブリック・アクセス権、あるいは コモンズと呼ばれる共通利用スペースに対するアクセス権、というものをどう保証するのか?も課題。
環境権の概念の中に「国なり行政が、国民や市民のために、彼らにかわってこれらの環境資産を受託し、管理する」という公共信 託の概念を、環境 権の概念の中に折り込むことによって、これらグレーゾーンの環境資産での環境権の問題は解決しうるものと思われる
。
以上 (2014 年 10 月 2 日 記)
以上のメモは2014年10月9日に小生が明治大学の「学部間共通総合講座」の「環境と政治」シリーズにおいて、「環境権と憲法改正の動き」と題して講義したものに一部を加筆したものです。
2014年10月10日
■1.安倍政権での憲法改正の動き
(1)国民投票法(日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律)の成立・施行(平成 26 年 6 月公布)
国民投票法はすでに平成22年5月18日に成立しているが、今回の改正を得て、3つの検討課題(年齢条項の見直し、公務員の政治的行為の制限に係る法整備、国民投票の対象拡大についての検討)が整備された。
国会の三分の二の発議を受ければ国民投票が出来る状態になった。
(2)これを受けて自民党憲法改正草案(2012 年4月自民党発表)をたたき台にしての与党(自民党・公明党)間話し合いの開始
(3)自民党は憲法改正推進本部(船田元 本部長)会合で論議開始。船田氏は「改憲草案を一回の国民投票で3つ程度是非を問い、5年から10年かけて、4回から5回の国民投票を実施。9条改正については2回目以降とし、「ならし運転」をしたうえで国民投票にかける」と話した。2年以内に、環境権が優先して国民投票にかけられる可能性が出てきた。
(4)2014年10月7日、衆院憲法審査会(会長・保利耕輔元自治相)の幹事懇談会で、自民党側が「環境権」「緊急事態条項」「財政健全化規定」の三つの論点について、今国会での審議を提案した。
民主党など野党4党は持ち帰って検討することになった。共産党は提案に反対した。
環境権を憲法に盛り込むことについての各政党のスタンス
(1)国会での論議では次の三つの方向が錯綜
①明文改憲が必要-環境権を明記
②明文改憲は必要ないが、下位の法律での立法措置が必要
③必要はない。現行で OK
(2)各政党のスタンス
①自民党―他の新しい人権(プライバシー権、国民の知る権利、犯罪被害者への配慮)とともに環境権を憲法に盛り込む
②公明党―「加憲論議」の対象として新しい人権の一つである環境権を加える。加憲のスタンス
③民主党―基本的人権は公益や公の秩序に劣るものではないという観点から環境権をも含む新しい人権を憲法に加えるための論議を進める。96条先行改正には反対。創憲のスタンス。
④維新・みんなの党―環境権については賛成
⑤共産党・社民党―現行憲法のもとで、具体的に立法で規定することで環境権は守れる。環境権を道連れにした憲法改正には反対。護憲を優先。
■2.サックス教授が唱えた「環境権」のもともとの概念
(1)ミシガン大学のサックス教授(Joseph L. Sax)が1970年4月1日提出「ミシガン州環境保護法(The Michigan Environmental Protection Act)(MEPA、現在はNREPA)で「天然資源または天然資源に関する公共信託に対する汚染・損傷・破壊について、市民・法人・団体などは訴えることができる。」と規定
英語では
「The People of the State of Michigan enact;
Section 2(1) ”The attorney general, any political subdivision of the state, any instrumentality or agency of the state or of a political subdivision thereof, any person, partnership, corporation, association, organization, or other legal entity may maintain an action in the circuit court having jurisdiction where the alleged violation occurred or is likely to occur for declaratory and equitable relief against the state, any political subdivision thereof, any instrumentality or agency of the state or other political subdivision thereof, any pertinent person, partnership, corporation, association, organization or other legal entity for the protection of the air, water and other natural resources and the public trust therein from pollution, impairment or destruction. “」
参照
「The Michigan Environmental Protection Act of 1970」
「Superior Public Rights, Inc. v. Department of Natural Resources」
(2)ここでの「公共信託」(Public Trust Doctrine)という概念は「公衆の共同財産である天然資源を、公衆が自由に利用できるよう、行政主体が公衆より信託され、管理・維持する義務」
サックス教授の「The Public Trust Doctrine in Natural Resource Law」もご参照
良好な環境資産は、後世代から現世代に託されつつ、世代から世代へ、受け継がれていくもの、という考え方。
(3)このように、サックス教授の言われる「環境権」には、単に現世代のための環境権ばかりでなく、将来の世代のための環境権も、含まれている。
■3.日本国憲法に環境権はあるのか?
