WTO閣僚会合に出席してきた赤松農林水産大臣が、12月1日には、分科会に出席したほかウォーカー農業交渉議長やボエルEU農業委員と個別会談したというのだが、そのボエルEU農業委員との席で、ボエルEU農業委員が、日本の新政権が戸別所得補償制度を軸とした新しい政策を検討していることに触れ、WTO協定上、問題にならないかと赤松農相に質問したうえで、「EUのデカップリング政策を参考にしてほしい」と述べたというのだが、これに対して、赤松農相は、「EUをはじめいいところは見習っていきたい。」と答え、、戸別所得補償制度がWTO協定に「心配をかけることがないような配慮は十分にしていきたい」と応じたという。
参考「【WTO閣僚会合・4】2010年妥結「そう簡単ではない」 WTO閣僚会合で赤松農相」
果たして、赤松農相、そのボエルEU農業委員が指摘した真意がおわかりになったのでしょうかね?
つまり、ボエルEU農業委員が「EUのデカップリング政策を参考にしてほしい」といったのは、日本が参考にすべきEUの直接型支払いは、「1992年のMacSharry reforms(Old Cap)と呼ばれているWTO非適合型直接支払い(“compensatory payments” )」ではなくて、「2003年のFischer reform(New Cap)と呼ばれる、Old Capの見直しによって生まれたWTO適合型直接支払い(”decoupling’ payments “)である。」ということなのですね。
ところが、日本の新政権が目指しているという戸別所得補償は、「完全に生産からニュートラルなデカップリング」のスキームではないものですから、ボエルEU農業委員が心配したということなんではないでしょうか。
それとも、ひょっとして、ボエルEU農業委員、私のサイト「私が農林水産省に提出した戸別所得補償制度に関する意見の全文」でもみたんでしょうかね?
アメリカのUSDRもEUも、よく、私のサイトを訪れることあるもんで。
日本の戸別所得補償制度のスキームが、国辱もののスキームとならないことを切に願うばかりです。
ちなみに、ボエルEU農業委員は、OldCAPをヘルスチェックし、NewCAPに仕立て上げた立役者です。
OldCAP(MacSharry reforms)に対する批判は、大きく二つあって、第一は、財政負担があまりに大きくなってきていること。第二は、必ずしも、生産に対して、ニュートラルではない。との批判でした。
このサイト「Fischer Boel: Future farm policy ’should bolster production’ 」では、ボエルEU農業委員が、今後のEUの直接支払いの目指すべきは、EUへの新加盟国への支払いの傾斜と旧加盟国の支払いの漸減の必要性、直接支払いから農村開発・環境資源開発への財源のシフトの必要性、直接支払い財源の縮小には一定の調整期間が必要であること、など、今後のEUの直接支払いについての展望と見通しを語っていて、興味深い。
なお、ボエルさんは、今年でEUでの五年の任期を終え、それまでのCommissioner for Agriculture and Rural Developmentの座をルーマニアのDr Dacian Ciolosさんに譲る予定となっている。
参考 ボエル(Mariann Fischer Boel)さんのブログとサイト
EU議会で演説するボエル(Mariann Fischer Boel)さん