二つの基本権の援用をし、司法救済しようとしている。
①憲法13条の幸福追及権
個人に対する環境の享受が公権力によって妨げられない権利。
新しい人権であり、環境権以外に、知る権利、プライバシー権などを救済しうる根拠が含まれる。
なお、これまで、司法は、肖像権のみ認容(昭和44年12月24日 最高裁 京都府学連事件)している。
②憲法25条の生存権
環境の保全のための積極的な施策をとるように、公権力に対して要求する権利。
経済的生存権だけでなく環境的生存権をも守るというもの。
プログラム規定的性格が強い。
憲法第13条
条文
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
憲法第25条
条文
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
■4.日本の環境権の不毛な出発
(1) 日本の環境 権 は、公 害 訴訟での損 害賠 償訴 訟 や差 し止め請 求訴 訟において、憲法 13条の幸 福追求権、憲法25条の生存権を援用し、司法救済をしようとすることから始まった。
(2) 初めて、憲法本文を援用し、司法救済を図ろうとした訴訟は「伊達火力発電所訴訟(札幌地裁 昭和55年10月14日判決)」
「火力発電操業による排出ガスは住民の健康を損なうものであり、環境権・人格権の侵害である」と原告は主張したが、「環境の要素は住民個々に差があり、地域住民が共通の排他的支配権を有するものではない」として、司法は環境権を否定。
(3) 以降の憲法13条.25条援用による環境訴訟においては、ことごとく司法は環境権を認容しなかったが、「大阪国際空港公害訴訟(最高裁昭和56年12月16日 大法廷判決)」においては、「差し止め請求と損害賠償訴訟は人格権を根拠にして認容しうるので環境権については認容するまでもない」としつつ、人格権に基づく「過去の損害賠償」についてのみ認容した。
そのほか、環境権が争われた主な裁判例としては次のものがある。
名古屋新幹線訴訟(名古屋地裁、昭和55年9月11日)(公共益が受忍限度に勝るとし却下)
関西電力多奈川火力発電所訴訟(大阪地裁、昭和59年2月8日)(原告の素因・加齢・喫煙要因と被告が加えた大気汚染物質要因との割合に応じ減責)
豊前火力発電所訴訟(最高裁昭和60年12月20日)(環境権については判示せず)
川崎製鉄高炉新設差止め請求訴訟(千葉地裁.昭和63年11月17日)(排出差し止め請求は不当で請求を却下。高炉操業差し止め請求は不当で請求を棄却)
琵琶湖総合開発差止め請求訴訟(大津地裁、平成元年3月8日)(浄水享受権が個別的環境権としてはなじまないとし却下)
長良川河口堰差止訴訟(岐阜地裁平成6年7月20日)(公共の利益を上回る損害の程度ではないとし却下)
(4)結論的には、日本における憲法13条25条援用による環境権は、司法救済しうるにたりない、あってなきがごときものであった。
なぜ第13条・25条援用では、日本の司法に環境権を認容させることが出来なかったのか?
四つの理由がある。
(1)憲法第13条・第25条 は国の責務を宣言する綱領的な規定であり、国 民に直接に具体的権利を与えるものではない。(プログラム規定の問題)
(2)環境権の属性があいまいで差し止め請求しにくい。(公益と私益との比較衡量(秤量)の問題)
外延性がありすぎる。
(3)環境権がなくても人格権や財産権根拠で差し止め請求・損害賠償請求ができる。(非代替性の欠如の問題)
(4)地域住民は景観・環境そのもので利益・権利を得ているものではない。(非使用価値の問題と反射的利益の問題)
ただし、鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁 平成21年10月1日)では「住民の景観利益は法律的保護に値する」とした。
■5.諸外国における憲法で環境権規定の実態
(1)憲法に環境権が制定されている国は
1.アゼルバイジャン、2.アルゼンチン、3.アルバニア、4.アルメリア、5.エチオピア、6.ギリシャ、7.グルジア、8.スペイン、9.スロバキア、10.スロべニア、11.韓国、12.チェコ、13.ドイツ 14.トルコ、15.ノルウェー、16.ハンガリー、17.フィンランド、18.フランス、19.ブルガリア、20.ベルギー、21.ポーランド、22. ボルトガル、23.ラトビア、24.ルーマニア、25.ロシア
(2) これらの国は、さらに、①憲法の前文に環境権が規定されている国 と、②憲法本文に環境権が規定されている国 とに分かれる。
前文規定と本文規定の差は、裁判規範性に違いがあり、前文規定では裁判規範性が弱い、とされる意見が強いが、そうではないとする意見もある。
さらに、環境権の原点であるサックス教授が主張されている「後世代への責務」を憲法に規定している国もある。
①憲法前文に環境権が規定されている国の例―フランスー
憲法前文
「フランス人民は 1789 年宣言により規定され 1946 年憲法前文により確認かつ補完された人民の諸権利と国民主権の諸原理に対する忠誠、及び、2004 年環境憲章により規定された権利と義務に対する忠誠を厳粛に宣言する。」
ゴチック部分が今回修正された前文箇所。
前文についてはこのサイトの「Preamble」をご参照
環境憲章
「フランス人民は、天然資源ならびに自然界の均衡が人類の出現を条件づけたということ、人類の将来ならびに存在そのものがその自然環境と不可分であるということ、環境は人類の共有財産であるということ、人は、生存の条件ならびに自身の発展に対しますます影響を及ぼしつつあるということ、生物の多様性、人格の開花、人間社会の進歩が、一定の消費もしくは生産様式および天然資源の過度の開発により影響を受けているということ、環境保全は、国民が有する他の基本利益と同様に追求されなければならないということ、持続可能な発展を確保するためには、現在の欲求に応じることを目的とした選択は、将来世代ならびに他の人民が自身の欲求を充足させる能力を危うくするものであってはならないということ、
これらのことに鑑み、以下のとおり宣言する。」
以下に環境保護に関する5つの原則(①責任原則(4条)②予防原則(5条)③統合原則(6条)④防止原則(3条)⑤参加原則(2条))を例示
責任原則
第 4 条「何人も、法律により定められた条件においても自己が環境にもたらす損害の回復に貢献しなければないらない」
予防原則
第5条 科学的知見の現状において不確実であっても、損害の発生が環境に対し重大かつ不可逆的な影響を及ぼしうる場合には、公共機関は、予防原則の適用により、自己の権限の範囲内において、リスク評価手続を実施し、損害の発生を予防するべく相応の暫定的措置を講じるよう留意する
統合原則
第6条 公共政策は、持続可能な発展を促進しなければならない。この目的のため、公共政策は、環境の保護ならびに開発、経済発展、社会の進歩を調整する
防止原則
第 3 条「何人も、法律に定められた条件において自己がおよぼしうる侵害を防止し、さもなくば、その侵害の影響を制限しなければならない」
参加原則
第2条 何人も、環境の保全ならびに改善に参加する義務を有する。
環境憲章全文についてはこのサイトご参照
シラク大統領が大統領選挙で公約し 2002 年実行したもの
環境憲章を憲法的法律と位置づけ、下位の法律に対する規範性を持たせている。
②憲法本文に環境権が規定されている国の例―ドイツー
第 20a 条(自然的生活基盤の保護義務)
「国は来るべき世代に対する責任を果たすためにも、憲法に適合する秩序の枠内において、立法を通じて、また法律および法の基準に従って、執行権および裁判を通じて、自然的生活基盤を保護する」
③「後世代への責務」を憲法に規定している国の例―グルジア―
第 37 条
「三項 すべての国民は健全な環境のもとに暮らす権利があり、また、自然・文化的環境を利用する権利がある。
四項 社会の生態的・経済的利益を一致させ、そして、現在の世代と将来の世代との利益を考慮 し、国 は、健 全な環 境を確実にするため、自 然の保 護を保 証し、自然 の合理 的な使 用 を保 証 する。 」
サックス教授の当初の環境権の精神にのっとった規定である。
■6.現行憲法での憲法 13 条・25 条援用による環境権の限界
次の点での現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”の限界がネック。
①私権としての環境権を、憲法第13条の幸福追求権から導き出される人格権をもって、公益に優先して司法救済することに限界がある。
公定力にはあらがえない。
②環境権の権 利の対象 の「環境の内容の範囲や地域的 範囲」「権利 侵害 の概念」「権 利者の主 体 と範囲」が不明確である。
外延性が拡大しすぎる。
③環境問題が広域化・複合化するなかでは、人格権侵害の問題として個人を原告とした訴訟を行っても、公益と私的環境損失との比較秤量を行えば、個人の受忍限度の量は公益に劣後してしまう。
集団訴訟がまだ慣行化していない。
環境価値の数値化手法が未成熟である。(CVM法やトラベルコスト法等が試行錯誤されてはいるが、司法に認容された例はない。)
④住民個人が環境資 産 から受ける利益が、司法 から反射利益と見なされれば、現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”のもとでは、差し止め請求の根拠となりえない。
反射利益は法に基づいた利益とはみなされない。
⑤私権としての環境権を争う民事訴訟では、原告個人への環境破壊による加害行為が具体的に立証されなければ、原告の請求は認容されない。
⑥環境権は原告の個人的な利益を超えた利益であるはずなのに、現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”のもとでは、私権としての環境権しか認められない。
公益と私益との二値化でしか司法の場でとらえられない。
個人が公益を主張することが出来ない。
以上のような限界から、現行の憲法第13条・第25条援用では賄いきれない、「私権としての環境権を逸脱した環境権」を、新しい条文で守る必要が出てきた。
■7.例え憲法に環境権が規定されても、環境訴訟の原告にハードルとなりうる諸問題
(1)原告適格の問題
①原告として訴訟を進行し判決を受けるための資格があるかどうか?
もし、原告適格がないと裁判所が判断されれば、そこで、門前払いとなる。
環境訴訟において原告適格が問題となるのは、次の場合
①環境資産が所在する土地に居住する者しか原告として認めらない。
②環境資産の処分が原告の一定の利益に対する侵害を伴うことが条件であり、かつ、その利益が法令により公益とともに保護される利益の範囲に含まれているもの。
③反射的利益を受ける者は、法律上、保護された利益ではないので、原告適格とはみなされない。
なお、平成16年に行政事件訴訟法の改正があり、「第9条(原告適格)「法律上の利益を有する者」」に2項をくわえ「考慮すべき利益の内容性質をも考慮」を付け加えた。
「法律上の利益」については以下の二説がある。
①「法律上、保護された利益説」(根拠法規が存在している)
②「法律上、保護に値する利益説」(事実上の利益でも、法律上の利益と見なす)
今回の行政事件訴訟法2項の新設は②の「法律上、保護に値する利益説」に配慮したものとみられる。
行政訴訟法改正直後に判決があった「小田急大法廷判決」(平成17年12月7日)は注目されたが、関連法規による利益の保護趣旨の範囲内での一部の原告の拡大にとどまった。
すなわち。
①東京都環境影響評価(アセスメント)条例の定める関係地域内(線路から概ね1キロ前後の範囲)に居住する37名に「原告適格」を認める。
②関係地域外に居住する3名の上告人は、原告適格を有しない。
③各附属街路(側道)事業の認可取り消しの各訴えに関する部分は、当該事業地内の地権者4名を除いて、これを棄却する。
④都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する。
④行政事件訴訟法9条と目的を共通にする関係法令として、都市計画法、公害基本対策基本法をあげ、これらの関連法規は住民の具体的利益を保護しようとするものと解されるところから、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難であると解釈される。
⑤以上から都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する。
ご参照「小田急訴訟 最高裁大法廷判決の意義」
参考
行政事件訴訟法 第九条 (原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
②苦肉の策としての「自然の権利訴訟」
原告適格を持つ人は限られてくる。たとえば、干潟なら、地元の漁業者など。それらの漁業者が補償金を得て、干潟をつぶすことに同意してしまうと、その干潟の地元には原告となる資格のものがいなくなる。
その干潟のある場所に住んでいなければ原告としては認められないので、苦肉の策として生れてきたのが、干潟に生息するムツゴロウを原告に仕立て上げるという方法。これを自然の権利訴訟という。実 際の裁判においては自然の権利訴訟は原告非適格で門前払いされ、住民訴訟に切り替えて受理されている。
アマミノクロウサギ訴訟(鹿児島地裁、平成13年1月22日)では、「アマミノクロウサギ こと 何山何男」として受理された。
日本における代表的な「自然の権利」訴訟
アマミノクロウサギ自然の権利訴訟(1995年2月23日提訴・鹿児島地方裁判所)
オオヒシクイ自然の権利訴訟(1995年12月19日提訴・水戸地方裁判所)
ムツゴロウ諫早湾自然の権利訴訟( 1996年7月16日提訴・長崎地方裁判所)
大雪山のナキウサギ裁判(1996年8月26日提訴・札幌地方裁判所)
生田緑地・里山・自然の権利訴訟(ホンドギツネ、ホンドタヌキ、ギンヤンマ、カネコトテタグモ、ワレモコウ)(1997年1月24日提訴・横浜地方裁判所)
馬毛島マゲシカ自然の権利訴訟(2002年01月22日提訴、鹿児島地方裁判所)
奄美ウミガメ自然の権利訴訟(2003年07月11日提訴、鹿児島地方裁判所)
沖縄ジュゴン訴訟(2003年提訴、サンフランシスコ連邦地裁)
③環境訴訟における原告拡大の試みー「オーフス条約」ー
国際的には環境訴訟における原告拡大の機運が高まっている。
その一つの動きが、「オーフス条約」である。
「環境に関する、情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセスに関する条約」
批准国はEUも含め39カ国。署名国は6カ国に及んでいる。
日本は批准国でも署名国でも、まだない。
「第 9 条 司法へのアクセス
2.各締約国は、その国内法の枠組みにおいて、以下のことを確保しなければならない。(中略)
何が十分な利益と権利の侵害を構成するかは、国内法の要件に従い、かつ、「関心をもつ公衆」にこの条約の範囲内で司法への広範なアクセスを付与するという目的に合致するように判断されなければならない。」
なお、上記の「関心を持つ公衆」の概念の中には、非使用価値を持つ人、観光客や非居住者、環境NGOまでをも含みうる。
(2) プログラム規定の問題
憲法上に規定される環境権は、抽象的権利なのか、それとも具体的権利なのか?という問題がある。。
憲法 25 条規定の生存権で環境権を争うとしても、それは具体的な権利なのか?
プログラム規定説は国民の生存を国が確保すべき政治的、道義的目標を定めたにすぎず、具体的な権利を定めたものではない、とする考え。
一方、憲法の下位の法律で生存権が具体化できる法律があれば、訴えを起こすことができるという説もあり、これを抽象的権利説という。
さらに、憲法25条は生存権の内容を具体的に定める法律がなくとも、直接 憲法第25条に基づいて訴えを起こせるという説があり、これを具体的権利説という。
(3)反射的利益の問題
たとえば大きな滝の名所があるとする。その滝には多くの観光客が訪れる。その滝の前には、土産物屋さんや、記念写真屋さんなどがある。これらの、滝の前の土産物屋さんや記念写真屋さんは、大きな滝の恩恵を受けて、商売での利益を受けていることになる。
このような「大きな滝」という環境資産から反射されて利益を受けることを「反射的利益を享受する」と言う。
一方、訪れる観光客は、その滝という環境資産で金銭的な恩恵を受けてはいないので、反射的利益を受けていない当事者といえる。
では、実際に環境資源である滝が工事のために破壊されるとして、反射的利益を有する写真屋さんがそれに反対して訴訟を起こし、原告になりうるか?
その利益が法律によって保護されていれば原告になりうるが、そうでなければ原告にはなりえない。
(4)使用価値(利用価値)と非使用価値(非利用価値)の問題
①景観や生態系は、それ自体、利用や使用ができる立場の人と、できない立場の人とがある。
たとえば干潟は、地元居住民にとっては、自然のもたらす海産物や貝類などを使用(利用)したり換金することができるが、そこに居住していない観光客にとっては、自然のもたらす海産物や貝類などを使用(利
用)したり換金することはできない。
でも、そこに居住していない観光客(ビジター)であっても、干潟を散策する喜びや愛でる喜びといった、非使用価値(非利用価値) は持っている。
また海外の訪れない人でも、その環境価値を知り、ともに享受するという意味での非使用価値(非利 用価値)はもっている。
でも、そのような非使用価値(非利用価値)を持つ人々は、多くの場合、原告となることを認められていない。
②自然享有権
1986年、日本弁護士会の人権擁護大会で、「自然享有権」なる概念が提唱された。
この概念の意味するところは、「人が、生まれながらにして等しく有する、自然の恩沢を享有する権利」「自然の一員として、自然の生態 系のバランスを維持する権利」「自然自身および将来の国民から信託された、自 然を保護・保全する権利」であるといわれている。
したがって、この権利は、地域的に限定されない権利であり、権利主体にも、制約のない権利であり、さらに、個人の権利のみでなく、自然自身や将来の世代をも代表する権利である。さらに、その自然生態系なり景観に接することのできない人々の「非使用価値」に基づく権利を含む。
これらの権利は、防御権としての環境権とは異なり、妨害排除を請求できる権利である。
すなわち、環境被害の事前の差し止め請求権とともに、事後の現状回復請求権、そして、行政への措置請求権を有す。
これを憲法にどう盛り込むかは難問。
(5)個人の受忍限度の問題
公害などによって個人の環境権または人格権が、どの程度そこなわれたのか?その基準として、一般人が社会通念上,がまん (受忍) できる被害の程度をさす。
騒音などの場合なら、例えばその限界を「工場騒音の受忍限度は,被害者居住家屋の最も音源に近い場所において 55 ホン程度」(名古屋地判昭和 39・11・30)(騒音被害事件で受忍限度論を前提とした初めての最高裁判決)などと数値化しえるが、かなり司法サイドの裁量性の大きい概念といえる。
例え受忍限度で救済されたとしても、その時点で、原告の健康状態は死に近づいている場合もあるので、フランスの環境憲章にうたわれている「予防原則」が明記されている必要がある。
なお、原告本人が喫煙者の経歴を持つ場合などは、原因企業と原告との割合的責任が問われた判決も過去にみられた。
(6)公益と私益との比較衡量(秤量)の問題
環境権は、私権としての基本権利であると同時に、公益を志向した基本権利でもある。
国民個人が、私権としての環境権をもって民事訴訟に持ち込んだ場合、公権力の公益と原告個人の私的利益との双方の利益の程度の比較を行う。
これを公益と私益との比較衡量または比較秤量(ひかく・ひょうりょう)という。
これまでの憲法第13条・第25条援用の私権としての環境権では、その比較すべきは「公共益 vs 私的利益」の比較による受忍限度判断であった。
新しく憲法上に環境権が盛り込まれるた場合、その比較は「公共益 vs 環境の公共益」の比較、あるいは、「当該環境の公共益 vs 他の環境の公共益」の比較となる場合もあり得る。
現在では、個人が公益に関する権利侵害を訴えることが出来ない。
公益には、私益に内包化しうる公益とそうでない公益とがある。
平成17年の「小田急大法廷判決」では「不特定多数者の利益」には ①一般的公益に吸収・解消しうるもの ②個々人の個別的利益として保護されるもの との二つがあるとの問題意識が提起された。
なお、平成17年の行政訴訟法の改正にあたって、参議院の付帯決議の中に「公益と私益とは二分出来るものなのか?と言う趣旨の問題提起があった。
内容は下記の通り(平成16年6月1日参議院法務委員会 付帯決議)
「第三者の原告適格の拡大については、公益と私益に単純に二分することが困難な現代行政における多様な利益調整の在り方に配慮して、これまでの運用にとらわれることなく、国民の諸権利の救済を拡大する趣旨であることについて周知徹底に努めること。」
■8.近年 先進化している環境権についての司法判断
近年、各地の地裁・高裁レベルでも、環境訴訟において、先進的な司法判断が下されることが多くなってきた。
代表的な例として①鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁 平成 21 年 10 月 1 日判決) ②国立マンション
訴訟(最高裁 平成 18 年 3 月 30 日判決)がある。
前者の判決では、住民の景観に有する価値は、私法上保護されるべき経済的な利益にとどまらず、景観それ自体に利益を有するとの司法判断が下された。
後者の判決では、良好な景観に近接し居住する住民は、その景観を享受しうる景観利益を有する、との司法判断が下された。
ただ、このいずれの判決においても、環境権自体を認めるまでには、踏み込まなかった。
鞆の浦景観保全訴訟
鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁平成 21 年 10 月 1 日判決)
「鞆の浦の景観は、美しいだけでなく、歴史的、文化的価値を有し、近接する地域内に住み、その恵沢を日常的に享受する住民の景観利益は法律保護に値する。
公有水面埋立法は、景観利益を保護に値する個別利益として含むと解釈される。
住民は景観による恵沢を日常的に享受しており、法律上の利益を有する。」
「公有水面埋立法及びその関連法規は、法的保護に値する、鞆の景観を享受する利益をも個別的利益として保 護する趣 旨を含むものと解するのが相 当である。
したがって、原 告らのうち上記 景 観利 益 を有すると認める」
「景観の価値 は私法 上 保護されるべき利益であるだけでなく、瀬戸 内海 における美的景観 を成すもので、文化的、歴史的価値を有する景観としていわば国民の財産ともいうべき公益である。」
なお、法的保護に値するとした法令として、公有水面法のほか瀬戸内海環境保全特別措置法をあげている。
瀬戸内海環境保全特別措置法
第三条 政府は、瀬戸内海が、わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとつて貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものであることにかんがみ、瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するため、瀬戸内海の水質の保全、自然景観の保全等に関し、瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき
計画を策定しなければならない。
国立マンション訴訟
国立マンション訴訟最高裁判決(平成 18 年 3 月 30 日最高裁判決)
「ある特定地域で、地権者らが十分な相互理解と結束の下に、一定の自己規制を長期間にわたり継続した結 果として、当 該地 域に独 特の街 並み(都 市 景観 )が形 成され、かつ広く一 般社 会でも良 好な景観だと認められることで特 定の付加価値を生み出 している場合には、地権 者らは形成された良好な景観を維持する義務を負うとともに、その維持を相互に求める利益を有するに至ったと解すべきだ。
この景観利益は法的保護に値し、これを侵害する行為は一定の場合に不法行為に該当する。」
「良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵沢を享受する利益(「景観利益」)は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。
本件について、景観に近接する地域内の居住者は、「景観利益」を有している。」
■9.政治サイドの動きの例としてー愛知私案と自民党草案ー
(1)愛知私案
具体的な政治家サイドの動きとして、元環境庁長官の愛知和男先生が 2000 年 2 月に提唱された「平成憲法 愛知試案 第三次改定版」がある。
そこでは、環境権は以下のように規定。
「平成憲法」愛知私案 第33条
環境に関する権利及び義務
① 何人も、良好な環境を享受する権利を有するとともに、良好な環境を保持し且つわれわれに続く世代にそれを引き継いでいく義務を有する。
② 国は良好な環境の維持及び改善に努める
(2)自民党 日本国憲法改正草案
自民党は 2012 年 4 月 27 日に自民党憲法改正草案を発表、現在、これをベースに公明党との与党間
協議に入っている。
環境権については以下の通り
「第 25 条の 2 国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することが出来るようにその保全に努めなければならない。」
「前文 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。」
■10.おわりにー残された課題―
(1)現世代が後世代のために良好な環境資産を残すことを憲法のどこで保証するのか?
現行憲法の第11条、第97条に「将来の国民より信託された権利」の規定がある。
憲法第11条(基本的人権の享有)「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」
憲法第97条(基本的人権の本質)「これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
しかし、これは、環境権の援用としては使われていない。
グルジアの憲法では、後世代への保護義務について述べている。
愛知和男私案では「われわれに続く世代に、権利を引き継ぐ義務を有する」との規定がある。
新憲法にこの趣旨を書き込むのかどうか? 書きこむとすればどこに書きこむのか?が検討課題
(2)環境基本法との関係
環境基本法には環境権は盛り込まれていないが、第3条に同様の趣旨の記載はある。
環境基本法第3条
「環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。」
現在の環境基本 法を、フランスの「環境憲章」のように、「憲法的法律」に格 上げし、前 文から移譲 、という方法もある。
ただし、この場合、その憲法的法律に格上げした環境基本法が、下位の法律に対し、プログラム規定の役割を果たせるかどうか、裁判規範性を保持しうるかどうか、については疑問。
(3)自然享有権やグレーゾーンの環境権のとりあつかい
日本の環境資産の中には、所有があいまいなグレーゾーンのスペース(たとえば、入浜権というもの、長浜町入浜権訴訟(松山地裁昭和53年5月29日)など)がある。
これらのスペースでの環境権は「個別的環境権」と呼ばれるものであり、グレーゾーンでの環境権ともいうべきもの。
これらのスペースへの一般市民へのパブリック・アクセス権、あるいは コモンズと呼ばれる共通利用スペースに対するアクセス権、というものをどう保証するのか?も課題。
環境権の概念の中に「国なり行政が、国民や市民のために、彼らにかわってこれらの環境資産を受託し、管理する」という公共信 託の概念を、環境 権の概念の中に折り込むことによって、これらグレーゾーンの環境資産での環境権の問題は解決しうるものと思われる
。
以上 (2014 年 10 月 2 日 記)
以上のメモは2014年10月9日に小生が明治大学の「学部間共通総合講座」の「環境と政治」シリーズにおいて、「環境権と憲法改正の動き」と題して講義したものに一部を加筆したものです。